【エッセイ】四万の病を癒す湯の森へ
時間の凪
今年も残すところ10日余りになった。
国会が終わってようやく仕事が落ち着き、後輩から依頼された論文もどうにか書き上げた。
「時間の凪」とでもいうような、「区切り」を感じる時がある。
今週末は、ちょうどそんな凪に誘われ、旅に出ることに決めた。
ここは群馬県中之条市を流れる四万川の上流にある霊泉、四万温泉だ。
鎌倉の昔から、四万の病を治す湯として知られてきた。
しばれる風もない穏やかな川沿いの道を車で走っていくと、やがて険しい山々と深い森に囲まれる。
四万温泉郷に差し掛かる辺りで道路のあちこちに雪の欠片が見えてきた。
ノーマルタイヤで上がってこられる最後の週末だったかもしれない。
四万温泉の代名詞でもある「積善館」。
300年以上の歴史を持つ日本最古の温泉宿建築物だ。
「千と千尋の神隠し」の油屋のモデルにもなった本館の建物は、群馬県の重要文化財にも指定されている。
昭和5年に造られた「元禄の湯」は、大正ロマンを感じさせる当時の内装を残す貴重な温泉でもある(1500円で立ち寄り湯が楽しめます)。
時間の凪がそのまま保たれような静けさの中で、清流と歴史の足音だけに耳を澄ます。


湯治場でものを書きながら
四万温泉は古くから湯治場としても知られている。
自炊しながら長期滞在し、入浴と静養を繰り返す。
今回お邪魔したホテルも湯治をコンセプトにした宿で、長期滞在用にシェアキッチンも完備している。
国立公園内の立地を生かしたネイチャーアクティビティだけでなく、ネットワーク環境も整備されているのでワーケーションでの滞在も可能になっている。まさにシン湯治なわけだ。
実際、僕も、ひとりでゆっくり温泉に浸かった後、森が見える部屋の窓辺でエッセイを書いている。
明日までに何度も温泉に浸かるだろうけれど、温泉とご飯とカフェと本棚と、吸い込まれるような自然があって、コンビニもネオンもエロチシズムもない場所で、僕は心を治し、整える。

宵の帷が降りる森
今年の5月の連休に、ふと思い立ってnoteを始めた。
それからおよそ8ヶ月。小説が書きたくて始めたのだけど、引っ越しとか論文とか、人生には思いがけない出来事がつきもので、結局、新しく書いたのは「林檎」の一作だけだった。
それでもnoteから送られてきた僕の2025年の創作記録によれば、投稿した記事は64本で、ありがたいことにおよそ9000回読んでいただいた。
多寡が大事ではないけれど、このロクでもない世界をテーマに小説を書き、誰かに思いを届けたいという気持ちで毎週何かを書き、誰かの目に触れたことは、単純に素敵なことだった。
時間の凪に、今年を振り返る自分がいる。
来年は、国家公務という仕事を辞めるだろう。
そして、ある社会運動を展開しながら、物書きを続けたい。
宵の帷が降りる森の傍で、四万温泉の夜が更けていく。静かに。
心の澱が溶けていく。静かに。
