あなたに刺さる公衆衛生行政
はじめに
今日は公衆衛生行政ということで、皆さん方に講義をさせていただきます。
衛生行政って、実はあんまり面白くないです。
そのため、今日はちょっと面白い、キャッチーなパワーポイントを作ってきました。
お手元には、厚労省医系技官募集のパンフレットを配布しています。
厚労省の厚生科学課の医系技官の人事担当の方から送ってもらいました。
講義のタイトルは「あなたに刺さる公衆衛生行政」です。
あくまでも個人的な見解であります。
私の経歴ですけども、宮崎県椎葉村出身で、宮崎西高を出て、産業医大を卒業して、今の厚生労働省の医系技官となりました。
今は臨床研修をしないと厚生労働省には就職できなくなってますが、私の時はまだ臨床研修が義務化されてなかったんで、ストレートで入りました。
医系技官として34年間勤務しました。
その間、省庁や都道府県などいろんな部署に行きました。
2年か3年ぐらいで交代します。昇進していき責任が重くなると、政策決定に関わるようになるので、だんだん面白くなっていきます。
最初はつまらない仕事が多いのですが、年数が経つにつれて、国のさまざまな政策に関与できます。
皆さん方は留学にも興味があると思います。
霞が関勤務の合間に、留学することも可能です。
国家公務員には長期留学の制度があり、人事院に出向して2年間、先進国の大学に国費で留学ができます。
私はいっていませんが、医系技官の多くが留学をしています。
医学部を卒業したら臨床医になる人が多いとは思いますが、医系技官の道もなかなか面白いです。
新型コロナウイルス感染症対策で指揮をとられた尾身茂先生は、厚労省をステップにWHOに就職されています。
厚労省は日本最大の医局と呼ばれていて、無限の可能性があるので、公衆衛生や医療政策に興味がある方には、おすすめします。
これから医師が増えていきますが、希少価値がないと医師の競争の中で勝ち残っていけません。
あなたはどういう価値を示せるのか。どういうコンテンツを持っているのか、どういうスキルがあるのか。
何かを身に付けないと埋没してしまいます。
そういう自分の将来のことを含めて、90分の私の講義の中で、学習してもらえればと思います。どうかよろしくお付き合いください。
私が医系技官となった理由
これは医学の神のヒポクラテスです。

日本の多くの医学部には、医聖ヒポクラテスの像があります。
後ろは、ヒポクラテスの木と言われる樹です。
別名はプラタナスです。
古代ギリシャのコス島で、プラタナスの木の下で、ヒポクラテスは医学生を教育しました。
ヒポクラテスが重視したのは、以下の3つです。
①患者を診察したらその所見を正確に記録すること、
②患者に予後を告げること
③哲学する医師であること
コス島のプラタナスの種を日本に持ってきて、植えて育った苗が、全国の多くの医学部の庭に植えられました。
私が卒業した産業医大は、ヒポクラテスではなくラマツフィーニの銅像がありました。

皆さんはラマツィーニを知っていますか?
ラマツィーニは、現在のイタリアの医師で、1700年頃に「働く人の病」という本を書いています。世界で初めて産業医学を体系化した人です。

日本でいえば江戸時代です。
同じころに、貝原益軒が「養生訓」を出しています。
「働く人の病」という本は、小さくてコンパクトで、ハンドブックとして持ち歩けるように作られています。

「働く人の病」の初版本を収集したのは、学長をされていた土屋健三郎先生です。もともとは、慶応大学医学部の公衆衛生学の教授です。
土屋健三郎学長の教えが2つありました。
①哲学する医師
②感謝されない医師
を目指せ
哲学する医師は、ヒポクラテスの言葉。
感謝されない医師は、ドイツの衛生学者のミュンヘン大学の衛生学教授のペッテル・コーフェルの言葉です。
日本からきた留学生が帰国する前に、先生何か一言いただけませんかと頼んだところ、「感謝されない医師を目指せ」と言われました。この留学生は、京都帝国大学の医学部長となっています。
土屋学長からは、「臨床医は感謝されるが、予防や公衆衛生に関わる医師は感謝されない。このペッテンコーフェールの言葉をよく覚えておけ」と言われました。
私は、土屋学長から6年間洗脳されました。
「感謝されない医師」として一番ふさわしい勤務場所はどこだろうと、最終的に探してたどり着いたのが厚生省の医系技官でした。

