HBPワールドツアー報告2025 台湾④商業・文化(有賀)
第4回のテーマは「文化・商業」。台湾では2000年台から「文創(文化創意産業の略)」という、伝統的な文化や歴史的遺産と現代のカルチャーを組み合わせた、新しい文化振興の政策や事業・活動が進められている。
「文創」の対象となるものは多岐にわたるが、その中でも核の一つとなるのが歴史的建造物のリノベーションと活用。「文創」のスタートと同時期に「公共建設の民間参与促進法」ができたことで建築遺産を再利用した公共施設運営への民間参入を可能にした。
今回は、その中で文創の5大基地と呼ばれるものの一つ、「華山1914文化創意産業園区」を訪れ、そこでの経緯や事業内容についてのヒアリングを行った。

■華山1914文化創意産業園区について
「華山1914文化創意産業園区」は台北駅からも程近い中心部に立地する、日本統治時代に建てられた酒と樟脳の製造工場の跡地をリノベーションした複合施設。
1961年に樟脳の工場が操業停止、1987年に酒工場が操業停止し、その後は廃墟となっていたものが、公募で選定された民間の企業体によって2007年から華山1914文化創意産業園区としてオープンした。
台湾で初めてのPPP事業で施設名の「華山」は初代台湾総督の樺山資紀の名前に、「1914」は酒造工場の建築年に由来する。
今回ヒアリングしたのは、当初からこのプロジェクトに関わっており、16年間有限会社で働いた後に去年基金に移った李さんと、運営の責任者の林さん。李さんは元々、パナソニック出身でプロジェクトに関わる前は大学教員でPPP関連の法律を専門としており、行政に対してPPP事業のアドバイスをしている立場だった。

■施設整備の経緯
プロジェクトは2007年からスタート。プロポーザルには3社が応募し、元柳出版、アンバサダーホテル、中関設計コンサルタントが設立した台湾文化創意聯盟が事業者に選定され、運営会社として台湾文化創意発展有限公司を設立した。
当時は建物の文化財としての認証がなく、3年半政府と交渉したが前例がないとのことで使用許可が下りなかったために、通常の建築の基準をクリアする改修をすることが必要になり、全体の使用許可が下りるまでに6年半もの歳月を要した。
その結果、資金的な面も含めて一度の改修することが出来ずに、段階的な整備にならざるをえなかった。
もちろん事業収支の面から見れば一度に整備できる方がメリットがあるが、この段階的な整備が結果として、この施設の運営を円滑に行っていく助けにもなった。
■施設運営の推移と現在の状況
施設は下記の4つのコンテンツによって構成されている。
①会 : 講演会など(TEDなど)→施設内で最も回数が多い
②展 : 展覧会など(ジブリ展など)→収益性も担保
③演 : 演奏会や演劇など
④店 : 店舗、ポップアップストアなど
現在は年間のイベント数は2300件以上、来場者数は455万人超で、新たな出店やパフォーマンス出演の希望者は2000件を超える施設となっており、文化発信施設としても商業施設としても成功を収めているが、事業開始から6年間は毎年赤字だった。この時期を一番の株主である元柳出版の王会長が熱意を持ってやり続けたことで、今の状況を作り出すことができている。

当初はハード整備にしか資金を回すことが出来ず、プロモーションやマーケティングにかけられる費用は限られていた。そのためイベント会社に無料や格安の値段で提供して使ってもらうようにして様々な企画をトライアンドエラーしていき、第二段階でネットでのマーケティング、プロモーションを実施した。これらとハード面も段階的な整備となったことも相まって、いつ行っても新鮮さがあり、かつ多様な人が関わり、場がつくり上げられたことで、飽きられることがなく6年目で黒字化に成功、以降は黒字経営が続いている。ハード改修には3.8億台湾ドルがかかっているが、現在は年間7.6台湾ドルの売り上げがあり、7~8000万台湾ドルの純利益を生み出している。また税金として1億台湾ドルを収め、利益の20%は寄付している。民間も儲けていて、行政もお金を得られていて、文化芸術の活動を行っている文創はここだけというから驚きの施設である。
他の文創と比べて商業的だという批判的な意見もあるようだが、完全な民間運営で、多様な小さな事業者が集まり、コンビニやスターバックスのような利便性の高いテナントは入れずにここまでの運営を行っているのは、素直にすごいことだと思う。
以下は施設の様子






