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日本一小さな町のnote #15[水]

久しぶりの投稿になりますが、日本一人口の少ない町・山梨県早川町の魅力をお伝えするnote、カメラマンの鹿野です。

さて、このnoteで取材した写真をもとに今年1月、東京・銀座のソニーイメージングギャラリーにて個展「この雨が地維より湧くとき」をやらせていただきました。早川町を舞台に、水を切り口にした写真展でした。

2週間の会期中は実に多くの方々にお越しいただきました。はるばるお越しくださった町民のほか、町出身だったり、あるいは親戚がいるという方もいらっしゃいました。また登山や温泉が趣味で行ったことがある(あるいはよく行っている)方も多かったです。友人や知人が意外なところで早川町と接点があったケースもちらほら。日本一人口の少ない町ですが、縁のある人の数は決して少なくないことを実感しました。

もちろん大半は早川町に行ったこともなく、「どこにあるんですか?」という方ですが、行ってみたいなぁ…という声もたくさん聞かれました。これから誰かと早川町の新たな縁が生まれる機会が作れたのなら、作者としてこれ以上うれしいことはありません。

早川町町制60周年を記念して、僕が写真集『日本一小さな町の写真館』を出版したのが2016年(※今回の写真展の会場で、すべての在庫が完売いたしました。これまでお買い上げいただいた方々に感謝申し上げます。作者としては寂しさもありますが…)。このときから、次に早川町をテーマにした作品を制作するなら、水をテーマにしようと考えていました。早川町内を貫く県道37号線は、片側に早川が流れ、反対側は法面になっているところがほとんどです。その法面から水がしみ出しているのをよく見かけます。また湧き水もいくつかあり、水を汲んでいる光景を見かけます。良い水に恵まれているせいか、町民の皆さんは肌つやがいいのも特徴です。それを写真で伝えられたら…と思っていました。

甲府盆地は晴天率が高いことで有名ですが、反対に早川町は年間降水量が2000mmを超えることが多い多雨地域。もっとも僕個人は雨に降られた記憶が少なく、天気予報は雨でも晴れに恵まれたことが多いです。ただしいわゆる“山の天気”で、晴れているのに突然ひと雨降ることも珍しくありません。また標高が高く奥まった場所は集落と違う天気だったりもします。そうして山に染み込んだ雨がおよそ20年後、再び地上へと湧き出してくるのです。

そのひとつが、草塩橋のたもとにある湧水。今回の写真展に合わせていろいろ調べるうちに、かつてここは「南アルプス源流水」と名付けられ、湧水公園にする計画があったことを知りました。その頃猛威を振るったO157の影響で計画は立ち消えになったようですが、そんな人間の都合に関係なく、水はこんこんと湧き続けています。

地元の人が車を停めて飲み水を汲むほか、何本ものボトルに詰めていたり、なかにはタンクを積んだ軽トラでやってきて満杯にしていく人もいました(用途を尋ねたら、神奈川のきのこ農家さんでした)。生で飲用する際のリスクはゼロではないので、正直おすすめはしにくいのですが、口に含むと実にまろやかです。僕は以前からポリタンクで汲んで帰り、沸かしてコーヒーを淹れています。

その口あたりもさることながら、崖の下に金属板を叩いて作った樋があり、その素朴な雰囲気に写真家として魅了されます。山があり、水が湧き、人がそれを汲む。町の人たちに言うと不思議そうな顔をされるのですが、僕にとってはその光景が早川町の象徴でもあります。

というわけで今回の写真展に向けて、相当な時間ここで待って、水を汲む人を何人も撮らせていただいたのですが、展示のイメージに合うような写真が撮れず…。いろいろ悩み、早川町在住の絵師・映水さんにモデルをお願いして、上のポートレートを撮影しました。雅号がまさに今回の写真展とシンクロ…というのは、写真展が始まってから気付いたのですが。今回大小37点を展示したなかで、もっとも反応があったのがこの写真でした。もちろん映水さんの佇まいによるところが大きいのですが、いいロケーションで撮れたおかげでもあると思っています。

また“水そのもの”を撮った写真も展示しました。上の写真ですが、こちらは新倉湧水で撮影しました。湧き出る水の中に防水仕様のカメラをつっこんでいます。思いつきで撮ってみたら予想外に結果がおもしろく、何度も通って5000枚ほど撮影しました。

