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世界の主流は、臓器別の医師ではなく総合診療医である

井伊雅子先生の「地域医療の経済学ー医療の質・費用・ヘルスリテラシーの効果」(慶應義塾大学出版会)という本があります。

プライマリケアのことがかなり書かれており、なかなか参考になることが多いので、ご紹介させていただきます。

井伊先生は、医師ではなく医療経済学者で、現在は一橋大学大学院経済学及び国際・公共政策大学院教授です。

日本の医療と医療政策の問題点を指摘して、他の医療政策や医療経済の本と違ってユニークなアプローチを示しています。

日本の医療政策は、病院中心・高度医療中心という考え方であると鋭く指摘しています。

・住民も医療者も政治家も、「地域医療の充実とは大きな病院を建てること」と考えている。

・国際的に「地域医療」というと、その主役は病院ではなく診療所

・キープレイヤーは、診療所で働く医師、看護師をはじめとする他職種チームのこと

・地域医療は英語では、「プライマリケア」と呼ぶのが適切

・日本が諸外国と大きく異なるのは、地域医療の専門家になるための専門研修が必須化されていないことであり、日本の地域医療が標準化されていない大きな原因の1つである。

地域住民の受療行動を分析した米国での研究を紹介しています。

1か月間の1000人の住民に発生する健康問題とそれに対する住民の対処行動(受療行動)です。

・そのうち750人が1か月に1つ以上の医療や健康に関わる問題に遭遇する。

・そのうち250人は医療機関を1回以上受診し、9人がその月に入院する。5人は家庭医以外の他科専門医に紹介され、大学病院での必要な人は1人だった。

井伊先生は、日本の医療は医療機関を利用する人たちだけを対象としているので、受診した250人だけが地域医療の対象である。

医療機関を受診しない750人の地域住民に関しては情報すら存在しないことが少なくない。

米国の受療動向の研究結果は大いに参考になり、実際の市町村で保健を担当する保健師の感覚とも合っているような気がします。

福島県立医大の地域・家庭医療学講座の教授をつとめた葛西龍樹先生のプライマリ・ケアの定義を紹介しています。

日常よく遭遇する健康問題の大部分を患者中心の方法で解決するだけでなく、医療・介護の適正利用と予防、健康維持・増進においても利用者との継続的なパートナーシップを築きながら、地域内外の各種サービスと連携する調整のハブ機能を持ち、家族と地域の実情と効率性(費用対効果)を考慮して提供されるサービスに加えて、地域住民の包括的な健康の改善にも多職種保健チームが分担して責任を持つシステムである。

必要なことは、地域医療に関する質の高い医学教育と継続的な生涯教育であると指摘しています。

日本にほぼ存在していないのが家庭医療科だ。
慢性疾患の増加、特にメンタルヘルスの問題を持つ地域住民の急増、多疾患併存、ポリファーマシー(多剤併用)、高齢化は、世界の多くの国や地域によって共通な問題で、それに対応した提供体制の改革の大きな柱の一つが、プライマリケアを整備することだ。

各国の取組みを参考にすると、1人の家庭医(家庭医療専門医)が約2000人の住民を受け持つのが標準であるので、6000人から1万人くらいのコミュニティに1件の診療所があり、そこで4人から6人くらいの家庭医が常駐する状態があるとよい。

休暇に加えて定期的な研究日や研修日、出産や育児休暇などを取る医師を考慮するとフルタイム換算で3人から5人程度の医師数になる。

こうした診療所が有床診療所であれば、よくある入院医療についても家庭医がそこで継続してケアできる。

そこで診られない患者は基幹病院の専門医に紹介する。

日本でもへき地と言われる地域でこのスキームに近いモデルを実現している例がある。

岡山家庭医療センター(3診療所と1病院)
北海道家庭医療学センター(7診療所)
福島県立医科大学地域・家庭医療学講座(4診療所と2病院)


共通するのは、「一本釣り」の医師確保ではなく、可能な範囲で良質な教育と研修を提供することにより若手医師を確保するシステムへの転換を行い、地域での医療機関の運営維持に貢献していることだ。