現在は厚生労働省となっています。
医系技官として34年間勤務をしました。
特に行政に興味があるとか、日本の医療政策を変えたいとか、そういう方はぜひチャレンジしていただきたい。
青山学院大学の松永先生の言う、社会の不条理を「制度」という筆で書き替えたい人、にはお勧めです。
衛生行政とは
さて皆さんは、衛生行政には、現時点で全く興味がないと思います。
医学生のあなたは衛生行政には興味がないかもしれませんが、衛生行政は医学生の方々に大変興味があります。
あなた方に国家試験を受験させて、合格者に医師免許状を交付することは衛生行政です。
つまり衛生行政を無視すると、医師免許状がもらえません。
医師免許があれば医療を行うことができます。
刑法上の違法性の阻却が成立しますので、身体にメスを入れて傷つけても刑法に触れません。
法医解剖で、死体を損壊しても罪には問われません。
医師は自動的に保険医になることができます。
保険医療機関に所属する保険医が診療行為を行った場合は、診療報酬に基づく金額を保険者に請求することができます。
一方、医師としての品位を損する行為のあったときは、医師法に基づき医師免許を取り消すことも衛生行政です。
医師免許を交付するのは衛生行政ですが、免許取り消しの処分をするのも衛生行政です。
医師国家試験に合格した後に、医師免許の交付の手続きは保健所の窓口で、 本人が行います。衛生行政がいやでも、医師になるためには手続きが必要です。
医師法の第7条には、大麻や麻薬、覚せい剤の中毒者、罰金以上の刑に処せられたもの、医事に関して犯罪または不正の行為のあったものに該当し、または医師としての品位を損する行為があったときは、厚生労働大臣は次に掲げる処分をすることができる、と書いてあります。
厚生労働大臣は、医師に対して次のような処分をすることができます。
「戒告」は文書で行われます。
「3年以内の医業の停止」の処分は、3年以内の一定の期間、医師として業務を行うことができなくなります。
一番重い処分が、「免許の取り消し」です。
大臣はこうした処分をするに当たっては、あらかじめ医道審議会の意見を聴かなければならないことになっています。
毎年2~3回、医道審議会の意見を聴いて医師の処分がなされています。
私は審議官をしていたときに、医道審議会に出席していましたので、いろんな医師の処分の実例を見ています。
2024年の医道審議会では、30名の行政処分で審議がなされ、うち18人に対する行政処分、12人に対する行政指導、いわゆる厳重注意をする旨の答申がなされました。
免許の取り消しが2件、準強制わいせつと詐欺です。
医業停止3年が2件、詐欺、麻薬取締法違反です。
医業停止1年が1件、業務上過失致死です。
医業停止7月が1件、ストーカー行為です。
医療停止4月が2件、道路交通法違反です。
医業停止3月が4件、迷惑行為2件、児童ポルノ2件
戒告は6件でした。
このように、わいせつや詐欺、ストーカー、迷惑行為、児童ポルノは、医師の品位を損する行為に該当します。
医師法の「医師の品位を損する行為」というのは、新選組の掟の「士道に背く者は切腹」に似ているなと思います。
医師としての品位を損する行為のあるときには、医道審議会の意見を聞いて処分がなされるという衛生行政については、よくよく理解しておいたほうが身のためです。
処分の基本的な考え方は次のようになっています。
①医療提供上中心的な立場を担うべきことを期待されている医師がその業務を行うに当たって当然に負うべき義務を果たしていないことに起因する行為
②医療を提供する機会を利用したり、医師の身分を利用して行った行為
③業務以外の場面で、他人の生命・身体を軽んじる行為をした場合
④医業を行うに当たり自己の利潤を不正に追求する行為をなした場合
②は診療中の猥せつ行為や盗撮はだめですね。
③は交通事故を起こして、被害者を救助せずに立ち去る、いわゆる「ひき逃げ」があります。
事案別には、以下があります。
①医師法違反(無資格・無診療医療)
②保助看法等の身分法違反(無資格者の業務の共犯)
③薬機法違反(医薬品の無許可販売、共犯)
④麻薬取締法、覚せい剤取締法、大麻取締法違反)
⑤殺人及び傷害
⑥業務上過失致死(交通事犯、医療過誤)
⑦猥せつ行為(売春防止法、青少年育成条例違反)
⑧贈収賄
⑨詐欺・窃盗
⑩文書偽造
⑪税法違反
⑫診療報酬の不正請求
⑬各指定医取消等の処分理由となった行為
⑬の事案には、精神保健指定医の資格を取るのに8つの疾患の症例報告が必要なのですが、症例報告書をコピペして使い回ししたことが発覚して、精神保健指定しの取消処分を受けた精神科医が該当します。
こういう衛生行政の事例があることを知らないと、せっかく苦労して医師免許をとってもですね、取り消されることがあるというわけです。
ですから衛生行政というのは、皆さん方は、知ってないといけません。
もし皆さん方がひき逃げをしたら、私の講義を聞いていなかったということになります。
交通事故は本当に、学生時代はしないように気をつけて下さい。
いや、医師になってからも、飲酒運転やスピード違反はしてはダメです。
患者のために急いでいた、と言っても警察は聴いてくれません。
今日はこれだけ覚えて、帰ってもらってもいいぐらいです。
医の三要素
医には三要素があります。
医学と医術と医道です。
医学と医術まではよく知られているのですが、医道は見逃がされていることが多いのです。
医の倫理が、軽視されているように思えます。
医師法の処分が必要か、厚生労働大臣が意見を聴くのは医道審議会です。
医の三要素を違うことばに言い換えると、知識と技能と態度です。
身体の部分に例えると、頭と手と心ですね。
中でも、「態度」と「心」というのが重要なのです。
平成天皇の心臓の手術をされた順天堂大学の天野篤先生という心臓外科医がいます。その後、順天堂大学病院の病院長にもなりました。
天野先生は、名医の条件として、
予後がつくれること、予後が当てられること
を挙げています。
この予後のことを言ったのは、ヒポクラテスです。
2000年前と言っていることは同じです。
医学や医療は進歩しますが、医道、倫理は時代が変わっても、変わりません。
天野先生は、医師に必要なスキルを4つ挙げています。
①勉強
②コミュニケ-ション能力
③展開能力
④礼儀作法
医師という職業は生涯学習、勉強をしないととり残されてしまうんですね。ひとたびこの職業を選んだ以上、勉強しなければいけない。
コミュニケーション能力は大事です。
患者に対するコミュニケーションと、医療スタッフに対してどういう意図があってこういうことをやるんだということを説明できる能力がないといけません。
医師はいざという時には、人の上に立つ責任があります。そのときに、リーダーとして適格な指示をして動いてもらう必要があります。
展開能力も大事です。
医療では、予期せぬことが必ず起こります。
それをうまく元に戻し、リカバリーする。うろたえてしまって、さらに悪化させていってはいけません。そういう展開能力、レジリエンスが必要です。
最後に礼儀作法です。天野先生は、天皇陛下の手術は、東大病院で東大病院のスタッフとやっています。
なぜ順天堂大学の天野先生が手術をすることになったのか、ご本人に直接聞いたことがあります。
天野先生は、「礼儀作法だったのでは」とお答えになりました。
天野先生は、東大医学部の循環器の教授から紹介を受けて手術をされた患者さん手術の状況と術後経過をレポートにして返していたそうです。
そのときの循環器の教授が東大病院の病院長だったので、天皇陛下の症状と同じような症例の手術件数が国内で一番多かったのが自分だったので、依頼されたのでは、とおっしゃっておりました。
紹介を受けたら、きちんとレポートにして返す、という礼儀作法は大事です。
医学界には、この「態度」で上に駆け上がっていく人と、態度が悪くてチャンスに恵まれないという場合があります。
天野先生は、著書がたくさんあるので、ぜひ読んでください。
医療という言葉は憲法にないが、公衆衛生はある
公衆衛生は、医師法にあります。
医師法第1条に医師の任務の規定があります。
医師は、医療及び保健指導を司ることによって、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。
もし公衆衛生を軽んじる医師がいたとすれば、医師の任務を知らないと言っても過言ではないのです。
医師法の第一条の医師の任務は、暗記してください。
なぜなら、この医師の任務の規定は、憲法からきているのです。
憲法第25条
すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
国は、すべての生活分野について、社会福祉、社会保障、公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
憲法には「医療」という言葉はありません。
憲法を改正して医療を入れよと、いう主張を聞いたことはありません。
医療は公衆衛生に含まれているのです。
万が一あなた方の先輩の医師が、公衆衛生を馬鹿にしたら、
「先輩。憲法には公衆衛生はありますが、医療という言葉はありません」
と言ってください。
その先輩はさすがに恐れおののき、
「君は憲法を知っているのか」
とあなたを尊敬します。
さらに
「医師法の第一条の医師の任務は、憲法第25条にある公衆衛生の向上及び増進に努めなければならないことを踏まえた条文となっています」
と言えば、その先輩はもう二度とあなたに逆らうことはないでしょう。
法律を知っていると、このように役に立つことがあります。ないかも。
公衆衛生の定義
公衆衛生の定義として、100年前のウィンスローというアメリカの細菌学者が作った定義が有名です。
世界の公衆衛生のテキストに出てきます。
英語で覚えるとすごくかっこいいです。
公衆衛生とは、環境衛生の改善、伝染病の予防、個人衛生の原則についての個人の教育、疾病の早期診断と治療のための医療と看護サービスの組織化、および地域社会のすべての人に健康保持のための適切な生活水準を保障する社会制度の発展のために、共同社会の組織的な努力を通じて疾病を予防し、寿命を延長し、肉体的精神的健康と能率の増進を図る科学であり、技術である。
この定義は災害時にも通用します。
避難所の衛生状態が悪かったら、その衛生の改善をする。
避難所の中で、感染症が流行らないように予防する。
個人に対する健康教育として、手洗いを徹底させる。
医療資源が乏しい場合は、DMATや保健師チームの派遣を依頼する。
こういった組織的な活動をして、被災地の人々の健康保持のための適切な生活を保障するような複数の制度を、うまく組み合わせて対応していく。
災害時には、ウインスローの定義を思い出して、そういう公衆衛生の取組を、考えて実行することが重要です。構造は次のようになっています。

現在、映画「フロントライン」が上映中です。
巨大クルーズ船ダイヤモンドプリンセス号の船内で、新型コロナウイルス感染症が蔓延して、医療が必要なときに、DMATの医療従事者たちが、船内に入っていろいろな支援活動を行います。
患者の診察、隔離、医薬品の手配、船外の医療機関への救急搬送など、まさに公衆衛生をやっています。
是非、フロントラインを見て、公衆衛生を学んでもらいたいです。
公衆衛生の本質的なサービス
100年前のウインスローの定義でいいのかということで、アメリカはおよそ40年前に、公衆衛生をいろいろ議論しています。

アメリカという国は、世界で一番公衆衛生が発展しています。
CDCやNIH、FDAなど、専門の連邦政府の公衆衛生の機関があります。
こうした公衆衛生最強の国で、なぜエイズの蔓延が防げなかったということを反省して、「公衆衛生って何?」ということを国として議論してまとめています。
公衆衛生の本質は3つだとしています。
1つ目は評価です。
①地域の健康問題を監視するサーベイランスと、②地域の健康問題の調査です。
2つ目は政策です。
③地域の健康問題の周知・健康教育の実施・参加の促進と、④地域の健康問題を解決するために住民の協力を得ること。⑤個人や地域の健康への努力を支援する計画や施策の策定です。
これはドストライクの衛生行政。衛生行政そのものです。
3つ目は保障です。
⑥健康を守り、安全を確保するための法律や規則の施行、⑦必要な人々への医療サービスの提供、⑧公衆衛生・医療サービスの人材の確保、⑨公衆衛生・医療サービスの効果・利用可能性・質の評価、です。
⑥の法律や規則、条例を作るのは政治や行政です。
⑦は、大学医学部の地域枠の取組のように、医療に恵まれない地域に医師に行ってもらう制度を作ることは、まさに公衆衛生です。
⑧の医師の養成や看護師の養成などは公衆衛生です。
⑨のサービスの効果や利用可能性、クオリティの評価や、①の監視や②の調査は、アカデミアなど大学や研究者になじみのある仕事でしょう。
「政策」や「保障」の多くは行政なのです。
つまり、公衆衛生は大学の研究だけじゃダメなんです。政策や保証が必要なのです。
法政策の技術も必要なのです。公衆衛生は、行政と政治に一番近い。
ですから医学の中には収まらなくて、アメリカでは、医学と公衆衛生は分かれています。
日本は、ドイツをモデルにしたので、医学の中に公衆衛生が入っています。
世界は、ドイツモデルとアメリカモデルの2つがあります。
主流はアメリカモデルです。世界の公衆衛生は、アメリカのハーバード大学やジョンズポプキンス大学の公衆衛生大学院が牽引しています。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックのときには、ジョンズポプキンス大学が世界各国の患者の発生数をとりまとめて公表していました。
ジョンズポプキンス大学は、まさに公衆衛生サービスを世界に提供していたのです。
行政を批判するだけの頭のいいアカデミアの中で、愚直に公衆衛生活動を実践していたのです。さすがだと思います。
地域の健康問題の例
先の公衆衛生サービスの本質のスライドで、「地域」「地域」「地域」がうるさいくらい使われているので、宮崎の「地域」の公衆衛生上の課題はなんだろうと、2つ考えてみました。

