「トランプ政権ならウクライナ戦争は起きなかった」は本当か?
皆さんこんにちは、ハトヤブと申します。暑さも峠を越したと思われますが、いかがお過ごしですか?
2025年8月15日、アメリカのアラスカで4年ぶりとなる米ロ首脳会談が開かれました。しかしこれはただの首脳会談ではありません。相手は2022年2月24日からウクライナという一主権国家を侵略し、2023年に国際刑事裁判所(ICC)から指名手配を受けているウラジーミル・プーチン大統領だからです。世界が固唾を飲んで見守る中、ウクライナ戦争の停戦へ向けた対話が進むと目されましたが、詳細は不明であり、具体的な合意は何もありませんでした。
露大統領からの衝撃の発言
一方でこの会談の後、プーチン大統領から衝撃的な発言が報道陣に向かって放たれます。それは「2022年にトランプ氏が大統領だったら、ウクライナ戦争は起きなかった」とする見解です。
トランプ米大統領との会談を終えたロシアのプーチン大統領は15日、アラスカで記者会見に臨み、2022年にトランプ氏が大統領であれば、ウクライナでの戦争は起きなかっただろうとの認識を示した。
かねてからトランプ氏自身がバイデン前大統領を批判する形で「自分が大統領ならウクライナ戦争は起きなかった」と公言しており、今回の彼の発言はそれを裏付けたような形となります。これを受けて今後トランプ氏が「露大統領が言ったように、俺なら戦争は起きなかった」と言い張るのは確実ですし、トランプ支持者の間でも「事実」として定着していく可能性があります。
この種の主張には単純かつ魅力的な響きがあります。自己顕示欲が異様に強いトランプ氏本人にとっては言うまでもなく、支持者にとっても、カリスマ的な指導者が解決してくれるという、単純なヒロイズムに浸ることができます。
しかし過去記事でも少し触れていますが、私はこの主張には「誤りがある」と考えております。なぜならこれはウクライナ戦争の歴史や、それを引き起こした構造的要因を軽視し、単純な個人のリーダシップに重きを置いた解釈に依存しているからです。
今回はこの主張(トランプ仮説と呼称します)を多角的な視点から検証し、ウクライナ戦争の真相や、アメリカの影響力の実態、そしてトランプ氏が交渉していた場合のシミュレーション結果を、皆さんに解説したいと思います。
トランプ仮説の論点
ではまずはこのトランプ仮説について、その論点を洗っていこうと思います。この仮説の肝はトランプ氏の外交スタイルに大きく依存するのが特徴です。
1.ディール外交
仮説の下支えになる根拠の最たるものがトランプ氏が好む「取引(ディール)外交」です。実はウクライナ戦争に先立つ2021年12月、ロシア政府はアメリカ政府やNATOに対して、ウクライナのNATO加盟を阻止するための法的拘束力を持つ合意を求めていました。
ロシアのセルゲイ・リャブコフ外務次官は17日、ビデオ記者会見を開き、アメリカとNATOにそれぞれ条約草案を渡したと述べた上で、その内容以外に選択肢はないと強調した。次官はその上で、「ロシアと西側全体との関係は、完全に信用が欠如している状態にある」と話した。
ここでもしトランプ氏が政権を担っていれば、彼はこの要求を「取引」の対象と見なし、何らかの譲歩と引き換えに、ロシアの軍事行動を回避できたのではないかという仮定が成り立つわけです。トランプ氏は過去にも、個人の交渉能力を外交の中心に据え、伝統的な外交プロトコルを無視して、時に独裁者とも直接対話を行うことで知られていました。こうした彼の外交スタイルが、プーチン大統領との個人的関係と相まって、戦争を未然に防げたとする論者の根拠となっているのです。
2.予測不能性
次に仮説の根拠として重要な論点は、トランプ氏の外交でよく指摘される「予測不能性」です。トランプ氏の行動や発言はしばしば予測が困難であるとされ、この不確実性が、プーチン氏を慎重にさせるという見方です。それを裏付けそうな情報として、7月にCNNで報じられたトランプ氏の一期目の言動が挙げられます。それは2024年の選挙戦中に献金者らを集めたイベントで彼がプーチン大統領に警告したという武勇伝です。
