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僕らは誰の人生を生きているのか_第11話 それは「願い事」か「計画」か

特務支援室の朝は、少し強めのコーヒーの香りで始まった。

昨夜の「えっちゃん」での濃密な時間。なおと岩瀬は、それぞれのノートを広げ、昨日作成したKPT(Keep/Problem/Try)を見つめていた。


なおのKPT

Keep: 4タイプの理論を知り、自分の「理想型」という特性を肯定できたこと。
Problem: 緊張すると「事実」が見えなくなり、感情に飲み込まれてしまう。
Try: 明日の朝、今日書き出した「事実」をもう一度読み返してみる。

岩瀬のKPT

Keep: 他己紹介において「論理」の限界を知ることができた。
Problem: 相手(勝也さん)のタイプを考慮せず、自分の得意な「指令型」の話し方を押し通した。
Try: 歓迎会で、勝也さんが「何に喜ぶか」を観察し、一言声をかける。


「おはよ。頭、生きてるか?」

龍二は昨夜の酔いを感じさせない爽やかな足取りで、二人にコーヒーを渡した。

「さて、昨日の歓迎会について、改めてジャーナリング+KPTでリフレクションしてみようか。

特になおちゃん、がんちゃん、二人の『Try(次やること)』を教えてくれ。繰り返しになるが『事実と感情を分けてジャーナリング』してくれよ。ある程度できたら、二人で話し合ってみてくれ。」


二人は背筋を伸ばし、まずは自分の言葉でリフレクションを開始した。




二人は30分ほど向き合い、昨夜の歓迎会での出来事をノートに書き殴った。 なおは、坂本CHROの鋭い問いに震えた心の揺れを「感情」と「事実」に仕分け、岩瀬は長谷川CEOに自分の実績が響かなかった「事実」を苦々しく分析した。


「……よし、書けたようだな。二人とも、新しく立てた『Try』を聞かせてくれ」

龍二がホワイトボードの前に立ち、マーカーを弄びながら促した。


二人の「Try」

金川なお(理想型)

Try: 経営陣の圧倒的なオーラに負けないよう、自分の「覚悟」を毎日自分に問いかける。

岩瀬卓磨(指令型)

Try: 次回、経営陣と話す機会があれば、数字だけでなく「相手が喜ぶエピソード」を必ず一つ以上用意して臨む。

二人の発表を聞き終えると、龍二はふっと口角を上げた。しかし、その目は昨日よりも少し鋭い。


龍二の指摘:それは「願い事」か「計画」か

「……落第だな。二人とも」

その一言に、部屋の空気が凍り付く。

「なおちゃんの『問いかける』も、がんちゃんの『用意して臨む』も、それはただの『願い事(Wish List)』だ。ビジネスにおけるTry……つまりPDCAの『Plan』や『Action』に必要な要素が、決定的に欠けている」


龍二はホワイトボードに向かい、大きく「いつ?」「どうやって判定する?」と書きなぐった。


「いいかな。まぁありがちな失敗なのだが……。

多くのビジネスマンはTryに『期限』と『達成基準』を指定できない。だからそのTryは、永遠に実行されないままノートの隅で死んでいくんだ。」


日本型PDCAの末路

龍二はコーヒーを一口飲み、語気を強めた。

「日本人はPDCAという言葉が大好きだ。だが、正しく回せている奴は絶滅危惧種に近い。例えば、こんなパターンに心当たりはないか?」

「共通しているのは、『Planの時点で、いつまでに、どういう状態になれば合格(Check)とするか』が決まっていないことだ。Checkの基準がないPlanは、ただの妄想なんだよ」


真の「Try」への書き換え

龍二は二人のノートを指差した。

「がんちゃん。相手が喜ぶエピソードを用意したいなら、例えば。。。『今週金曜の定例会までに、現場の苦労話を3つ収集し、一つを1分以内の物語にまとめる。当日、それを誰か一人の部長に話して手応えを確認する』

「なおちゃん。覚悟を問いたいならこうだ。『今日中に、坂本CHROが過去に出した全社メッセージを全て読み返し、彼の言う“正義”の定義を自分なりに300字で言語化する』みたいな感じかなぁ。」


龍二は、二人のペンが止まっているのを見て、少し声を和らげた。

「HRBPは、組織に『実行力』という血を流し込む仕事だ。自分たちが回せないPDCAを、他人に回させることなんてできないからな。……さあ、その『Try』、具体的にもう一度書き直してみるといい」


ペンの二刀流!!

岩瀬は、自分のノートに書かれた曖昧な決意を、恥じ入るように横線で消した。なおもまた、龍二の言葉を噛みしめるように、期限と具体的な数字をノートに書き加え始めた。


龍二は、二人のペンが走る音を聞きながら、窓の外のビル群を眺めた。

「PDCAってのはさ、『いつまでに、何を、どうするか』。そして、『それができたかどうかを、どう判定するか』。そこまでセットにして初めて、歯車が回り始めるんだ。……PDCAを甘く見ている人間は多い。

大してできてもいないくせにな」

つづく

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