1つはSFTSです。マダニの中にるウイルスです。
マダニが、猫に噛みついて猫に感染させることがあります。
症状は名前のとおりです。
重症で高熱が出て血小板が減少します。
4年になって臨床医学を習った時にわかると思いますが、CRPという特異タンパク質がマイナスになります。
通常は、炎症性の疾患の場合は、CRPは高値になるのですが、不思議なことにマイナスになるので、この違和感で医師が気が付きます。「あれ、普通じゃないな」と。
知識がなくてボーっとしている医師は気が付きません。
ほっておくと、8日目ぐらいに肺アスペルギウスという真菌が感染したりして重症化します。
医者が知らなければスルーされて死んでしまうことのある病気です。
特に60歳以上の高齢者は死ぬことがあります。
新しい病気で、2012年に山口県で初めて報告されて以降、1000例近い届出があって、そのうち100例以上は宮崎県での届け出です。
いわば宮崎県の風土病です。
特に猫を介した獣医師の感染リスクが高いと指摘されています。
致死率25%というのは、一類感染症のクリミア・コンゴ熱に匹敵します。
若い人は大丈夫ですが、我々のように60歳以上の高齢者はリスクが高い。治療法は対象療養しかありませんでしたが、主として宮崎県で治験が進められ、アビガンという薬が治療薬として認可されています。
アビガンは催奇形性があるので、入院患者に限るとか、妊娠可能性のある人には避妊を徹底するとか、薬の取り扱いは厳格になされています。
こちらはレジオネラで、細菌です。水が大好きです。循環式のフロだとか、空調機の冷却水の中に混じっていて、その散ったエアロゾルを吸入することによって感染します。
肺炎の症状や画像から他の肺疾患と鑑別することは困難です。
肺炎に普通に使われるペニシリン系の抗生物質は無効です。また、普通の検査培地では検知できません。
つまり、医者が疑わなければわからない病気です。
面白いことに、尿検査で肺の病気がわかります。
今からおよそ20年前に、日向市のサンパークのお舟出の湯という浴場で集団感染が発生しました。開店してわずか1月間で、14の浴槽で300人が感染して7人が亡くなりました。
世界最大級のレジオネラ事件です。
このため宮崎県の公衆衛生浴場条例は日本一厳しくなっています。
新たに条例が制定され、この条例で公衆浴場を監視しているので、最近は発生が少なくなっています。これ以降、大規模な感染は見られていません。
アメリカのニューヨーク市は世界で一番厳しいレジオネラの規制がなされています。
ビルの冷却水がエアロゾルとして飛び散り、それを下で歩いている人たちが吸って感染して亡くなった事例があったので、ニューヨーク市当局は、レジオネラ症を予防するために、世界一厳しい規制を行うことにしました。
ニューヨーク市のビルの保有者は、ビル冷却水を一年に1回調べるように条例で義務付けています。検査の結果、何個以上があったらどうしろ、ああしろ、こうしろという措置の実施を義務付けており、当局への報告を怠ったビルの保有者は、罰金20万ドルと定めています。
宮崎県とニューヨーク市は、レジオネラ繋がりで姉妹都市になれるかもしれません。ならないか。
いうことで地域の健康問題の例を2つ挙げましたけど、こういうことは、いっぱいあるんですね。
医師がボーっとして疑わなければ、診断ができないのです。
ですから、医師は医師法の第一条の任務を果たすためにも、公衆衛生を勉強しなければなりません。
レジオネラによる肺炎は、普通の培地で検査してもコロニーはできません。
通常の細菌はブドウ糖が大好きですが、レジオネラは偏食で、鉄とアミノ酸のLーシスティンが大好きです。
そういう特別な培地じゃないと生えてきません。
もし地域のどこかに循環式の浴槽があり、入浴した人がたくさんいて、レジオネラに感染した人々が別々の医療機関を受診したら、ぼーっとしていたら判らないわけです。
普通の肺炎だということで治療が行われ、集団発生していることがつかめません。
ボーっとしていない医療機関が、受信した患者から問診してレジオネラ感染を疑い、尿検査をして確定診断がなされ、保健所に届け出がされます。
これで初めて、保健所がレジオネラ発生を知ることになり、スイッチが入るわけです。
患者が利用した浴槽の過去のレジオネラ検査の結果はどうだったか、利用者に肺炎になった人はいないかと疫学的な調査が始まります。
ということで、宮崎県の地域の健康問題としてのレジオネラとSFTSについては覚えておいてください。
SFTSはCRPがマイナスである。
これだけ覚えておくだけでも、いつか役に立ちます。
SFTSと似たような疾患に、ツツガムシ病というものがあります。
ツツガムシ病は、リケッチアが原因で、CRPがプラスになり、特徴的な刺し口があります。
そういうことで鑑別が可能です。
治療はテトラサイクリン系の抗生物質が使用されます。
これはそのお船出の湯にある慰霊碑です。

宮崎県出身の公衆衛生医師 高木兼寛
先の「公衆衛生の本質的なサービス」を鑑みると、宮崎県出身の高木兼寛というのは本当にすごいなと思います。

海軍で多発している脚気を疫学研究を行っ予防した。理屈はよくわかりませんでしたが、食事を変えることによって脚気を予防することができた。
イギリス人は理由がわからなくても、予防できればいいじゃんという実践的な国民性があります。一方、ドイツ人は理由を解明する方が好きな学究的な国民性があるような気がします。
ジョンスノウは疫学調査に基づき、ロンドンでポンプの使用を禁止してコレラの発生を予防しています。当時コレラの原因は不明でした。これを解明したのはドイツ人のコッホです。
イギリスに留学した高木兼寛は、英国流医学の東京慈恵会医科大を作りました。一方、日本の他の医科大学はドイツ医学一辺倒です。
ポイントは日本初の看護師養成を始めたことです。高木兼弘が留学していた病院にはナイチンゲールがいたのです。
ナイチンゲールともしかして会っていたかもしれないんですけれども、その記録はありません。おそらく刺激を受けたのでないかと思います。
海軍で脚気を予防して、大学をつくって医師や看護師の育成を行った高木兼寛は、公衆衛生医師の鏡です。
世界の公衆衛生のテキストに出てくる日本人は、高木兼寛と熊本の北里柴三郎、岡山の秦佐八郎の3人くらいです。
南極大陸に「高木岬」という高木兼寛の名前に由来する岬があります。
私は行ったことありませんが、皆さん方も南極大陸に行くときは、ぜひ行ってください。
南極調査のベースである昭和基地には、産業医としての医師がいます。
昭和基地に同行する医師として応募すれば、ペンギンを見たりいろんなことができます。

これが高木兼寛の生誕の地、宮崎市高岡にあります。
皆さんぜひ行ってください。そしてこのすごい公衆衛生のオーラを感じてください。

これは東京の青山盆地にある高木兼寛の墓です。奥様と一緒です。
私が行ったのが8月の13日でした。きちんと綺麗に掃除もされておりました。
周囲の墓は草ぼうぼうでしたけれども、慈恵医大は綺麗に管理していて、花もあり、やっぱり違うなと思いました。さすがです。
現在、宮崎大学医学部と慈恵医大とは、KANEHIROプログラムで卒前教育を共同でやっています。慈恵医大が高木の故郷の宮崎大学と組んだんですね。
亡くなっても未だにこういう影響を及ぼす高木兼寛、恐るべし。
慈恵医大では「先生」と呼ばれるのは学祖高木兼寛ただ一人です。
他は先生じゃないという、そういうぐらい尊敬されています。
予防医学とは

さて、予防医学ですけれども、一次予防、二次予防、三次予防というのが、あります。
一次予防は、リスクファクターの暴露を予防することにより、疾病や負傷の発生を予防することです。
例として、健康教育であったり、ワクチンがあります。
二次予防は、疾病による深刻さや、イベントが発生する前に疾病や負傷の原因となるイベントを探知して、実際に起こったときにそのダメージを最小化することです。
例として、スクリーニングや健康診査があります。
三次予防は、医療やリハビリテーションサービスを提供することにより、障害を最小化することです。医療は三次予防です。

