酔っ払っていたのは私だった
私の実家ではずっと犬を飼っている。
私が子どもの頃は、わんことお散歩に行くついでにおつかいを頼まれることがよくあった。パン屋さんとか小さいスーパーとかだったのだが、買い物をしている間はお店の前にわんこを繋いで待たせていた。
今考えると自分の危機感のなさにビビる。その間にわんこに何かされていたかもしれないのに。
とはいえ、当時は同じような人がいっぱいいて、よく見かける光景だったと思う。買い物を終えて店から出ると、知らないおじさんやおばさんがわんこを撫でていたり、「やっぱり Hazuki ちゃんのとこの子だったのね〜!おつかい?」と、近所の人が待っていてくれることもあった。
ああ平和すぎて泣きそう。
今ではそんな光景はめったに見かけなくなった。いたずらや誘拐の可能性もあるし、何より勝手に撫でておいて「噛まれた!」とか騒ぐバカもいる世の中なので、絶対わんこをひとりにはしておけない。
ごくまれに、お店の前にわんちゃんが繋がれているのを見つけたりすると、誰に頼まれたわけでもないのに飼い主さんが戻ってくるまで見張ってしまう。たいていすぐに戻ってくるのだが、そのわずかな時間でも、わんちゃんは不安そうにずっとお店の中を見つめていて、その姿を見るだけで胸が苦しくなる。「ああ、飼い主さん。早く戻ってきてあげて…!」と。
ゆうべも、夫と飲みに行った帰りに、居酒屋の看板に繋がれているわんちゃんを見つけた。私は「あんなとこに繋いで…飼い主どこ行った!?まさか店で飲んでるとかじゃないよね!?」と勝手に決めつけて腹を立て、夫がコンビニに行っているあいだ、ベンチに座ってそのわんちゃんのほうをじーっと見つめていた。わんちゃんは看板の足元に寝そべっている。
周囲は酔っ払いがうろつき、外国人の若者たちもたむろしている。とても治安がいいとは言えない雰囲気だ。だから余計に腹が立っていた。こんな時間にこんな場所を散歩させるなんて頭おかしいんじゃないの!?とか、こんな場所で愛犬から目を離すなんて考えられない!と。
居酒屋の入ったビルの前では、外国人のグループが輪になっておしゃべりしていた。酔っている様子もなく、普段からいつもそこら辺にいる若者たちだったので、変な言い方だが安心っちゃ安心だった。そして、誰もわんちゃんのことなんて気にも留めていないようなので、そこもホッとした。彼らの国では普通の光景なのかもしれない。
飼い主はまだ戻ってこない。やっぱりあの居酒屋で飲んでいるのだろうか?それとも、酔っ払って愛犬の存在を忘れて帰っちゃったのだろうか?このままじゃ私も帰れないし、そこの交番に行ってわんちゃんの保護を頼んでみようか…
そんなことを考えていたら夫が戻ってきた。ビルの入り口を見つめている私に「どうしたの?」と訊き、私が「あそこに繋がれてるわんちゃん、飼い主がぜんっぜん戻ってこないんだけど!!💢」と興奮して言うと、夫は「ちょっと近くまで行ってみようか」と言ってビルのほうへ向かった。私も後をついていく。
「ほら。飼い主がなんだって?」
それは看板の脚を押さえる砂袋だった。
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