この音声によると、トランプ氏は2024年の資金集め集会で、「プーチン氏に対して私はこう言った。『もしウクライナに入ったら、モスクワを徹底的に爆撃する。言っておくが、他に選択肢はない』と」「すると、(プーチン氏は)『あなたの言葉を信じていない』という趣旨のことを言ったが、10%は信じていた」と発言した。
警告としてはあまりにぶっ飛んだ内容ですが、こういったトランプ氏の「予測不能」な姿勢こそが、計算された行動をとるプーチン氏にとって最大の抑止力として機能したとされています。
3.NATO懐疑論
三つ目に重要な論点はトランプ氏のNATOに対する懐疑的姿勢です。彼はNATOの加盟国に対してGDP2%を目標にした国防費の増額を強く求め、応じなければアメリカのNATOからの離脱すら示唆していました。
ワシントン(CNN) トランプ米大統領が昨年、内輪の会話で北大西洋条約機構(NATO)からの離脱に複数回言及していたことが19日までにわかった。米紙ニューヨーク・タイムズが伝えた。
このトランプ氏のNATOに対する懐疑的な姿勢は、ロシアにとって有利に働くものであり、先述の「ディール」と相まって、ウクライナへ侵攻する動機がなくなるのではないかとする仮説が成り立ちます。これは特に日本においてバイデン政権やアメリカの対外関与政策に批判的な論者が好む見方であり、バイデン政権のような大規模なウクライナ支援をしないことで、ロシアを「刺激」せず、結果的に軍事侵攻のリスクが低下したはずだという見解です。
以上が「トランプ政権ならウクライナ戦争は起きなかった」仮説の根拠です。こうして具体例を挙げて説明されれば、いかにも根拠のある主張であるかのように見えてしまいます。特に今後はトランプ氏の自己顕示欲とメディアの選別によって、この認識はほぼ既成事実のものにされていくでしょう。
トランプ仮説の盲点
しかし私はこの主張に誤りがあると考えております。序論で申し上げた通り、これはウクライナ戦争の歴史や構造的要因を軽視して、ドナルド・トランプという一人の男にとって都合のいい解釈に基づいた仮説にすぎないからです。まずはこの主張の内包する誤解や、恣意的な解釈について指摘していきます。
1.ウクライナ戦争の本質
まずそもそもの話としてこの仮説は、ウクライナ戦争が2022年2月24日から始まったことを前提としております。確かにロシアが全面侵攻を開始したのはその日ですが、ウクライナの視点で見れば、2014年のクリミア併合からすでにロシアの攻撃は始まっており、2022年はそれが激化したと考えるのが妥当な解釈です。したがって「トランプ政権ならウクライナ戦争は起きなかった」という主張はこの問題(クリミア併合やドンバス地域での低強度紛争)を無視しており、歴史的文脈を切り取った恣意的な解釈であると言わざるを得ないのです。
またウクライナ戦争が起こった理由も、ロシア擁護論者がよく指摘する「ウクライナのNATO加盟阻止」という単純なものではありません。その背景はロシアの地政学的事情、プーチン氏の歴史認識と大スラブ主義、そしてロシアの政治的事情が強く影響しております。こうした側面を無視して、米大統領のリーダシップのみで戦争の是非が決まるという主張は、アメリカ一極主義に対する過大評価であり、時に残念な陰謀論へ結びついてしまうリスクを持ちます。
2.相対的な「予測不能性」
次に指摘すべきなのは、トランプ論で大半を占める「予測不能性」についてです。確かにトランプ氏の言動は、従来のアメリカの政治家とは一線を画すものであり、多くの識者が予測困難だと感じております。しかし、現代は情報戦の時代であり、ましてやプーチン氏のようなベテランの情報機関出身者が、トランプ氏の言葉だけであっさりと委縮するでしょうか?
