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厚生省が推進している母子健康手帳に、労働省の母健カードを入れることが両省統合の象徴になる

厚生省の母子保健課の課長補佐をしていたときに、21世紀初頭の母子保健の国民運動計画である「健やか親子21」を担当しました。

健やか親子21には、母性健康管理指導事項連絡カード(通称「母健カード」)の記載があります。

この母健カードは、旧労働省の女性局でやっていたものです。

妊娠中や出産後に働く女性に症状がある場合には、男女雇用機会均等法に基づいて、事業主は対応する義務があります。

このため母健カードがつくられました。

妊婦が主治医の診察を受けて、措置が必要な症状があって、休業や勤務時間の短縮、立ち作業の制限などの指導を受けた場合に、主治医に母健カードに記入してもらいます。

母健カードを事業主に提出して措置を申し出ると、事業主は母県カードの記載内容に応じた措置を講じることになります。

しかしながら、母健カードは認知度が低くて、妊婦の10%くらいしか知られておりませんでした。

1999(平成11)年頃に、厚生省から労働省に出向していた室長から、母子保健課長に、母子健康手帳に母健カードの様式を入れることができないか、と相談がありました。

母子健康手帳は、妊婦のほとんどが市町村から交付を受けますので、この中に母健カードの様式をあらかじめ載せておけば、こういう制度があることを知ることができます。

その頃は、厚生省と労働省が一緒になることはほぼ決まっておりました。

厚生省が推進している母子健康手帳に、労働省の母健カードの様式を入れることが両省統合の象徴になると踏んで、母子保健課では進めることにしました。

そこで、検討中の「健やか親子21」での目標を「母健カードを知っている妊婦100%」とすることにしました。

労働省の女性局の窓口となる係長に相談に行きました。

策定中の「健やか親子21」の資料を渡して説明し、母子健康手帳に母健カードの様式を入れて認知度を上げ、職場における母性健康管理を推進していきたいと、協力をお願いしました。

ところが、労働省の女性局の女性の係長の発言は、耳を疑うようなものでした。

そんな話は初めて聞いた。
急に言われても困る。
今後のスケジュールはどうなっているのか。
母健カードの目標を勝手に他省庁が設けることはまかりならない。
記述は全部削除すること。
そもそも上を説得できない。
事業主や労働組合への根回しは誰がやるのか。国会議員には説明したのか。
予算措置はどうするのか。
こうした省をまたぐ重要事項は、厚生省の原課から直接話を持ってくるのではなく、省の窓口の官房総務課を通して、話をもってきてもらわないと正式な検討はできない


怒り心頭の係長のマシンガントークはとまりません。

そもそも、いつから検討していたのか。
なぜ今頃になって突然持ってくるのか。
検討会には我々は呼ばれてもいない。
ルール違反だ。
霞ヶ関の常識も知らない。
厚生省の仕事の仕方はおかしい……


話が終わらないので、しびれをきらして発言しました。

「この話、母子保健課にもってきたのはおたくの室長さんなのですが……」

すると、係長の表情が変わりました。

「母子保健課長と知り合いで、直接検討してもらえないかと言われ、課内で検討して本日、そのお答えをもって室長さんのところに来ましたが、窓口を通さないとだめだということで説明させていただいたのですが……」

向こうは係長、こっちは課長補佐です。

あれだけ好き放題言われたので、厚生省のメンツもありました。

いいたいことはそれだけか。
さっきから黙って聞いておれば、室長は母健カードの認知率を上げて職場の母性健康管理を推進したいと思っているけれど、おたくの課の方針としては全く違っているということか。
せっかく厚生省と労働省が一緒になるのに残念だ。
母健カードが日本中の妊婦に知れ渡るいい機会だと思ったが……。
母子健康手帳を変更する作業はすべて母子保健課がやる。
そちらにはいっさい負担をかけることもない。
しかし、そこまで反対ならしょうがない。
奥にいる室長に結果を伝えて、帰って母子保健課長に報告する。

私は席を立ちました。

「待ってください!」

大きな声でした。

「どうか、どうか、落ち着いてください。どうか、お座りいただけないでしょうか」

係長は顔面蒼白でした。しかも急に敬語になっておりました。

申し訳ございません。
私は全く事情を知りませんでした。
急にお話をいただいたので大変取り乱してしまいました。
すべて了解いたしました。
室長には窓口の私が責任を持ってお伝えさせていただきます。
母子保健課で検討している健やか親子21に母健カードの目標を入れて、最終的には母子健康手帳に記載する方針だということを


「省の窓口の官房総務課は通さなくていいの?」

最大の皮肉を込めて言いました。

その必要は全くございません。
どうかお忘れください。
本日いただいた資料と只今の補佐のご説明でまったく問題ありません。

ということで、この後は、この係長のおかげで、すべてがうまく行きました。

もっとも母子健康手帳の改正は、私の後任がやったので、詳細は知りませんが……。

あの窓口の係長は、いまも元気にしてるかしら。

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