羊より、水の音を数えるとよく眠れる
江戸時代末期に平野重誠という医師がおりました。
1832(天保3)年、42歳のときに「病家須知」という本を出版しています。
現在で言えば、「病人を家で看護する際に知っておきたいこと」という意味になります。
重誠は、病気の適切な予防と処置を一般庶民に知らせておきたいという意図で書きました。
家庭生活の中で、実践できる看護の仕方を図解して、読めるように分かりやすくふりがなを付けるなど、独創的で豊かな内容が含まれており、近世最高の看護書だと言われています。
一般的にはあまり知られていませんが、看護の世界では有名です。
私は看護の教科書を見て、平野重誠を知りました。
患者に安らかな睡眠をさせることが、病気の回復に重要であることを説きました。
眠らせる手段として、雨だれのように水がしたたるしかけを設けて、水の音を数えさせると穏やかな眠りを誘うと図解して説明しました。
確かに、頭の中で羊が一匹、羊が二匹……と数えるよりも、水滴がぽつり、ぽつりと落ちる音を数えた方が、効果があるような気がします。

幕府漢方の最高峰の医学館で学び、優秀な成績で卒業した超エリート医師だったのですが、官職にはつかずに一介の町医者となりました。
医学の技量は周囲から一目おかれるほど優れていた、と言われています。
そうした医師が、庶民向けに分かりやすい、病気の予防法や看護に関する本を出版したのはすごいなと思います。
現代にこうした医師はいるでしょうか。
なんとなく、専門的で難しい本や、危機を煽る本、「悪者は厚労省の医系技官と日本医師会だ!」と糾弾する本が、たくさん出版されているような気がしております。

雨だれといえば、小林麻美さんの「雨音はショパンの調べ」という名曲がありましたが、今回の話とは関係ありません。
また、太田裕美さんの「雨だれ」という曲とも関係ありませんので、念のため申し添えます。
椎葉中学校の立志式で「雨垂れ石を穿つ」という言葉を選んだ中学二年生の生徒がいたので、雨だれの話となりました。
宮崎に帰ってきて、夜、雨音を聞きながら眠ることが増えました。
そういえば東京より宮崎の方が、安らかに眠れるな、と実感しております。