■クリエイティブ産業の捉え方と施設への眼差し
このように順風満帆ではないスタートであったが、現在では継続的に黒字化を果たしている根っこはどこにあるのだろうか。
キーワードの一つとなるのがヒアリングの際に挙がった、クリエイティブ産業は安定した産業であるというコメント。クリエイティブ産業は黒字にするのは難しいが、客層は自分のやりたいことを追求し続ける人たちであり、自分の好きなものがあれば、関わり続けてくれるから、実は産業として安定しているということだった。
このことを裏打ちしているのが、コロナ禍の際の施設の運営状況にある。ほとんどの施設がこの間赤字運営であったのに対し、ここでは平年より来場人数や売り上げは落ち込んではいるものの黒字であり続けた。このように、社会情勢に流されることのない場所の価値をつくり出すことの根幹にクリエイティブ産業が寄与している。


もう一つが、施設や事業者への愛と想いのある眼差しによって施設を運営している点である。
その一つの例が、運営の責任者である林さんが、施設内でパフォーマンスする演者一人一人のパーソナリティや今の状況、考えていることまで理解しており、その上でどのような出演をしてもらうべきか考えているという所である。直接やりとりしているスタッフならまだしも、責任者である林さんまでもが、一人一人とのコミュニケーションを大事にしているというのは正直驚いた。
その他にも施設の中で、イベント出店→常設コーナー出店→個店での出店と出店者がステップアップできる仕組みが整えられていたり、公共空間で大道芸をする上では必要なライセンスもここでは不要で、あくまで内容とパーソナリティで判断したりなど、一人一人の出店者・出演者を大切に扱っていることが伺える。
また運営側のスタッフも文化事業のチームでは若手を積極的に採用し、外部の専門人材とのコラボレーションさせることで育成することも行っている。
このような丁寧なコミュニケーションと内外のステップアップの仕組みの設計によって、ともすれば消費されていくばかりのコンテンツが育てるコンテンツとなっており、これも施設が安定して魅力を生み出す原動力となっていることが伺える。

■まとめ
今回視察・ヒアリングを行った「華山1914文化創意産業園区」についてまとめると、下記の4点がポイントとなると思う。
①(結果としての)段階的な開発によるステップアップ
・資金や手続き的な問題で段階的にならざるを得なかった
・そのため、常にトライアンドエラーする環境となった
・いつきても何かが変わっている新鮮さが魅力つくった
②クリエイティブ産業の捉え方
・クリエイティブ産業はビジネス的にお荷物で無く安定している産業
・しっかりとしたファンを育てることができる
・関わる人も増やすことができる
③消費されるコンテンツから育てるコンテンツに
・施設内で事業者のステップアップを可能にする仕組み
・出店者・出演者との丁寧なコミュニケーションによる理解
・運営側のスタッフも育っていく企画
④会長のやり切る意思と資金体力
・やりたいこと、実現したいことの明確化
・十分な資金体力(心、資金、時間的余裕のある者)
・行政との粘り強いコミュニケーション
一方で下記のような課題もあり、こちらは周辺の状況や行政側の仕組みの問題が中心となるが、これらが解決できると、さらに良い運営になっていくのではないかと感じた。
①十分な官民連携となっていない
・各種手続きや改修に不要な手間や費用がかかる
・隣接公園を文創の力で活かせない状況となっている
②エリアへの波及効果
・開発に取り残された敷地で、周辺はもともと一等地のため周りに
若者が入っていくような余地がない
・集客力があまりにも強すぎるため、周辺も商業やりたい、生活したい
いろいろな思いが渦巻いて合意形成ができない。
③評価の仕組みや利益(税金分)の使い道
・評価委員会はあるが、評価できる人たちでないため機能していない
・評価指標は大きく6つほどあるが、16年で何も変わっていない
・税金として収めている部分が国に入るので文化行政に入らない
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