優れた研修と学習環境を提供できる施設に医師は集まる

これらの礼に共通しているのは、郡部であるからこそ地域医療を実践する場であると同時に、教育を提供する場としても魅力的なフィールドになることを示せたことだ。

総合診療(家庭医療)専門医が地域医療の担い手として活躍している北海道と福島の取り組みを紹介しています。

①北海道寿都郡寿都町

人口2600人。寿都町町立診療所。

4人の専門研修を受けた家庭医が働く。

もともとは赤字続きの道立病院を、2005年に町立の診療所に転換し、北海道家庭医療センターから派遣された家庭医療の専門医と多職種保健チームを招聘し、365日24時間の救急も含む診療体制を維持し、教育機関として後期研修医(専攻医)も受け入れている。 

医師のほか、看護師13名、診療放射線技師1名、理学療法士1名、介護福祉士1名、看護助手4名で運営されている。

外来診療1日平均91名。
入院患者平均9人。
訪問診療は在宅40名及び特別養護老人ホーム入所者50名。

高齢化は進むが救急車による搬入は減少傾向で、その理由は重症者に対しては訪問看護が適切に対応するシステムが完備されたこと。

②北海道河西郡更別村 

人口3155人。国民健康保険診療所。

全国公募の医師1名で数十年運営。

2000年に医師が退職して無医村となった。

2001年に北海道家庭医療学センターとの業務提携で家庭医療研修2名の派遣が決定し、家庭医による医療の提供が開始された。 

現在は、家庭医4名(うち3名は家庭医を目指す専攻医)、看護師9名、作業療法士1名、理学療法士1名、看護助手8名、事務5名。

365日24時間の救急を含む診療体制をはじめ、行政と連携して地域包括ケアシステムを構築している。

外来一日66名、入院患者1日平均5.8名、

訪問診療月37.4名、往診月11.4回、

特別養護老人ホーム29名、グループホーム18名の入所者に訪問看護と訪問医療を実施。

看取りも行う。

③福島県南会津郡只見町

人口3781人。国保朝日診療所。

1982年の開設以来、北里大学から医師派遣。2003年に派遣終了。その後、福島県の自治医大卒業生が赴任。

福島県の自治医大卒の医師は、義務の9年間はプライマリケアの専門研修を受ける制度が整備されておらず、義務明け後は臓器別の専門医になるのが普通だった。

2009年から福島県立医科大学の地域・家庭医療学が町と協力して、朝日診療所を教育研修協力機関として整備し、専門研修を受けた複数の家庭医が継続的に地域住民の健康に責任を持つ制度を構築してきた。

4名の家庭医(常勤専門医1名、専攻医1名、非常勤の専門医2名)、

看護師11名、看護助手4名、事務6名。放射線技師1名。歯科もあり歯科医師1名、歯科衛生士2名、歯科助手(事務)1名。

介護老人保健施設、特養、訪問看護ステーション、只見町保健センターが併設・隣接されており、保健・医療・福祉・生活を連携した地域包括ケアの中心を担う。 

外来1日58名、入院患者8人、訪問診療月45人。

地域に医師を集めるためには必要なのは、質の高い研修制度であると指摘しています。

上記3つの地域の共通点は、総合診療・家庭医療専門医の研修施設となっており、多くの後期研修医を受け入れてきたことです。

こうした自治体では、町長、事務長、医療者が、「医療は公共のものである」という意識を共有しており、軽症で救急要請しないなど、地域医療を守る意識が高い。

宮崎県の多くの地域は、高齢者の多い郡部です。

宮崎大学に総合診療医、家庭医療医を養成する講座が新設されるので、国保病院・診療所に派遣して、地域で専門医を養成していくシステムを構築できればいいですね。

地域枠40名の多くは、総合診療医になった方が、こうした地域に行けて大変いいと思います。

世界の主流は、臓器別の医師ではなく総合診療医です。

今後、宮崎大学医学部の地域枠の学生に講義をする機会もあるので、こうしたグローバルスタンダードと将来展望を教えてみたいと思います。

井伊先生は、「日本の医学教育は国際的な基準から特異な点が多い」と指摘しております。

日本の医学教育や研修制度は、主に臓器別専門医を育成する仕組みで、病院で臓器別専門医で働いた後に、地域の診療所で開業医として専門のトレーニングがないまま「地域医療」に従事するのが一般的な医師のキャリアパスです。

