産業医大の松田晋哉教授の医師会での講演は、会議室の全員がシーンとなって鉛筆でノートを取る音が聞こえるほどだった
はじめに
宮崎県地域医療構想調整会議に出席しました。
産業医大の公衆衛生学の松田晋哉教授の講演を聴きました。
「地域医療構想をめぐる今後の展望」というタイトルで、一般論を聴かされるのかと予測しておりました。
ところが、中身はデータ満載で、宮崎県内の各医療圏の地区診断までなされておりました。
講演時間は1時間でしたが、その間、宮崎県の各医療圏から集まった医師会の先生方も、黙々と講演を聴いておられました。
松田教授の講演中には、会場がシーンとなり、紙にメモを取る音が聞こえました。
まるで、国語の教科書に載っていた「最後の授業」の光景でした。
普仏戦争に負けたためフランスのアルザス地方はドイツ領になり、ドイツ語しか教えてはいけないことになりました。
先生が言います。
「私がここでフランス語の授業をするのは、これが最後です」
主人公の生徒はそれまでは学校が嫌いで、授業をさぼることばかり考えていたのですが、初めて真面目に先生の講義を聴いたのです。
そのときのシーンは、教室全員がシーンとなって鉛筆でノートを取る音が聞こえるほどでした。
(シャレではありませんので、念のため)
話を戻しますが、松田教授の講演はかように衝撃的だったのです!
少子高齢化のさらなる進行
これから2040年までに起こる主な環境変化として、少子高齢化がさらに進行すると最初に断言しました。
その結果、複合ニーズを持った高齢患者が増加するとも。
こうした複合ニーズを持った患者に、内科、整形外科、耳鼻咽喉科といった単科で対応しても、患者のニーズは満たされません。
そのために、総合性のあるサービスを提供する必要があります。
具体的には、総合診療医、特定看護師、ソーシャルワーカーの役割が重要になると言っておりました。
総合診療医と特定看護師については、わが宮崎県が全く苦手としていた分野です。
いきなりカラータイマーを割られるような衝撃でした!
ウルトラマンが怪獣ゼットンの攻撃を受けて、カラータイマーを割られて死にます。
それをゾフィーが心肺蘇生をします。ちがうか。
総合診療医と特定看護師はわかりますが、なぜにソーシャルワーカーが?
そういう疑問に対しては、今後の年齢構成の予測によると、県内の患者は、85歳以上のひとりぐらしの女性でいわゆる低所得の方々が中心となるとのこと。
患者を治療した後の退院させる先を、決めなければならなくなります。
その調整を行うのは、ソーシャルワーカーです。
それを予測したのか、漫画の世界では、既に医療ソーシャルワーカーが主人公の漫画があります。
私は知ってましたぞ。えへん。
佐倉旬さんの「ビターエンドロール 辰巳病院 医療ソーシャルワーカーの記憶」です。
松田教授の「攻撃」の第二弾は、少子化により病院や介護施設を支える現役世代が不足するというものでした。
ざっくり言えば、医療・介護従事者の確保ができなくなるということです。
地域差が大きいといっていました。
既に、看護師不足で病棟を閉鎖している病院は県内に多くあります。
こうした従業員不足を補うためにも、ICTの活用は必須ということでした。
チームスを使った病院の例も紹介されていました。
これはチームスのおかげで、災害時の連絡や報告が楽になったので、よく分かります。
松田教授のさらなる攻撃は、「患者の流れが変わった!」です。
一般的に「流れが変わる」と、対応方法を変更しないといけません。
従来のままで対応すると駄目だ、ということは歴史が証明しています。
戦艦大和に代表される日本海軍の大艦巨砲主義は、米国海軍の空母の艦載機と潜水艦による攻撃の前に惨敗しました。
海軍の攻撃の流れが、海面上の二次元から空中や海中の三次元に変わったことに、日本海軍の首脳は気がついていませんでした。
