【創作大賞2026応募作】【動画付短編小説】【JACK】― 更新型エデン前夜/行ってきて(第七十話)(85)
夜のベッドタウン。
光が丘の駅前。
閉店間際のIMAの灯りが、濡れた路面に淡く滲む。
美咲は小さな紙袋を提げ、神宮寺と並んで歩いていた。
「……休日なのに、仕事の顔ね」
「職業病だ」
夜風が冷たい。
美咲が小さく笑う。
駅前からふれあいの径の先、ライトアップされた光が丘公園の光のアーチが見える。
青く輝くアーチが、夜の闇を優しく切り取り、音もなく瞬いていた。
「……平和ね」
その時、スマホが震えた。
表示――沙織。
荒い息遣いと、途切れ途切れの声。
「……ごめん……」
「……新宿三丁目……」
「……胸が……苦しくて……」
神宮寺の顔から血の気が引いた。
世界の音が、遠のく。
沙織の声を聞きながら、彼は美咲の横顔を見た。
また、誰かを置いて走らなければならないのか。
「……すぐ行く」
通話を切る。
美咲が、そっと袖を掴んだ。
「……沙織さん?」
「……行かなきゃ」
「……すみません」
美咲は少し俯き、静かに息を吐いた。
「……ありがとう、でしょ」
彼女は微笑んだ。
寂しさを、そっと隠すように。
それでも、どこか晴れやかに。
「……私を置いてでも、誰かを守れるあなたでいい」
風が吹く。
駅前の看板が小さく揺れた。
光のアーチが、背後で静かに瞬いていた。
「……行ってきて」
「……ちゃんと戻ってきてください」
その言葉に、神宮寺の胸を、順子の夜が掠めた。
春の校庭。
コンビニのパン。
どうでもいい冗談で笑い合った午後。
交通事故で、永遠に失った時間。
神宮寺は何かを言いかける。
だが、声にならない。
ただ一度、強く頷いた。
それだけを残して、夜へ走り出す。
美咲は、その背中を見送った。
追わない。
止めない。
夜風が髪を揺らす。
街灯の光が、濡れたアスファルトの上で、静かに滲んでいた。
やがて、美咲は小さく息を吸い、
誰に言うでもなく、呟いた。
「……更新、か」
誰に聞かせるでもない。
夜風だけが、 その言葉を連れていった。
光が丘の灯りだけが、変わらず夜を照らしていた。
――更新型エデン 前夜

まだ平和だった、ほんの数秒前。
映像はこちら
【創作大賞2026応募作】【動画付短編小説】【JACK】― 更新型エデン前夜/行ってきて(第七十話)(85)
— 隼人 (@hayato_watches) June 2, 2026
オリジナル音源歌挿入版 https://t.co/DbSzreiNu5 pic.twitter.com/zRMyNVu9Fo
──行ってきて。
引き留めなかった。 追いかけなかった。
それでも、 帰る場所だけは、 光が丘の夜に残されていた。
(JACK・更新型エデン前夜/行ってきて)
※Murekaで制作したオリジナルのイメージ音源です。読後の余韻としてお楽しみください。
(動画内BGMとしても使用しています)
