組織図で組織は変わらない。まず「知の回路」をつくる。
「組織改革」という言葉を聞くと、新しい本部、新しい役職、新しい会議体を思い浮かべがちだ。
しかし、組織図を書き換えただけで、組織が賢くなることはない。
同じ人が、同じ情報をもとに、同じ判断の仕方を続けるのであれば、看板を変えても結果は変わらない。
むしろ組織改編によって経験や人間関係が分断され、以前より学べない組織になることさえある。
強い組織が最初につくるのは、組織図ではない。
経験を知識に変え、知識を次の行動に戻す「知の回路」である。
プロイセン参謀本部を率いたモルトケの革新は、単に優秀な軍人を集めたことではなかった。
戦史研究、作戦計画、教育、演習、教訓化を平時から継続する制度をつくったことにある。
戦争が終われば経験者もいなくなる。
だから、個人の記憶を組織の知識に変えなければならない。
戦訓を研究する歴史部門や、現地で戦史を検証するスタッフ・ライドは、そのための装置だった。
米海兵隊の改革も、同じである。
読書、討議、ドクトリン、専門教育、訓練後の批判を一つの体系として結びつけた。
「読書」が組織改革の要素となったことは、大変興味深い事例だ。
ここで重要なのは、推薦図書のリストを配ったことのみではない。
読んだ内容を議論し、演習で試し、その結果を批判し、再びドクトリンを改めるところまでを組織の仕事にしたことである。
ここから見えてくるのは、組織とは、人の集合ではなく、判断を更新する循環そのものだということである。
目的が定められる。
目的を実現するための基本的な考え方がドクトリンとして整理される。
ドクトリンをもとに教育と訓練が行われる。
現場で実行される。
結果だけでなく判断過程が検証される。
そこで得られた教訓が、再びドクトリンと教育に戻される。
この循環が回っていれば、失敗も組織の資産になる。
回っていなければ、成功さえ個人の武勇伝で終わる。
政党も例外ではない。
選挙、国会審議、法案作成、政策協議、広報、地方組織づくりについて、経験が議員や職員の頭の中にしか残っていなければ、担当者が替わるたびに組織は記憶を失う。
成功した理由も、失敗した理由も曖昧なまま、次の担当者が一から同じ試行錯誤を始める。
必要なのは、単なる議事録ではない。
なぜその目的を設定したのか。
どのような前提に立っていたのか。
ほかにどのような選択肢があったのか。
どの情報が不足していたのか。
現場には意図が正しく伝わったのか。
環境が変化したとき、なぜ方針を修正できなかったのか。
そこまで記録し、検証し、次の判断基準に組み込んで初めて、組織は経験から学んだことになる。
政策部門も、選挙部門も、広報部門も、単なる調整部署であってはならない。
調整だけをしている組織は、目の前の仕事を滞りなく処理できても、次の時代に必要な知識を生み出せない。
参謀機能とは、トップの意向を資料にする仕事ではない。
環境を分析し、異なる選択肢を示し、前提を疑い、組織の経験を次の判断へつなぐ仕事である。
強い組織とは、常に正しい指導者が存在する組織ではない。
誰が指導者になっても、問い、学び、修正できる組織である。
組織図より先に、知の回路をつくる。
組織改革は、そこから始めなければならない。
