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【#下書き再生工場 season2】お題:猫と姫女苑

「猫と姫女苑」


学問の好きな姫様がおりました。書物を読んでも人と話をしてもスルスルと知識が入ります。その様子は、食物から栄養を取るようで、姫様の賢さは国随一とまで噂されるほどです。

「ほほう。どこまで賢いか見てやろう」

国の内外から姫様を論破しようと多くの知恵者が集まりました。年頃の姫様が学問ばかりで異性に興味を持たないことに父王が心配し、

姫を論破したものを我が後継者とする

とお触れを出したのです。姫様の賢さはまつりごとに大いに役立ったのですが、鋭い指摘に恐れをなし、王の政務を手伝っていた婿候補の殆どが怖気づき、誰も結婚したがらなかったのです。

「姫様が私達を見る目が冷たすぎます」

城勤めの若い男性はほとんどがそう言い、姫様と距離を置きます。自分よりも賢い女性が妻になることをほとんどの者が拒絶したのです。なんというちっぽけな心の持ち主たちでしょう。また姫様も、

「腰抜けには興味がない」

と言い放ち、学問をこよなく愛し国政に全力を傾けていました。

「この子がいれば満足じゃ」

膝に乗せた猫を優しくなでながら姫様はにっこり。学問同様、猫も姫様のお気に入りだったのです。猫は薄目を開けましたがすぐに目を閉じ夢の世界へ。そんな猫を姫様は愛おしそうに見つめるのでした。

🐈🐈🐈

婿候補には多くの頭脳自慢の若者が集ります。姫様は賢いだけでなくたいそう美しく女性だったのです。美しい姫を我が妻に……と夢見た若者は姫様の論破に挑みましたが、誰も成功しません。

論破に敗れプライドを傷つけられた若者たちは悔しさのあまり姫様の悪口を触れ回りました。

「自分の言葉ではない、あれは本から切り取ったものだ」
「哀れな女だからわざと負けてやった」
「たいした美人じゃないのにうぬぼれがひどい」

悔しさを伴う悪口は真実を1ミリも含みませんが、心を蝕む毒を大いに含んでおりました。その毒は、少しずつ姫様の心を蝕みます。

「男など一生見たくない」

姫様は心優しい才媛を集め「姫女苑」を作り、引きこもってしまいました。姫女苑で才媛と評判の高い女官に囲まれ、心置きなく学問について語れる日々を過ごした姫様は、だんだんと心の健康を取り戻していきました。心ない言葉から距離を置いた姫様は、こうやって心の平安を取り戻したのですが。

「姫がいないと国政が立ち行かぬ」

父王が泣きつき、姫女苑から姫様は政務を執り行うことになりました。でも、城へ出向くのだけは絶対嫌です。そのため、最初はおつきの女官が姫様からの政策を父王の元へ届けていました。すると姫様のお言葉を携えた女官に、ありがたがる父王や家来へ高慢な心が芽生え始めます。

「こちらが出向くのはいかがなものかと」
「あちらが来るべきです」

女官の話を猫を撫でながら聞いていた姫様は、最初は笑って聞き流すだけでした。しかし、国が栄える様子を見ているうちに、自分が姫女苑に引きこもっていることに対する理不尽さを感じ始めます。

私のおかげで栄えているのに私は姫女苑から出られない!

「もっと姫様に感謝すべきなんです」
「陰口ばかりで役に立たない男ばかりで嫌」
「私達のほうがずっと優秀」

日頃から男達のやっかみに悩まされていた女官と姫様。

聞きたいことがあれば三顧の礼を持って姫女苑を尋ねられよ

御簾みす越しではありましたが、教えを請いに来た人々に、最初は姫様も優しく対応していました。しかし、だんだんと高慢な心が育ち始め、長い時間待たせたり、ひとつのことのために何度も訪問させたり、無理な要求をしたりし始めます。

