食品事故は、原因の究明に焦点を当て過ぎて、消費者への適正かつ迅速な情報提供が遅延する
1982年の秋に、アメリカのシカゴで、毒入りのタイレノールカプセルで7人が死亡する事件がありました。
猛毒のシアンが混入していたのです。
タイレノールは、ジョンソンエンドジョンソン(J&J)を象徴する鎮痛剤の商品名でした。
タイレノールカプセルを売るJ&J社の対応は、事故から40年以上が経過した今も、健康危機管理の模範例とされています。

同社は、すぐさま、全米の消費者に対して「タイレノールをいっさい服用しないこと」とリコールを発しました。
消費者の手元にあるカプセルは、安全性が確認されたタブレットに交換しました。
これをすると1億ドルがかかるという対応でした。
12万5千回のテレビ放映、専門フリーダイヤルの設置、新聞の一面広告などの手段で回収と注意を呼びかけました。
タイレノールカプセルの製造は中止し、広告はすべてキャンセルしました。
また、異物混入ができない、いたずら防止用の新パッケージを開発しました。

J&J社が、このときに大事にしたのがスピードでした。
「J&J社の製品はすべて危ない」と世間に思われてしまう前に対処したのです。
また「J&J社は真剣に対処する気がない」あるいは「J&J社はきちんと対処できる能力がない」と世間に思われてしまう前に対処しました。
この結果、2か月後の12月には、事件前の売り上げの80%まで回復しました。
株価も、1年たたずに回復しました。

対処をミスすれば、看板製品のタイレノールブランドには消せない傷が残ったでしょう。
最悪、市場から消えていたかもしれません。
この事件の原因は、今も分かっていません。
しかし、米国の消費者は、事件のことなど思い出しもせず、タイレノールカプセルを買っています。

日本の小林製薬の紅麹関連について事実検証委員会は、次のように総括しています。
小林製薬は、
2024年1月中旬に初めての医師からの腎障害例の連絡を受け、
2月1日には別の病院の医師から3件の症例の連絡を受けた。
小林製薬において、その販売する健康食品に関して、今回のように重大な健康被害の連絡が立て続けになされたことはなかった。
このことも踏まえれば、
遅くとも2月上旬以降、
全社を挙げて早急に対処すべき緊急事態として、本件製品を摂取する消費者の安全を最優先に考え、
健康被害の状況の公表や製品回収という選択肢に力点を置き、
直ちに、症例報告を行った担当医師や外部専門家(医師・弁護士)とコンタクトを取り、
また、行政当局に相談して積極的にその力を借りるという姿勢がより強く求められたものといえる。

原因や因果関係の究明も重要であるが、
一般に食品事故の事例においては、
原因や因果関係の究明に焦点を当て過ぎた場合、消費者への適正かつ迅速な情報提供が遅延してしまうことがあり得る。
そうした事態は、
小林製薬の製品を利用する消費者、取引先、小林製薬の役職員を含めた全ての当事者に不幸である。
消費者の安全が最も高い価値であることが浸透し、
これが小林製薬の日々の営みに具現化されなければ、
どのような再発防止策も画餅に帰す。
当委員会としては、
小林製薬及びその役職員が
本件問題と向き合い、
真の再発防止策の履践を全うすること
を強く期待する。

これを読むと、
J&J社では、消費者の安全が最も高い価値であることが浸透しており、
消費者への適正かつ迅速な情報提供をしたことが判ります。
小林製薬の役職員は誰一人として、
約40年前のJ&Jの対応を全く知らなかったのでしょうか。
企業の危機管理の成功事例として、
大変有名なものです。
それこそ失敗事例は山のようにありますが、
成功事例は珍しく、
ヘルスケア関連の企業としてチェックしておくべきでした。

公衆衛生の歴史は大事です。
ハベレオ通信は、今後とも
「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」
というビスマルク流の
公衆衛生の歴史
エピソード
を宮崎から発信していく所存です。
宮崎は、プロ野球のキャンプ真っ盛り。
公衆衛生もプロ野球も、宮崎から始まります。

