メキシコ料理の楽しみ方
はじめに
温めた小さなトルティーヤを手のひらへ載せ、香ばしく焼いた鶏肉と刻んだ玉ねぎを中央へ置く。トマトのサルサを少しかけ、最後にライムを絞ると、とうもろこしの香りの中へ肉のうま味と明るい酸味が重なります。
一口目はサルサを控えめに、二口目は少し辛く。香菜を加える人もいれば、玉ねぎとライムだけで食べる人もいます。同じ具材を囲んでいても、包む内容によって一つずつ違うタコスになります。
メキシコ料理というと、タコス、唐辛子、濃いチーズを思い浮かべるかもしれません。ひき肉を詰めた硬いシェルや、大きなブリトーの印象が強い人もいるでしょう。
けれど、メキシコの食文化は、とうもろこし、豆、唐辛子を土台にしながら、野菜、肉、魚介、果物、香草、種子、カカオなどを地域ごとに組み合わせてきた、幅の広いものです。トルティーヤにもとうもろこし製と小麦製があり、タコスの具やサルサも土地や店、家庭によって変わります。
初めから乾燥唐辛子を何種類も使ったり、とうもろこしから生地を仕込んだりする必要はありません。最初は市販のコーントルティーヤを温め、鶏肉の具と生のトマトを使ったサルサを用意するだけでも、自宅でメキシコ料理の入口を楽しめます。
メキシコ料理の基本情報
主な楽しみ方 トルティーヤ、豆、肉や魚介、野菜、サルサを組み合わせ、地域ごとの料理や食文化を知る
おすすめの頻度 月2回前後
1回の調理時間 約60〜120分
短時間で楽しむ場合 市販のトルティーヤを使ったタコスなら約30〜40分から
準備と片付けを含む総所要時間 約90〜150分
最初に作りやすいもの 鶏肉のタコス、サルサ・メヒカーナ、簡単な豆の煮込み
主な調理場所 自宅の台所
最初に必要なもの 包丁、まな板、フライパン、ボウル、トング、計量用品
追加すると使いやすい材料 コーントルティーヤ、ライム、クミン、唐辛子、豆の水煮
始めやすさ 市販のトルティーヤと身近な肉・野菜を使えば、特別な設備がなくても始められる
迷いやすいところ 唐辛子の辛さ、トルティーヤの温め方、タコスとブリトーなどの違い、料理ごとの地域性
メキシコ料理には、短時間で組み立てられるタコスやトスターダもあれば、肉をゆっくり煮るカルニタス、複数の唐辛子や香辛料を使うモレ、とうもろこしの生地を包んで蒸すタマルなど、時間をかける料理もあります。
毎回大きな献立へ挑戦する必要はありません。今日はサルサを一種類作る、次は豆を煮る、その次にトルティーヤを手作りするというように、食卓を構成する一部分ずつ深められます。
メキシコ料理にかかる費用
メキシコ料理に使う鶏肉、豚肉、トマト、玉ねぎ、キャベツ、アボカドなどは、普段の食事にも使える材料です。趣味として追加する費用は、コーントルティーヤ、マサ粉、ライム、乾燥唐辛子、豆、特定の香辛料などを新しく購入した分として考えます。
手持ちの食材と調味料を使う場合の追加費用 約500〜1,000円
トルティーヤやライムを買い足す場合 約1,000〜2,000円
マサ粉や乾燥唐辛子までそろえる場合 約2,000〜5,000円
二人分のタコスの食材費 約1,200〜2,500円
魚介や牛肉、アボカドを多く使う場合 約1,800〜3,500円前後
月2回続ける場合の年間追加費用 約1万〜3万円ほど
マサ粉は、とうもろこしをアルカリ性の液で処理するニシュタマリゼーションを経た生地を、乾燥して粉にしたものです。一般的なコーンフラワーやスイートコーンの粉とは性質が異なり、水を加えることでトルティーヤへ成形しやすい生地になります。
現在の国内販売例では、マサ粉500グラムが800円前後です。一度に使い切るものではなく、小さなトルティーヤを何回か作れるため、初回の購入価格を一食分の費用としてすべて計算する必要はありません。
