【マインクラフト異世界譚】〜無価値からの人生変革〜.14
【マインクラフト異世界譚】〜無価値からの人生変革〜
第十四章:「報酬と罪火」
陽は昇っていた。
だが、その温もりは、焼けた大地に届かない。
譬喩はただ、立っていた。
足元には、黒く焦げた土と、崩れ落ちた灰の斑。
昨日まで森だった場所に、もう葉も枝もない。
──ぱち、ぱち。
風に煽られて崩れる木の残骸が、小さく音を立てる。
譬喩はそれを目で追わなかった。
「……もう、燃えるものがない」
呟きだけが、焦土に沈んでいく。
虚脱。
確かに一度は感じた。
焼いた瞬間、どこかがすっきりした気もした。
だが、それは火と共に、全てを連れていってしまった。
今、譬喩の手元に残っているのは、焼け跡と──金に換えるべき“灰色の資源”だけだった。
──
焦土を歩く。
その靴音は、土ではなく炭を踏む鈍い音だった。
崩れた建材の残骸に、鍋のようなものが転がっている。
中身は何か焦げ付いた粘ついたものが乾いていた。
「……鍋か」
横に、半ば溶けたスコップ。
そして、埋もれかけた木の板。
手で掘ると、そこには“名前のない墓標”のようなものが現れた。
「……誰のものかも、わからない」
無表情のまま、譬喩はそれらを拾い上げる。
それらも他の資源と同じように──マーケットプライスに、無言で提出された。
──“チリン”
提示されたNPは、尋常ではない。
焼けた木材は通常の三倍の価格。
動物の骨、皮、焼けた肉。すべて高額査定。
中には“灰”すら価値として数えられていた。
数字が跳ね上がる。
合計、2950NP。
「……なんで、こんなにも」
言葉は漏れたが、答えは返らない。
マーケットはただ、無慈悲に金へと変換し続ける。
譬喩は、数字を見ていた。
次第に目元が緩みかける。
「……これが、“正解”だったのか」
誰に問うわけでもなく、譬喩は呟く。
喜びというより、“報酬に応じた快感”。
まるで──脳がそう反応するようにできているかのように。
そしてその時、声がした。
『そうだよ。正しいよ、お前は』
どこからでもなく、誰のものでもない声。
けれど譬喩は、その声を知っていた。
「……お前は……」
『全部、お前の手で燃やした。得た。殺した。選んだのは、お前。』
『なのに、まだ少しは怖かった? 罪悪感でも残ってた?──違うよ。気持ちよかったんだろう?』
譬喩は頭を振る。
けれどその声は、頭の中に、“脳内メモ”に貼りついていた。
『もっと燃やせばいい。もっと奪えばいい。お前には、その価値がある』
『俺はお前の中にいる。ずっと、お前が閉じ込めてた、黒い部分だ』
「……黙れ」
譬喩は、目を閉じ、拳を握る。
『何も間違っていない。褒めてやってるんだ。お前の選んだ破壊は、“正義”だよ』
その声は、囁くのではない。
背中に手を添えるようにして、“許し”を与えてくる。
そう──お前はそれでいい。と。
「……黙れ」
もう一度呟き、譬喩はゆっくりと歩き出す。
声は、まだどこかで笑っているようだった。
『いいぞ、そのまま進め。次は、どこを燃やす?』
──
数日が過ぎた。
再び焦土を歩く。
焼け跡は、風と時間に削られ、さらに乾いていた。
その中に、緑があった。
ぽつりと、小さな芽が出ている。
灰の中から、確かに、生えていた。
譬喩はそれを見つめる。
引き抜かない。
水もやらない。
ただ、見ていた。
「……勝手に、生えてくる」
それだけを呟き、背を向ける。
そして──
目を上げた彼の視界の先。
遠く、山の向こう。
薄靄の彼方に、“巨大な塔”のような構造物が見えた。
あるいは、空に浮かぶ都市の残影か。
譬喩は懐から、マーケットの一覧を開く。
現在NP:2950
「……届くには、足りないな」
その言葉には、欲望の熱も、諦念の冷たさもなかった。
ただ、“数字”としての現実。
そして譬喩は、また剣を握り、歩き出した。
“何か”になる手前で、踏みとどまったまま。
“人”としての残響を、まだ断ち切らぬまま。