これは1次予防の例で、健康教育のポスターです。
私が厚労省健康局がん対策・健康増進課長のときにつくったものです。
健康寿命を延ばそうと、「歩いて、食べて、たばこの煙をなくして」というメッセージを伝えました。
三浦雄一郎さん、有森裕子さん、平原綾香さん。
この3人は、高齢層、実年層、若者層に届くように選びました。
三浦さんは80歳でエベレスト(チョモランマ)登山を達成しました。
有森さんは、女子マラソンの銀メダリストです。
平原さんは、ジュピターで大ヒット曲を飛ばした歌手です。
三人とも厚労省の健康大使になっていただきました。
厚労大臣室に来ていただき、記念撮影をしています。
本当に懐かしい写真です。

こっちは宮崎県のポスターです。
めざせ健康寿命日本一!
この時の宮崎県の健康寿命は、男が9位、女性が3位でした。
現在は、男性が10位以下に落ちてしまいましたが、女性は10位以内にいます。
宮崎県は医師不足県ですが、医師がいなくても健康寿命は延ばせます。
健康寿命は、食事や運動といった生活習慣と、周囲に住む人々とのかかわりあいが大事なのです。もちろん医療機関とのアクセスも重要な要素になります。
塩を減らそうとか、野菜をプラス100gとか、体を動かそう、がん検診を受けましょう、禁煙、歯科検診とあります。
よく見ると、一次予防と二次予防が混じっていますね。
こ、これは一次予防のポスターの例として出したのは、失敗でした。

ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチ

公衆衛生には、2つのアプローチがあります。
ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチです。
医療はハイリスクアプローチで、リスクの高い、要するに医療機関に来た人を治療するというのが医療です。病院に来ない人は手も足もでなません。
ポピュレーションアプローチは、「上流」にいる健康人に対してアプローチができます。これが公衆衛生です。
人口的には、健康人が多い。そういう健康人に対して病気にならないようにアプローチする。違う言葉でいえば「介入」をするのです。
病気にならないように予防法を教育する。これは一次予防です。
早期にイベントを見つけるために健診を受けましょう。これは二次予防です。
アメリカのマッキンリーという社会学者が「健康と疾病の社会学」で、こういうことを書いています。
岸辺を歩いていると、「助けて!」という声が聞こえます。
誰かが溺れかけているのです。そこで私は飛び込み、その人を岸に引きずり上げます。
心臓マッサージをして、呼吸を確保し、一命をとりとめて、ホッとするのもつかの間。また助けを呼ぶ声が聞こえるのです。
私はその声を聞いてまた川に飛び込み、患者を岸まで引っ張り、緊急処置をほどこします。すると、また声が聞こえてきます。次々と声が聞こえてくるんです。
気がつくと私は常に川に飛び込んで、人の命を救ってばかりいるのですが、一体誰が上流でこれだけの人を川に突き落としているのか、見に行く時間が一切ないのですと。
これは、イチロー・カワチさんの「命の格差は止められるか」という新書に載っています。ぜひこれは読んでいただきたい。
健康の社会決定因子
世界の公衆衛生は、健康の社会決定因子が中心です。
予防をいかにするかです。
治療は手遅れであり、予防に力を入れようということで、健康の社会的決定要因の研究が進んでいます。
健康は社会で決まる。
この考え方は、どこに生まるか、どんな家で暮らすか、誰と結婚するか、どんな職業につくかといった社会環境的な因子の違いによって、健康の度合いが変わってくるというものです。
公衆衛生は、医学ではなく社会学になってしまうようなインパクトがある健康の社会的決定要因です。世界のパブリック・ヘルスや疫学研究は、これが主流となってきています。

これは、千葉大学の近藤先生の本に載っている図です。
人は、生まれたときにその生物学的な要因を持っています。
遺伝子、DNAです。
どこで生まれたか、そういう社会経済的な環境因子があります。例えば、平和な日本の宮崎で生まれる人と、ウクライナやガザ地区で生まれる人とは、生まれた後の健康の度合いが全く違います。
水もないようなところと水はふんだんにあったりするところ、栄養不足なところ、食べ物がたくさんあるところ、全然違ってきます。
小児期などでまだお金があるかどうかとか、それから教育を受けられる機会があるかとかがあります。
小児期から成長すると、成人期、高齢期となります。
どんな職業に就くか、誰と結婚するかとか、そういったことで生活習慣が変わっていきます。
我々は、高齢期の生活習慣にばかり注目をしていたんですが、それ以前のこういう社会経済的な環境だとか教育だとか、こういうものによって健康は左右されることがあります。
高齢期の生活習慣ばかり対策をしても効果が少ないことが、わかってきています。
医学モデルでやってきた対策を、社会モデルにも注目して、もっと上流の時期にさかのぼって対策をやらないといけないと考えるようになってきました。
医学ではなく、政治や行政をまきこんでみんなでやらんといかんちゃねえというのが今の世界の公衆衛生の流れです。
健康の社会決定因子については、いろいろと本が手ています。我が国では、近藤先生がその研究の先駆者のひとりです。
臨床に行って悩む前に、ぜひ勉強してみて下さい。
ポピュレーションアプローチが必要なことが、よく理解でいると思います。
SDGs

国連が推進している持続可能な開発目標、だれひとり取り残さない世界を目指す2030年までの17の目標です。通称はSDGsです。
SDGsは、脱炭素社会や循環型社会の構築とか環境対策だと思っている人が多いのですが、違います。
医師の中には、我々とは関係ないと思っている人もいますが、そんなことはありません。
期間限定の17個の目標があり、この中で医師と関係があるのが、少なくても4項目あります。
2 飢餓をゼロに
3 すべての人に健康と福祉を
4 安全な水とトイレを世界に
8 働きがいも経済成長も
「飢餓をゼロに」というのは、栄養問題を扱っています。
子どもと妊産婦、高齢者にとって栄養は大事です。
日本でも、子どもの貧困は社会問題となっています。特にひとり親の子どもは最重要課題です。子ども食堂の取組が進められています。
妊産婦の栄養は、お腹の中の赤ちゃんの発育にも重大な影響を及ぼします。また最近は若い女性の低体重の問題が指摘されえています。
在宅で一人暮らしをしている高齢者の低栄養の問題が、高齢者医療関係者から指摘されています。
配偶者を亡くした男性は、料理ができるかどうか、コンビニとのアクセスが容易かどうかで、予後が変わってきます。
「すべての人の健康と福祉を」は、まさに公衆衛生です。
妊産婦、新生児、子ども、感染症、非感染性疾患、若年者の心の健康と福祉、麻薬・薬物乱用・アルコール、交通事故、家族計画、リプロダクティブヘルス、ユニバーサルヘルスカバレッジ、化学物質・大気・水質・土壌汚染、たばこ、医薬品、ワクチン、保健財政、人材、健康リスクの早期発見、リスク低減・管理
省庁的にいえば、厚労省と環境省とこども家庭庁が行う対策です。
「安全な水とトイレを世界に」は生活衛生です。
飲料水の提供、下水の整備、トイレ・水質の確保、水不足の解消、水の衛生管理
省庁的にいえば、環境省、国土交通省となります。
「働きがいのある経済成長も」
これは、なんでこれは関係あるとか、疑問があるかと思います。
働きがいのある人間らしい雇用(ディーセントワーク)が、医師と密接に関係します。
我々世代の昔の初期研修医は、まさに奴隷でした。
低賃金で、長時間労働が普通でした。
卒後の2年間の臨床研修制度ができて、給料ももらるようになり、研修プログラムを整理されてだんだんと発展していきました。
現在、医師の働き方改革が進められています。
当直した翌日は休暇が取れるようにとか、長時間労働が制限されていっておりますが、全部SDGに載っていることです。
医師は、SDGsを無視してはいけません。
医療と密接に関係する栄養、公衆衛生、社会保障、環境、労働があり、医療だけの視野狭窄に陥ってはいけません。
皆さんもSDGsについて、学生の間によく勉強してみてください。
行政の実態

