見出し画像

食中毒患者等を診断し、又はその死体を検案した医師は、直ちに最寄りの保健所長にその旨を届け出なければならない

パリトキシン様毒による食中毒の話を書きましたが、日向食肉衛生検査所の獣医師の所長さんから、経験された事例の報告があり、大変ためになると思われるので、ご紹介させていただきます。

所長さんは、県北の保健所に勤務した際に、3回パリトキシン様食中毒に遭遇されたとのこと。

その内訳は、ハコフグが2件、アオブダイが1件です。

厚労省のまとめでは、1953年~2020年までにパリトキシン様食中毒の発生件数は46件。

その内訳は、アオブダイ30件、ハコフグ12件、ハタ3件でしたので、我が国のハコフグの12件のうち2件は所長さんが扱った事例です。

テレビに出てくる「さかなくん」がハコフグの帽子をかぶっているので、なんとなく毒はないような気がしますが、ハコフグの内蔵はパリトキシンのリスクが高い、危ない魚です。

ハコフグを食べて所長さんの同級生が意識不明になりました。体が大きく若かったためか、驚異の回復で生還したそうです。

後で、この同級生にいろいろ聞いたら、衝撃の事実が!

ICUでの治療中、まぶたひとつ動かすことができませんでした。しかしこの間は、意識は清明で耳も聞こえていたそうです。

医師がご両親に「難しい状況です」と伝えているのが聞こえ、「オレは死ぬのかな」と思っていたそうです。

おそるべし、ハコフグ。

しかしなんと、長崎の郷土料理に、ハコフグの味噌焼きがあるとのこと。

信じられなかったので、Geminiに聞いてみました。以下は、その答えです。

長崎県、特に五島列島を代表する郷土料理で、地元では「かっとっぽ」という愛称で親しまれています。

ハコフグの堅い殻をそのまま「器」として使う、見た目のインパクトも抜群の漁師料理です。

ハコフグは、骨板が発達して体全体が硬い箱状の殻で覆われています。

このお腹の部分を四角くくり抜き、内臓を取り出して綺麗にしたもののをそのまま調理容器として使います。

取り出した身と、コクのある濃厚な肝を細かく刻み、味噌、酒、みりん、そしてたっぷりの刻みネギやしょうがを合わせます。

これを再び殻の中に戻し、炭火などでじっくり焼き上げます。

加熱されることでハコフグの脂と肝が味噌に溶け込み、信じられないほど濃厚でクリーミーな味わいになります。

プリッとした白身の食感と、薬味の利いた甘辛い味噌は、ご飯のおかずにはもちろん、お酒(特に日本酒や焼酎)の

肴として最高の一品です。

かっとっぽの語源は、五島地方の方言で、カツオなどの魚の頭を指す「カト」や、箱型のものを意味する言葉、あるいは「体に味噌を詰め組む(かっ込む)」といった動作が由来と言われています。

ハコフグは、一般的な高級ふぐ(トラフグなど)が持つ猛毒「テトロドトキシン」は持っていません。

そのため肝も美味しく食べられます。

ただし、皮膚に「パフトキシン」という別の毒(粘液毒)を持っていたり、稀に餌由来の毒(パリトキシン様毒)が内臓に含まれるケースがあるため、厚生労働省の基準に基づき、正しく調理されたものを食べるのが鉄則です。

厚生労働省の基準は、フグの衛生確保について(厚生省通知/1983年)に基づき、ハコフグは以下のように厳格にルールが定められています。

食べても良いと認められている部位は、筋肉(身)と「皮」のみ。

ハコフグの肝臓を含めた内臓の販売・提供は一律で禁止されています。

現在商業的に(居酒屋や郷土料理店などで)安全に提供されている「かっとっぽ」は、ハコフグの身に、アンコウの肝(アンキモ)や魚のすり身、植物油などを絶妙にブレンドして、あの濃厚なハコフグの肝の風味を安全に再現しているか、ハコフグの身と皮だけを遣い、味噌や調味料の配合で濃厚さを出しています。

ハコフグ自体は、一般的なフグ毒(テトロドトキシン)を持っていません。

しかし、近年、ハコフグが海の中で食べる餌(生物)を介して「パリトキシン様毒」という猛毒を体内に溜め込む事例が報告されるようになりました。

このパリトキシン様毒は、テトロドトキシンよりも毒性が強く、加熱しても分解されません。

特に肝臓などの内臓に溜まりやすいため、厚労省の基準によって、「内臓は一律で流通・提供してはならない」と厳しく制限されています。

食品衛生法により、ハコフグを含むすべてのフグの調理・処理は、各都道府県の試験に合格し免許を持ったフグ処理者(フグ調理師など)が行うことが義務付けられています。

有資格者が基準を厳格に守り、有毒部位(内臓)を完全に除去して調理しているからこそ、私たちは飲食店で安全に美味しい「かっとっぽ」を楽しむことができます。

なるほど、なるほど、勉強になりました!

いつか「かっとっぽ」を食べてみたいです。

さらにさらに、所長さんのアオブダイの例はもっともっと衝撃的です。

近所の人からもらったアオブダイを調理し、食した高齢女性が自宅で発見されたときには既に死亡していました。

医師からの情報提供がかたなくなに拒否されて、悩んだあげくにお通夜中の家族に連絡を取らざるを得なかった苦い経験があるそうです。

そこまでして急ぎ連絡を取りたかった理由がありました。

一人暮らしの高齢女性であれば、おそらく煮付けにしたはず → 全部は食べきれないはずだから、知人にお裾分けしている可能性が大きい

→ 知人が食べていれば同様の状況になるおそれが大きい → なんとしても口にする前に止めなければならない、という仮説を立てました。

お通夜から抜け出していただいた家族に自宅の冷蔵庫を見せてもらうと、やはり煮付けの入った鍋が冷蔵庫にありました。

家族から知人に連絡を取ってもらうと、お裾分けの連絡が入っており、「明日もらいに行くつもりだった」とのことで、幸いにもさらなる被害者発生はありませんでした。

この経験以来、医学部の学生が保健所にインターンシップに来る度に、食品衛生法第63条第一項の話をするとのことでした。

食中毒患者等を診断し、又はその死体を検案した医師は、直ちに最寄りの保健所長にその旨を届け出なければならない。

かように先輩の経験は役に立ちます!

とりわけ公衆衛生は、他職種の先輩の経験から学ぶことが多いのです。


いいなと思ったら応援しよう!