旅は公衆衛生である
古代ギリシャでは、紀元前4世紀から3世紀にかけて、アスクレピオス神殿での医療が広まりました。
蛇杖を持った医学の神アスクレピオスの名前を抱いて、浴場、宿泊所、体育館や劇場を持つ神殿を建て、その施設で患者の治療を行いました。
患者が神殿に宿泊して眠ると、夢の中に神が出てきて、お告げがありました。
夢の中に治療法が出てきたり、患者が見た夢を解釈して患者に合った治療法が行われました。
治療で効果があった患者は、神殿に奉納をしました。
神殿の跡に残された奉納物から、患者がどんな病気だったか知ることができます。
アスクレピオス神殿では、薬剤投与、創傷治療、入浴治療などがあり、夢による秘儀的な治療行為ばかりではありませんでした。
治療は無報酬ではなく、治療費をとって行いました。
金額は、患者自身の経済状態に応じて定められていました。
アスクレピオスは、貧者や困窮者の神でもあったからです。
医聖ヒポクラテスは、コス島のアスクレピオス神殿で医学を学んでいます。

アスクレピオス神殿でのサービスをみると、温泉利用型の健康増進施設に似ているなと思います。
1990年代に厚生省は「アクティブ80ヘルスプラン」という健康増進運動を推進しました。
「80歳になっても健康で活動的な元気老人を目指そう!」という国民運動です。
厚生省が認定した健康増進施設では、医師によるヘルスチェックを行い、その処方に基づき、健康運動指導士が運動プログラムを作成して有酸素運動を行ったり、健康増進のための温泉を利用することが行われました。
医師の処方に基づき利用した場合の料金は、医療費の控除が受けられます。
温泉施設を利用するのに医師による処方までを求めたことが重すぎたのか、温泉利用型健康増進施設はあまり増えませんでした。

東京に住んでいたときに、ときおり高尾山に行っておりました。
今考えると、古代ギリシャのアスクレピオス神殿に似ていたような気がしましす。
山頂にある霊験あらたかな薬王院にお参りして、下山して京王線高尾山口駅の隣にある温泉に入れば、心とからだがリフレッシュします。
さらにマッサージを受けたあとに、参道にあるそば屋で日本酒を飲みながら食事をしました。
あとは電車に乗って終点の新宿まで寝ていけば、気分は最高でした。
夢によるお告げは全くありませんでしたが、健康になったような気がしました。

公共交通機関と直結する温泉を拠点としてパワースポットを訪ねる健康増進活動は、日本型アスクレピオス神殿作戦として有効な気がします。
いやいや、日本では昔から、大山参りやお伊勢参りなど、お参りに名を借りた行楽旅行は盛んに行われていました。
そうです。
旅は、公衆衛生なのです。