トランプ氏の「予測不能性」で戦争が止めれなかった事実は過去に存在します。それは一期目の2019年の頃、シリア北東部から米軍を撤収させた後に、トルコ軍が同地域で活動するクルド人達に武力攻撃をした時のことです。アメリカはIS(自称イスラム国)の打倒でクルド人の協力を得ていたので、トランプ政権はトルコの武力介入を止めようと働きかけました。しかし、トルコのエルドアン大統領は聞き入れず、トランプ氏からの手紙さえもゴミ箱に捨ててしまったのです。エルドアン氏にとってトランプ氏の「予測不能性」はそこまで脅威でなかったことがうかがえます。
現在の状況を見ても、プーチン氏がトランプ氏の発言に対してそれほど気にしている様子はありません。実際、これまで米ロ電話会談は6回以上行われていますが、その直後にかなりの高頻度で、ロシアはウクライナへの爆撃を敢行しております。ついにはトランプ氏自身も「私をあしらっているだけなのではないか?」と不満を出すほどで、ついには停戦期限を設けて制裁を明言したところで、今回の会談に至りました。
これは贔屓目に見ても、プーチン氏がトランプ氏の「予測不能性」に振り回されるどころか、完全に彼のフラストレーションの閾値を把握しているようにさえ感じられます。むしろプーチン氏にとってトランプ氏の言動は、自国の利益を最大化させるための駆け引きの「道具」になっている可能性さえあります。
3.戦争の遠因こそトランプ政権
最後に指摘したいのは、トランプ氏の外交がウクライナ戦争を回避し得たどころか、むしろその遠因を作り出したという逆説的な可能性です。先述の仮説を支持する論点では、トランプ氏がNATOに懐疑的だからこそ、ロシアは戦争に踏み切らなかったとしましたが、抑止論からすれば、トランプ氏のNATOに対する懐疑と揺さぶりが、逆にロシアに軍事的冒険へのハードルを下げた遠因であるとも言えるのです。
それを象徴する出来事が2019年のマクロン仏大統領による「NATOは脳死状態」発言です。トランプ氏からはアメリカ離脱論が投げかけられ、トルコが好き勝手に軍事作戦をする有様を憂慮したものですが、そのあまりの刺激の強さに、当時のドイツ首相やアメリカ国務長官が「NATOは重要である」と火消しに走る有様でした。その中でロシアだけは違った反応をしたのです。
一方、ロシア外務省のマリア・ザハロワ(Maria Zakharova)報道官はマクロン氏の「脳死」発言について、「最高の言葉だ……NATOの現状についての的確な定義だ」と評した。
このコメントからロシアがNATOに対して、どういう認識を持っていたのかうかがい知ることができます。少なくとも「NATOがロシアにとって脅威で、仕方なくウクライナに軍事介入した」とするロシアの主張が、疑わしくなってくるでしょう。
加えてトランプ氏はウクライナに対して、軍事支援の見返りに政敵のスキャンダル捜査を要求するなど、個人の利益を優先する対応が見られました。こうしたトランプ政権下での外交の私的活用は、国家間の信用を損ない、国際秩序に「綻び」を起こすリスクがあります。そしてその「綻び」が、バイデン政権に引き継がれたときに、ウクライナ戦争という形で表面化したと解釈することもできるのです。つまり、「トランプ政権なら戦争は起きなかった」という主張への反証は、トランプ政権自身が作り出した国際環境の中にすでに存在していると言えるのです。
「取引」は成立したか?
手厳しく論駁されつつあるトランプ仮説ですが、仮説支持者は「取引が成立すれば戦争は回避できた」とおっしゃることでしょう。お待たせしました。ここからはトランプ政権が2020年以降も続投したと仮定して、ロシアとの取引が成立するのかAIの協力も得つつ、検証していきましょう。
ロシアが突き付けた条件
まずは2024年12月の段階でロシアが提示してきた緊張緩和の条件について、その全貌をBBCの記事から引用します。
ロシアはNATOへの要求の中で、旧ソヴィエト連邦崩壊後にNATOへ加盟した国々は、ロシアにとって脅威となる地域に部隊や兵器を配備してはならないとしている。そうしたNATO加盟国は、それぞれの領空・領海の外に重爆撃機や艦船を展開してはならないとも要求している。またウクライナのNATO加盟を認めないように求めた。
日本の専門家は「ウクライナのNATO加盟を断念しさえすれば戦争は起きなかった」としておりますが、突き付けられた要求はそれに留まらないことがわかります。ロシア側の要求は以下の3つです。
ウクライナのNATO加盟を認めないこと
