生理に伴う症状による日本社会の労働損失は年間4911億円に達する
令和8年2月の第221回国会における高市早苗総理大臣の施政方針演説を覚えておられるでしょうか。
生涯にわたる女性の健康を国を挙げて支え抜きます。
我が国が直面する人口減少社会において、全ての国民がその能力を最大限に発揮するためには、何よりも健康がその基盤でなければなりません。
これまで十分な光が当たってこなかった「性差医療」の視点を、我が国の医療政策の柱に据えます。
昨年設立された国立健康危機管理研究機構及び女性の健康総合センターを中核とし、更年期障害や月経に伴う不調、乳がん・子宮頸がんといった女性特有の健康課題に対し、最新の知見に基づいた診断・治療体制を全国に普及させます。
特に、更年期離職などの社会的損失を防ぐため、企業の健康経営を後押しし、職場における理解促進と柔軟な働き方の普及を加速させます。
加えて、若い世代からのプレコンセプションケアの普及により、将来のライフプランに寄り添った健康管理を強力に支援してまいります。
この演説を聞いて、なるほどと納得しました。
厚労省のがん対策・健康増進課長のときに、自民党に女性の生涯にわたる健康支援プロジェクトチーム(PT)が発足して、その会合に何度か呼ばれて出席したことがあります。
このときの自民党の政調会長は高市氏でした。
女性には女性特有の病気やホルモンバランスの異常があり、生涯にわたって健康支援が受けられるような仕組みが必要だということで、PTの議員さんといろいろと意見交換をしたことがありました。
このときの経験もあって、女性初の総理大臣となったことで、女性の生涯にわたる健康支援を施政方針演説に盛り込んだのだと理解しました。

最近、堀江貴文氏と産婦人科専門医の三輪綾子氏の『女性の「ヘルスケア」を変えれば日本の経済が変わる』予防医療普及協会[監修](青志社)という本を読みました。
この中で堀江氏は、次のように述べています。
女性の社会進出が進まない要因にはさまざまな問題がある。
なかでも「男女の身体の違いに起因する『女性の健康問題』への男性の理解のなさ」と「制度的なケアの不十分さ」の2つだと、僕は考える。
たとえば生理にともなって起きる症状には、下腹部痛、腰痛といった一般に「月経痛」と呼ばれる症状のほかに、吐き気、頭痛、疲労、いらいら、憂うつなど多岐に渡る。
男性が想像する「生理の期間」よりも前の時期に、同じような症状が出ている女性もいる。
症状の重さは個人差があるが、重い体調不良が毎月1週間~10日ほど続く人もいるし、なかには出社がままならない状態になる人もいる。
しかし企業の経営者や管理職の大半は、そんな事情は知りもしない。
労働基準法で「生理休暇」の取得が認められていることも知らない人が多いだろう。
なかには生理に伴う症状が理由で仕事を休んだ社員に対し、「気合いが足りない」「サボっているだけ」といった発言をする人すらいる。
そんな状況で、女性の社会進出が進むわけがない。
女性には更年期障害の症状が重い人も一定数おり、それで出世を諦めたり離職したりする人もいる。
これまでの日本社会では、女性が自分の持つ能力を100%発揮できない状況があったのだ。
そして、女性特有の健康問題で苦しむ社員を放置することは、企業にも大きな経済損失をもたらす。
たとえば生理に伴う症状による日本社会の労働損失(欠勤や労働量・労働の質の低下)は、年間4911億円に達するという試算結果もある。この試算結果は経済産業省も紹介しているし、女性の健康問題の解決に取り組む人たちの間では非常に有名なものだ。
なおこの金額は、医薬品の負担や通院費用までを含めると6828億円まで膨れ上がる。
男性の多くは女性の生理に伴う症状の辛さをなかなか理解できない。
そのため、男性を中心に経営が廻る日本の企業では、女性のヘルスケアの制度が十分に整備されてこなかった。
堀江氏は、「経営層にこの問題を訴えて、トップダウンで制度を変えてもらったほうが問題の解決は早くなる」と考えています。

一方、産婦人科の専門医の三輪先生のご指摘には驚きました。
生理の回数が、100年前は一生のうち50回程度だったのが、いまは450回にもなっている!
現代女性の生理回数が100年前の女性の9倍になったのは理由があります。
①栄養状態の改善により初潮の年齢が早まった
②妊娠・出産の回数が減少したため、生理の回数が増加した
妊娠中は女性の生理は止まり、出産後も授乳の時期が長いと生理が再開するまでの期間が遅くなります。
昔は、粉ミルクもなく、授乳期間はその分長くなっていました。
生理の回数が多くなれば、生理に伴う心身の症状は、特に「働く女性」にとって大きな問題となります。
こうした女性の生理に伴う症状は、少子化や寿命の延長等、といって社会の変化や、女性のライフスタイルの変化に伴って浮上した「現代病」といえるもので、だからこそ、その解決は社会全体で取り組むべきだと三輪先生は述べております。
こうした現代的な病については、まず女性自身の意識がおいついていません。
もちろん男性の意識もおいついていませんし、企業のケアや社会の制度も追いついていない。
みんながそうした変化を意識せずに、何となく昔のままのやり方で対応しているので、さまざまなひずみが生まれているのが、いまの日本社会の現状で、そのためまずは女性も男性も企業も、認識のアップデートが必要だと指摘しています。
日本の人口の半分を占める女性の人材を確保し、育成することが、企業の成長には必要になる。
女性の健康のケアや労働環境の整備を行い、女性が働きやすい環境になっている企業は、あらゆる社員にとって働きやすい企業になる。
子宮頸がんや乳がんといった女性特有のがん、働きながら不妊治療を受けることが難しい状況など、まだまだご指摘は続きます。

正直、ホリエモンさんが、女性の健康支援の現状を変えようという活動をしていることを私は知りませんでした。
今回の高市総理の施政方針演説の女性の健康のくだりに注目したマスコミはあったでしょうか。
男性中心のマスコミは、それこそ経済界と同様にやり過ごしたのではないでしょうか。
私はたまたま課長として、女性の健康支援について担当をしたので、高市総理の演説に気がつきましたが、皆さんはどうでしょうか。
生理の回数が9倍にもなった現代社会で、そうした生理に随伴する症状に悩む女性の健康支援は社会全体で考えることが必要だと思いました。

労働基準法に生理休暇を入れたのは、戦前の内務省で女性唯一の工場監督官だった谷野せつ氏です。
戦前から戦中と一貫して「働く女性」の過酷な労働環境の改善、母性保護に尽力しました。
戦後は、労働省の二代目の婦人少年局長となっています。
いつか、谷野せつ氏をモデルにした小説を書きたいと思います。