ちなみに新倉湧水はこんな場所。糸魚川静岡構造線が露出している新倉断層の駐車場脇にあります。こちらもとてもまろやかな水で、やはりポリタンクなどで大量に汲む人の姿を見かけます。草塩橋のたもとは車が停めにくいこともあり、僕も最近はここの水を汲むことが多いです。上の写真も息子と汲んだときのもので、以来息子は僕が早川町から帰ると「水は? 水は?」。6歳なのでこの水でコーヒーの代わりに麦茶を煮出して飲ませています。

あと町内で誰でも汲める湧き水は、奈良田の湯の手前でしょうか。以前このnoteでも紹介した秘境冒険民宿・山人砦の軒先にあります。

地元の家族が汲むところを撮らせていただきました。今回の展示の締めくくりに使いましたが、この写真も反応が多かったです。さらに集落を登っていくと奈良王神社があり、その手水舎に湧くのが御符水。湯治でこの地に逗留した第46代・孝謙天皇も飲食や墨にこの水を使われたといいます。

また奈良田で水といえば、奈良田湖(西山ダム)も外せません。吊り橋で湖の中央を渡ることもでき、周辺はちょっとした散策コースでもあります。

そのときどきでエメラルドグリーンだったり群青色だったり、水面の色が異なるのも奈良田湖の特徴。かつてはここに奈良田の集落がありましたが、昭和32(1957)年に発電のためのダム湖が完成。集落は現在の高台に移転しました。奈良時代から続く奈良田の歴史は、この湖面の底に眠っているのです。

ちなみに奈良田には3つの県営水力発電所があります。ダムの上流にある巨大な発電所が、昭和36(1961)年から稼働している奈良田第一発電所。ダム沿いにあり、使用した水を直接放流しているのが第一と同時に作られた奈良田第二発電所。その隣には昭和60年から奈良田第三発電所も稼働しています。そしてダムの堰堤脇には令和2()年、小規模な西山ダム発電所も完成しました。ダムの維持放流でプロペラを回し、一般家庭約90軒分の電力を発生させます。

西山ダム発電所の発電機
ここは奈良田湖の畔にある取水口監視所。西山ダムのダムカードもここで配布しています。

奈良田湖のさらに5kmほど下流には西山発電所、そして雨畑や早川の下流にも発電所があります。実は早川町にはかつて電力会社がありました。大正7(1918)年に早川電力株式会社が設立され、静岡県西部などに電力を供給。関東大震災の影響もあり、設立から間もなく他の電力会社と合併しますが、設立した発電所は現在も東京電力の早川第一発電所として稼働しています。そもそも現在町を貫く県道37号線は、その早川電力が切り開いたトロッコ軌道が起源です。南アルプスから湧き出る豊富な水は、町民の生活はもちろん、電力という見えない力となって、さらに遠くの暮らしや産業を支えているのです。

また正確には水ではなく土砂を防ぐための施設ですが、町の史跡として春木川の栃原堰堤(写真上)があります。昭和8(1933)年に完成し、暴れ川として恐れられていた春木川の流域には学校や旅館、家屋が立ち並ぶようになりました。国指定の登録有形文化財である現在も、建造当時の姿で七面山から流れ出る土砂を食い止めています。小さな駐車場と春木川へ下る道が整備されているので、ぜひお立ち寄りください。直下で見るとなかなかの迫力です。

また夏は早川で川遊びやラフティングも楽しめます。南アルプス生態邑・ヘルシー美里では子供の年齢に合わせた川遊びのアクティビティを企画しており、昨年夏は僕も息子と、保育園のお友達家族もお誘いして参加しました。

今年も参加するつもりです!

というわけで水に関するあれこれをお伝えしましたが、最後に一番大事なことを。早川町へお越しの際は、空のペットボトルやポリタンクをお忘れなく。


早川町の観光に関するお問い合わせは、早川町観光協会(TEL0556-48-8633)までお気軽にどうぞ。県道37号沿いの南アルプスプラザには、スタッフが常駐する総合案内所もあります(9〜17時・年末年始以外無休)。


■写真・文=鹿野貴司
1974年東京都生まれ、多摩美術大学映像コース卒業。さまざまな職業を経て、フリーランスの写真家に。広告や雑誌の撮影を手掛けるかたわら、精力的にドキュメンタリーなどの作品を発表している。公益社団法人日本写真家協会会員。

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