バングラデシュでのWHOの感染症予防対策は、慢性砒素中毒を引き起こした
国連が提唱する「国際飲料水供給と衛生の10年」の活動で、バングラデシュでは数多くの井戸が掘られました。
「管井戸」と呼ばれるタイプで、深度150メートルまでの地下水層へ、直径5センチメートルくらいの管を差し込んだものです。
人や動物の糞便に汚染されることのある川や池、地表に近い地下水と違って、深いので細菌による汚染が無く、衛生的に水を得ることができるものでした。
この活動により、バングラデシュの乳児死亡率は、1970年前半は出生千人対157でしたが、94に改善しました。
2002年時点で、バングラデシュ国内では、約850万本の管井戸が掘られたと推定されています。
ところが、こうした管井戸から供給される水には、砒素を高濃度に含むものが多いことが判ってきました。
菌のいない安全な飲み水を求めて深く掘った井戸から、長期的な摂取により健康障害を生じる砒素を含む水が出たのです。
砒素は少しずつ体内に蓄積して、一度体内にたまってしまうとなかなか体外に排出されません。
住民に慢性砒素中毒の症状が発生しました。
WHOの砒素の基準は、1リットル当たり10㎍となっています。日本の水道水も同じ基準です。
バングラデシュでは、50㎍を基準値として設定し、管井戸の水を六月ごとに測定し、基準値を超えると赤色に塗られて、飲料水以外に使用するように規制がなされています。
ヒマラヤに近いところには砒素の鉱脈があって、その地域の岩石や砂がガンジス川に浸食されて運搬され、下流域に堆積しています。
汚染域はガンジス川の最下流域で、バングラデシュの南半分、インド西ベンガル州の一部で、ガンジスデルタに集中しています。
細菌のリスクを避けた結果、乳児死亡率は改善しましたが、化学物質による新たなリスクが生じ、これにより高齢者の脳血管障害やがんが起きやすくなったというところが、公衆衛生対策のむずかしいところです。
飲料水の管理は公衆衛生の原点です。