乾燥唐辛子にも、香り、辛さ、燻製の有無などの違いがあります。初めから多種類を購入せず、家庭で使いやすい粉末のチリや、小さな瓶のハラペーニョなどから試す方が無駄を減らせます。
豆は乾燥豆から煮る方法もありますが、最初は水煮缶やパウチを使うと、浸水と長時間の加熱を省けます。タコスの付け合わせやスープにも使えるため、一度に使い切れない分は商品表示に従って保存します。
専用のトルティーヤプレス、石臼、鉄板などは、最初には必要ありません。市販の皮を何度か温め、自分がコーントルティーヤの香りや食感を好むと分かってから、マサ粉や道具へ進めば十分です。
メキシコ料理をおすすめする3つの理由
1.一枚のトルティーヤから、味を自分で組み立てられる
タコスは、完成した料理をそのまま受け取るだけではなく、トルティーヤ、具、サルサ、薬味を食卓で組み合わせられます。肉を少なめにして玉ねぎを増やす、豆を加える、辛いサルサを一滴だけ使うなど、一口ごとに内容を変えられます。
トルティーヤが温かくやわらかいうちに具を載せ、半分へ軽く折って食べる。具を詰め込みすぎず、とうもろこしの香りも一緒に味わうと、単なる包み料理ではないことが分かります。
同じ具材を囲んでも、全員が同じタコスを作る必要はありません。人と食べる日には各自で包み、一人の日には二、三枚だけ温めるというように、人数へ合わせやすいことも魅力です。
2.とうもろこし、豆、唐辛子の役割を一つずつ知れる
とうもろこしは、トルティーヤやタマルの生地になり、料理を受け止める主食として働きます。豆は煮込み、付け合わせ、ペーストなどに使われ、穏やかな味と食べ応えを加えます。
唐辛子は、辛さだけを加える材料ではありません。生の青い香り、乾燥させた深い香り、炒った香ばしさ、燻製の余韻などがあり、種類と調理方法で料理の表情を変えます。
辛い料理が苦手でも、唐辛子を使わずに豆やトルティーヤを楽しんだり、香りの穏やかな品種を少量使ったりできます。三つの材料をすべて強く主張させず、どれを中心にするか考えられるところが面白さです。
3.地域を変えるたびに、別の食卓へ出会える
メキシコは広く、海岸、高原、砂漠、熱帯地域など、土地によって得られる食材が異なります。北部では小麦のトルティーヤや肉料理が多く見られ、沿岸部では魚介を使った料理が食卓へ加わります。
オアハカは複数のモレやトラユーダ、ユカタン半島はアチョーテや柑橘を使う料理、プエブラはモレ・ポブラーノなどで知られています。ベラクルスでは魚介とトマト、オリーブなどを組み合わせる料理に出会えます。
こうした説明は大きな傾向であり、州の中にも家庭や町ごとの違いがあります。一つの料理を作ったあと、どこでどのように食べられているかを知ると、レシピの外側にある土地や暮らしへ関心が広がります。
とうもろこしを中心に育った食文化
伝統的なメキシコ料理は、料理の種類だけを指すものではありません。とうもろこしや豆、かぼちゃなどを育てる農の仕組み、収穫、加工、調理、食事、祭礼までがつながった文化として受け継がれてきました。
その中心にある技法の一つが、ニシュタマリゼーションです。乾燥とうもろこしを石灰などを含むアルカリ性の液で煮たり浸したりし、外皮を取り除いて生地へ加工します。
この工程によって、とうもろこしは挽いたときにまとまりやすくなり、独特の香りと食感を持つマサになります。マサはトルティーヤだけでなく、タマルやゴルディータなど、さまざまな料理へ使われます。
日本で初めて作るなら、乾燥とうもろこしから処理する必要はありません。ニシュタマリゼーション済みのマサ粉を使えば、水と塩を加えて生地を作れます。
とうもろこしの種類、挽き方、水分量によって生地の扱いやすさは変わります。最初は市販のトルティーヤで食卓の組み立てを覚え、そのあとマサ粉へ進む方が、皮作りだけで一日が終わらず、料理全体を楽しめます。