患者の主な流れは、これまでは、
一般人口 → 急性期病院 → 回復期病院 → 慢性期病院
でした。
ところが今は
要介護高齢者 → 急性期病院 → 回復期病院 → 慢性期病院
となっているそうです。
高齢化によって、要介護状態にある高齢患者のプールから発生する急性期イベントへの対応が重要となっているのです。
これまで主流だった、一般人口の50歳~74歳の典型的な急性期の患者は減っていて、もはや増えることはありませせん。
医療と介護の複合化を踏まえたサービス提供体制の在り方を検討すべきだ、と指摘しております。
人生の最終段階における状況を見ると、年齢が進むにつれて老化が進み、それによる機能が低下します。
たびたび入院することになりますが、その主な原因は、肺炎、骨折、心不全、尿路感染症、脳血管障害となります。
「治す医療」から「治し支える医療」への転換が必要だと言っております。
しかし、今の大学の医学教育では、介護サービスは「付けたし」でしか教えられません。
また「治す医療」絶対主義であり、「支える医療」は敗北を意味します。
つまり、攻撃一本槍の「勝つための軍隊」から、持久戦に強い「負けない軍隊」へと転換しなければなりません。
「短期決戦の医療」ではなく、治療が長期にわたって繰り返す場合が多くなったことから、「持続可能性のある医療」にする必要があります。
85歳の高齢女性が大腿骨骨折で入院してきて、整形外科で治療をしますが、この患者に糖尿病、心房細動、認知症があると整形外科医はお手上げです。
病院内に総合医がいれば、治療して退院調整ができるまでもっていくことができます。
熊本県にある済生会熊本病院では、何度も何度もくりかえして起こる心不全で救急搬送される患者が多くありました。
地域のプライマリ・ケアの中で、不整脈が適切に診られていないことが分かったので、多くの心不全患者を済生会熊本病院の外来に集めたそうです。
外来治療でこうした不整脈がコントロールされて、救急搬送される心不全患者が減ったという話しもされました。

忍び寄る高齢化社会の恐怖
「1999年7の月 空から恐怖の大王が降りてくる」とノストラダムスが予言して、見事に外しました。
「ノストラダムスの大予言」で100万部以上を売り上げた作家の五島勉氏は、その後ノストラダムスシリーズを出さなくなりました。
まあ、予言を外したら、退場ですよね。
しかし、小学生の私は信じておりましたぞ。ノストラダムスを。
私の青春と本代を返せと言いたいです。
宮崎西高では、放課後に、早く下校して家に帰りましょうというアナウンスがありました。
そのときに使われていた曲が、映画「ノストラダムスの大予言」のテーマ曲でした。
2年前に同窓会があったときに、アナウンスを担当した女性の同級生が、当時のアナウンスをやってくれて感動しました。
一体誰が選曲したのかは謎でした。
おそらく私と同様にノストラダムスを信じていた人だと思われます。
アニメのちびまるこちゃんもノストラダムスを信じていた一人です。
現代のノストラダムス
現代のノストラダムスとなった産業医大公衆衛生学の松田晋哉教授の予言は続きます。
(すいません冗談ですので)。
第一弾 ショック!
誰も知らないうちに、回復期リハ病棟での死亡退院が増えている
回復期リハビリテーション病棟では、リハビリを土日も休まず集中的に実施し、在宅で生活することが可能になって退院するものでした。
松田教授によると、今では、回復期リハビリテーション病棟で死亡退院する患者が増えているそうです。
およそ20年前に回復期リハ病棟が創設された当時では考えられないことでした。
今では、心不全や肺炎を併発して死んでいく患者がいます。
回復期リハ病棟の看護基準は、15対1。
これでは心不全や肺炎患者を入院させるのは無理です。
第2弾
入院中の機能低下を最小限にするのは、リハビリ、口腔ケア、栄養である!