それで今日は衛生行政ですので、行政の実態を示しました。
法律至上主義、保守性、縦割り、無びょう性、格式形式主義、予算主義の6つです。
「法律至上主義」というのは、そもそも役所は、法律で決められたことしかできないんですね。お役目があるから「役人」なのです。
「縦割り」があります。これはどこの組織にもあります。医療でも、小児科や外科があるように、それぞれ担当を決めて分担してやるということは一般的に行われているガバナンスです。
「保守性」はなかなか変えようとしないこと。しかし、制度が毎年変わると社会に混乱が生じますので、いったん決めたらよほどのことがないと変えない。そういう傾向があります。変えるのは、選挙で選ばれた政治家の役割でしょうね。
「無びょう性」は、行政は間違いをしてはいけない。ミスをしない。誤りを認めないことにるながることもあります。
「格式・形式主義」は、やはり必要ですね。きちんとした格式がないと、
みんな納得しません。
例えば、医師免許状がピラピラな紙だったらいやでしょう。本物の医師免許状は、菊の御紋があります。皆さん方がいつかもらうであろう医師免許状は、人が筆で書いたものであります。楽しみですね。
「予算主義」
行政を含めてあらゆる組織は予算がないと運営できません。
予算を取ったり、予算が付けば仕事ができます。そのために、日々勉強するのです。予算は要求しないとつきません。
国の財務省や県庁の財政課には、各省や各部局から予算要求がなされます。
要求どおり認めていたら破産します。
そのため財務省主計局や県の財政課の職員は、要求内容を徹底的に勉強して査定します。
2年に一度診療報酬の改定が行われますが、これは厚労省と財務省の医療費をめぐるバトルです。
毎回の改定で双方が決着するのは、期限が設定されているからです。
法律・法令について
写真は後ろから見た国会議事堂です。左が衆議院、右が参議院です。

法律は、この衆議院と参議院を通さないと成立しません。
法律の下に、政令もしくは施行令があります。閣議で内閣が決めることができます。
政令の下に、省令もしくは規則があります。これは各省で決めることができます。
告示は、大臣が決定します。
通達もしくは通知というのは局長が作ります。
事務連絡もしくは内翰という古い用語があります。課長が作ります。
問い合わせは、電話番のヒラが担当します。
法案作成は課長補佐が中心となります。
医学部の先生の中には、通達が一番偉いと思っている人がいます。
通達違反と言われたらビビってしまいます。
しかし局長が下部組織に対して通達した文書という位置づけになりますの
で、国会を通している法律が一番偉いわけです。最高位に憲法があります。
ざっくり言えば、憲法があって法律、政令、省令、告示、通達、事務連絡という順番です。
皆さん方は、法律を見る機会はあまりないでしょうけれども、医師法を読んでみるといいかと思います。
皆さん方が一番気になる医師国家試験の試験範囲は大臣告示で示されます。
診療報酬は、規則や告示で大まかなことが示され、詳細は医療課長通知となっています。観察すると面白いです。

法律がつくられるプロセスについて説明します。これは内閣が提案する閣法の場合です。
まず社会問題化します。新聞報道で一面トップとなった、実態調査や関係者のヒアリングの結果わかったとか、陳情が相次いだとか、外圧があったとかですね。
たばこ規制は完全に外圧です。WHOがたばこ枠組み条約を作成し、このために国内の法制を整備しないといけないことになったのです。
社会問題化した案件につて、厚労省の検討会や審議会で議論して、これは法制化しないとだめだと判断されると、法案を作成することになります。
法案を作るとそれを審査する機関が内閣にあります。
内閣法制局というの組織があり、法案の条文をですね、一字一句審査します。1行に1時間以上かける場合もあります。
内閣法制局からゴーサインがでると、各省庁に法案を送付します。各省協議といいます。閣議で反対されると法案は国会に提出できませんので、各省を説得してなんとか収めてもらう努力が必要です。
最後のプロセスが、与党審査です。
与党というのは、内閣を組織する政党のことです。現在の自民党と公明党のことです。政権を取ってない党は野党と言います。
与党審査を経るので、与党がノーという法律はできないんです。
厚労省が勝手に作った法律だと言う与党議員がいたら、それは違います。
そして国会審議となり、衆議院と参議院の審議を経て法律が成立するというわけです。

野糞禁止法というフィクションの法律を設定して、それが成立・施行されるまでを説明します。
ます社会問題化します。
宮崎県のある町で、子どもたちが100人がO157に感染してそのうち10人が亡くなった。そういる事件があると、一面トップで報道され、それは大変なものとなります。
しかも原因は、井戸水に野糞が混じっていたということになると、「なぜ危険な野糞を野放しにしているのか」と新聞の社説に書かれることになります。テレビのワイドショーには専門家が登場して野糞の危険性をあおります。
国会でも問題となって、さっそく厚労省に野糞検討会が設置されます。宮崎大学医学部の教授も委員として呼ばれます。
野糞の有害性について意見をします。野糞には1gあたりO157が千兆個含まれており、それが井戸水に混ざると、子どもだと致死性があると発言します。これはあくまでもフィクションですよ。
子どもに致死性があるという有害性が明らかになって、どうやったら管理できるのかという検討になります。
事件発生地域にはトイレがないので、きちんとトイレを作って管理すれば、井戸水を汚染することはない、井戸水は定期的に評価すればいいとか、話が進みます。
行政指導だとトイレの設置が進まず、適切な管理もできないので、法律を作って規制を強化するとともに、トイレの設置と管理のために交付金を支給することが適当だというように話がまとまります。
担当官庁の厚労省で法案の作成をして、議会に法案の要項を示して諮問して答申をもらってゴーサインが出たことになります。
内閣法制局の審査で、野糞というのは法令用語としては適切ではないので変更しろと言われます。明治以来の立法例を全部調べて「野糞」というのは使われていない。そこで「野外における糞便の排出」という言葉に言い換えることで修正をしました。
「野外における糞便の排出の適正化等に関する法律(案)」は、各省協議となりました。農水省から人糞は肥料であるので、畑を除けとかと言ってきました。
法律の条文に、「なんとかの場合はこの限りではない」とか、「なんとかを除く」とか除外規定の条文がありますが、それは各省協議の名残の場合があります。
与党審査を経て、自民党及び公明党の厚労部会、政調会、総務会を経て、与党審査が終了してようやく閣議決定ができます。
国会に提出した後に、衆議院と参議院のどちらかの委員会に付託されます。委員会で質問が一日あたり100問ぐらい出ます。法案審議のときは、徹夜となります。
本当に大変な作業をして、野党議員からの質問に回答して、最後に時間が来て採決をして賛成多数であれば、今度は本会議に行って、委員長が報告をして、ここでもまた採決をとって、賛成多数で衆議院終わりとなります。
次に参議院にということで2回あって、参議院まで行って成立したら、次は法律を施行し、政令、省令、告示、通知を示すことになります。
野糞禁止法のようにですね、国民に野糞を禁止するという、これまで自由だった野糞を禁止するんのですから、十分な周知期間が必要だということで、政令で十分な周知期間として3年後に施行するとなります。
あくまでもフィクションですので、また盛っている部分もありますので注意してください。法律ができるまでの流れは、だいたいこのようになっています。
実際の例です。工場法は労働基準法の前の法律です。担当の農商務省の工務局長がこのように言っています。
条文はわずか15条の法律で内容も簡単なものであるが、制定まで30年、主務大臣の更迭23回、局長の交代15回、書き直し百十数回の末やっと制定されたものである。
制定時の総理は桂太郎です。長州藩閥で悪いイメージが多いんですが、制定に反対していたのは、実は渋沢栄一だった。これを説得したのは桂総理です。
法律ができて施行されたのは大正5年です。
施行期間が5年間あった。
石原修という内務省の医系技官が、法律できたのになぜ施行しないんだと怒って、女工と結核について調査してまとめた論文を全国会議員に送りつけました。
これで大問題となり、工場法が施行することになりました。
医系技官は、昔からハチャメチャなことをしますね。そうやって世の中を動かしたのかと感心します。

石原修は、その後大阪大学医学部の衛生学の教授になります。大阪大学医学部には、石原修の碑があります。いまだに尊敬されています。
施策が生まれるとき

政策が生まれる時期は決まっています。
特に、政権交代とかトップ、人事トップが変わった時ですね。
その他、予算要求の時だとか、制度の見直しの時、調査結果が公表された時、それから事件が起きた時ですね。
また、陳情が多かったとか、議会でトップが間違えて答弁したときです。
岸田総理が「花粉症対策の閣僚会議をやる」と国会で答弁したんですけども、答弁書には閣僚会議ではなくて「担当者会議をやる」というのを間違えて閣僚会議と答弁してしまった。
しかし、それなら担当者ではなく格上げして閣僚会議をやればいいじゃんと、実際に閣僚会議をやったという例があります。
実は、環境庁のときに花粉症の担当者会議を最初に作ったのは私なので、感無量でした。
各省から担当者レベルで、課長補佐ぐらいが集まって、意見交換をするという会議でしたが、大臣が来るようなったのかということで、感動したものです。
このようなことから総理の答弁は大事なのです。知事や市長の答弁というのは、間違えたらそれはやられないかんのでということです。
それから外圧があった時だとかがあります。
トップに知り合いができて、「おい、今度ここを変えたい」とか色々言う人がいますけれども、多用は不可です。
やりすぎると嫌われます。友情が崩れますので注意してください。
このような政策が生まれる時期に、たまたまそのポストにいるとすごく面白いことができます。
しかるべきときに、しかるべき場所にいる人が政策を成し遂げることができます。