そのため、日本の医師は、大学病院や基幹病院において急性期の診療経験があっても、診療所・介護施設・在宅などで慢性期の医療を経験することは非常に限られます。

地域住民の受療行動でも指摘しているように、
1000人の地域住民のうち、入院が必要な人が9人。

その中で専門医による治療が必要な人は5人。さらにその中で大学病院に紹介されるのは1人だけ。

日本のほとんどの研修医はこの15人の延べ入院患者(稀な病気や重篤な疾患)を診るトレーニングを大学病院・基幹病院などで受けているが、
入院以外の991人の地域医療のよくある疾患の治療や予防についてはほどんど学ぶ機会がありません。

そのため、急性期病院の退院後の世界を、医学生や研修医はほどんど知りません。

「退院がゴール」の医療を教わっており、自宅や施設に戻った後の患者のことも考慮できる臨床医の育成はほとんど行われていません。

医療政策の議論では盛んに「在宅医療」の重要性が指摘されるが、医学教育でのその比重は卒前でも卒後でも小さく、高齢者医療や在宅医療は、いまだ「あきらめの医療」なのだと。

そうした質の低い教育の弊害を受けるのは患者です。

在宅医療の体系だったトレーニングを受けていない「在宅医」の質は千差万別です。

質を評価する仕組みもありません。

医学部の博士論文のテーマも動物を対象としたDNAなど遺伝子の実験が主です。

高齢者社会で現場が必要としている研究テーマ、
たとえば
「大腿骨骨折で入院した高齢女性の退院後の最適ケアは何か」
「うつ病と認知症に対するケアで多職種保健チームと医師単独の場合の患者アウトカムのちがい」
「介護予防への家族と地域との関与の効果」
などを分析する研究は、公衆衛生など一部の領域を除いて、適切な研究テーマとは認められにくいのです。

OECD諸国では医師の2割から4割が、主に地域の診療所で働く家庭医であり、医学部の研究テーマも地域に密着したプライマリケア領域のものが多いのです。

多くの国や地域で家庭医療科の医師の育成に力を入れています。

理由として、先進国では20世紀後半頃から、医療専門職の細分化と科学技術重視、医師と患者関係が崩壊しつつあることが問題となりました。医療過誤訴訟も急増しました。

一方で、高齢化が進み、慢性疾患をいくつも抱える人や、メンタルヘルスの問題を抱える人が増えていきました。

そうした状況に対応するために、各国はプライマリケアの専門医の育成を進めてきたのです。

オーストラリアと英国では家庭医が専門医の4割を占め、オランダでは3割を占めます。

プライマリケアの整備が遅れたアメリカでも診療科別の専門医は2位に位置しています。

日本の医療制度を参考に国民皆保険を導入した韓国と台湾は、家庭医の育成を進めています。

家庭医療科は研修先として人気診療科の一つです。

そこで働く医師は、家庭医療専門医であり、診療科の名称も家庭医療科です。

以上の文章は、ほとんど井伊先生が書いたもので、私が思って書いたものではないのですが、おっしゃるとおり!

私はミリタリーの本をよく読むのですが、通じるものがあります。

日本の軍隊は、陸軍も海軍も短期決戦用につくられており、持久戦には対応できないものでした。

海軍の軍艦内のしつらえは、戦闘中心につくられており、長期滞在の仕様ではありませんでした。

兵士が快適に過ごせるようなものではありませんでした。

アメリカの潜水艦では、アイスクリーム製造装置が標準装備されていたそうです。

陸軍は、短期決戦は強いのですが、長期になると、食糧や弾が尽き、医薬品も亡くなり、最後は万歳突撃です。

持久戦をすることが苦手です。

これらの原因は、将校養成教育にあったと思っております。

ということで、教育は大事です。

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