ハトノス『Pica』ができるまで【第11回】チラシの油絵について
大学時代は「フライヤー」という言葉を使っていたのに、いつの間にか「チラシ」の方を多く使うようになっていました。今日はチラシの話をしていきます。

ハトノス『Pica』のチラシ、大変好評です。いいチラシですよね。私も大好きです。
先日、東京公演と広島公演の間にちょっぴり広島に行ってきたのですが、そこでこのチラシのイラスト(油絵)を描いてくださった田中佐知男さんともお話ししてきました。この話の内容については、クラウドファンディングのリターンの中にある「公演パンフレット」に掲載予定です。
いろんなリターンが用意されているので、よければ覗いてみてください。
佐知男さんとのやり取りはパンフレットの方に掲載するとして、今日はチラシができた経緯について、私の目線から紹介していきたいと思います。
◆「広島」公演なので広島の人と作ろうかと
『Pica』の広島公演を行うにあたって、広島の人とも協力して劇づくりをしていきたいなと思いました。ただ、例えば出演者に広島の人を招く、などとなると、稽古含めた移動・宿泊費などを考えても現実的ではありません。でもチラシのイラストであればお願いできるのではないか。そう思ってすぐ、田中佐知男さんにお声掛けしました。
佐知男さんには広島にいたころからお世話になっており、私は絵に関して全くの素人ながら、とてもきれいな風景を描く方だなあと思っていました。今は広島の御手洗(みたらい)というところにギャラリーを開いていて、瀬戸内海のきれいな絵が上のHPからも見ることができます。
『Pica』のチラシを作るにあたって、まず直感的に「きれいな、美しいチラシにしたい」と思っていました。原爆ドームなどを描いてわかりやすく「原爆の劇」であることを示すのでなく、一目見て美しい景色があって、その中に様々なニュアンスがあるようなものの方がいいのかな、という感覚がありました。『Pica』という物語において、「美しく見える」ということはとても大切なことな気がしたのです。
佐知男さんに、天の川を描いてもらったらとてもきれいだろうな、と思いました。それ以上の具体的なイメージはない状態でしたが、昨年の記録映像と脚本を送り付け、いろいろあって絵の製作を快諾していただきました。
◆なんやかんやあった
最初から私の中に具体的な絵のイメージがあったわけではないので、はじめは佐知男さんがイメージを膨らませてサンプルとして絵をかいて、その絵をもとにどのような方針にしていくか決めていく、ということになりました。
「Pica」=カササギ、であったり、天の川のイメージであったり、劇に込められたメッセージであったり、そういったことを文章で伝えて、絵を描いていただきました。その絵をベースに何度もやり取りを重ねてできた絵が、次の画像の絵です。

これはこれで最高ですね。佐知男さんからこの路線でいくか、もう一つ、違う路線を探すか、どうしようかと言われ、沢山悩みました。この絵をベースに修正して作ったとしても、納得感はあったと今でも思います。
それでも、「人」の姿を絵の中に描きたい、ということで、もう一つの路線を探すことにしました。
◆「人の姿」を描く
脚本家として、「人を描く」って苦手なのです。それでも、昨年『Pica』を上演し、その経験をもとに再演のための改訂を行う中で、一番大切にしたかったのが、もっともっと「人々の姿」をくっきりさせたい、ということでした。「事実」をもとに、演劇的なシーンを組み立てていくことは多分これまでのハトノスでもやってきていて自分の中での塩梅が明確にある分野だと思います。
一方で、「人物を生き生き描く」ことについては苦手です。それでも、多分ここから逃げたら『Pica』をより前に進めることはできないなと思いました。
そんなことを考えていたからこそ、チラシの絵にも「人の姿」があってほしい、と思ったのです。佐知男さん曰く、「人物画は苦手」とのことだったのですが、苦手同士でちょうどいい、などと無責任なことも言いながら、何とかいい表現がないものか、とそれぞれ再び迷いの淵へと入り込んでいきました。
◆大学時代に撮影された写真
今の絵の構図の指針となったのは、大学時代に撮影された写真でした。

なんかいい写真です。被写体は沖縄で飲めないビールを渡され、どうしようかと途方に暮れている私です。いつの間にか友人が撮影していました。
いい写真だなと思ってずっとデータをとっていたのですが、この構図が今回のチラシにも活かせるのでは…?とおもって佐知男さんにも共有し、今までのやり取りなども含めて今の絵につながるラフに落とし込んでもらいました。
その後、人と鳥の目が合っているような感じの首の角度がいい、とか、人の輪郭線をもうちょっとぼんやりさせたい、など細かい調整が沢山重なり、何度も何度も調整しながら絵が完成しました。

◆“「原爆」のイメージ”との距離感
絵を描いていただくにあたり、はじめに「ストレートに原爆や黒い雨を連想させるような絵は(私には)難しい」というようなことを佐知男さんは伝えてくれました。その感覚は私も持っていて、だからこそやはり佐知男さんに頼んでよかったと思いました。
ハトノスの劇は、「広島―原爆」という事象との距離感を感じながらも、それに起因するテーマをストレートに扱ってきました。「平和の大切さを伝える」という言葉との距離感を感じながら、戦争についての記憶を扱ってきました。扱うテーマから予想される立ち位置と、実際の自分の立ち位置に距離感を感じながら、自分の立っているその場所に旗を立てようとしてきました。そのバランスが崩れたときこそハトノスが続けられなくなる時だなと思いながら、何とか今のところは続けられています。
愛知生まれで広島のような平和教育を受けてはいないけれど、もう30年以上広島に住んでいる田中佐知男さんと、広島生まれで平和教育は受けてきたはずだけど、「広島―原爆」について本格的に向き合い始めたのは上京してから、という青木文太朗が、それぞれの距離感で『Pica』という作品を軸にしてアイデアを出し合い、共に作り上げた油絵です。とても気に入っています。
この絵をチラシにするにあたってはさらに田原さんが頑張ってくれたこととかいろいろあるのですが、今日のところは深く触れずにここまでとさせてください。コピーやロゴが入ってチラシとなり、改めてこの作品は完成したな、という感覚がありました。原画もチラシも、どちらも大好きです。
そんな原画、劇場に行ったら見ることができます。広島公演の際にも、ぜひとも原画を見ていってください。
