『わがまま』と特性の境界線を考える
特別支援学校時代には見えていなかった、親としての本音
はじめに
「これって、わがままなのか、特性なのか」。子育てをしていると、この線引きに何度も悩まされます。癇癪を起こしたとき、予定を変えたがらないとき、「やりたくない」と強く拒否するとき。特別支援学校で教員をしていた頃は、正直この問いにもっと簡単に答えられる気がしていました。でも親になってみると、そんなに単純ではないのだと痛感しています。
私は元・特別支援学校の教員です。娘は小学1年生のときにASDの診断を受け、息子にはADHD傾向があります。夫は在宅で働いていますが家事育児には関わらず、基本的に私がワンオペで向き合っています。教員時代に見ていた「特性のある子」と、我が子として向き合う「特性のある子」は、同じはずなのにまったく違う顔を見せてきます。この記事では、教員としての視点と、親としての本音の両方から、「わがまま」と「特性」の境界線について考えてみたいと思います。
同じように悩んでいるのは、私だけではないと思います。発達グレーゾーンのお子さんを育てている親御さん、不登校のお子さんと向き合っている方、育休中で今後の療育や園選びに不安を感じている方。立場は違っても、「これはうちの子だけの反応なのか、それとも特性なのか」と迷う瞬間は、きっと共通しているのではないでしょうか。
特別支援学校時代に見えていたもの
教員をしていた頃、私は子どもたちの行動を「特性」というフィルターを通して見る訓練を受けていました。癇癪を起こす背景には感覚過敏があるかもしれない、予定変更を嫌がるのは見通しが立たない不安からかもしれない、そんなふうに、行動の裏にある理由を探すことが仕事の一部でした。
保護者の方から「うちの子、わがままなだけなんでしょうか」と相談されたとき、私は「特性からくる困り感かもしれませんよ」とお伝えすることが多かったように思います。それは決して間違いではなかったと今も思っていますが、正直に言うと、当時の私は「一歩引いた立場」から子どもを見ることができていました。24時間365日、その子と向き合っているわけではなかったからです。
親になって気づいた、教員時代にはなかった悩み
自分の娘や息子と向き合うようになって、教員時代とは違う難しさに直面しました。それは、「わがまま」に見える行動が、1日に何度も、それも予告なく起こるということです。
例えば、娘が「今日は学校に行けない」と言うとき。教員時代なら、その子の背景を想像しながら冷静に対応できたと思います。でも親としては、仕事の締め切りや息子の送迎が頭をよぎり、「今じゃなくてもいいのに」と思ってしまう瞬間が正直あります。息子が「宿題はあとでやる」と言い張るときも、それがADHD傾向からくる切り替えの難しさなのか、単に面倒くさがっているだけなのか、その場で判断するのは簡単ではありません。
教員として学んだ知識があっても、我が子となると感情が先に動いてしまう。この差に、最初はかなり戸惑いました。
『わがまま』と『特性』を分けて考えるための3つの視点
試行錯誤を重ねる中で、私なりに大事にしている視点が3つあります。
1つ目は、本人が困っているかどうかです。単に自分の思い通りにしたいだけなのか、それとも本人自身が苦しさや不安を抱えているのか。困り感が本人の中にあるなら、それは特性による反応である可能性が高いと感じています。
2つ目は、環境要因があるかどうかです。音や光、人の多さ、予定の見通しのなさなど、環境が変わると行動も変わることが多いです。同じ行動でも、場所や状況によって出たり出なかったりするなら、環境からの影響を疑ってみるようにしています。
3つ目は、一貫性があるかどうかです。いつも同じパターンで起きる行動なのか、その場その場で都合よく変わる主張なのか。ここは正直、線引きが一番難しいところですが、繰り返し記録をつけることで、少しずつ見えてくるものがあります。
娘・息子との実例
娘の場合、予定変更を極端に嫌がる場面がよくあります。急に予定が変わると、体が動かなくなったり、涙が止まらなくなったりすることがあり、これは明らかに「わがまま」ではなく特性からくる反応だと感じています。
一方で、就寝時間を過ぎてもスマホを手放したくないと強く言い張ることがあり、これは年齢相応のわがままの側面もあるのかなと思いながら向き合っています
息子の場合は、宿題への切り替えの難しさが顕著です。「あとでやる」と言い張るとき、実際に途中で気持ちが切り替わらず何時間も先延ばしになることが多く、これは単なるサボりというより、注意の切り替えの難しさが背景にあると感じています。ただ、ゲームをやめたくないときの駄々のこね方は、素直に「まだ遊びたい」という気持ちがそのまま出ているだけのようにも見えます。
同じ子どもの中にも、特性からくる行動と、年齢相応のわがままの両方が混ざっている。この事実を受け止めるまでに、かなり時間がかかりました。