幕末のしかるべき場所にいた人の例です。
我が国の病院の原点は、幕府の役人だった長崎奉行の発案です。
オランダ軍の軍医ポンペが長崎にやってきました。
医学教育をやるのためには、病院が必要であることを、長崎奉行に訴えます。
この長崎奉行は、大変優秀でした。
井伊大老に対して「西洋医学の医師を養成するためには、西洋風の患者を入院させる病院が必要です。建設を進めてよろしいか」と要請をしました。
井伊大老の答えは、建設を進めよということでした。
スライドに長崎療養所の絵があります。オランダと日本の国旗があります。
60床の病棟のある建物を2つ作りました。合計120床の病院です。
まだこの頃は「病院」という言葉はなかった。そのため「長崎療養所」と名前が付けられました。
ここでわが国初のベッドサイドティーチングが行われました。
これが今の日本の医学教育のモデルです。
この時のポンペはは弱冠27歳。
一人で物理やら化学やら薬理とか病理とか解剖とかの基礎医学、内科、外科、眼科とかの臨床医学を全部教えたんですよね。
皆さんできますか?
ポンペが出たのは軍医学校で、軍医学校のノートで講義しました。
ポンペの言葉は長崎大学にあります。
医師は自らの天職をよく承知していなければならぬ。
ひとたびこの職務を選んだ以上、もはや医師は自分自身のものではなく、病める人のものである。もし、それを好まぬなら、他の職業を選ぶがよい。
これを見て日本人の医学生はみんな感動しました。
医者になるというのはこういうことか、再確認したのです。
ポンぺは神かと思ったそうです。27歳の小僧ですよね。
これが今の日本の医療の原点です。
もし長崎に行くんであれば、ぜひポンペ会館というのもありますので、ポンぺの言葉のあるレリーフを見てください。
シーボルトが偉いと言っていますが、シーボルトはスパイです。
シーボルトはスパイ行為が発覚して帰っていきましたけど、ポンペは日本に多くの弟子を残しました。日本の医学を作っていったのです。
明治時代の公衆衛生政策

代表的なのが、長与専斎です。
内務省の初代衛生局長で、医系技官です。
現代の医師法、医療法を合わせたような法令「医制」を策定し、病院、医学教育、医事、薬事などを整備していいきます。
北里柴三郎や後藤新平を見出したのもこの人です。

これが明治時代の医師免許証です。菊の御紋があります。当時は厚労省はなく内務省でした。山縣有朋内務卿と長与衛生局長の署名があります。
皆さん方がもらう医師免許証も、これと同じです。菊の御紋もこの模様も同じです。厚労大臣と医政局長の名前が並びます。
最近は、医務技監がこの真ん中に入りますので3人です。
皆さんあと3年後に医師免許証をもらったときには、ああこれかというふうに感じてくれたらいいかと思います。
もらえなかったら、それはしょうがないですね。
来年頑張ってねということです。

明治時代に県がですね、医師養成をしてた跡です。
宮崎医学所跡の碑です。大淀川沿いの橘公園にあるんですけど、ここで県は医師の養成をしていたんですね。
県庁の先輩方は、明治時代に県立の医学所をつくって、医師の養成をしていました。5年ほどで廃止になりました。

現在、宮崎大学医学部でやっている地域枠は40人の定員があります。
卒業後は、宮崎県で働いてもらうために、県が予算を出して、月10万円の修学資金をだしてます。
明治時代も令和時代も、結局、やってることって同じことです。
明治時代は、県が医学所をつくって養成しましたが、今は、大学の地域枠をつかって養成している。
やり方は違うんですけど、宮崎県で働く医師を養成しているという趣旨は同じです。行政ってあんま変わらないんですね。

これは、熊本県の小国町にある北里柴三郎記念館です。機会があれば、ぜひ、行ってください。生家跡もあります。
北里柴三郎がいかにすごかったかということがわかります。
世界のトップクラスの研究者で、世界から「うちに来てくれ、うちに来てくれ」と言われたのを蹴飛ばして日本に帰ってきました。
ところが、勤めるべき研究所がなかったんですね。
内務省の長与衛生局長は、せっかく世界的な学者の北里柴三郎が、コッホ研究所から帰ってきたのに研究所がないということで,適塾の先輩の福沢諭吉に相談しました。
福沢諭吉が、慶応義塾大学の卒業生に実業家がいるので、金を出させて研究所を作ろうということで研究所を作って、北里柴三郎を勤務させたんですね。
それが後に、ドイツのコッホ研究所、フランスのパスツール研究所、日本の北里研究所が、世界の三大研究所といわれるように発展しました。
ぜひ、北里記念館に行って、その偉大さを感じてください。

後藤新平も、長与衛生局長に見いだされた逸材です。
長与局長の後任の衛生局長となります。
この人は自由党の党首の板垣退助が刺されて、「板垣死すとも、自由は死せず」で有名な板垣を助けたんですね。
その後内務省の衛生局長になって得意絶頂のときに、相馬事件というのが精神医療で有名な事件にまきこまれて逮捕された、まさかの局長をクビになります。
ですが、その後、日清戦争の後に日本の兵隊数十万が日本に帰ってくるときにいろんな病気を持ち込むということで検疫をすることになりました。
その大規模検疫のプランニングして、中国からそういう病気を持ってこなかったということで、全世界が注目します。
そういう大規模検疫をやったのは世界で初めて、しかも成功させたということで絶賛されました。それでまた内務省の衛生局長に復活をします。
その後、台湾の民生局長官になって、台湾のいわゆる総理大臣みたいなもんですね。その後、医系技官から政治家へと進んでいきます。
ということで後藤新平も医系技官の先輩ということです。本日、パンフレットを用意しましたけれども、ぜひ将来の選択肢の一つとして考えてもらえればということです。
政策の勝利の方程式

勝利の方程式は、私が適当につくったものです。
政策は事業、法律を作ったり、予算を作ったり、組織を作ったりすることです。
政策の実現の可能性は、
(最初の意気込み)ー (怠け心) × (時間) + (情報)です。
怠け心をできるだけ少なくして、時間は平等ですから、最初の意気込みをできるだけ高くして、いろんな情報を取ってくると、成功の可能性が高まる。
高邁な理想、サイエンス、少しの浪花節の3つが大事です。
誰も反対できないような大義名分は、例えば、健康寿命の延伸には誰も反対できませんよね。
最初の健康日本21の目標の「たばこをやめたい人をやめさせる」もそうです。
「無理やりやめさせるんじゃありません。やめたいという人をやめさせるのです」と、たばこ規制に反対する人々には、そう説明をしています。
科学的なエビデンスが大事です。これが中核的な証拠となります。
最後、やっぱり人間ですので、浪花節とか、泣き落とし、可愛げ、土下座とかですね、そういう演技も必要です。
浪花節が通じる人には「おわ、わかった」となるんですが、通じない人には一切通じないので、浪花節ばかりではだめです。
キーパーソンには、理屈系と浪花節系の2つのタイプがいます。
理屈系も浪花節系もカバーできるようなスキルを身につけると、成功の可能性が高まります。
これは医師の世界でも同じですね。
例えば、宮崎大学病院にドクターヘリを導入した先生の話を聞くと、まさにこれでした。
ヘリコプターを導入するのには多くの予算がかかります。
県議会でも反対する先生がいました。
ドクターヘリで、これまで救えなかった人が救えます。救えた命を救えるようにすべきです。他県の状況はこれです。先生、なんとか、なんとかお願いします。
結果的に、ドクターヘリが導入できて、救急医療・災害医療の教室は人気講座になっています。
勝利の方程式を活用して、皆さんぜひ最初の意気込みを高く、怠け心を最小化し、情報を集め、高邁な理想とサイエンスと少しの浪花節で道を切り開いていってください。
カミヒトエの法則