タコスとブリトーは同じものではない
タコスは、小さなトルティーヤへ肉、魚、豆、野菜などを載せ、折って食べる料理です。具材や大きさは地域や店によって異なりますが、食べる直前に温かい皮と具を合わせる形が多く見られます。
ブリトーは、比較的大きな小麦のトルティーヤで具を包む料理です。メキシコ北部に結びつくものと、アメリカで発展した大きなブリトーでは、サイズや具材にも違いがあります。
硬いU字形のタコシェル、たっぷりのひき肉、レタス、チーズを使うスタイルは、日本でも親しまれていますが、それだけがメキシコのタコスではありません。やわらかなコーントルティーヤへ焼いた肉と玉ねぎ、香菜、サルサを載せる簡潔な形もあります。
家庭で楽しむときは、どちらが正しいと優劣を付けるのではなく、作っている料理がどのような背景を持つかを知ります。メキシコの料理と、アメリカで育ったテクス・メクス料理を分けて見ると、チーズや小麦の皮を使う料理も違いを理解しながら楽しめます。
最初の一皿は鶏肉のタコスから
最初は、市販のコーントルティーヤ、鶏肉、サルサ・メヒカーナを組み合わせます。具材を増やしすぎず、温めた皮、肉、サルサ、ライムの四つを中心にします。
二人分なら、次のような材料が一つの目安です。
鶏肉の具
・鶏もも肉または鶏むね肉 300グラム前後
・玉ねぎ 4分の1個
・にんにく 1片
・塩
・クミン 少量
・パプリカパウダー 少量
・油 少量
・ライムまたはレモン
サルサ・メヒカーナ
・トマト 1個
・玉ねぎ 4分の1個
・香菜 好みの量
・ライムまたはレモン
・塩
・ハラペーニョや青唐辛子 好みで少量
仕上げ
・小さなコーントルティーヤ 6〜8枚
・刻んだ玉ねぎ
・香菜
・ライム
・好みでアボカドや豆
クミンやパプリカを使う味付けは、家庭で作りやすい一例です。メキシコのすべての鶏肉タコスが同じ香辛料で作られるわけではないため、最初から「万能なタコス味」と考えず、肉の具の一つとして試します。
鶏肉とサルサを安全に準備する
1.生で食べる野菜から切る
トマト、サルサ用の玉ねぎ、香菜、ライムを先に洗って切ります。清潔なボウルへ移し、そのあとで鶏肉を扱います。
香菜が苦手なら入れなくても構いません。刻んだ青ねぎ、少量の三つ葉などで食べやすくする方法もありますが、香りは同じではないことを理解して使います。
2.サルサ・メヒカーナを作る
トマトと玉ねぎを小さく切り、香菜、ライム、塩を合わせます。辛味を加える場合は、ハラペーニョや青唐辛子をごく少量刻みます。
サルサは、スペイン語でソースを表す言葉です。サルサ・メヒカーナは、生のトマト、玉ねぎ、唐辛子などを使う、色の鮮やかなサルサの一つです。
水分が多すぎるとタコスからこぼれやすいため、トマトの種の周りを少し除くか、混ぜたあとに余分な汁を切ります。作ったら冷蔵し、室温へ長く置かず、その日のうちに食べ切れる量にします。
3.鶏肉へ下味を付ける
鶏肉を食べやすい大きさへ切り、塩、にんにく、クミン、パプリカを合わせます。生肉へ触れた手、包丁、まな板はすぐに洗い、サルサや食器へ触れません。
香辛料は最初から多く入れず、鶏肉そのものの味が残る程度にします。辛味はサルサで後から加えられるため、肉の味付けを辛くする必要はありません。
4.中心まで加熱する
フライパンへ油を入れ、鶏肉を重ねすぎないように広げます。片面へ焼き色を付けたあと裏返し、厚い部分まで十分に加熱します。
表面が白くなっただけでは、中心まで火が通っているとは限りません。中心部を75℃で1分以上加熱することを一つの目安にし、必要に応じて食品用温度計を使います。
加熱後の鶏肉は、生肉を置いた皿へ戻しません。清潔な皿へ取り出し、ライムを少量絞ります。
