【マインクラフト異世界譚】〜無価値からの人生変革〜.13
【マインクラフト異世界譚】〜無価値からの人生変革〜
第十三章:「焦土の祈り」
朝。いつものように陽が昇り、譬喩は無言で立ち上がった。
だが、その動きはもはや“日課”ではなく、“儀式”のようだった。
昨日得たスケルトンの骨──それをクラフトテーブルへ運び、骨粉へと変換する。
白く砕けたそれは、まるで命の粉末のようだった。
苗木を手に、譬喩は日当たりの良い地を選び、一本ずつ丁寧に植えていく。
そして、骨粉をふりかける。
──ゴウッ。
音もなく、だが確かにオークの木が瞬時に成長する。
その枝を、幹を、葉を、譬喩はすぐさま斧で削り落とす。
また骨粉。木が伸びる。伐採。苗木を回収。
そのループを、譬喩は何十回も繰り返した。
「一本を育てるのに、骨粉は……二、三回。
日光が直に当たるここが、一番成長が早い。
……成長音の直後に斧を振り下ろせば、伐採モーションを0.2秒短縮できる」
木の成長のタイミングすら、身体で覚えるようになっていた。
“チリン”。
マーケットプライスにNPが加算される音。
その音に、譬喩の唇がかすかに持ち上がる。
「……これが、“生産”か」
その言葉には、喜びとも虚無ともつかない感情が滲んでいた。
──
昼過ぎ。
譬喩は、地図上で目星をつけていた洞窟の縁に足を運ぶ。
内部には入らない。だが、その入り口だけでも、気配が異常だった。
ひやりとした空気。
沈黙。
圧縮されたような暗闇の、光がギリギリ届く位置に、鈍く赤い鉄鉱石が一つ。
「……これさえあれば」
譬喩は慎重にブロックを掘り、持ち帰る。
拠点でかまどを焚き、鉄インゴットを焼成。
それを用いて、鉄の剣。
ついでに、木材で盾も。
「これが……俺の“牙”だ」
自分の手の中に収まった武器を見つめながら、譬喩はそう呟いた。
──
日が傾きはじめた頃、譬喩は戦場へ向かう。
最初に遭遇したのは、ゾンビだった。
すでに動きは見切っている。
足を断つ。転倒と同時に首を切断し、終わり。
次にスケルトン。
盾を構えて正面から進み、矢を受け止めて間合いを詰める。
弓を断ち、そのまま胸元へ斬撃。
蜘蛛は突進を盾で上方向に逸らし、柔らかい腹を狙って刃を突き入れ…そして、裂く。
クリーパーは、基本無視。
だが接近してきたものだけは、初撃を入れ、引き、追撃で仕留めた。
そのうち現れたのは、剣を携えたゾンビだった。
初めは足がすくみかけた。
人のような動き──だが、譬喩の反応は速かった。
「この距離、この間合い……振り下ろす腕の癖……見える」
剣を受け流し、斬り払い、右腕を断ち落とす。
武器を失ったゾンビの足を即座に切断し、流れるように首を狩る。
「……ああ、単なる作業だ」
人体を切断するというのは、切れ味はもちろん使用者の技術あっての高度なもの。
譬喩にとって、モンスターはもう“敵”ではなく…“対象”だった。
──それから
数百──いや、数千の敵を屠った。
何体目だったか、もう思い出せない。
肉を裂き、骨を砕き、返り血を浴び、
矢を受けては、傷を癒してまた立ち上がる。
肩に巻いた包帯の下では、
皮膚が再生を繰り返した痕跡をじくじくと疼かせ、
剣を握る掌には、乾ききった血が黒い革のように張り付いている。
血の匂いは、もはや空気の一部だった。
肉の焼ける臭いと混じり合い、鼻腔に染みついて離れない。
それでも譬喩は斬り続けた。
命を奪って、金を得て──それでまた立ち上がる。
月は満ち、欠け、また満ちた。
いつの間にか、拠点の周囲は静寂ではなく──
彼が刻んだ“血の輪郭”で形づくられ、
やがて──“譬喩という名の墓守”が君臨する地となっていく。
拠点へ戻ると、譬喩の体は血まみれだった。
肩、腿、腕に裂傷。すぐにマーケットプライスを開き、中級キットを購入。
《購入しますか?──NP:500 消費》
「はい」
“チリン”。
傷は癒える。
だが、そのたびにNPはまたゼロ近くまで減る。
「……また…また減った」
何度も繰り返した。
狩る、稼ぐ、回復する、また狩る──
「溜めても、削られる…。一体、何度目だ…。これを続けてたら、一生届かない……」
譬喩の眉間に、深い皺が刻まれていた。
──
夜。
譬喩はクラフトチェストの中から、火打石と、余った鉄を取り出す。
無言でクラフト。
火打石と打ち金──完成。
「やけに……手が震えないな」
もはや、それが何を意味する道具なのかは、わかっていた。
だが、理性は何も言わない。
抑制は、もうどこにもなかった。
──
森へ。
譬喩は、手にした火打石を使って、一本の木に火をつけた。
ぱちぱちと乾いた音。
燃え広がる熱。
獣の声。モンスターのうめき。
木々が裂け、空気が焼ける。
「……いい音だ。さっきまで、命だったんだな」
遠くで木が折れる音。
煙が目を覆い、鼻に、焦げた皮膚の匂いが届く。
(これって……NPと、同じ音じゃないか?)
“チリン”──
(……いや、幻聴か……)
阿鼻叫喚を背に、譬喩は立ち尽くす。
その瞳には、赤い火の揺らぎと、
無機質な黒月が浮かんでいた。
