【マインクラフト異世界譚】〜無価値からの人生変革〜.12
【マインクラフト異世界譚】〜無価値からの人生変革
第十二章:「血と欲と夜の入口」
朝が来る。陽が昇る。
譬喩は、迷いなく“同じ順序”で動き出すようになっていた。
畑のチェック、小麦の育ち具合を見て、鶏に餌をやり、オークの木を伐り、地下へ潜って整地と採掘。
そして、必要な肉と革を得るための狩猟へ。
「繰り返すことで、強くなる」──そう思っていた。
日課を磨き上げること。
それは、生き残るための“術”であり、NPを積み重ねる唯一の方法だった。
譬喩は脳内メモへ、入手効率と日課ルートを記録し始める。
「畑→鶏→木→採掘→狩猟」──この順路に従えば、昼の時間を最大限活かせる。
だが、どれだけ効率化しても、【レベルアップシステム:3000NP】という大きな壁は、その先に立ちふさがり続けていた。
その日、譬喩はいつものように狩りの行動に出ていた。
豚を狩り、革と肉を手に入れ、牛を追い込んで仕留め──順調に進んでいた。
だが、ふと。
「……奥に、ゾンビ以外の、何かがいる」
妙な気配を感じた。
足音も唸り声もない。それなのに、空気の密度だけが変わった。
その瞬間。
──バシュッ。
鋭い風切り音の直後、強烈な衝撃が襲った。
「っ……ぐあっ!?」
左肩を、何かが撃ち抜いた。
視線を落とすと、そこには黒い矢羽根が突き刺さっている。
──スケルトン。
初めて見る骨の敵。
だがそれは、間違いなく、即時発射された矢を正確に譬喩の肩に命中させてきた。
驚く暇などなかった。
逃げても、正確に撃ち込まれる。
正面から突っ込めば──次で心臓を射抜かれる。
「……考えろ、遮蔽物……っ」
譬喩は木の影に滑り込み、斜めに倒れた枯木の陰へ。
距離を測り、物陰を移動しながら徐々に接近。
弓が再び振り上げられる瞬間、突っ込む。
──シュバッ!
鋭く刃を振るい、弓の弦を断ち切る。
骨の腕が反応する前に──連撃。
石の剣を振り下ろし、割れる骨の音。
バラバラと崩れ落ちた骨の残骸の上で、譬喩は膝をついた。
呼吸が荒い。肩が焼けるように痛む。
手は血に濡れて、震えていた。
「……怖い……」
ゲームだと思っていた。
でも今の戦いは、紛れもなく“死の予感”があった。
……
一呼吸して、譬喩は剣を杖のようにして立ち上がる。
足元に散らばった骨を、視線がとらえた。
「素材……か?」
それは、ただの残骸ではなかった。
規則的な関節、丈夫そうな骨片──どれもが、一定の規格を持った“パーツ”に見えた。
ゆっくりとしゃがみこみ、白い骨を一つ拾う。
ざらりとした感触が、掌に残った。
「ただの敵の名残じゃない。……使える、はずだ…。」
そうして譬喩は、静かに骨をひとまとめにし、革袋へと仕舞い込んだ。
拠点へ戻ると、すぐにマーケットプライスを開いた。
出血は止まらず、目が霞む。手も震えている。
表示された医療アドオン:
■応急処置キット・初級:200NP
■応急処置キット・中級:500NP
■応急処置キット・上級:950NP
■範囲回復魔法陣【癒環】:6000NP
「癒環……?」
その言葉に一瞬だけ視線が留まる。
“魔法陣”? “範囲”?──だが、今は関係ない。
譬喩は【中級キット】を選び、購入をタップする。
《購入しますか?──NP:500 消費》
「はい」
“チリン”という澄んだ音と共に、NPゲージが減る。
まるで命を削り落とすように──
キットを取り出す。簡易なポーチ型。
包帯と、緑色に光るゲルが一体化している。
肩に押し当てると、ジュワッと染みこむ熱。
皮膚が引き締まり、じわじわと痛みが引いていく。
安堵の吐息。
だが──そこにあったのは、完全な癒しではなかった。
肩には、薄く赤黒い跡が残っていた。
皮膚が新しくなったようでいて、なにか、そこだけ“違う”感触がある。
「……治った、けど」
感覚の奥に、鈍い重さが残っていた。
まるで、そこだけが別人の肉のようだった。
“痛み”は去っても、“記憶”は消えない。
この世界の回復は、ただ元に戻るのではない。
失って、刻まれて、それでも進むしかない。
譬喩は、自分の肩に指を当てたまま、しばらく動けなかった。
NPはこれでほぼ空っぽだ。
夜、焚き火の前。
譬喩は、薪を見つめながら呟いた。
「あのスケルトンに出くわさなければ、たぶん……気づかなかった」
“死ぬかもしれない”という感覚。
それは、明確な“生き延びたい”という本能を呼び起こした。
強くならなければ、また死ぬ。
譬喩はもう一度、マーケットプライスを開く。
未だ届かない──《レベルアップシステム》3000NP。
その隣に、新たな商品が追加されていた。
【NEW】《Add-on:加速行動型経験取得ブースター》──短時間で経験獲得を倍化
【NEW】《Add-on:反射強化特性:オートステップ回避》──敏捷25以上で装備可
「……欲しくて、たまらない」
生き延びるための灯火のはずだった。
だが、その目は──それだけではない、もっと“別の熱”を孕み始めていた。
譬喩の瞳には、火ではない光が宿る。
欲望という名の、穏やかで静かな狂気の光が。
