第3話 私たちの体の中には、海があります。
第二章 生命は海から生まれた
― 海という環境を受け継ぐ ―
第2話の振り返り
前回は、私たちの体が約37兆個もの細胞によって支えられていることを見てきました。
細胞は、それぞれが呼吸をし、栄養を取り込み、エネルギーをつくりながら、小さな生命として生きています。
そして、その細胞が本来の働きを発揮するためには、生命が生きられる「環境が調えられている」ことが欠かせませんでした。
では、その環境は、いつ、どのように生まれたのでしょうか。 その答えを探すために、今回は40億年前、生命が誕生した地球へ旅をしてみたいと思います。
第3話 私たちの体の中には、海があります。
1. 生命は海から始まりました
私たちの体の中には、海があります。突然そう言われると、不思議に思われるかもしれません。
けれども私は、これは比喩ではなく、生命の歴史をそのまま表した言葉だと思っています。
約40億年前、生命は海で生まれました。 そして生命は、その海という環境を失うことなく、体の中へと受け継ぎながら進化を続けてきました。
だから私たちの体の中には、今も海があります。
40億年前の地球は、今とはまったく違う世界でした。
空にも海にも、私たちが呼吸している酸素はありません。
陸には植物もなく、オゾン層もありませんでした。
激しい火山活動が続き、隕石が降り注ぎ、強い紫外線が地表を照らしていました。
生命にとって、陸はまだ生きられる場所ではありませんでした。
しかし、海だけは違います。
海は生命を育む環境でした。
水は急激な温度変化をやわらげ、強い紫外線から生命を守ります。
さらに、火山活動によって運ばれた鉄や硫黄、さまざまなミネラルが海へ溶け込み、海底では熱水噴出孔から熱と化学物質が絶えず供給されていました。
生命の材料も、生命を動かすエネルギーも、その海には少しずつ集まり続けていたのです。
科学者たちは、このように生命の材料が豊富に溶け込み、生命を育んだ海を「生命の原始スープ(Primordial Soup)」と呼んでいます。

2.生命を生んだのは「環境」でした
スープは、具材だけではできません。
水があり、火があり、時間があり、それらが調和して初めて一つの料理になります。
原始の海も同じでした。
生命の材料は、何億年もの時間をかけて出会い、混ざり合い、そして、試行錯誤を繰り返しながら、やがて最初の生命へとつながっていったのです。
ここで、一つ大切なことがあります。
生命は、材料だけで生まれたのではありません。
生命は、環境が調ったときに初めて生まれました。
水があり、
熱があり、
ミネラルがあり、
エネルギーがあり、
そして、気の遠くなるような時間がありました。
生命を生み出したのは、一つの物質ではなく、それらすべてが調和した「環境」だったのです。
でも、その後、生命は、ただ環境に守られながら生きてきたわけではありませんでした。
生命は環境に育まれ、その生命が環境を変えてきました。
たとえば、海に現れた小さな細菌は光合成によって酸素を生み出し、海そのものの姿を大きく変えていきました。
海が生命を育み、
生命が海を変え、
新しい海が、さらに新しい生命を育む。
40億年とは、この営みの積み重ねだったのです。
海も生命も、同じ姿のまま40億年を過ごしてきたわけではありません。
互いに影響し合いながら、ともに変化し、ともに進化してきました。
つまり、私たちが受け継いでいるのは、40億年前の海水ではなく、生命が生きられる環境を、調え続けてきた仕組みなのです。

3.その海は、今も私たちの中にあります
生命は40億年前に海で誕生し、そして海もまた、生命とともに姿を変えながら、40億年という時間を歩んできました。
私たちの体の中にある「海」も、その長い歴史の中で受け継がれてきたものです。
私たちの体の中には、『今』も海があります。
それは、40億年前の海がそのまま残っているという意味ではありません。
生命が40億年かけて育み、受け継いできた「生きるための環境」が、今も私たちの体の中で息づいているということなのです。

今回はここまで。
- - - 次 回 予 告 - - -
40億年前、海で生まれた生命が、その後、陸へ進出したとき、海はもう必要なくなったのでしょうか。
実は、そうではありませんでした。
生命は陸へ上がっても、海を捨てることはできなかったのです。
その理由は、生命が生きるために欠かせない「環境」にあります。
次回、第4話
「生命は海を捨てませんでした」
海から陸への壮大な進化と、「体内に海を持つ」という生命の大発明について、一緒に見ていきましょう。