リハビリテーションは、入院中の肺炎の続発を有意に抑制する
低栄養がある脳梗塞患者は、栄養のある脳梗塞患者と比べて、3倍死にやすい
高齢者の低栄養が見逃されている
高齢者施設で口腔ケアを実施すれば、3~4割肺炎が減少する
在宅の85歳の一人暮らしの高齢者を想像してみましょう。
男なら、たぶん料理はできません(苦手です)。
女性でも、つつましい食事内容だと思います。
宮崎県の定番の戸村のタレやマキシマムで、肉を、バーベキューをやって、イエーイと踊って食べている高齢者はあまり想像できません。
つまり、高齢者は低栄養なのです。
延岡市に住んでいたときの結核患者は、80歳以上のひとり暮らしの男性ばかりでした。
栄養をとっていない!
歯医者に通う高齢者もあまり想像ができません。
痛くなければ、なかなか行かないでしょう。
歯科医院が遠くにあるならなおさらです。
運動をしている、犬を連れて散歩している、農作業をしている、日常生活の動作がアクティブな高齢者は、元気です。
しかし、腰が痛い高齢者で、公営住宅の5階に住んでいる人は、エレベーターがないので、外にはでません。
「007は二度死ぬ」という映画がありましたが、「低栄養は3倍死ぬ」のです。
こうしてみると、一人暮らしの高齢者が過ごす環境は、次のようなものがふさわしいのではないかと思います。
①コンビニに歩いていける
→ 栄養を確保できる
②歯科医に歩いていける
→ 口腔ケアを受けることができる
③公園・畑に歩いていける
→ 運動・作業(リハビリ)ができる
恐縮です。
この記事は、産業医大の松田教授の講演を私流にかなり大胆に解釈して書いております。
松田教授をノストラダムスに例えるとは、大変失礼ですが、わかりやすさを考えた末の「最終到達点」だとご理解いただければ幸いです。
まあ、松田教授は読まないので大丈夫。かな?
延岡市で住んだところは、コンビニに近いところでした。
今、高鍋町で住んでいるところは、コンビニに近いところです。
コンビニの公衆衛生的価値は、日々実感しております。
データはありませんが……。

忍び寄る恐怖の大王
現代のノストラダムス「産業医大公衆衛生学松田晋哉教授」の忍び寄る恐怖の大王の話は続きます。
恐怖の大王とは「少子高齢化」です。
五島勉さんのいう「宇宙人」や「核戦争」ではありません。
一般病院の費用は、給与費が57%を占めます。
一般病院の収益は、外来の患者数と入院患者数で決まります。
入院の指標となる病床利用率は、一般病院は
1996年は83%でしたが、
2022年は69%となっています。
医業収益は、一般病院は、
2011年は 4.0%の黒字でしたが、
2022年は△1.1%の赤字です。
さて、ノストラダムス松田先生の予言です。
第一弾 ある日突然、患者がいなくなる!
病院は、地域の患者の状態の変化、「患者の流れ」についていけていない。
1990年代に日本の銀行は、金融の変化について行けなかった。
多くの老舗銀行が倒産して、合併を余儀なくされた。
今の病院は、このときの銀行と同じである。
2025年以降、人材確保がますます課題となります。
2040年には就業者数が大きく減少しますが、医療・福祉職種の人材は現在よりも多く必要になります。
しかし、医療福祉の現場で働く人材を確保するのはますます困難になります。
このためには、チームスを利用して報告業務や伝達業務を効率的に行うなどの、ICTの活用が重要になってきます。
病院にいない主治医に病棟の看護師が電話で連絡を取ることは大変ですが、チームスのチャットで伝達すれば一瞬で済みます。
私もチームスを使っていますので、その威力はすごいと感じました。
都農町で鳥インフルエンザが発生して、3万5千羽の鶏の埋設処分をしましたが、その際の連絡調整はチームスで行われました。
写真による処分状況の報告も共有できました。
健康観察者の情報も簡単に共有できて、タミフルの処方や、石灰が眼に入った作業者の眼科医療機関の受診指導などが、自宅からスマホを通じてできてよかったです。
高知県のHITO病院は、チームスを活用して医療従事者間の情報伝達を行い効率化を図っていると松田教授が紹介していました。
第二弾 病院には入院患者は帰ってこない!
