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【訳書『クラフトビールフォアザギークス』全文無料公開連載第22回】ビアスタイル公会議 ブリティッシュバーリィワイン → アメリカンバーリィワイン、バルティックポーター → 木樽長期熟成インペリアルスタウト

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ブリティッシュバーリィワイン → アメリカンバーリィワイン

ブリティッシュバーリィワイン

英国とフランスは近接する隣国であり続けてきたので、長くて巻き込み合った歴史を共有していて、それはしばしば血が流れる事態にもなった。「百年戦争」と呼ばれるほど多世代の長きにわたった紛争は、一つではなく、二つもあった。その二つ目が、最も幅広いビアスタイルの一つであるバーリィワインの誕生につながったのかもしれない。

バーリィワインは必要に迫られて生まれた。イングランドの家庭で醸造されたストロングエール(※6)は、貯蔵庫の中の木樽で熟成させ、洗練されたワインのように熟成させた「古い」エールとして飲むように設計されていた。実際の紛争によってフランスからのワインの供給が中断した場合、自分で醸造できる酒で代替しなければならなかった。そうしたビールがどのようであったかは、誰もが推測できる。フルボディーで味わい豊かで、非常に飲みごたえがあったに違いない。

時代は下って、フランスとの関係が改善されると、ミッドランド地方のまちバートンアポントレントがそうしたビールの製造の中心地になった。「バス No.1」や「Ind Coope's No.1」のようなアルコール度数が高いバートン製エールは、新しい市場を開拓した。時が経つにつれ、この市場は「バーリィワイン」「オールドエール」「バートンエール」「ストロングエール」などと名付けられ、各ブランドではさらにさまざまな名前が付いていた。

色合いは金色からもっと濃い色までさまざまだが、アルコール度数はどれも強いものばかり。バーリィワインは、インペリアルスタウト以外の高揚感のあるビールを指す言葉にもなったが、これらはアルコール度数の強さが共通している。こうした長い進化の歴史を経た一杯にありつけたときには、使い慣れた肘掛け椅子でくつろぐのがふさわしかっただろう。

※6 名前の通りアルコール度数が高いスタイルで、麦芽らしさとフルーティーな香りが複雑に絡み合っていることが多い。伝統的には瓶内二次発酵・熟成をかけてから楽しまれてきた。
BEER JUDGE CERTIFICATION PROGRAM 2015 STYLE GUIDELINES

ケース「アメリカンバーリィワイン」(オランダ)

前ページを読むと「バーリィワインは三角帽子をかぶった男たちが曲がったパイプを吸いながら飲んでいたもので、とっくの昔になくなってしまったのではないか」と思いたくなるが、このビールの伝統的な中心地であるバートン、ロンドン、スコットランドのブルワリーでは、今でも醸造されている。「オールドエール」または「イングリッシュバーリィワイン」と分類され、ビアスタイルの指標の番人と呼ぶにふさわしい存在だ。しかしこのフルボディーで体を温めるビールは、まだまだ広く知られていない。それでいて影響力は持ち続けている。

1970年代から80年代にかけて、多くの米国人が個人の規模で醸造器具をそろえ始めた。その先駆者たちの多くが触発を求めて訪れたのは、ヨーロッパだ。彼らが昔ながらの高比重で濃厚な味わいのバーリィワインの存在を知って、再現したいと思ったことは想像に難くない。現代の米国で初のバーリィワイン様式のエールを発売したのは、アンカーブルーイングだった。1975年に出た「オールドフォグホーン」だ。

米国のクラフトビールが他国の伝統的スタイルを踏襲する際の根底にあるテーマの一つは、可能な限り忠実に、それでいて可能な限りホップの使用量を増やすことだ。アメリカンバーリィワインは味わい豊かで力強く、ホップ由来の柑橘類の味わいに加えて松やにの味わいも備わることもある。ダブルIPAとの違いは微妙だが、飲み比べるのに素晴らしくちょうどいい、ちょっとした違いだ。実際、ダブルIPAを意図的に、あるいは忘れていたころまで熟成させてもいい。

