【マインクラフト異世界譚】〜無価値からの人生変革〜.11
【マインクラフト異世界譚】〜無価値からの人生変革〜
第十一章:「火と水と肉の午後」
譬喩は、完成した畑の前に立つ。 湿った土の匂い。小さく芽吹くであろう小麦の種。整った畝に、水がきらきらと反射していた。
まだ芽吹きはないが、そこにはたしかに命の気配があった。
次に行うのは、植林。
オークの苗木を手に取り、一定の間隔で、一本ずつ丁寧に植えていく。
「これも、未来への種だ」
その所作は、まるで祈りのようだった。
植林を終えた譬喩は、手持ちの木材と棒からフェンスをクラフト。
拠点の一角に、家畜のためのスペースを確保する。
次は小屋の建築だ。
原木を四隅に立て、壁には木材のハーフブロックを組み合わせる。
屋根は階段ブロックを交差させ、重なり合うように組んでいく。
地味な作業の連続だったが、不思議と心は安定していた。
“飼う”という新たな行為に向けて、世界とまた一歩、関係を結んだ気がした。
拠点中央にある自然水源。
その周囲を整地し、底に石レンガを敷いて、小さな“水場”を整える。
さらに、そこから分岐するように、家畜小屋、畑、住居へ水路を引く。
水は静かに流れた。
石の溝をつたい、曲がり、枝分かれしながら、拠点全体へと広がっていく。
陽光を受けて、きらきらと光る流れ。
冷たい水に指を沈めた瞬間、譬喩は、はっと息を呑んだ。
「ただのリソースじゃない……これは、生きるための、血管みたいなもんだな」
設備の整備がひと段落し、譬喩は武器を携えて拠点の外へ。
牛、羊、豚──慎重に間合いをとりながら狩猟を行い、肉と革を入手。
帰路、草むらの向こうに一羽の鶏を発見。
視線を逸らさず、足音を抑え、じわじわと誘導する。
フェンスの中へ誘い込んだ瞬間、内心で小さく拳を握った。
「……初めての、家畜だ」
同じ手順でもう一羽を確保すれば、小麦の種で繁殖ができるはず。
食料問題への突破口が、ようやく見えた。
帰還後、調理台に肉を並べ、火を入れる。
立ち昇る煙、焦げる匂い、焼ける音。
皿の上に並んだ肉を口に運ぶと、柔らかく、温かく、どこか懐かしい味がした。
この世界で、初めて“満たされた食事”だった。
食後、計画していた筋トレに入る。 だが──何かが違う。 腕を曲げても、脚を鍛えても、筋肉に“効いている”感覚がまるでない。
「……え?」
疲労感だけが残り、体の内側に何も変化が起きていない。
木の剣3撃。石の剣2撃。
敵に与えるダメージは、すべて“武器性能依存”だった。
「……この世界じゃ、自分を鍛えても、意味がない?」
恐るべき仮説が頭をよぎる。
汗を拭う手が、震えていた。
不安に突き動かされるように、譬喩はマーケットプライスを開く。
画面をスクロールし、目を走らせたそのとき──
《Add-on:レベルアップシステム》
必要NP:3000NP
説明文を開いた。
成長ポイントによるステータス割振り。行動に応じた経験蓄積。レベルごとの特性スロット解放。
ステータスポイントは【筋力】【敏捷】【知力】【精神】【幸運】の5項目に自由に配分可能。
行動ジャンルに応じた経験値が蓄積され、一定値に達すると自動でレベルアップが発生。
レベルが上がると“特性スロット”が段階的に開放されていき、別途マーケットから取得可能な「特性アドオン」を装備可能になる。
特性アドオンは能力強化/スキル付与など多岐にわたり、高レベル帯では複数装着による“スキル覚醒”も発生するという。
息を呑み、思わず拳を握る。
「……あった……!」
これがあれば、強くなれる。
そう思った瞬間、同時に感じたのは──胸を焼くような渇望と、その“対価”だった。
このアドオンは、自動的に備わる脳内メモとは違う。
あくまで“商品”であり、莫大なNPが必要だった。
それでも譬喩は、迷わずそれをマーケットプライスの“初購入予定”に登録した。
「強くなりたいんじゃない。守るために、強さを持たねばならないだけだ」
その目は、もう次の夜を見据えていた。
