見出し画像

『茶々とシュレと、記録できない夢の夜』

茶々とシュレの絵本シリーズ Vol.13
『茶々とシュレと、記録できない夢の夜』

その世界では、
夢を書きとめると、消えてしまうという不思議な法則があった。
筆で書けば、紙が透ける。
タイプすると、文字が崩れる。
口にすれば、音が霧になる。

“夢は記録を拒む”――
それが、この世界の静かな決まりごと。
茶々は、その世界にふらりと降り立った。
シュレが「にゃ」と言ったのは、
「またややこしい場所に来たにゃ」という意味だった。

「……でもな、うち、書きたいねん。
 この夢のこと、書いて残したい。」
そう茶々は言った。
だってその夢は――
「いちど失った誰かと、もう一度手をつないだ夢」だったから。

茶々は、夢のことを覚えているうちに、
そっと紙に「だれかの手のぬくもり」と書いた。

すると、インクがふわりと水に溶けて消えた。
次に「やわらかい声」と書いた。
すると、紙が風にのって、どこかへ飛んでいった。

やがて、茶々は気づいた。
「……夢って、“残せないけど、残ってる”ものなんやな」

それはたぶん、記録じゃなくて、“在ること”そのもの。
その夜、シュレが、
茶々の胸の上で、
ふわりと丸くなりながらこう言った。
「にゃ……なら、ボクたちが“見る”んじゃなくて、
 夢に“見られる”ことを試してみるにゃ」

茶々は目隠しをしたまま、
何も書かず、何も話さず、
ただ静かに、夢のなかに沈んでいった。
すると――
夢の中で、
茶々は「ことばにならなかった記憶」に名前を与えた。

それは、名前がつく前のやさしさ

それは、誰かのために黙っていた光

それは、夢が覚めても消えなかった、目に見えない輪郭

---------------

夜、茶々はノートを開いた。
白紙だった。

でも、ページの真ん中に、
シュレの足跡がぽつんとひとつだけ、にじんでいた。

ちゃかっ。

茶々はそっと、こう言った。
「これでええねん。
 “残せないもの”が、ちゃんとここにある。」

それはまるで
夢の結晶みたいで
茶々はしばらくそれを見ていた。

茶々はなんとなく
元気になった気がして

「……ありがとな、シュレ。」

と心の中で言いました。


いいなと思ったら応援しよう!