病院と診療所の違いは、病床があるかどうか、つまり入院ができる施設があるかどうかです。
松田教授は、以下を指摘しています。
・入院日数は、確実に減少している
・二次救急医療施設において、2022年と2018年の病床利用率を比較すると、病床利用率が低下している病院が多い
新型コロナウイルス感染症で、病床利用率は減少しましたが、コロナの蔓延が終わったあとは、病院や施設に患者は戻りませんでした。
コロナのビフォー・アフターで、社会は変化しました。
会議は、オンラインでも十分行えることが判って、WEB会議が一般化しました。
医療や介護は、在宅でも十分行えることが判って、在宅でサービスを受けたいという人が増えました。
この流れは、もはや止められません。
今さら、対面会議に戻れ、病床に戻れ、と言っても誰も戻ってはきません。
「シェーン、カムバック」と言ってもシェーンは、帰らなかったように、
「釜山港に帰れ」と歌っても、あなたは帰らなかったように、
「椎葉村に帰れ」と言われても、私が椎葉に帰っていないように、
「病院に帰れ」と言っても、患者は戻って来ません。
皆、在宅で過ごしたいのです。
うーむ。
宮崎県の県立病院の経営が赤字で、昨年度には50億の借り入れをしています。
松田教授の講演の内容を踏まえれば、この原因は二つあるのではないかと推測されます。
一つには給与費の増大、二つには患者の減少です。
もしかすると、患者の流れの変化についていけなくなったから?

新しい地域医療構想の検討会報告書には「医療機関機能」という考え方が出されています。
①地域の実情に応じて、「治す医療」を担う医療機関と「治し支える医療」を担う医療機関の役割分担を明確化し、医療機関間の連携・再編・集約化が推進されるよう、医療機関から都道府県に、地域で求められる役割を担う「医療機関機能」を報告する。
②地域の医療提供体制の確保に向けて地域で協議を行うとともに、国民・患者に共有する。
地域ごとの医療機関機能には、以下があります。
①高齢者救急等機能
高齢者の救急搬送を受け入れ、入院早期からのリハビリ・退院調整を実施、早期退院・退院後のリハを継続確保
②在宅医療連携機能
在宅医療の実施、他医療機関、介護施設、訪問看護ステーションと連携した24時間の対応、入院対応
③救急・急性期機能
持続可能な医療従事者の働き方や医療の質確保に資するよう、手術等医療資源を多く要する症例集約型の医療提供
④専門等機能
上記にはあてはまらない、集中的なリハや一部の診療科に特化し地域ニーズに応じた医療提供
次に、広域な観点の医療機能としては、医育及び広域診療機能があります。
大学病院が担う、広域な観点で担う常勤医師や代診医の派遣、
医師の卒前・卒後教育をはじめとした医療従事者の育成、
広域な観点が求められる診療を総合的に担い、
また、これらの機能が地域全体で確保されるよう県と必要な連携を行う。
ウルトラマンは帰ってきましたが、患者はかえってきません。
私は、京都府立医大出身の医師の北山修さんが作詞をされた「あの素晴らしい愛をもう一度」という歌が好きです。
「帰ってきて」「もう一度」という言葉は、歌に多い気がします。
しかし、もう患者は病院には戻ってきません。
「永田町の回転寿司は二度とは回って来ない」という格言のとおりです。
これはちょっと違う気が……。
しかししかし、ミスターチルドレンの「HANABI」を聴くと元気がでるような気がします。
誰も皆問題を抱えている
だけど素敵な明日を願っている
臆病風に吹かれて
波風がたった世界を
どれだけ愛することができるだろう?
もう一回 もう一回
もう一回 もう一回
この歌は、医療従事者へのエールのように聞こえます。

地域医療構想調整会議で議論すべき内容
松田教授は、二次医療圏の地域医療構想調整会議で議論すべき内容として、診療所や介護施設を支援する病院を拠点としたネットワークの必要性をあげております。
二次医療圏には、タイプAとタイプBの二種類の病院のネットワークを構築する必要があると言っております。
提言1 各地域で、A機能を果たす病院と、B機能を果たす病院を決めよ!