政策を実現させるめに、カミヒトエの法則というものがあります。
これも、勝利の方程式とセットで私が編み出しました。
紙は説明ペーパー、人は説明する人、絵はポンチ絵です。今はパワポです。
要するにプレゼンテーションスキルです。
パワポは、ビフォー・アフターです。
現在の状況はこうだけど、この政策・施策をやればこうなります、という資料が大事です。1枚でわかるようにする。
偉い人はみんな忙しいのです。
短時間で、物事の大事さ問題の本質を理解していただく必要があります。
1分で言えるようにすれば、エレベーターの中でも話せます。
「先生、なんとかです」とか言ったら「お、わかったわかった」ってそれで、「この前言っとったあれを詳しく聞こうじゃないか」というようにつながります。
忙しい人には、結論から言うことが大事です。
でないと話を聴いてくれません。
そういう,プレゼンのスキルも身につけるといいと思います。
医師はみんな忙しいので同じです。
結論は何だ?、今日は何の話だ?、相談か、協議か、答えを聞きたいのか?と
ということで、臨床現場でも、最初から結論を言うことが大事です。
私は、乳がん検診にマンモグラフィーを導入したり、富山県で共同利用ペットセンターの設置に関わりました。
政策において、マスコミの力は大変大きいと感じました。
応援してくれることもあり、マスコミとのコミュニケーションは大事です。

しかし、マスコミは応援するばかりではありません。
これは腰痛予防指針を改定したときに書かれた記事です。
厚労省の記者クラブで、労働衛生課長の私が説明して、何か質問はありませんかと言ったときに、腕組みしていた記者が手を挙げました。
「今の課長の説明では全くわからない。課長がいいたいことを一言で言えば、どういうことですか?」と質問されました。
自分としては丁寧な説明をして、さらに記者発表資料も、読めばわかるように簡潔にまとめていたので、この質問は心外でした。
しかし、答えなければなりません。そこで、
「まあ一言で言えば『お姫様抱っこNG』ということですかね」と言ったら、それを見出しに使われたのです。
この記事はネットに流れました。
すると「お姫様抱っこするわけないじゃん厚労省ってバカ?」というコメントがなされて、炎上しました。
しかし時間が経つにつれて、「厚労省の発表用資料を見たら、お姫様抱っこNGというのは一切ない。これはマスコミが煽ってるんだ」というコメントがつきました。
午後になると炎上は収まっていました。
「いや厚労省ちゃんとやってるよ。発表資料見て。こんな見出しに騙されないで」とコメントがありました。
ネットというのは、マスコミが煽った記事をきちんと正常化する力があると感じました。
これまでマスコミしか、厚労省の記者発表資料を伝えるメディアがなかったのですが、厚労省の記者発表資料を直接見ることができるようになって、実際に発表されたものがどういうふうにねじ曲がって報道されるかが一目瞭然となる時代になったのです。
厚労省の発表資料は厚労省のホームページに掲載されるので、記事と実際の資料と見比べると、メディアリテラシーの勉強になると思います。
難しい医療政策

医療政策ってのは難しいんですね。
医療提供体制をどうするかという医政局マターのものと、医療にかかるお金をどうするかという保険局マターの2つがあります。
医療提供体制は、地域ごとに違います。
一方、医療費は、税金か保険料か自己負担かの3つしかありません。
いろいろと言ってくる人たちがたくさんいますので、この調整が大変だということです。
医療法というのは,素晴らしい法律です。だいたい法律の1条にその法律の目的があるんです。読んでみるとびっくりしますよ。
第1条の2
医療は、生命の尊重と個人の尊厳の保持を旨とし、医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手と医療を受ける者との信頼関係に基づき、及び医療を受ける者の心身の状況に応じて行われるとともに、その内容は、単に治療のみならず、疾病の予防のための措置及びリハビリテーションを含む良質かつ適切なものでなければならない。
2
医療は、国民自らの健康の保持増進のための努力を基礎として、医療を受ける者の意向を十分尊重し、病院、診療所、介護老人保健施設、調剤を実施する薬局その他の医療を提供する施設、医療を受ける者の居宅等において、医療提供施設の機能に応じ効率的に、かつ、福祉サービスその他の関連するサービスとの有機的な連携を図りつつ提供されなければならない。

医療法の目的の条文は、後で実際に読んでおいてください。
格調が高いです。
また、医療法の基本原理はこういう骨格で組み立てられています。
個人と生命の尊厳があって、良質な医療、透明な医療、効率的な医療というふうに三つに分かれています。納得できると思います。
この本が参考になります。
世界の医療制度

世界の医療の概要です。
医療費を税金で賄う国、公的保険で賄う国、民間保険で賄う国の3つがあります。
日本は真ん中の公的保険です。イギリスは税金、アメリカは民間保険です。
社会保障制度について

社会保障を創設した政治家は、例外なくビッグネームです。
ドイツの首相ビスマルクが、社会保険制度を始めました。
ルーズベルト大統領が社会保障という名前が付く法律を作りました。
チャーチルの政権下で、ゆりかごから墓場までというヴェバリッジ報告書をつくりましたが、次のアトリー政権で、ナショナルヘルスサービスを創設しています。
日本では岸伸介総理、安倍総理のおじいさんが、国民皆年金、国民皆保険を実現しています。
アメリカのジョンソン大統領が、同じ民主党のルーズベルト大統領の施策を引き継いで、メディケアとかメディケイトといった障害者や高齢者に対する医療保険制度を作っています。
アメリカは、なかなか「国民皆会保険」が実現できません。
アメリカ人は、強制されるのを何よりも嫌う国民性があります。特に共和党そうです。
国民皆保健にするためには、どうしても強制加入が必要になります。
しかし、それはアメリカ人の琴線に触れるので、特に共和党は絶対反対です。
そういう政権交代もあるし、自由を尊ぶ国民性があるんで、なかなか国民皆保険ができないというところです。
一方、我が国の国民皆保険の歴史です。
まず大正時代にですね、職域保険、職場での健康保険制度ができました。
戦後、昭和36年に国民健康保険という地域の保険ができて、これで国民全体がカバーできました。
長く運用をしていましたが、後期高齢者は違う制度が必要だということで、上出せして後期高齢者医療制度が創設されました。

大正、昭和、平成の3世代を通じて今の保険制度ができています。
日本の国民介護保険の特徴を、「教養としての社会保障」の筆者の香取輝幸先生は、このように指摘しています。
①国民全員を公的医療保険で保障
②患者は医療機関を自由に選べる
③医療機関、医師・歯科医師・薬剤師は自由に参入できる
④安い医療費で高度・広範囲な医療を提供
⑤社会保険方式を基本としつつ、皆保険を維持するために公費(税)を投入
この教養としての社会保障は、記述が簡潔かつ分かりやすくお勧めです。
香取さんは、厚生省の年金局長をやった方ですけれども、役人が書いたとは思えないほど面白くてためになります。
勉強になるので、ぜひこれぐらいは教養として知っておくと損はしません。
病院の収支

病院の収益は入院と外来しかありません。
外来を断る病院は、それは赤字になります。
入院させなければ、赤字になります。
シンプルです。
病院の費用は、人件費が半分、残りは薬剤費、材料費、経費、減価償却費です。
利益を上げるには、トップの熱意が大事です。病院長の仕事です。
診療報酬は2年に1回改訂され、公定価格なので、値引きしてサービスをすることはできません。
証券を発行して資金を集めることはできません。
価格も自由に決められない。そういう制約があります。
日本の保険制度は、ものすごく高い医薬品もカバーしています。
1錠が8万円もするような宝石のような薬が保険適用になっています。
C型肝炎ウイルスは今駆逐されつつあります。もうあと数年で日本から消えていくだろうといわれています。
それは、高額だが抗ウイルス薬が作られて、保険適用になったからです。
保険診療をしている保険医療機関は、監視指導を大臣がすることになっています。私は関東信越厚生局長のときに、それを行っていました。
「デンタルクエスト」という歯科医の漫画があります。
このなかで、関東信越厚生局から個別指導の通知が来たというシーンがあります。
歯科診療所が多くて、コンビニより多いということで、競争が激しい。
そのために不正をすることもあります。
まさか、漫画で、厚生局からの個別指導が描かれるかと驚きました。医療漫画は勉強になるので、いろいろと読んでおくことをお勧めします。
総合診療医
総合診療医の専門医が新しくできました。
これまで18の診療科に専門医という制度がありましたが、19番目にできました。
漫画に「19番目のカルテ」というのがあります。
その医者は病気ではなく人間を診ると、いうコピーがありました。
これは誰の言葉かというと、高木兼寛の言葉です。
高木兼寛が生まれた宮崎は、総合診療院のまさに聖地です。

日本の医学界の大御所だった高久文麿先生が、ベルツのような医師を育てたかったから設けたとおっしゃっていました。
ベルツは、明治時代にドイツから東大医学部に来た医師で、大人だけでなく、小児も、産婦人科領域、精神科領域についても診療しています。
きつね憑きまで診ています。ツツガムシや草津の温泉も研究しています。
日本を去る前に、第一回日本連合医学会の講演で、「家庭医に努めるべき」と発言をしています。
19番目のカルテは、ドラマ化されます。主役は松本潤さん。
総合診療医をめざす人は、ぜひ見てください。

