カニよりもエビでんす
林英恵さんの「健康になる大全」(ダイヤモンド社)は面白いです。
食事、運動、睡眠、ストレス予防、酒、たばことのつきあい方など、世の中に「こうすれば健康になる」と言われるものはたくさんあります。
健康のためにやめたいことをやめる方法や、続けたいことを無理なく続ける方法に関しては、世界中の研究社が日々研究を行っています。
そうして、こうすると良いという結果が蓄積されていくのです。
個人的な経験や持論、専門家個人の意見ではなく、これまでの研究からわかっているエビデンス(科学的根拠)に基づくことが大事だと行っております。
「今まで、何をやっても変えられなかった人、難しい話やきついトレーニングは勘弁という人も、大丈夫。
世界中がみなさんと同じことで悩んでいます。あなたひとりではありません。
自分との戦いに負け続けているのであれば、今度は、エビデンスにかけてみませんか?
なんというやさしい問いかけでしょうか。
上から目線ではなく、エビデンスに基づいた健康になる技術でやってみませんかと、同じ目線でおっしゃっております。
エビデンスは外国由来ではなく、もともと日本の貝原益軒の「養生訓」にも出てくるそうです。
人が幸せに長生きするためには「術」が必要であり、健康の習慣は実践して初めて役に立つと説きました。
日本のことわざの「論より証拠」は、英語に翻訳するとこうなるそうです。
Evidence is better than debate.
なんとなくディベートができるほうが偉いと思っておりましたが、無言で証拠を突きつけた方が決定的です。
テレビドラマでは、一風馬鹿そうにみえた刑事が地道に証拠を集めて、最後に犯人はお前だ!と指をさします。
「ば、ばかな。証拠はあるのか?」
その場にいる全員が意外に思っているときに、刑事が証拠を示します。
「ううう。それは。どこで手に入れた?」
と、まあよくある話ですが、エビデンスが大事です。
つまり、カニよりもエビでんす。
現在の医療は、科学的根拠に基づく治療(EBM:Evidence-Based Medicine)が主流です。
治療ガイドラインは、それぞれの診療科の学会が世界中の論文を集めてつくられます。

昔は、医師個人の経験や勘で行われることが多かった治療が、今は客観的なデータに基づいて行われるようになりました。
このように治療方針が変わったのは、一人のイギリス人の医師コクラン教授の影響が大きいです。
ちなみに、コクランは初恋の人に告白をしなかったかどうかは不明です。
1970年代に、医療の臨床現場において、ほとんどの治療方針の決定が医師の経験や勘で行われ、生物学的なメカニズムの理論を基に行われている事を問題視しました。
理論的には正しくても、やってみなければわからないという医師の経験や勘に頼れない事柄が増えていきました。
最適だと思って行った治療に効果が出なかったり、治療したことでさらに状態が悪くなってしまう事態が多く発生するようになったのです。
そこで立ち上がったのがコクラン教授でした。
「研究者は、様々なデータや知見を系統的に分析し、世界中で共有すべきだ」として、医療の現場でエビデンスを基に治療を行うことの大切さを説き、共有するための仕組みを作りました。
この考え方を支持する医師や研究者らの努力によって、20年近くの年月をかけて、ようやく1991年に、エビデンスに基づく治療(EBM)という言葉が論文として登場しました。
たった30年前の話です。
同じように、病気の予防においても、エビデンスに基づいた戦略が重要です。
これを1つの柱として研究するのが公衆衛生です。

コクランについて調べてみました。
初恋の人に告白しなかったかどうかはともかく、第二次世界大戦中に軍医として従軍しました。
捕虜キャンプに勤務しました。
そのときの経験で、「治療薬がなかったからといって、全員が亡くなったわけではない」という事実に示唆を受けました。
「人は自らを治していく力がある」という信念を持つようになります。
医師の医療技術万能という発想に歯止めをかけることをめざします。
「何もしなくても、人間には回復する能力があるのだから、何かを出すときには、十分なエビデンスがなければならない」と悟りました。
この発想がEBMの原点です。
疾病の治療に関する医学論文をレビューして、その結果を、情報技術を用いて届けるというプロジェクトが、1993年にイギリスの国民保健サービス(NHS)の一環としてスタートしました。
このプロジェクトは、コクランの名前を冠して、「コクラン共同計画」と言われています。
世界的なプロジェクトとなっており、多くのボランティア作業で、系統的なレビューをされた結果が、「コクラン・ライブラリー」として、インターネットで公開されています。
エビデンスのピラミッドがあります。証拠の質が高い順番にいえば、こんな感じです。
①複数の研究の総合的なレビューの結果
②無作為に割り付けた研究結果(ランダム化比較実験)
③前後比較・準実験(対照群のあるもの)・観察研究の結果
④事例やケース
⑤専門家個人の意見・動物実験・試験管での実験の結果
昔は、テレビでみのもんたさんが、ココアは認知症予防になる、と言えばココアが売り場から消えるという現象がありました。
これは駄目です。エビデンス的には最下位です。
とにかく、人・組織の名前や知名度、動物・試験管のような器具のみで行われた実験、にだまされないことが重要です。
「それってあなたの感想ですよね? はい、論破!」
が正しい健康情報の解釈です。