トルティーヤは温め方で食感が変わる
冷たいコーントルティーヤは割れやすく、そのまま折ると縁が裂けることがあります。食べる直前に一枚ずつ温め、やわらかさと香りを戻します。
フライパンを油を引かずに温め、トルティーヤを両面それぞれ短時間ずつ加熱します。焼き色を強く付けることより、全体がしなやかになることを目指します。
温めたものは清潔な布やキッチンペーパーで包み、乾燥を防ぎます。すべてを一度に皿へ広げると冷めやすいため、数枚ずつ温めても構いません。
電子レンジを使う場合は、対応する皿へ重ね、軽く湿らせたキッチンペーパーなどで覆う方法があります。加熱時間は枚数と製品によって変わるため、短時間から様子を見ます。
食卓では、トルティーヤを一枚取り、具を中央へ少量載せます。折ったときに中身がこぼれない程度にすると、皮と具を一緒に味わえます。
サルサは辛さより材料の組み合わせを見る
メキシコ料理のサルサには、生のもの、煮るもの、焼くもの、すりつぶすものなどがあります。唐辛子を多く入れることだけが目的ではなく、トマト、トマティーヨ、玉ねぎ、香草、種子などを組み合わせ、料理へ酸味や香りを添えます。
サルサ・ロハ
赤いトマトや乾燥唐辛子などを使うサルサです。材料を煮るもの、焼いて香ばしさを加えるもの、生で作るものがあります。
最初はトマトと玉ねぎをフライパンで軽く焼き、少量の唐辛子、にんにく、塩と一緒につぶします。焼いた香りが加わるため、生のサルサとは違う落ち着いた味になります。
サルサ・ベルデ
緑色のトマティーヨや青唐辛子などを使うサルサです。トマティーヨは見た目が青いトマトに似ていますが、別の植物で、酸味のある味を持ちます。
日本では生のトマティーヨが手に入りにくいことがあります。瓶詰めや缶詰を利用するか、入手できたときに信頼できるレシピで試します。普通の青いトマトを同じものとして扱いません。
ワカモレ
ワカモレは、アボカドをつぶし、玉ねぎ、唐辛子、香菜、ライム、塩などを合わせる料理です。滑らかなペーストだけでなく、アボカドの形を少し残す仕上げもあります。
食べる直前に作り、室温へ長く置きません。褐色へ変わること自体だけで安全性を判断せず、清潔に作り、早めに食べ切ります。
辛味を控えたい日は、サルサから唐辛子を外し、ライムと玉ねぎで味を整えます。辛いものを使う場合も、鍋全体へ入れず、別添えにすれば食べる人ごとに調整できます。
唐辛子は目や皮膚に触れないように扱う
生の唐辛子を切った手で、目、鼻、口へ触れると強い刺激を感じることがあります。扱ったあとは石けんでよく手を洗い、コンタクトレンズの着脱などは避けます。
皮膚が敏感な人や多くの唐辛子を扱う場合は、食品調理に使える手袋を着けます。手袋をしたまま冷蔵庫の取っ手や調味料の瓶へ触れず、作業が終わったら外します。
唐辛子の辛味は、品種だけでなく個体差もあります。以前と同じ本数だから同じ辛さになるとは限らないため、切ったものをすべて料理へ入れず、少量から試します。
乾燥唐辛子をフライパンで炒る場合は、焦がすと刺激の強い煙が出ることがあります。換気を行い、顔を近づけず、短時間で火を止めます。
豆料理を加えると食卓が広がる
メキシコ料理では、黒いんげん豆、うずら豆に似たピント豆など、さまざまな豆が使われます。煮た豆を汁ごと食べるほか、つぶして焼き直すフリホーレス・レフリトスなどがあります。
初めは水煮の豆を使い、玉ねぎとにんにくを炒めた鍋へ加えます。少量の水か煮汁を足して温め、塩を整えれば、タコスの具や付け合わせになります。
つぶした豆は、パンやトルティーヤへ塗ったり、チーズやサルサと合わせたりできます。すべてを完全なペーストへせず、少し粒を残すと食感が生まれます。