タイプAの病院に求められる機能は、
①広域で急性期機能(がん診療、手術、救急、周産期、医師派遣)を持つこと
②その機能を24時間365日体制で担える人的資源、物的資源があること
タイプBの病院に求められる機能は、
①介護施設や在宅医療を担う診療所を支える機能
②高齢者救急への対応(プライマリ対応、調整、下り搬送の受け皿)
③地域における医療介護連携の中核としての調整機能を持つこと
高齢者救急のプライマリ対応のターゲットとなる主な疾患は、肺炎、心不全、尿路感染症、脱水です。
宮崎県においては、ほとんどの病院がタイプBになります。
タイプAは、現在のパフォーマンスをそのまま当てはめた場合に、三次医療的機能を持ち、医師派遣機能があるのは宮崎大学病院と県立延岡病院になると思われます。
県立延岡病院はへき地医療支援病院に指定されており、県北のへき地の各公立病院に医師を派遣しています。
提言2 高齢社会においては、B病院の役割が重要だという共通認識を持て!
タイプB病院の例として、帯広市にある清水日赤病院は、介護施設や在宅医療を担う診療所のスタッフの短期間の研修を受け入れて実施しています。
熊本市の済生会熊本病院は、軽症の心不全患者を外来に集めて、いかに入院を防ぐかという取り組みを行っています。これにより本当に救急搬送が減りました。
イギリスのNHS(国営医療サービス)は、適切なプライマリ・ケアをすれば、不要な入院を予防できる可能性のある疾患群(ACSC)を定めています。
この疾患群による入院の割合は、その地域における救急医療需要やプライマリ・ケアの効果を評価する指標となっています。
【疾患群】
急性蜂窩織炎、脱水、歯科関連、耳鼻咽喉科関連、壊疽、胃腸炎、栄養不良、骨盤内炎症性疾患、穿孔性/出血性潰瘍、尿路感染症、慢性狭心症、喘息、慢性閉塞性肺疾患、うっ血性心不全、痙攣・てんかん、糖尿病合併症、高血圧、鉄欠乏性貧血
【ワクチンによる予防可能な疾患群】
インフルエンザ、肺炎、結核、他のワクチンにより予防可能な疾患(破傷風、ジフテリア、百日咳、ポリオ、麻疹、風疹、急性B型肝炎、おたふくかぜ等)
こうした考え方は、日本ではあまり知られておらず、研究報告は少ないそうです。
ACSC(Ambulatory Care-Sensitive Conditions)という概念を、私も知りませんでした。
上記のような急性・慢性疾患の治療やワクチン接種で、入院を防げば、病院の救急は楽です。
済生会熊本病院では、地域の開業医でうっ血性心不全の治療がうまくやられていなかったので、そうした軽症患者を外来に集めて治療をして、入院を防いだのですね。
これこそが地域医療です。
現在話題となっている総合診療医は、ACSCの疾患群の治療法やワクチン接種をマスターすれば、地域でおおいなる活躍ができると思います。
こうした疾患群の患者を入院させないようなプライマリ・ケアをやっていく戦略を構築する必要があります。
提言3 医療と介護の連携は標準化されたICTを活用せよ!