旧ソ連崩壊後にNATOに加盟した国々(東欧諸国)に対し、ロシアの脅威となる地域への部隊や兵器の配備を禁じること
2の対象の国々が、それぞれの領空・領海のほかに重爆撃機や艦船を展開しないこと
1はともかく、2と3はすでに加盟している東欧諸国を対象としたものです。その本質は、ソ連崩壊以降のNATOの東方拡大を否定し、ロシアの安全保障を確保するために、旧ソ連圏のNATO加盟国の主権と防衛能力を著しく制限することにあります。つまりこれは「ウクライナ問題」ははるかに超えた、冷戦後のヨーロッパにおける安全保障体制そのものの再構築を要求するものとなっていたのです。
これはバイデン政権が応じられないのもうなずけます。一部の識者はバイデン政権がロシアを挑発したと考えていらっしゃるようですが、実態は真逆であり、ロシアが軍事圧力を通して現状の変更をしようとしていたのがわかります。ロシア版ハルノートと言ってもいいくらいです。
取引のシミュレーション
では早速シミュレーションを開始します。2020年に再選し2024年12月にロシアと対面することになった二期目のトランプ大統領。ここでは3つのシナリオを設定し、
ロシア側の要求を丸呑みしたシナリオ1、ロシア側の要求を拒絶したシナリオ2、「ウクライナNATO加盟の凍結」という代替案を試みたシナリオ3を描いてみます。
シナリオ1:ロシアの要求を受け入れる
トランプ政権の行動: プーチン政権の要求リスト(ウクライナのNATO非加盟、東欧における軍備制限など)を全面的に受け入れ、合意を発表する。これを「平和のための歴史的ディール」と喧伝する。
プーチン政権のアクション1: トランプ政権の譲歩を「弱腰」と見なし、約束が履行されるか監視する。さらに、ウクライナを始めとする東欧諸国への政治的・軍事的圧力を強めてNATOの分裂を誘う。
ウクライナ政権の行動: アメリカの決定を主権の侵害として強く非難し、アメリカとの関係を冷却化させる。独自に欧州諸国やNATO内部の親ウクライナ派と連携を模索するが、外交的に孤立する。国内で反米感情が強まり、政権の不安定化を招く。
NATO諸国の行動: アメリカの行動に強い不信感を抱き、同盟の結束は大きく揺らぐ。特に、ポーランドやバルト三国など東欧諸国は、自国の安全保障が脅かされるとしてアメリカへの依存を再考し、独自あるいは欧州連合(EU)内での防衛力強化に乗り出す。NATOは事実上の機能不全に陥る。
プーチン政権のアクション2: NATOが完全に機能不全に陥り、ウクライナが孤立無援になったと判断すれば、ウクライナ政権の不安定化に乗じて武力侵攻に踏み切る。この時口実としてウクライナや東欧諸国の独自の防衛強化を挙げ、「東欧にはびこるネオナチを討伐する」と主張する。
このシナリオの要点はロシアの要求を丸呑みしたトランプ氏の実効性の欠如とNATOの信用崩壊が挙げられます。NATOは憲章第10条に基づき、加盟には全加盟国の同意を必要とする合議制をとっております。そのためウクライナの加盟や東欧での部隊配置の是非についてアメリカ大統領の一存で決めることはできません。そのためトランプ氏の取引に加盟国は反発し、NATOは機能不全になるでしょう。それがプーチン政権の増長を招く可能性があります。
シナリオ2:ロシアの要求を拒否する
トランプ政権の行動: プーチン政権の要求を「馬鹿げた要求だ」として一蹴する。強硬な態度で制裁をチラつかせ、ロシア側の譲歩を引き出そうとする。ただし、ウクライナへの具体的な軍事支援は明言しない。
プーチン政権のアクション1: トランプ政権の姿勢を「本気」と判断するか、「ブラフ(はったり)」と判断するかを見極める。露宇国境での軍事力を増強し、アメリカの反応を試す。
ウクライナ政権の行動: アメリカの強硬な姿勢を歓迎し、引き続きNATO加盟への希望を表明する。しかし、アメリカからの具体的な軍事支援が明確でないため、依然としてロシアの侵攻リスクに直面する。
NATO諸国の行動: トランプ政権の強硬姿勢は歓迎されるが、それが「口だけ」である可能性に警戒する。アメリカの信頼性が依然として不確実であるため、独自の防衛力強化や、EU内での安全保障協力を模索する動きは継続する。
プーチン政権のアクション2: トランプ政権の姿勢が「ブラフ」であり、ウクライナへの軍事支援を行わないと見切った場合、ウクライナ侵攻に踏み切る。トランプ政権下ではバイデン政権のような欧米の結束した支援は期待できないため、より短期間でウクライナ全土を制圧できると判断する。