乾燥豆から作る場合は、豆の種類に合った浸水と加熱が必要です。袋の表示や信頼できる作り方に従い、内部に硬い芯が残らない状態まで煮ます。
豆料理を加える日は、肉の量を減らしても満足感を作れます。タコス一枚目は鶏肉、二枚目は豆と野菜というように、同じ食卓の中で具を変えられます。
次に作りたいメキシコ料理
エンチラーダ
エンチラーダは、トルティーヤへ具を入れて巻き、唐辛子を使ったソースなどをかける料理です。地域や家庭によってソースと仕上げは異なります。
最初は市販のトルティーヤと加熱済みの鶏肉を使い、サルサ・ロハをかけて温めます。チーズを使う場合も、量を増やすよりソースと皮の味が分かる程度にします。
ケサディーヤ
ケサディーヤは、トルティーヤへチーズなどを挟み、折って焼く料理です。地域によってチーズを必ず使うかどうかを含め、呼び方や具にも違いがあります。
家庭では、チーズときのこ、豆、加熱した鶏肉などから一つを選びます。具を多く入れず、皮が破れない量にすると作りやすくなります。
チラキレス
チラキレスは、切って揚げたり焼いたりしたトルティーヤへサルサを絡め、クリーム、チーズ、玉ねぎ、卵や鶏肉などを添える料理です。余ったトルティーヤを別の食感へ変えられます。
サルサへ長く浸せばやわらかくなり、短く合わせれば歯ごたえが残ります。作ったら時間を置きすぎず、好みの食感で食べます。
ポソレ
ポソレは、粒の大きなとうもろこしと肉などを煮る料理です。地域によって白、赤、緑の仕上げがあり、食べるときにキャベツ、玉ねぎ、ラディッシュ、ライムなどを加えます。
専用のとうもろこしが必要になるため、初めは缶詰など入手しやすい加工品を使う作り方を選びます。通常のスイートコーンを同じものとして代用する料理ではありません。
モレ
モレは、唐辛子、香辛料、種子、ナッツ、果物など、複数の材料を組み合わせるソースの総称に近いものです。チョコレートを使う種類もありますが、すべてのモレが甘いチョコレート味ではありません。
一から作ると工程が多いため、最初は信頼できる市販ペーストを使い、肉や野菜との合わせ方を知る方法もあります。ナッツ、ごま、小麦などが含まれる場合は、原材料表示を確認します。
地域から料理を選ぶ
オアハカ
オアハカでは、さまざまなモレ、とうもろこしの大きな生地を使うトラユーダ、チーズ、カカオを使う飲み物などが知られています。
料理だけでなく、先住民の言語や共同体、地域で育つとうもろこしや唐辛子とのつながりがあります。珍しい食材を消費するだけでなく、誰がどのように作り続けてきた料理なのかにも目を向けます。
ユカタン半島
ユカタン半島では、アチョーテの赤い色と香り、酸味のある柑橘、豚肉などを使う料理があります。コチニータ・ピビルは、味付けした豚肉を包んでゆっくり加熱する料理です。
現地の地中調理を家庭で再現するのではなく、オーブンや鍋を使う家庭向けの方法を選びます。アチョーテペーストを使う場合は、原材料と辛さを確認します。
ベラクルスと沿岸地域
ベラクルスでは、魚介、トマト、オリーブ、唐辛子などを組み合わせる料理が知られています。海に近い地域では、魚、えび、貝などを使う食卓が広がります。
魚介を使う料理は、鮮度と加熱を優先します。生の魚を柑橘へ漬けるだけでは、家庭で安全に加熱したことにはならないため、セビチェなどは信頼できる材料と衛生管理が必要です。
北部
北部では、牧畜と小麦の栽培に結びついた肉料理や小麦のトルティーヤが多く見られます。炭火で焼く牛肉、乾燥肉、小麦の大きなトルティーヤなど、中央や南部とは異なる食文化があります。
家庭では、小麦のトルティーヤへ焼いた肉や豆を合わせ、コーントルティーヤとの食感を比べられます。どちらかを本物と決めず、使われてきた地域の違いを知ることが大切です。
普段の道具で十分に始められる