B病院で、医療と介護の連携をやっていく際に、とりわけ高齢者施設と病院との間で行われる連携、急変時の相談、相談対応・医療提供、入院調整、早期退院などを行っていくためには、ICTを活用した連携体制があることが必要だと、松田先生は指摘しています。
介護施設と病院との連携は、顔の見える関係が前提であり、そうした前提の中で、ICTの活用を進める必要があると言っております。
在宅療養支援病院は、そのものずばりタイプB病院で、医療と介護の複合ニーズを担う役目があります。
函館市では、医療と介護が連携したICTシステムを構築しているそうです。
個人情報の問題はありましたが、個人情報の流出のデメリットよりも、個人情報を用いてその人に適切な医療介護サービスが受けられることの方が、はるかにメリットが大きいと判断して、実現したそうです。
共有するものは、画像や検査結果等、継続的治療に必要な情報と、ケアに必要な標準化されたケアに必要な基本情報です。
医療機関と介護施設が、患者・要介護者情報を共有することによって、それぞれが診療報酬、介護報酬からの報酬を得ているところが長続きするポイントになっています。
まとめると、
これからさらに高齢化が進む地域社会においては、次のようになります。
①急性期医療は相変わらず重要であり続ける。しかし、典型的な急性期の症例(初発がん、急性心筋梗塞、初発の脳梗塞)は減少する。
②急性期の現場は、慢性期から繰り返し発生する急性期イベント(肺炎、骨折、心不全、尿路感染症、再発梗塞)への対応を求められるようになる。
③慢性期の医療・介護の役割が重要になる。そうした慢性期の場における予防(口腔ケア、栄養ケア、筋力や心肺機能向上のためのリハビリテーション)が重要になる。
④医療と介護の連携が重要になり、行政の関与が不可欠である。
これからの地域医療の姿が見えてきました。
タイプB病院が主役です。
ACSCをマスターした総合診療医がフロントになります。
慢性期疾患の病状進行させないための予防対策に、歯科医、管理栄養士、理学療法士の役割が重要になります。
医療と介護の連携のためのICTの活用と、行政のさらなる関与が求められます。
患者の流れに応じて、地域医療は変わらないといけません。
地域の「現実」に合わせて考えることが重要です。
松田先生は、中央の大本営発表を鵜呑みにすることや、極端な原理主義は危険だと言っております。
データ分析結果や、環境的な制約条件を踏まえて、現実的な、地域の中で利用可能な医療介護提供体制を考える必要があります。
今後、我が国は多死社会になります。
質の高い医療・介護の総合的提供体制が、人生の最終段階におけるQOLに大きく影響します。
終わり良ければ全てよしです。

ノストラダムス松田先生の予言
ここまで、ノストラダムス松田先生の講演を紹介しました。
ほかにも貴重な予言を残しているので、それをご紹介します。
提言1 人口の動向はよほどのことが無い限り、確実な未来である
ドラッカーは、「既にある未来」と言っています。
医療機関の経営は、患者数によって変わります。
人口が減れば、患者数も減ります。
提言2 在宅ケアを推進していくためには、「ほぼ在宅、時々入院・入所」である
松田教授があげている、在宅ケアを行うことができる地域の要件は次のとおりです。
①訪問診療を行う医療機関と、在宅介護を行う介護事業者があること
②急性期イベントが生じたときに入院できる一般病院があること
③緊急時の対応ができる体制があること
④在宅をやりやすい住環境があること
在宅に必要なサービスは、医師による往診、看護師による訪問看護、ヘルパーによる訪問介護です。
これに、歯科医師、薬剤師、栄養士が加わると、厚みが増します。
生を厚くする、まさに「厚生」です。
「ほぼ在宅、時々入院・入所」の医療機関と介護施設の間の連携が大事です。
お互いが、情報を共有できる体制、お互いが顔の見える関係であることが必要です。
鍵となるのは、在宅療養支援病院と在宅・介護施設との間の病院前での連携だ、と松田教授は言っております。
提言3 在宅患者は3年間で3分の1が死んでいる。在宅を支える入院があることで在宅医療は安定する
アニメ「北斗の拳」でケンシロウの「お前は既に死んでいる」ということばがありました。