二つ目のシナリオの特徴はトランプ氏の得意とする「予測不能性」を活用した圧力外交です。この場合、NATOの信頼は損なわれませんが、プーチン政権はトランプ氏の本気度を見切る可能性が高く、バイデン政権同様に侵攻へ踏み切る可能性が高いです。
一方でバイデン政権は侵攻前夜からロシア軍の情報を同盟国と共有し、ウクライナの抗戦を支援しましたが、ツートップでの解決に固執するトランプ氏はこれをおざなりにする可能性があります。そのため、ロシア側は偽旗作戦や情報戦で優位に立ち、ウクライナはより厳しい戦況に追い込まれていたでしょう。
シナリオ3:代替の提案(ウクライナの加盟凍結)をする
トランプ政権の行動: プーチン政権の要求を全面的に受け入れるのではなく、「ウクライナのNATO加盟を当面の間、凍結する」という代替案を提示する。これを「賢明な中間案」として内外にアピールする。
プーチン政権のアクション1: トランプ政権の提案は、ロシア側の要求の一部を受け入れたものと評価する。しかし、加盟「凍結」は恒久的なものではないため、これを交渉の出発点とし、さらにウクライナの非武装化や、ロシアの影響圏としての地位を明文化することを要求する。
ウクライナ政権の行動: この提案はウクライナの主権を侵害するものとして強く反発する。アメリカとの関係が悪化し、国内の親欧米派と親露派の間で対立が激化する。ウクライナ国民は、自国の運命が第三者によって決められることに憤りを感じ、国内の政治的混乱が深まる。
NATO諸国の行動: この提案はNATOの「開かれた扉」政策を否定するものであり、強い反対に直面する。特に東欧諸国は、アメリカがロシアとの間で密約を結んだと見なし、アメリカへの不信感を募らせる。NATOの結束は弱まるが、シナリオ1ほど完全には崩壊しない。
プーチン政権のアクション2: ウクライナが「中立」という名目で軍事的に弱体化し、アメリカとの関係が決定的に悪化したと判断すれば、ウクライナ国内の政治的混乱に乗じて軍事侵攻に踏み切る。この場合、プーチン氏はトランプ氏の代案に反発する勢力を「ネオナチ」と呼び、軍事作戦の正当性を主張するとともに、米欧のさらなる分断を煽る。
最後のシナリオはこれまたトランプ氏が好みそうな「自分の提案」を軸とした交渉シナリオです。ロシアの要求丸呑みでない分、NATOの信用崩壊も限定的ですが、それでも米ロの密約による信用失墜は免れず、プーチン政権に付け入る隙を与えることには変わりはありません。したたかな彼はトランプ氏とNATO加盟国との対立を煽り、さらにロシアの影響力を拡大しようとするでしょう。
いかがでしたでしょうか? このように、どのシナリオにおいても「トランプ政権ならウクライナ戦争は起きなかった」という単純な結論に至らないことがわかります。なぜなら彼の「取引」という手法は、外交における複雑な利害関係や、国家の主権といった根本的な原則を無視しているからです。
またこのシナリオを作るにあたり、プーチン政権の歴史認識やロシア国政の内情、中国との関係なども考慮に入れております。長くなるので詳述はしませんが、ウクライナ戦争にはより深い構造的要因が隠されており、米大統領個人の資質で、全てを決定できるものではないということを理解する必要があるのです。
ボロボロの玉座に座るアメリカ
今回は「トランプ政権ならウクライナ戦争は起きなかった」という仮説を多角的な視点から検証しました。結果、この仮説はウクライナ戦争の歴史や構造的要因を軽視した主張にすぎず、自己顕示欲が異様に強いトランプ氏の性格を表したものと結論付けられます。
一方でバイデン政権に問題がなかったわけではありません。国際協調を重んじた彼の外交は、トランプ氏と対比して「予測可能性」が強く出ており、特にロシアの侵攻危機において「米兵は派遣しない」と明言したことは、プーチン側からすれば「どうぞ侵略してください」と言われたも同様だったと思います。またトランプ氏のNATO懐疑論も本をただせば、欧州の加盟国が防衛努力を怠り、GDP2%の防衛費さえ実現できていない体たらくが背景にありました。
しかしそれらは戦争当事国同士の構造的対立や歴史的背景と比べれば、2次的な要素にすぎません。特に中国などの新興国が台頭する今日に至っては、アメリカの影響力は相対的に縮まっており、今後もウクライナ戦争のような紛争は世界中のあちらこちらで起こることが予想されます。湾岸戦争の時のようなアメリカ一強は、すでに過去のものとなっているということを、私たちは直視すべき段階に来ているのです。
(本エッセイとシナリオ作成にはGoogle Geminiの協力を得ています)
(扉絵はBing Image Creatorを使用しております)