メキシコ料理のために、石臼や専用の大きな鉄板を最初から購入する必要はありません。フライパン、鍋、包丁、ボウルがあれば、タコス、サルサ、豆料理を作れます。
最初に必要なもの
・フライパン
・ふた付きの鍋
・包丁とまな板
・ボウル
・ざる
・トングまたは菜箸
・計量カップと計量スプーン
・温めたトルティーヤを包む清潔な布
続けるなら用意したいもの
・トルティーヤプレス
・マサを混ぜる大きめのボウル
・サルサをつぶすすり鉢
・乾燥唐辛子用の小型ミル
・厚手の鉄板やフライパン
・食品用温度計
トルティーヤプレスは、生地を均一な円形へ押し広げる道具です。なくても、切り開いた食品用の袋で生地を挟み、底の平らな鍋や皿で押すことができます。
最初は買わなくてよいもの
・多種類の乾燥唐辛子
・大容量のマサ粉
・大型の石臼
・専用の土鍋や蒸し器
・輸入食器一式
・家庭用の大きな炭火設備
同じ道具を何度か使い、どの工程へ時間がかかっているか分かってから買い足します。サルサ作りを繰り返したくなればすり鉢、トルティーヤを何度も焼きたくなればプレスという順序なら、使わない道具を増やしにくくなります。
トルティーヤを手作りする
市販のトルティーヤに慣れたら、マサ粉から小さな皮を作れます。最初は一度に十数枚を焼かず、直径10〜12センチほどを六枚程度作ります。
マサ粉へ、商品に記載された量のぬるま湯と少量の塩を加えます。粉によって吸う水の量が異なるため、湯を一度にすべて入れず、まとまりを見ながら調整します。
生地は、握るとまとまり、縁が大きく割れない程度にします。べたつく場合は粉を少量、割れる場合は水をごく少量加えます。
生地を同じ大きさに丸め、食品用の袋やシートで挟み、平らな道具で押します。薄くしすぎるとはがすときに破れ、厚すぎると中まで火が通りにくくなります。
温めたフライパンへ一枚ずつ置き、両面を焼きます。焼きすぎると硬くなるため、薄い焼き色と香りが出たところで取り出し、布で包みます。
最初の一枚が割れたり、円形にならなかったりしても構いません。生地の水分、押す厚さ、火加減を一つずつ変え、焼き上がりを比べることがトルティーヤ作りの楽しさです。
家庭で安全に楽しむために
肉や魚を扱った包丁、まな板、トング、皿は、サルサや加熱後の料理へそのまま使いません。生で食べるトマト、玉ねぎ、香菜を先に切り、そのあと肉を扱うと分けやすくなります。
鶏肉、豚肉、ひき肉などは中心まで十分に加熱します。家庭での食中毒予防では、中心部を75℃で1分以上加熱することが一つの目安です。
生のサルサ、ワカモレ、刻んだ香草は室温へ長く置かず、食べる直前まで冷蔵します。食卓へ出したものを保存容器へ戻さず、必要な量だけ取り分けます。
豆や肉の煮込みを保存する場合は、鍋のままゆっくり冷ましません。浅い清潔な容器へ小分けし、速やかに冷蔵または冷凍します。
温め直すときは全体を混ぜ、中心まで十分に熱くします。大きな容器を何度も温めるのではなく、食べる分だけ取り出します。
唐辛子、ライム、香菜、香辛料などの刺激や香りには個人差があります。食べる人が複数いる日は、辛味のあるサルサを別添えにすると無理なく調整できます。
チーズ、クリーム、ナッツ、ごま、小麦、魚介などを使う料理もあります。市販のモレやサルサ、トルティーヤを人へ出す場合は、原材料とアレルギー表示を確認します。
続けるほど変わる五つの楽しみ方
第1段階 市販のトルティーヤでタコスを完成させる
最初は市販のコーントルティーヤを温め、鶏肉と生のサルサを包みます。皮を割らずに温めること、具を載せすぎないこと、辛味を別にすることを覚えます。
本格的な料理を何品もそろえるより、温かい皮、肉、玉ねぎ、ライムが一口の中で合うことを確かめます。
第2段階 サルサと具を作り分ける