『特性だから仕方ない』にしすぎない視点も大事
一方で、何でも「特性だから仕方ない」とすべてを片付けてしまうことにも、慎重でありたいと思っています。特別支援学校で働いていたときも、行動の背景にある理由を理解することと、社会の中で困らないためのスキルを一緒に伝えることは、どちらも大切だと教わってきました。
例えば、娘が予定変更で不安定になったとき、その不安自体は否定しませんが、落ち着いたあとで「次は事前に聞いてみようね」と一緒に振り返る時間を作るようにしています。息子が宿題を先延ばしにしたときも、切り替えの難しさは理解しつつ、タイマーを使うなど、本人が動きやすくなる工夫を一緒に考えるようにしています。
「特性だから」と説明がついた瞬間に、そこで思考を止めてしまうと、次に同じ場面が来たときにまた同じように困ってしまいます。理由を理解した上で、その先にできることを一緒に探す。この二段階を意識するようになってから、親としても少し前向きに向き合えるようになった気がしています。
判断に迷った、ある日の出来事
先日、息子が習い事の発表会前日に「行きたくない」と言い出したことがありました。最初は単なる緊張からの駄々かと思い、少し強めに促してしまいました。でも後から様子を聞くと、当日の流れが変わっていたことへの不安が大きかったようで、普段と違う説明を先にしておけば、もっと落ち着いて臨めたのかもしれません。
このとき改めて感じたのは、判断を急がなくてもいいということです。その場で「わがまま」か「特性」かを白黒つけようとせず、まずは行動だけを受け止めて、あとから状況を振り返る。この順番を意識するようになってから、私自身の対応もずいぶん落ち着いてきたように思います。
『わがまま』と言われて、実は一番傷ついていたのは私自身でした
正直に言うと、周りから「わがままなだけじゃない?」と言われることが、一番こたえたのは子どもではなく、私自身でした。祖父母生から悪気なく言われるたびに、自分の育て方が悪いのだろうかと、何度も落ち込みました。
特別支援学校で働いていたときは、保護者の方にそう思われないよう気をつけていたつもりでした。それなのに、いざ自分が同じ立場になると、悪気のない一言にこんなに傷つくのかと、正直驚きました。療育の先生に相談してようやく、「その場では分からなくて当然」と言ってもらえたことで、ずいぶん気持ちが軽くなったのを覚えています。
今は、周りの言葉をそのまま受け止めすぎず、「この子には何が起きているんだろう」と自分なりに考える時間を持つようにしています。全部を跳ね返す必要はありませんが、自分を責めすぎないことも、同じくらい大事にしたいと思っています。
それでも迷った時にしていること
線引きに迷ったとき、私が実際にしていることが3つあります。
1つ目は、行動を記録することです。いつ、どんな状況で、どんな行動が出たかを簡単にメモしておくと、後から振り返ったときにパターンが見えてきます。感情的になっている最中に判断しようとせず、一旦記録だけしておく、というスタンスが自分には合っていました。
2つ目は、専門家に相談することです。療育の先生やかかりつけの医師に、日々の様子を伝えて意見をもらうようにしています。以前、息子の癇癪が急に増えた時期にかかりつけの小児科の先生に相談したところ、家庭でのちょっとした関わり方のヒントをもらえて、ひとりで抱え込んでいた気持ちがかなり軽くなったことがありました。
3つ目は、「今すぐ白黒つけない」と自分に言い聞かせることです。特別支援の経験からも、行動の理由がすぐに分かるケースばかりではないと知っています。分からないまま様子を見る、という選択肢を自分に許すようになってから、少し気持ちが楽になりました。
おわりに
「わがまま」なのか「特性」なのか。この問いに、完璧な答えを出せる日は、もしかしたら来ないのかもしれません。それでも、本人の困り感、環境要因、一貫性という3つの視点を持っておくことで、少しずつ子どもの行動が見えやすくなってきたと感じています。
今日からできる1ステップとしては、迷ったときの行動をひとつだけメモしてみることから始めてみてください。記録が積み重なると、見えてくるものがきっとあります。私自身、特別支援学校での経験と親としての実感の両方を行ったり来たりしながら、これからも試行錯誤を続けていきたいと思っています。答えを急がなくても大丈夫だと、自分にも読んでくださっている方にも伝えられたら嬉しいです!
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。同じように「わがまま」と「特性」の間で悩んでいる方に、少しでも寄り添えていたら嬉しいです。スキやフォロー、コメントもお気軽にどうぞ。
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