あなたの顧客は誰か
医師になる自分の将来に備えて、自分の引き出しを作る必要があります。
あなたの顧客は誰か、ということを常に考える必要があります。
あなたに付加価値はあるのか
あなたに競争優位性はあるのか
長期的に大丈夫とか
参入してくる絶対強者がきても大丈夫か
ポジショニングはいいのか
あなたのコンテンツ大丈夫か
将来、医師になる自分へ投資をしてほしいのです。
宮崎県の人口は減ります。高齢化がどんどん進んでいきます。
入院患者は増えますが、患者のほとんどは75歳以上です。
若い人は入院しません。
がんで入院する人は増えません。糖尿病も入院する人は増えません。
入院は、脳血管疾患や心臓疾患は増えます。
神経疾患、筋骨格器、骨折は増えます。
これから糖尿病の専門医になりたいと言っても、ニーズの増大は見込めません。

今日見せたかったのはこのスライドです。
日本では、急性期の臓器別専門医が養成されていますが、本当に大丈夫でしょうか。
世界は総合診療医にシフトしています。
医学部卒業生の半分ぐらいが総合診療医になっています。
患者が、高齢者が中心なので、臓器別専門医では通用しないことから、世界の医師養成は総合診療医に動いているのに、1970年代の昭和医療のままでいいのでしょうか、ということを言いたかったんです。
これはエンゲルという人が作った図に、私が公衆衛生医を追加した図です。
もともとは地域医療の経済学という本に出ています。この本の総合診療医に関する記述を読むと、日本の医師養成は、大丈夫かという気がします。
旧日本海軍の士官養成は、戦艦大和のような戦艦から大砲を打って敵の艦艇を撃破する、日露戦争の日本海海戦の成功体験の教育をしていました。
しかし、実際の戦場は、空母から発艦する航空機による魚雷や爆弾による攻撃や、潜水艦による魚雷攻撃が主でした。二次元から三次元に進化していました。
病院に来た患者の外来受診と入院治療の成功体験から導かれたこれまでの医療は、在宅医療やオンライ診療を希望する患者のニーズとはマッチしません。
新型コロナウイルス感染症を経験した国民は、入院しなくても在宅で医療ができることを知ってしまったのです。もう、ベッドには戻りません。

今後の入院医療は、75歳以上の後期高齢者になります。
皆様方の顧客となるのはこの人たちです。
多くの疾患があり、認知機能が低下し、耳が聞こえないことが多い患者さんです。
歩行による移動が困難だとか、低栄養、骨折しやすい患者さんです。
緩和ケアが必要な場合があります。
また多くの患者さんは、介護保険を受けています。介護施設の入所者です。
こうした患者さんに、臓器別専門医が通用するでしょうか。
高木兼寛の「病気を診ずして病人を診よ」という言葉を思い出すべきではないでしょうか。
今後の方向性

マーケティングの世界では、ブルーオーシャンとレッドオーシャンという考え方があります。
競争相手の多いレッドオーシャンのエリアや領域で戦っても勝ち目はありません。サメがたくさんいる海は血の海です。すなわちレッドオーシャン。
戦うならサメのいないブルーオーシャンです。競争相手の少ないエリア、領域を選ぶべきです。
ヤクルトの監督だった野村監督の本もおすすめです。
「天才に勝つ一芸の極め方 超二流」です。
皆さん方は天才ではありませんので超二流を目指せと。
自分が勝てる場所を見つけて、そこに全てをかける、そうした方がプロ野球では成功する。
そういう本です。

一流の脇役になれ。
チームに不可欠な存在となれ。そうすれば生き残る。
一流を超える超二流になる覚悟でやると、皆さん方は成功します。
生き残ることができます。

これは、医療と公衆衛生の違いを図示したものです。
臨床医はヒーローで感謝されますが、公衆衛生医師はヒールで感謝されない。
しかし、猫が多数いる屋敷だとか,噛みつく犬が地域にいたら、そういう猫や犬を捕獲して処分するヒール役が必ずいるんですね。
猫がSFTSを人に媒介したら困りますし、狂犬病もあります。
実は台湾は狂犬病がない国だったんですけど、野生のイタチアナグマが感染したことがわかり、国を挙げて狂犬病対策をやっています。
日本もいつそうなるかわかりません。
狂犬病は感染したら100%死ぬ病気です。検査法もない。ワクチンだけです。

現在はブーカの時代だと言われます。
VUCAは、変動性、不確実性、複雑性、曖昧性の頭文字をとったものです。
医療界も同じです。そのため私は、MEDICAL VUCAと命名しました。
変動は、技術の急速な進化です。
AIは、確実に医師の仕事を奪います。手術中の管理はAIがやることになるでしょう。麻酔科医の仕事は置き換えられる可能性があります。
不確実性は、新興感染症の発生や大規模な災害の発生が該当します。一体、誰が、新型コロナウイルス感染症のパンデミックを予想したでしょうか。
保健所を行革の対象にする政治家はもうでません。
感染症科の医師は不要という病院長もいないでしょう。
災害発生時に、病院に籠城する医師になりたいですか。
それとも被災地に撃って出る医師になりたいですか。
複雑は、医療政策の変動です。
昔は、医療法は改正されることは稀でした。しかし現在は、頻繁に改正されています。
今後は、オンラインとAIが医療を変えます。
また、医師しかできないことは、次第に他の医療スタッフへとタスクシフト、タスクシェアしていくでしょう。
曖昧は、患者のニーズ多様化です。
新型コロナウイルス感染症の蔓延で、入院患者は減りました。蔓延がなくなっても患者は病院に戻ってきていません。
新型コロナウイルス感染症の蔓延時には、病院に入院できない患者や感染者がたくさん出現しました。在宅で我慢しました。
しかし、このことで在宅でできるのであれば、在宅がいいと患者が目覚めてしまいました。
手術などで入院しなければならない状況意外は、入院はしないです。
その結果が、病院は軒並み赤字です。
患者ニーズが、入院よりも在宅がいいというように変わったんです。
教育もそうです。オンラインでできるのであれば、大学に通う必要はありません。
通うための価値を示せない大学は、衰退していきます。
同様に、入院をするための価値が示せない病院も、衰退していくでしょう。
病床があれば、儲かると言う病院の成功体験はもう通用しません。
大学があれば、学生が集まるという大学の成功体験はもう通用しません。
VUCAの時代は、自分に投資して、自分の経営戦略を持って生きる必要があります。
パブリックヘルス・フォー・ユー
常に人と違うことを考えて、人と違うことをやって自分の価値を高めてください。
それを明日からではなく、今日からやってもらいたいのです。
VUCAと医療については、この本が参考になります。

最後に、災害医療のCSCATTTです。
DMATの先生たちにとっては、共通言語なので、みんな知ってます。
ある県のDMATは、「CSCATTT」と言いながら歩くそうです。
表の下3つのTTTは医者がやることですが、上のCSCAは行政がやります。
災害のときに、こういうことが普通にやれるような医師になってもらいたいです。そうすると皆がハッピーになれます。
まとめると、
公衆衛生はポピュレーションアプローチ、医療ハイリスクアプローチ。
公衆衛生と医療は互換性があり、相互交流は可能。車の両輪のようなもの。
一方が肥大すれば、車は前に進まず、自転するだけ。
平時は、医療おまかせでも、有事は医療だけでは県民の健康を保つことができない。
医療は感染されるが、公衆衛生は感染されない。物議をかもすこともある、それでもやりがいのある仕事です。

自己投資の例はNISAで、自分で投資をしてみてはどうか。
iDeCoで自分の年金作ってみたらどうか。
本を買って、学生会員になって、学会に行ったらどうか。
そしていろんな発表をすると、そうすると運と縁がやってくる、
人は運を運んでくる。
チャンスは人と出会わないと生じません。
そして人を知ることによってチャンスがやってくる。
とにかく自分に自己投資してみてください。世界が広がります。
ハベレオ通信で学ぶ
noteで「ハベレオ通信」という、公衆衛生系の記事を毎朝7時に発信しています。
公衆衛生に関して、15項目で300ほど記事がありますから、これを毎日読むと、きっと公衆衛生大好き人間に変わります。
医学や公衆衛生の歴史がわかります。社会保障法とか災害医療もあります。地域枠の人も読めるように、宮崎のまことしやかな話もあるので、ぜひ隙間時間に見てください。
ということで終わります。
宮崎なら日向坂でしょうが、乃木坂さんです。
終わります。ご清聴ありがとうございました。

