第5話 細胞は小さな海でした
毎日、厳しい暑さが続いていますね。この時期になると、ニュースでは毎日のように「熱中症」という言葉を耳にします。
熱中症というと、「水分をしっかり摂りましょう」という話になりがちですが、実は本当に大切なのは、水だけではありません。
生命が正常に働くためには、「体の中の環境」が整っていることが何より大切なのです。私たちの体は、約40億年前に生命が生まれた「海」という環境を、今も体の中に受け継いでいます。
今回は、その海が、いったいどこにあるのか。
37兆個の細胞が織りなす、小さな生命の世界を一緒に旅してみたいと思います。
第4話のおさらい
40億年前、生命は海で誕生しました。そして長い進化の末、生命は陸へと歩み始めます。
けれど、そのとき海を置いてきたわけではありませんでした。
生命は、自らが生きるために必要な海という環境を、体の中へ受け継いできたのです。では、その海は、今どこにあるのでしょう。
その答えは、私たちの体をつくる約37兆個の細胞の中にありました。
第5話 細胞は小さな海でした
1. 海は、どこへ行ったのでしょうか
生命は海から陸へ上がるとき、海を捨てなかった。では、その海は、いったいどこにあるのでしょうか。
実は、その答えは、私たち自身の体の中にあります。
私たちの体は、およそ37兆個の細胞からできています。そして、その一つひとつの細胞は、外側を「細胞外液」という水に包まれ、内側は「細胞内液」という水で満たされています。
つまり細胞は、外にも海があり、内にも海がある。
その小さな海の中で、一瞬も休むことなく生命活動を続けています。生命が40億年前の海を持ち運んだ先は、まさに、この37兆個の細胞だったのです。

2. 小さな海には、小さな住民たちが暮らしています
細胞の中は、ただ水が入っているだけではありません。
そこには、それぞれ大切な役割を持った小さな仲間たちが暮らしています。
エネルギーをつくるもの。
生命の設計図を守るもの。
必要なものを組み立てるもの。
役目を終えたものを片づけるもの。
それぞれが自分の仕事を黙々と果たし、お互いに助け合いながら、一つの生命を支えています。
まるで、一つの町のようです。
誰か一人が頑張っているのではありません。
それぞれが自分の役割を果たしているからこそ、一つの細胞が生きていられるのです。
細胞とは、単なる小さな袋ではありません。細胞内液という海の中で、多くの仲間たちが暮らす、小さな生命社会なのです。

3. 細胞の中の海は、本当に海でした
ここで、もう一つ驚くことがあります。
生命が40億年前に誕生したとき、その舞台は海でした。
その後、生命は海から陸へと活動の場を広げていきましたが、海を置いていったわけではありません。
現在、私たちの細胞の中や外を満たしている水は、ただの水ではありませんでした。
細胞内液は、生命が誕生した頃、40億年前の海を。
細胞外液は、生命が陸へ上がる頃、5億年前の海を。
私たちの体は、40億年という時を超えて、その二つの海を今も抱き続けています。
だから私たちは、海から生まれた存在なのではありません。
40億年前の海を、そのまま体の中に宿して生きている存在なのです。

4. 私たちは、40億年前の海を抱いて生きています
私たちは、「海から生まれた」と教わります。
それは間違いではありません。
けれど、本当はもう一歩先があります。
私たちは海から生まれただけではなく、
今も海とともに生きているのです。
37兆個もの細胞の中で、小さな海が生命を育み、
その中で無数の小さな仲間たちが働き続けています。
私たちが息を吸うことも、
心臓が動くことも、
考えることも、
笑うことも、
その小さな海があるからこそできることです。
40億年前の海は、遠い昔の物語ではなく、それは今、この瞬間も、私たちの体の中で静かに生命を支え続けているのです。
- - - 次 回 予 告 - - -
では、その「体の中の海」は、現在の海水とどれほど似ているのでしょうか。
実は、その成分を比べてみると、驚くほど多くの共通点が見えてきます。
次回、第6話は、「体液は海水にとてもよく似ていました」というお話をお届けします。
