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【#なんのはなしです珈】夜明けの珈琲

父は多趣味でした。

音楽好きから高じてオーディオマニア
自分で現像するために自宅に暗室
釣り竿のウキは全て自作

凝り性な父は、近所の商店街のお茶屋さんがプロ仕様の巨大な電動コーヒーミルを捨てるとなった時、それをもらい受けてきました。お茶屋さんでしたがコーヒー豆も売っていたのです。

父はそこで、豆を挽いてもらっていました。その店が新たな電動ミルを買うということで今までのものが不要となったそうです。父はその話を聞いて飛びつきました。

「捨てるなら私に譲ってください!」

巨大な電動ミルを見て祖母は激高しました。

「なに勝手に妙なもの持って帰ってきたんだい!」

その電動ミルは普通の家庭には巨大すぎる大きさだったのです。店で見た時はちょうどいいと思った家具が、室内に置いたら大きかった、そんな雰囲気を想像してください。

祖母の怒りはまともで、家を整える立場なら誰もが反対するでしょう。しかし、母は違いました。母は父のすることは全て正しいと考える人だったのです。祖母が怖くて意見は言えませんが、せっせと巨大な電動ミル置き場を、父のために用意してしまいました。

母が用意した場所にほくほくと電動ミルを置く父。その時、父には巨大電動ミルをお茶屋に返す気力と体力はゼロ。そして、孫は「お店みた~い」と呑気に喜んでいます。それを聞き嬉しそうに笑う息子。強気な祖母も反対するのをやめました。

グゴォ!ガーガガガガ……

大きな音を立てて豆を挽いてくれる電動ミルはあっという間に日常生活に溶け込みました。

父が淹れてくれる濃い目のコクがあるコーヒーは本当に美味しく、その影響で今も私はハンドドリップ派です。料理全般は荒ぶり常に楽をしようとしますが、コーヒーだけは丁寧に丁寧に淹れます。

そんな父がある日、こう言い出しました。

「釣り場で飲む夜明けのコーヒーが美味いんだ」

母もすかさず同調します。

「本当にねー」

ピクリ、思わず夜明けのコーヒーという言葉に反応してしまいました。

中学生になり、だんだんと別行動をとるようになった私が、父母の話はほとんどスルーするようになっていた頃のことです。友達と遊びに行くのが楽しいし、早朝に出かける釣りは行きたくない家族イベントの最たるものでした。

しかし、そんな私でも夜明けのコーヒーは反応せざる得ないパワーワードでした。何十キロもの電動ミルをもらってくる父の発言ですよ。ものすごく美味しいコーヒーに違いありません。

「ど、どこのお店?」
「店じゃないよ。湖のほとりで淹れるコーヒーだよ」

その言葉に一瞬にして私の脳内に湖のほとりでコーヒーを飲む父母の姿が浮かび上がりました。しんとした空気の中、太陽の陽を浴びて輝くサイフォンからポトリポトリと落ちるコーヒーを、白い息を吐きながら見つめる父と母。中学生の私には憧れを抱くには十分な要素がたっぷりです。

凝り性の父はサイフォンも持っており、その当時、食器棚の大半が巨大なサイフォンで占められていました。(もちろん、祖母にとっては邪魔でしかありません)

そうか、釣りの時にサイフォンを持って行っていたのね……羨ましい!飲みたい!かっこいい!

「次の日曜は私も行く!」

極上のコーヒーを想像しながら無理矢理早起きをして、車に乗り込みました。もちろん、乗るなり釣り場まで爆睡です。

「着いたわよ」

母に起こされ車から降りた私は外気の寒さにブルっとしました。さ……寒い、でもこれから湯気の立つ夜明けのコーヒーが待ってるからいいんだもん♪

母と父は、釣り道具やレジャーシート、保冷ボックス、ポットを手際よく下ろしていきます。しかし、サイフォンが見当たりません。

私「ねえ、サイフォンは?」
母「なんでサイフォン持ってくるのよ」
私「だって夜明けのコーヒーって」
父「サイフォン持ってきたら壊れちまうだろ!おい、コーヒー!」

父に促されて母がうやうやしく差し出したのは

インスタントコーヒー


でした。

ロマンチストで凝り性の父だからサイフォンを持ってくると思っていたのに。私も幻想を持ち過ぎたといえばそれまでですが😩

ブルーになった私に「まあまあ」と言いながら母は、マグカップのインスタントコーヒーを差し出します。え?母が作るの?インスタントだけど、コーヒーだから父が淹れるのではないの?

「な?夜明けのコーヒー美味しいだろ?」

母が雑にお湯を入れたインスタントコーヒーを口にしながら、満面笑顔の父。私は黙ってコーヒーをすすりました。まあ美味しかったですけどね、外で飲むインスタントコーヒーは。父が釣りを楽しむ間、私はレジャーシートに寝そべり本を読みすごしました。生餌をつけられない母は昼寝を楽しんでましたね。

たまには家族で出かけるもいいもんだ、という珈琲の思い出です。

コニシ木の子さん、珈琲のコラボ商品誕生おめでとうございます。地道な活動がだんだんと広がる姿は文章を愛する者として、とても嬉しいです。ふざけているように見えても真面目に活動しているのだなとジーンとしてしまいます。

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