【#シロクマ文芸部 新企画】「こっちだよ」で終わる物語
どうしても前に踏み出せない。
ビュンビュンと弧を描く縄を前に地面に足が吸い付いたままの那奈。
どうして、大縄跳びが種目なんだろうと涙目になる。
小学6年生には連合運動会というイベントがあった。この地域の小学校が集まって、競技を競うのだ。リレーの選手に選ばれた児童以外には、連合運動会は「授業のない日」として歓迎されていた。
受験でキリキリとし始めた秋に、勉強をしなくていい。青空の下でお弁当を食べたり、くだらないことを言って笑ったり。とても魅力的に思えた。
リレーに選ばれた児童は、毎日放課後に残らなくてはならない。たださえ自由な時間が少ないのに、学校と塾の間にリレーの練習が無理矢理押し込まれるのだ。ブーブーと文句を言う子たちを見て、大変だなと思っていたのだが。
「大縄跳び競技は全員参加です」
先生がそう言ったとき、那奈は目の前が真っ暗になった。大縄跳びは体育の授業の中で一番嫌いな種目だったのだ。朝チャレという朝礼の一種で1年から参加しているが、ビュンビュンとうなる大縄跳びが怖くて仕方なかった。恐怖で固まった那奈で必ず連続記録が止まってしまい、男子からなじられ、泣いた。
3年生からは大縄跳びの朝チャレの日は休んでいる。ママはなんとか行かせようとしたが、昨年は無言で休ませてくれた。那奈の強情に呆れたのだろう。
大縄跳び以外は学校は楽しい。
6年の朝チャレも無事通り過ぎ、油断していた那奈は連合での大縄跳び全員参加に衝撃を受けた。
「連合運動会、休む!」
泣き叫んでみたが、ママは許してくれなかった。今年はPTAの役員で連合の裏方に駆り出されているのだ。
「私が行くのに子どもが行かないなんておかしいでしょ!」
いくら懇願しても休むことを許してもらえなかった。
先生の発表から大縄跳びの朝練が始まった。
ビュンビュンと唸る大縄跳びは6年になった今も恐ろしい。
これから毎日私のところで連続記録が止まるんだ……
みんなの怒りを想像し、絶望していたのだが、那奈は怒られることはなかった。
那奈の前の美知留で必ず止まってしまうからだ。何度繰り返しても止めるのは美知留。美知留は回る縄のタイミングが読めずに突っ込む。そして、身体にロープを絡ませて転ぶという派手な失敗をしてしまう。飛べずに記録を中断させてしまう那奈の失敗は、美知留のド派手に転ぶ姿を前にかすんだ。「へへへ」と笑う美知留がまた、皆の怒りを買った。
「○○小には負けたくないのに!」
仲の悪い小学校にライバル心を燃やしたクラスの子に、美知留は責められた。
「連合の日、休んでよ」
と言う子もでてきた。すぐに先生に叱られたが。それでも美知留は笑って練習に参加した。
「どうして、そんなに頑張るの?」
那奈は帰り道に美知留に聞いた。タイミングを合わせずに縄に飛び込む美知留の手足は赤い線が無数に出来ている。
そこまでやらなくてもいいのに……
「だってさ、一回くらい飛びたいじゃない」
低学年の頃、一度だけ大縄跳びに成功したことがあったのだそうだ。
「そのとき、本当に気持ち良くって。景色がガラっと変わったの」
そう言って、へらっと笑う美知留。大縄が飛べただけで?那奈にはよく理解できなかった。
連合の当日。スムーズに各競技が行われる。青い空の下で友達と過ごすのは楽しかったが、午後の最後の競技で大縄跳びが始まった。
イ~チ、ニィ~サ~ン
練習通りに皆が飛ぶ。緊張で普段は成功する子が引っかかるが、すぐに縄を回転させる。ひっかかってもすぐに始めれば回数はカウントされるのだ。時間内に何回飛べるかを競うのが連合の大縄跳びだった。すぐ始めれば、ミスは取り返せる。
だから、美知留のようにロープにからまりそれを外すような失敗は時間のロスとなり、みんなに嫌がられるのだ。動けなくなる那奈より美知留が目立って怒られていた理由がここにあった。
「那奈ちゃん、私、今日は絶対に成功するから」
美知留は言う。那奈は反応が出来ない。呼吸が浅く目の前でビュンビュンと回転する大縄を前に心臓が口から飛び出しそうになっていたからだ。
「大丈夫だから。飛んだら那奈ちゃんのこと呼ぶから」
練習のときとは違い、美知留はふわりと大縄を飛んだ。大縄の向こうで美知留の笑顔がはじけた。歓声があがる。
那奈の方に上気した美知留の顔が向けられた。そして、口が動いた。大きな声が那奈の耳に届く。那奈は体が急に軽くなった気がした。いける!
「こっちだよ。」
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