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COPDの病名を肺スカスカ病に変えれば我が国のプライマリ・ケアの質が上がる

厚生省は、1958年に高齢者の脳卒中を予防するための検診を始めるときに、「老人検診」という名称では40歳~50歳の人が来ないからと「成人病検診」という言葉をつくります。

それを受けて、日本成人病学会という学会ができたり、各地に成人病検診センターが誕生しました。

聖路加病院の病院長をされていた日野原重明先生は、

「成人病」という病名はおかしい
「アダルドディジーズ」と言っても
英語では「大人の病気」という意味しかなく
外国人には通じない


と30年間にわたって言い続けてきました。

人がどんなに塩分・糖分を摂るかという食習慣や運動の習慣、あるいはお酒やたばこの習慣が重なり合うと発生する病気を、
英語では「ライフスタイル・リレーテッド・ディジーズ」と言うので、
それを日本語に訳せば「生活習慣病」となると、対案まで出していました。

1996年に、厚生省の科学技術担当審議官の大谷藤郎氏が、ようやく取り上げてくれて、「生活習慣病」という名称が定着していきました。

上記は、日野原先生の書かれた「だから医学は面白い 幻(ビジョン)を追い続けた私の軌跡」の中にあります。

厚生省は、「成人病」という用語を、

主として脳卒中、がんなどの悪性疾患、心臓病などの40歳前後から急に死亡率が高くなり、しかも全死因の中で高位を占め、40歳~60歳の働き盛りに多い疾患

という意味で使っていました。

対策としては、早期に発見して治療を行うための集団検診が中心で、
二次予防と三次予防が中心の
ハイリスクアプローチ手法を採用していました。

ところが、
生活習慣とこれらの疾患との関係が明らかになっていき、
健康的な生活習慣を確立することにより、
疾病の発症そのものを予防する一次予防の考え方が重視されるようになりました。

そこで、国民に生活習慣の重要性を喚起し、
健康に対する自発性を促し、
生涯を通じた生活習慣改善のための個人の努力を社会全体で支援する体制を整備するため
「生活習慣病」という概念の導入が
提案されたのです。

健康診断で異常のある人に介入する
ハイリスクアプローチから、

一般的な人に野菜の多い食事や、禁煙、運動などの健康な生活習慣を呼びかける
ポピュレーションアプローチ
への政策変換でした。

その運命の日は、1996(平成8)年12月18日です。

公衆衛生審議会で意見具申がなされています。

生活習慣病は、食習慣、運動習慣、休養、飲酒等の生活習慣がその発症・進行に関与する疾患群、と定義されました。

疾病の危険因子には、遺伝要因、環境要因、生活習慣要因があります。

遺伝要因には、人種、性別、家族歴、加齢があります。

環境要因には、病原体、有害物質、ストレッサー、気候があります。

生活習慣要因には、食事、運動、休養、飲酒、喫煙があります。

これらの要因の中で、個人が改善することが可能なのは、生活習慣です

生活習慣病以外で、名称が変更された代表的な疾患は以下があります。

らい病は、ハンセン病
分裂病は、統合失調症
痴呆は、認知症


と変更されました。

生活習慣病は、名称を変えて一次予防のポピュレーションアプローチをしっかり展開するという政策がありました。

ハンセン病、統合失調症は、
差別的な名称を変えて偏見をなくすこと
に重きを置かれ、
認知症はそれに加えて、
早期発見・早期診断を促す
という政策がありました。

私は、厚労省のがん対策・健康増進課長のときに、国会議員で組織するCOPD対策議連に呼ばれたことがあります。

COPDは、慢性閉塞性肺疾患の頭文字です。

国民には何の病気か全くわからないので、
誰でも分かるように
肺スカスカ病
に変えたらどうか、と提案しましたが、
秒で却下されました。

全世界が、この名前を使っているので、
日本だけ変えるのはダメ、だとのこと。

略して「肺スカ病」にしていたら、
国民の理解が得られ、COPD対策も進んだのにと思うと
今も後悔しております。

もっと強く言うべきでした!
ただ、横須賀市からクレームが入ったかもしれません。

いやいや、そんなことよりももっと大事なことがあります。

井伊雅子先生の「地域医療の経済学」を読むと、COPDという疾患の重要性がわかります。

世界の多くの国では、プライマリ・ケアを整備することで、健康、患者満足度、公平性、効率性、費用対効果など医療制度における重要な要素を向上できると認知されています。

OECDは、プライマリ・ケアの質の指標として、次の病気を掲げています。

①気管支喘息
②COPD
③うっ血性心不全
④高血圧
⑤糖尿病

プライマリ・ケアの質が高ければ、これらの疾患の入院を回避することができます。

しかし、日本では、COPD患者の入院数の低さが、プライマリケアの質の高さを表しているということはほとんど知られていません

そもそも日本では、呼吸器内科の医師以外には、COPDの早期発見の重要性があまり認知されていません。

日本の医療機関では、COPDの系統的な検査法が普及していません。

つまり日本では、COPD患者を適切に診断できていないのです。

COPDは国民の問題というよりは、医師の側の問題だったのです。

COPDという呼吸器内科の医師しかしらない病名を、肺スカスカ病に変えてすべての臨床医に教育し、系統的な検査法を示して早期に発見して外来で適切な治療を行い、肺スカスカ病患者の入院を回避することが、プライマリ・ケアの質を上げることになると、議連で議論して、将来の方向性を決めておけばよかった。

この議連の事務局長だった議員の方は、今はタレントとなっています。

肺スカスカ病に病名を変えて、呼吸器内科が扱う病気から、プライマリ・ケアのターゲットとなる疾患にチェンジしていくことはできないかしら。


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