【#下書き再生工場 season2】お題:傲慢の朝は早い
この工場は2024年に突如現れ、強烈な印象を残しながら消えた奇跡の工場です。そのため、その姿を見られなかった方々もいると思います。
しかし、あの時期、私は確かに一職人としてこの工場で働いていたのです。あの充実した日々、得難い活力……それらを私は忘れることができずにおりました。私のような半端者に手を差し伸べ仕事を与えてくださった、すのう工場長に感謝しつつ過ごした工員の世界。
☆彡☆彡☆彡
工場再度稼働の折りには馳せ参じようと心に決めていた私。その日が訪れたことを今朝知りました!
用意された最高の素材を使い、私が持つ全ての技を注ぎ込み工場長のために全力を尽くします!
「傲慢の朝は早い」
「おっせぇーんだよ!待ってられっか!」
息子のタツキは私を睨むと乱暴に玄関を開け飛び出していった。
「タツキ!ちょっとほら!お弁当!」
息子の反抗的な態度に腹を立てながらも、空腹では可哀想だとの思いが先に立ち、追いかけようとしたその時。
「よさないか。大声で。みっともない」
冷たい声が聞こえ、私は身体を固くする。夫のタツヨシだ。
「で、でもっタツキがお弁当を」
「お前の支度が遅いからいけないんだろっ!」
イライラしながら夫は言うが、7時登校のタツキのために私は毎朝6時少し前には起きて弁当を作っている。今日は少し遅れてしまったが6時50分には弁当は出来上がっていた。後は鞄に入れるだけだったのに。
「あの子、お昼どうするのかしら?届けた方がいいかしら?」
「はっ?みっともない真似はよせ!」
「みっともないだなんて!」
夫のあまりにも酷い物言いに思わずカッとなる私。そんな私に夫はこう言った。
「金を渡したから大丈夫だ」
「はい?」
「お前の貧相な弁当よりずっといいものを買うだろう」
スマホに目を落としながら信じられないことを言い放つ夫。
「タツキは中学生なのよ?」
「それがどうした?」
不思議そうな顔をする夫に、タツキの中学は登下校中の買い食いは禁止だと伝える。すると、夫は呆れたようにため息をついた。
「校則なんてのはな、上手くすり抜けりゃいいんだよ」
「へ?」
元々、傲慢な人だと思っていたけど、そんな発言をするとは。自分を中心に世界が回っているとでも思っているのかしら?
「世の中、要領のいい奴が勝つ。タツキは俺の子だから大丈夫だ」
家事にパートに学校行事、家ではヨコのものをタテにしない男2人のために身を粉にして働いている私は、毎朝の弁当作りのために時間をひねり出し、睡眠時間を捻出している。それでも昨夜は用事が終わらず寝るのが遅くなり、10分ほど寝坊をしてしまった。
下ごしらえが済んでいたから弁当は作れたものの、通学鞄に入れられなかったというだけで、タツキは怒って家を飛び出したのだ。夫が与えた小遣いがあるという安心感もあり、せっかく作った弁当を持って行かないという嫌がらせに出たのだろう。今頃、ヘラヘラと栄養の偏った食べ物を買っているにちがいない。小さい頃は「ママ、ママ」とついてまわっていたのに。最近はリトルと呼びたくなるほど夫に言動が似ている。
「寝坊した!」
ボサボサの髪で慌てる私に一瞥をくれるわけでもなく、笑い合いゲームをする2人。仲間との対戦が4時からあるとかで、早起きをしたらしい。バタバタと朝の支度をする私に向かって、
「対戦しながら飯食いたいから、それ食うわ」
と息子が弁当用に握ったおにぎりに手を伸ばす。腹立たしさを覚えながらも弁当用に再び握り直した。それも支度が遅くなった理由のひとつなのに。ギリギリまでゲームをしている息子は弁当を鞄にいれることすらしない。弁当をセットすることも私の仕事だと思い込んでいるのだ。
息子が出かけ、することがなくなった夫はソファにふんぞり返りながら、
「メシ!」
と要求をする。息子も夫も私より早く起きているのに。どうして自ら動こうとしないのだろう。
「……」
返事がないため、イラついた夫がスマホから目をあげると、そこには包丁を握りしめた私が立っていた。
「……え?」
無言で包丁を振りかざす私。慌てた夫がソファから転げ落ちる。ザクッ!ソファに大きな切れ目がついた。
「ど、どうしたんだ!」
「どうしたもなにもないわよ!」
腰を抜かしながらも逃げる夫を私は追いかけまわす。クッションから綿が飛び出、床には無数の傷がつく。めくれ上がったラグに私がつまづき、体勢を立て直す間に、ヨタヨタしながら夫はリビングの入口へと逃げていく。
「今日さ、部活休みだってグループLIME、見落としてた。パパ、さっきの続……え?なに?やめろよっ!」
強気な声とは裏腹にリビングの入り口で固まる息子。爆発を抑えられない私は叫ぶ。
「お前らさあ!何様ぁぁぁ?」
さっきまでの傲慢な態度はどこへやら夫と息子は抱き合い震えている。
ああ……2人とも、やっと本来の姿に戻った♪
出会った頃の夫は小鹿のように震える姿が可愛くて庇護欲が芽生えたの。生まれたばかりの息子は私がいなかったら小さな命が消えそうだった。守ろうって気持ちでいっぱいになったわ。だから一生懸命お世話をしたの。生活のリズムを整えようと2人を早寝早起きさせるためにどれくらい心砕いたことか。なにもしなくていいよ、そこにいるだけでいいよって言い続けた。だって、2人は私の宝物だから。私が……私がぜ~んぶ面倒を見てあげるんだもん。
それが傲慢な人間を生み出すことにつながるとは。私は2人を庇護してあげたいだけなのに。
「ぎゃあああああああ!」
(第一納品完了)
