実録・「野糞禁止法」ができるまで
厚労省時代に、若手の医系技官を相手に政策の講演をしたことがあります。
そのときに異様に受けたのが「野糞禁止法ができるまで」です。
これは、宮崎県の公衆衛生医師の募集をするときにも、講演で紹介しています。
もしかすると野糞禁止法の話をしたので、副作用として公衆衛生医師がなかなか確保できないのかもしれませんが、会場では受けていました。
昼食時にハベレオ通信を読んでいる人がいるかもしれませんが、あまりくさくない話なので、大丈夫です。

野糞で飲料水が汚染され多数の人が亡くなった。
某全国紙の新聞社が一面トップでスクープ報道をした。
会見の場で記者たちに取り囲まれた大臣は、厚労省で野糞を規制するための検討会を開催することを約束した。
早速、日本の各大学医学部から、野糞の専門家・研究者が集められ、検討会が設置された。
野糞の有害性の評価が行われ、多くの子どもたちが野糞由来の病原性大腸菌O157の暴露を受け、腎不全や脳障害となっていることが明らかにされた。
そうした暴露を防ぐためには、野糞を禁止することが不可欠であるという報告書がまとめられた。
省内の一室に設けられた通称「タコ部屋」に法令事務官・医系技官・獣医系技官ら集められ、検討会の報告書に基づき法案作成が開始された。
内閣法制局の法案審査で参事官から、「野糞」は法令用語としては不適当だと指摘を受け、「野外に排出される糞便の適正な管理等に関する法律」に修正された。
各省協議で、農水省からは、人糞を肥料に使用する場合の除外規定を設けるよう修正意見が提出された。
その結果、「但し、畑作の場合はこの限りではない」と但し書きを入れることにした。
法案要綱、法案を作成し、厚生科学審議会に諮問し、即日答申を受けた。
与党の厚生労働部会では、人の生理的現象に制限を加えるのはいきすぎだと反対意見が出された。
一方、野糞によって子どもの命が奪われてもいいのかと規制に賛成する議員もおり、紛糾した。
最終的な落とし所として、国民の自由を制限する法律であることから十分な周知期間をおくことで、部会長一任で了解した。
厚労省の担当局の幹部を総動員した議員根回しが成功して、与党の政務調査会、総務会は無事通過し、野糞禁止法案の与党審査が終了して閣議決定となった。

法案は衆議院に提出されたが、審議されずに据え置かれた。
いわゆる「つるし」だ。
与野党の国会対策委員長会議で、法案の取引が行われ、ようやくつるしが降りて、衆議院の厚生労働委員会の審議日程が決まった。
審議時間は、一日の6時間コース。採決までいく。
野党議員から100問を超える質問通告を受けた。
厚労省の担当局では徹夜で答弁書を作成し、なんとかしのいだ。
採決の結果は、賛成多数となった。
衆議院本会議で厚生労働委員長から報告された後に採決されて、賛成多数で衆議院を通過した。
参議院へ回された。参議院厚生労働委員会は一日の4時間コース。
しかし、参議院の厚労委には厚労省の天敵が3人もいた。
所属する政党は違うが、この3人が質問に立ち、マシンガンのような容赦ない質問を浴びせた。
徹夜明けで疲労が蓄積していた局長は、一瞬意識が飛んで、議員の質問がわからずに、答弁がかみ合わなかった。
「そんなことは聞いていない! こんな簡単な質問の答弁をできない局長で大丈夫なのですか。大臣っ! もうこれ以上法案審議なんてできないですよ!」
怒る議員。怒号の飛ぶ委員会室。
委員長席にかけよろうとする与野党の筆頭理事……。
絶体絶命の局長を救ったのは、背後から絶妙なメモだしをした課長補佐だった。
局長の答弁は議員の質問に的を得た回答であったことから、リカバリーができた。
質問は再開され、大臣を中心に厚労省職員が一丸となって、なんとかしのぎきって採決まで持ち込んだ。
最終的に参議院本会議でも賛成多数で成立した。
法案成立後の国会議員への挨拶まわりで、ねぎらいの言葉を受けた官房長と担当局長、官房総務課長らは涙にくれた。
交付日は十分な周知期間をおいて定められた。
省令、告示、局長通知、Q&Aを作成し、都道府県担当者への説明会に臨んだのであった。

なんかこんなことを話したような気が……。
しかし書いていて疲れましたわ(汗)。
使ったスライドは次のとおりです。



実際には、利害関係者との調整や、新たに補助制度などが必要なものは予算措置をしなければならないので、もっと時間と手間がかかります。
野糞禁止法はフィクションですので念のため申し添えます。
まさか本当にあるとは思わないでしょう。ん、これは、小説になるかも。
これで直木賞は確実かしら?
ちなみに、朱戸アオさんの漫画「インハンド プロローグ1 メネシスの杖」は、厚生労働省の医政局に勤務する女性の医系技官が登場します。
かなり取材しているなと感心しました。
「本質安全」の発言から安全衛生部に勤務していたこともわかります。
リアルな描写で、おすすめです。
