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気恥ずかしくなる問い

先日、美容院に行ってきた。
ここは髪型を決めた後、すぐにシャンプー台に案内されることになっている。
台に乗り、顔に覆いを掛けてもらって、洗髪が始まるとホッとする。

他人に頭を洗ってもらうのって、何故こんなに気持ちいいんだろう。
夢心地でいる私に、美容師さんはお決まりの質問を次々と投げかけてくる。
頭を濡らし始めるや、
「お湯の温度は熱すぎませんか?」
と来るし、すすぎが終盤にさしかかると
「流したりないところはございませんか?」
と訊いてくれる。
ちょっとした女王様気分?を味わえるこの時間は、なかなか快適なものだ。しかし、この時繰り出される質問のうち、落ち着かない気分にさせられるものが一つだけある。
「お痒いところはございませんか?」
という、アレである。

私の場合、『頭が痒い』ということは、『自分がちゃんと洗髪できていなかったため、頭皮に汚れが残り、痒みを引き起こしている』ということと同義のように感じてしまう。
つまり『頭が痒い』は『ちゃんと洗髪できていなかった』即ち『いい加減な洗い方をしていた』ということであり、『コイツは洗髪にそう手間をかけない自堕落な人間(女)ではないのか』と疑われているような気がするのである。
美容師さんにそんな意図は全くないのは、わかり切っている。
要するに、私が自分の清潔感に百パーセントの自信がない、ということなんだろう。自信があったら『失礼な!そんなわけないでしょう!』と憤慨するのだろうから。

かといって、
「いえっ、ちっとも!」
と必死になって否定するのは、却って痒みがあることを肯定しているような気がする。
なので極めて冷静かつ穏やかに
「いいえ、ありません。ありがとうございます」
と高級住宅街に住んでいるセレブマダムのような、しゃなりとした返事を返すことに決めている。
我ながらカッコつけてんなあ、とおかしくなる。

自分の名誉の為に言っておくと、洗髪は毎日している。
夏に酷く汗をかいた時などは、朝晩にすることもある。
けれどどういう具合か、洗髪してもらっている最中に、急に痒いと感じる部分が出てきたりすることがある。
そういう時にこの問いをされると迷う。
「あ、頭のてっぺんのちょっと右辺りが・・・」
などと言ってみたい衝動にかられる。
しかし、シャンプー台に仰向けに寝て顔に覆いを掛けられている状況で、正確にピンポイントで頭の痒い部分を言い表すのは至難の業ではないか、という気がしてしまう。
かといって、泡だらけの頭に指を突っ込んで
「ここです、ここ」
と指す気にもなれない。

それに料金を払っているとはいえ、『痒い所』つまり『特に汚れているという疑惑の濃い部分』を美容師さんに洗わせる、というのも、まるで人を家来のように扱っているようで、なんだか心苦しい。
で、結局前述のセレブマダム風答えを繰り出すことになる。
けれどそんな時は、
『正直に言えば気持ち良くしてもらえたのになあ』
という後悔の念が、ほんの少し頭をよぎる。

だいぶ以前にお世話になっていた美容師さんに、この問いについて思い切って尋ねてみたことがある。
その美容師さん曰く、別に汚いことをさせられているといった気持ちはなく、単に『痒いところがあるならちょっと念入りに洗ってあげようか』くらいの、ちょっとしたサービスの一環で発するセリフなんだそうだ。
「そんなこと訊かれたの初めてです。そこまで考えて下さってる人、あんまりいないと思いますけど」
と笑っておられた。
関西人の中には、この定番の問いに対して
「足の裏!掻いてくれる?」
なんていう強者もいるとか聞いたこともあるが、多分ネタで間違いないだろう。

もう随分長い間、この気恥ずかしくなる問いを投げかけられ続けているのだから、そろそろ慣れてもいいと思うのだが、未だにこう訊かれると落ち着かなくてモソモソしてしまう。
相手の手間を省くべく、シャンプー台に乗るなり
「あ、痒いところはないので」
と切っ先を制するのも、却って疑惑を深めるようで気がすすまない。
約二か月後には、また同じようにモソモソするんだろうなあ。
進歩のないことである。










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