そうすると、オールドフォグホーンのような銘柄にどれだけ近づくか、飲み比べられるようなる。しかしこの微妙な違いは、消費者だけの問題にする必要はない。僕らは今、ヨーロッパのブルワリーが米国のバーリィワインに切手を貼って、「究極の送り主への返礼」をしている世界に生きているんだから。ケース醸造所のアルコール度数11.5%のバーリィワインを飲んでみよう。ドライフルーツ、カラメル、シェリー酒のような香りが漂う。

さらに飲んでみよう

左利きの巨人(レフトハンディドジャイアント)「酸素なしの命(ライフヴィズアウトオキシゲン)」(英国)
ブリストル産の名品で、最初はカラメルと香辛料の香りがして、それがアルコールの長い余韻へとつながる。長い余韻の中には熱帯の果物の香りもほんのり感じられる。

ガレージプロジェクト「ヘルベンダー」(ニュージーランド)
毎回大量の麦芽で仕込むこのニュージーランド産バーリィワインは、特にデーツ(ナツメヤシの実)のような濃色の核果類の味わいが特徴。甘くて糖度の高いイチジクの味わいは終始感じられる。

シエラネバダ「ビッグフット」(米国)
アンカー「オールドフォグフォーン」がニール・アームストロングに当たるなら、これはバズ・オルドリンだ(※7)。現代の米国で2番目のバーリィワインスタイルとなったこの銘柄は1983年に発売された。名作と礼賛されているとシエラネバダが自ら主張するのは正当だ。

※7 ニール・アームストロングとバズ・オルドリンは米国の宇宙飛行士で、1969年にアポロ11号に乗り組み、アームストロング、オルドリンの順番で月面に降り立った。

バルティックポーター → 木樽長期熟成インペリアルスタウト

バルティックポーター

ブルワリーが世界中にビールを輸出するのは現代的な現象だと言うならば、「そうではない」とエカチェリーナ大帝(※8)が丁寧に教えてくれる。彼女は夫ピョートル3世をクーデターで追いやって政権を奪取したロシアの女帝・エカチェリーナ2世で、ロンドンで醸造されたポーターを好んで飲んでいた。ロシア史上最長の女性指導者であることに手一杯だったので、彼女がビールを取り寄せたのではなく、ビールが彼女のところにやって来たと言うべきだった。

その結果、英国はポーターやストロングポーター(別の言い方をすればスタウト)をブリテン島東海岸の埠頭から北海を越えて、ロシアやポーランドなどバルト海沿岸の国々に輸出した。バートンエールも同様に輸出されたが、より濃色のビールが流行。最終的には19世紀の木造船が貿易で行き交っていたこのバルト海という縁海の名前が、このビールの代名詞となった。

ご想像の通り、バルト海沿岸のブルワーたちは、この動きに屈服したわけではなかった。むしろ、これをきっかけとして、自分たちなりのポーターを創造し始めた。その際に問題になったのは、彼らは英国の上面発酵のエール酵母ではなく、ラガーに適した下面発酵の酵母を使用していたことだった。そのため、彼らがつくったビールは本物とはほど遠い出来上がりだった。ここに、アルコール度数が高めで輸出向きでもあるバルティックポーターが誕生した。

ただし、現在までの道のりはそう簡単ではなかった。エカチェリーナ2世の治世が終わると、バルティックポーターの味わいも変わった。西ヨーロッパ諸国とロシア帝国との関係は変化し、冷え込み、クリミア戦争の勃発で完全に対立した。ビールはバルト海を越えて輸出されることはもはやなかった。しかしその遺産は、バルト海の両岸に残った。バルト海沿岸のブルワリーはアルコール度数が強くて低温熟成をかけたポーターをつくり続け、英国民はかつてバルト海沿岸に輸出するためにつくられたポーターを自ら飲んでその味わいを知るようになったのだ。