生のサルサ、焼いたトマトのサルサ、ワカモレなどから一つを選びます。具も鶏肉、豆、きのこ、魚などへ変え、同じトルティーヤとの相性を比べます。
辛さを増やすことより、酸味、香ばしさ、食感の違いを見つけます。食卓に二種類のサルサがあるだけで、同じ具でも別のタコスになります。
第3段階 マサ粉からトルティーヤを焼く
ニシュタマリゼーション済みのマサ粉へ水を加え、小さな生地を押して焼きます。水分量、厚さ、火加減を記録し、やわらかな状態で食卓へ出せるようにします。
皮を自分で作ると、具だけでなく主食そのものの香りへ意識が向きます。とうもろこしの種類や製品による違いも比べられるようになります。
第4段階 州や地域から料理を選ぶ
オアハカのモレ、ユカタンの豚肉料理、ベラクルスの魚料理、北部の小麦トルティーヤなど、地域を一つ選びます。料理名だけでなく、その土地で使われるとうもろこし、唐辛子、豆、果物にも目を向けます。
入手できない材料を無理に置き換えるのではなく、代用品を使った部分と元の料理との違いを知りながら作ります。
第5段階 一つの食卓として組み立てる
タコス、豆料理、野菜、サルサ、飲み物や甘味を、食べる人と時間に合わせて組み合わせます。すべてを同じ日に一から作らず、豆は前日に煮て、当日は肉とサルサを仕上げる方法もあります。
旅先や店で食べた料理を自宅で作り直したり、家族や友人と具の組み合わせを比べたりすると、味の記憶が台所へつながります。珍しい材料を集めることより、多様な地域と人々の食文化を尊重しながら、また作りたい一皿を増やしていくことが深い楽しみになります。
あわせて楽しみたい関連する趣味
スパイスブレンド
スパイスブレンドは、香辛料の割合や加えるタイミングを変え、料理の香りがどのように変わるかを比べる趣味です。メキシコ料理ではクミン、コリアンダー、唐辛子、シナモンなどが料理に応じて使われますが、すべてを一つの万能調味料へまとめる必要はありません。
肉の具、豆、煮込みで配合を変えれば、同じ香辛料の別の表情を楽しめます。
野菜料理
野菜料理は、トマト、玉ねぎ、かぼちゃ、とうもろこし、豆、アボカドなどを、焼く、煮る、和えるといった方法で楽しむ趣味です。メキシコ料理でも野菜はサルサや付け合わせだけでなく、タコスの具や煮込みの中心になります。
肉を使わない日には、きのこ、豆、焼いた野菜をトルティーヤへ載せると、食感と香りのある一皿を作れます。
煮込み料理
煮込み料理は、肉、豆、野菜、香辛料を鍋の中でなじませ、火加減と時間による変化を楽しむ趣味です。カルニタス、豆の煮込み、ポソレ、モレを使う料理などへ進むときに、焼き色、水分量、保存と再加熱の基本が役立ちます。
タコスの具を一つ煮込んでおけば、当日はトルティーヤとサルサを用意するだけで食卓を整えられます。
温かい一枚から、メキシコの食卓を広げていく
メキシコ料理を始めるために、何種類もの唐辛子も、大きな石臼も必要ありません。小さなコーントルティーヤを温め、焼いた鶏肉とトマトのサルサを載せ、ライムを絞るところから始められます。
次の休日には、市販のトルティーヤと食べ切れる量の肉、トマト、玉ねぎを用意してみてください。サルサを先に作って冷蔵し、肉を十分に焼いたら、食べる直前に皮を一枚ずつ温めます。
最初の一枚は鶏肉と玉ねぎだけで、二枚目には豆を加え、三枚目には少し辛いサルサを。包む内容を変えるたび、一つの食卓の中に新しい味が生まれます。
その次にはマサ粉からトルティーヤを焼き、乾燥唐辛子の香りを比べ、海辺や高原の料理を一つずつ作ってみる。タコスから始まった小さな入口の先に、とうもろこしを育て、加工し、食卓を囲んできた多様な地域と人々の暮らしが、ゆっくりと見えてきます。
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