「私はこれ以上の苦しみを負ったんだから!」

猫を撫でる手は優しいのに、姫様の美しい顔に邪悪なものが宿るようになりました。

「ナアア。姫様!」
「え?」

誰も訪れない午後、午睡を楽しむ姫様の耳に可愛らしい声が聞こえました。

「だれ?」
「ボクだよ」

姫様の手に柔らかな毛が当たります。

「あなた!喋れるの?」
「賢い姫様の猫様ですからね」

フワフワとした毛の生えた小さな胸を張り猫は答えます。その姿があまりに愛らしく姫様から思わず笑みがこぼれました。猫と姫様が、他愛もない話を楽しんでいると、女官が入ってきました。最初は喋る猫に驚いた女官ですが、賢い姫様の猫ならば喋ったとしてもおかしくないとすぐに冷静さを取り戻し、

「また、川の氾濫の事で城から人が……」

と眉根をひそめながら姫様に伝えました。

「あら……今は猫ちゃんと喋っているから待たせておきなさい」

冷たい声でそういうと姫様は猫に向き直ります。こんな可愛らしいものを放り出して国政になんてできるものですか。姫様は災害で苦しむ人よりも猫を選んだのです。

「お仕事が終わってからお喋りをしよう」

猫は心配そうな顔で言いますが、姫様は立ち上がる様子をみせません。デレデレとした顔を猫に向け「お利口ちゃんでちゅね~」と幼児言葉まで飛び出します。

「川の氾濫だけどね……」

突然、猫が氾濫の原因と対策について話を始めました。それは、姫様が思いついていたものと同じでした。

猫とたっぷり遊んで、焦らしてから伝えようと思ったのに。

賢い猫の発言に姫様は機嫌を損ねました。不満顔の姫様に気づいた猫がじっと見つめます。

「なによ!猫のくせに!」

イラついた姫様は思わず猫に向かてそばにあったクッションを投げつけてしまいました。猫よりかなり大きいクッションは見事命中。その衝撃で小さな猫は飛ばされます。

「あ!」

慌てた姫様と女官が猫を受け止めようとしましたが、床にたたきつけられぐったりとしたまま。ピクリとも動きません。

「あああ……猫……ちゃん!猫ちゃん!」

涙を流し姫様が駆け寄ろうとした瞬間、猫の身体が強く光り輝きます。姫様は思わず目を閉じてしまいました。

「お前も同じことをするのか!」

太く大きな声が部屋に鳴り響きます。目を開けると猫がいた場所に金色に輝く大きなライオンがいました。姫様と女官はブルブル震えながらその場にへたり込みます。

「賢い女に牙を向ける愚かな男と同じく、お前は小さな猫の賢さを認められなかった。自らの慢心でお前は目を濁らせたのだ!」

姫様はブルブル震え涙を流していますが、それは鋼のような声が怖かったからではありません。心無い声にあれほど傷ついた自分が、醜い人々と同じことをしていたのがショックだったのです。

「ごめんなさい……私……」

ハラハラと流れ続ける涙の姫様。それを見た黄金のライオンはハッとし、姫様にそっと顔を近づけます。バラ色の頬に流れる美しい涙を黄金のライオンは優しくなめました。

ザリリ

大きな下で姫様の頬を傷つけないよう、優しく……優しく。

パアアアア!

再び強い光が生まれ、姫様は目をつぶります。次に目を開けるとライオンがいた場所に見目麗しい若者が立っていました。驚き声が出ない姫様の手を取り、優しく口づけをする若者。

「あなたは?」
「魔女の呪いで猫にされていた王子です」

王子もまた賢さと美しさを鼻にかける人間でした。自分にできないことはないと軽い気持ちで魔女にいたずらを仕掛けたため、猫にされていたのです。呪いを解くカギは、王子と同様の頭脳を持つ美しい姫の美しい涙。

「周囲の無理解に悩んだ涙ではダメだし、傲慢になったら泣いてもらえないし。君の膝の上でずっとハラハラし通しだったよ」

爽やかに笑いながら王子は、驚き固まる姫様をそっと抱き、

「猫になったお陰で真理が見えるようになったし、君と出会えた」

と囁きました。恥ずかしさで顔を真っ赤にしていた姫様ですが、王子の顔を見ているうちにだんだんと状況を把握し始めました。

「もしまた、私が傲慢になったらご指摘いただけますか?」
「うん。君も僕の傲慢を止めてくれるかい?」
「はい」

それから数カ月後、国を挙げて盛大な結婚式が挙げられました。全ての国民が若く美しく賢い2人を心の底から祝います。全ての生き物と性別に平等な国を作り上げた2人は、末永く暮らしました。


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