※8 ロシア女帝、在位1762〜1796年。34年間にわたって「啓蒙専制君主」として君臨し、非凡な才能と旺盛な行動力によって農奴制を強化。「貴族帝国」を完成させて「大帝」の称号を献じられた。
※9 カカオマスが40%以上のチョコレートで、ビターチョコレートと呼ばれることもある。
株式会社明治ウェブサイト Q&A「ダークチョコレートとは、どのようなチョコレートですか

ハービストン「オーラドゥ12」(スコットランド)

それまで樽に詰められて海外に輸出されていて、エール酵母使用でアルコール度数が高い「インペリアルポーター」を、英国民が飲むようになったことで、その美味しさをロシアは失い、英国が得ることころとなった。これまで見てきたように、当時のエールハウスではアルコール度数が高いポーターをスタウトと呼ぶのが一般的だったため、「インペリアルスタウト」という言葉が正式に登場した。クリミア戦争が終わると、「ラッシャンスタウト」という言葉も使われるようになった。

現代の濃色ビールの世界に戻ろう。現代での名付け方においては、「ラッシャンスタウト」または「ラッシャンインペリアルスタウト」よりも「インペリアルスタウト」の方が、はるかに、はるかに、よく使われている。このスタイルの歴史を誇示する銘柄はいくつか存在するが(ノースコーストのオールドラスプーチンとソーンブリッジのサンクトペテルブルグはその優れた例)、もしアルコール度数が高くて濃いビールを探してタップルームに立ち寄ったならば、目を引く文字は「インペリアルスタウト」である可能性が高いだろう。

最近では、みんなが気付くよりもずっと前から、ブルワーたちはこのスタイル名に別の接頭語を付け加えている。そしてそれは、エカチェリーナ2世もきっとお気に召してくれるだろう。ボディーがたっぷりあるスタウトを木樽で熟成させることで、このスタイルを誕生当時のつくり方に戻している。木樽長期熟成インペリアルスタウトは僕らのお気に入りのビールであり、飲めるビールのなかで最も飲みがいのあるものの一つだ。時間、木樽、副原料(もしあれば)の作用により、インペリアルスタウトは次の段階へと進化した。

スコットランドの中心部では、あるブルワリーが他よりも長い年月、この木樽長期熟成インペリアルスタウトをつくってきた。2007年、このハービストンはウイスキー蒸留所と正式に提携した最初のブルワリーとなり、ハイランドパークのヴィンテージウイスキー樽にオールドエンジンオイルスタウトを詰めて熟成させた。「オーラドゥ(現地語 で「黒い油」の意)12」の誕生だ。コーヒー、バニラ、ダーク チョコレート(※9)、トリュフなどの味わいが、飲む者を待っている。「オーラドゥ16」と「オーラドゥ18」も素晴らしく、もし「オーラドゥ30」を見つけられれば、それまで生きてきたかいを噛み(飲み)締めることができる。

さらに飲んでみよう

デシューツ「ジアビス」(米国)
このデシューツの最高傑作は、その名の通り深く濃い。六つの麦芽、四つのホップ、糖蜜、バニラ、カンゾウ、サクランボの樹皮が使われていて、実に魅惑的だ。

イーヴルツイン「イーブンモアジーザス バーボンメイプルシロップ木樽長期熟成」(デンマーク/米国)
ウェストブルックブルーイングで醸造されたこのビールについては、飲んでみるより説明する方が時間がかかるが、「メイプルシロップ樽で長期熟成された濃厚なスタウトだ」と聞けば、飲まずにはいられない。

ファインエールズ「バーボン樽長期熟成ミルズ&ヒルズ」(スコットランド)
デ・モーレンとの協働醸造。スコットランドのファインエールズは、このビールをバーボン樽で長期熟成させることにより、甘いバニラとココナッツが支配する大いなる味わいを実現した。

(つづく)

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