在宅患者の分析では、以下のことが判明しています。
・在宅患者は、肺炎や尿路感染症、心不全の悪化などで、一般病棟への直接的な入退院を繰り返しながら(月に10%弱)、3年間で3分の一が死亡している。
・入院を繰り返すことで、要介護度や認知症の悪化が生じ、グループホームや介護施設への入所に移行する者が3年間で5分の1程度発生する。
・当初の半分の対象者(生存者の3分の2)は在宅療養を継続している。
・在宅を支える入院があることで、在宅医療は安定する。
これが在宅療養支援病院の役割で、この機能を持った病院の整備が全ての地域で必要である。

松田教授は、人口動態・医療・介護データに基づき各医療圏の地区診断をしています。
西都児湯医療圏については以下のとおりです。
・医療圏内で総合的に患者を診ているのは、川南病院である。
・医療兼内の病院は全てタイプB病院で、タイプA病院は隣接する医療圏の病院である。
・2015年以降人口は減少。その要因は、高齢者の死亡増と若者の流出。
・外来需要は既に減少。入院需要も2030年をピークに以後減少。肺炎、心不全、脳梗塞が2030年まで高止まりし、以後減少。
・後期高齢者の絶対数は、2040年まで維持され、以後、減少傾向。
課題としては次のとおりです。
・隣接するタイプA病院との連携を図りながら、各病院のタイプB機能を強化することが現実的。
・ICTを基盤とする情報共有体制が重要。
・2030年まで慢性期の高齢患者が維持され、その後減少するので、そのニーズに合わせた提供体制を作ることが課題。
・タイプB病院の役割が重要となる。
在宅医療支援体制、介護施設支援体制の構築がカギとなるのではと言っています。
そのためには、以下を考える必要があります。
・在宅療養支援病院の整備
・介護施設の医療を日常的に支援する病院の整備
・訪問介護。訪問看護を担う人材の確保
・有床診療所の病床の活用(サ高住、看護多機能施設、介護医療院)
・予防可能な急性イベント(肺炎、尿路感染症、心不全の急性憎悪、低栄養など)への対応

松田教授の講演の結語は以下のとおりです。
①社会の高齢化は、医療介護生活の複合ニーズを持った高齢患者の数を増加させる。医療に関しては、急性期病棟でも慢性期の対応が必要になる。
・急性期病棟における総合的対応力が求められる(総合診療医、特定看護師、ソーシャルワーカー)
・タイプA病院、タイプB病院の明確化が不可欠 (地域によっては一つの病院が両方の機能を持つ場合がある)
・病院に求められる機能は、これまでの経験の上につくられる
②ほぼ在宅。時々入院・入所の体制を、各地域の医療資源、介護資源の状況を勘案しながら整備する必要がある。
・データに基づく地区診断
・ITを活用した連携体制の構築
・チームでの医療介護連携体制
・既存施設の活用
データとITとチームと既存が大事です。

今度こそ、最終回
私は、人生において、これほど内容の濃い講演を聴いたことがありません。
大学の先輩ながら、凄いなと思います。
松田先生は、現在は福岡国際医療福祉大学ヘルスサービスリサーチセンターの所長をされています。
産業医大を卒業して、公衆衛生学教室に勤務されてからの歩みをまとめた「公衆衛生政策学の考え方」は、全ての公衆衛生政策の関係者には必読の書です。
実は、ノストラダムス松田先生は、産業医大公衆衛生学の医局旅行で椎葉村に来たことがあり、その時は私の実家の旅館に泊まってます。
我が家「山椒旅館」での写真は、大変懐かしいです。
亡くなった母と叔父もしっかり写っています。
この写真を撮ったのは、国立保健医療科学院の曽根智史院長です。
同じ教室におられました!

この文章を松田先生はお読みになられて、「自分の講演を、これほどわかりやすくまとめたライターはいない!」とおっしゃってくれました。
改めてお礼申し上げます。
読者の皆さまへ
松田先生は、ノストラダムスのような預言者ではなく、データに基づいて「既にある未来」を予測するドラッカーに例えた方が適切だったと思います。
あえてノストラダムスを用いて紹介したのは、松田先生がフランスの国立公衆衛生院で学ばれた経歴を踏まえ、フランスの香りを出したかったからにほかなりません。
言い換えると、
「ほぼドラッカー。時々ノストラダムス」かな。
