リボン刺繍の楽しみ方
はじめに
布の裏から針を出し、つやのあるリボンをゆっくり引き上げる。少し離れた場所へ針を戻すと、幅のある一針が、そのまま一枚の花びらのように布の上へ残ります。
細い刺しゅう糸では何針も重ねて表す部分が、リボン刺繍では一針でやわらかな立体になります。リボンの向きを少しひねれば花びらの表情が変わり、引く力を弱めればふっくらと、強めれば細く締まった形に仕上がります。
華やかな作品を目にすると、「普通の刺繍より難しいのでは」「特別な布や高価なリボンが必要なのでは」と感じるかもしれません。けれど、最初から大きな花束や複雑な図案へ挑戦する必要はなく、太めの針と数色のリボンを使い、小さな花を一輪刺すところから始められます。
リボン刺繍の魅力は、図案を平面的な線で埋めるだけではなく、リボンそのものの幅、光沢、折れ方、ねじれを生かして布の上へ立体感を作れることです。今回は、自宅で月2回ほど楽しむ場合を想定し、必要な道具、費用、材料の選び方、最初に覚えたいステッチ、形をふんわり残すコツ、仕上げや保管まで紹介します。
リボン刺繍の基本情報
主な楽しみ方 幅のあるリボンを布へ刺し、花、葉、実、リースなどの立体的な模様を作る
おすすめの頻度 月2回ほど。基本の刺し方を覚える時期は、短時間でも間を空けずに触れると感覚をつかみやすい
1回の制作時間 約60〜110分
短時間で楽しむ場合 約20〜35分から
準備と片付けを含む時間 約70〜130分
主な場所 自宅の机、明るい窓辺、個人の作業スペース
最初に必要なもの 刺しゅう用リボン、リボン刺しゅう針、布、刺しゅう枠、糸切りばさみ、図案を写す道具
最初の作品 花を一輪刺したミニフレーム、くるみボタン、巾着やハンカチの小さな飾り
始めやすいところ 一針で面積を作りやすく、数種類の基本ステッチでも花や葉を表現できる
難しく感じやすいところ リボンを引きすぎず、ねじれやふくらみを見ながら形を整えること
楽しさの中心 同じ一針でも、リボンの向きと引き加減によって花びらや葉の表情が変わること
まとまった時間が取れる日は、図案を写して花を数輪刺し、葉や茎を加えるところまで進められます。短時間だけ楽しむ日は、リボンを必要な長さへ切る、花びらを一枚だけ加える、完成した作品の裏側を整えるなど、工程を小さく分けられます。
リボン刺繍は、素材の幅とふくらみを生かす刺繍
リボン刺繍は、刺しゅう糸の代わりに細いリボンを針へ通し、布へ模様を作る手芸です。基本的な針の動かし方には一般的な刺繍と共通する部分がありますが、平たいリボンを使うため、一針の中に幅、光沢、折れ目、影が生まれます。
たとえば、布の表から裏へまっすぐ刺すだけでも、リボンを平らに置けば細長い花びらになり、少しねじれば動きのある葉のように見えます。針をリボンそのものへ通して引くリボンステッチを使うと、先端が自然に折れ、花びらや葉らしい形を作れます。
花の中心や茎には、細い刺しゅう糸を組み合わせることもあります。リボンだけですべてを表そうとせず、細い線は刺しゅう糸、ふくらみのある花びらはリボンというように、素材の特徴に合わせて使い分けられます。
完成した模様は布の表面から少し浮き上がり、光が当たる角度によって色の見え方も変わります。平面的な図案を正確に埋めるというより、リボンを布の上で整えながら、小さな花を形作っていく感覚に近い刺繍です。
リボン刺繍にかかる費用
入力データでは初期費用が約1万円とされていますが、初心者が小さな作品を試すために、それほど多くの道具をそろえる必要はありません。家庭に糸切りばさみや裁縫道具があれば、専用針、刺しゅう枠、布、数色のリボンを合わせて、2,500〜5,000円ほどから始められます。
最小限の道具をそろえる場合
リボン刺しゅう針 数本入りで約400〜700円前後
刺しゅう枠 約900〜1,800円前後
刺しゅう用リボン 1色あたり約300〜1,000円前後
布 小さな作品用で約300〜1,000円前後
図案写し用品 約300〜800円前後
初期費用の目安 約2,500〜5,000円前後
針、枠、はさみは繰り返し使えるため、毎回必要になるのはリボンや布などの材料が中心です。最初から何十色ものリボンや複数の刺しゅう枠を集める必要はありません。
初心者向けキットを使う場合
小さなフレームや小物のキット 約1,500〜5,000円前後
キットには、図案、布、必要な色のリボン、刺しゅう糸、作り方の説明などが含まれていることがあります。針や枠が入っているかは商品ごとに異なるため、購入前に内容を確認します。
初めての作品には、花が一輪から数輪ほどで、使うステッチが明記されたものが向いています。完成写真が華やかでも、花びらの数が多い大きなブーケや、細いリボンを何色も使う図案は、基本の引き加減を覚えてから挑戦したほうが落ち着いて進められます。
一作品にかかる材料費
小さな花のフレームやワンポイント刺繍なら、一作品あたり約300〜1,500円前後が目安です。リボンは一巻きを使い切るとは限らず、余った分を次の作品へ使えるため、一作品分だけで考えると費用はさらに小さくなることがあります。
ブローチ、巾着、ポーチなどへ仕立てる場合は、土台となる布小物、接着芯、裏布、金具などの費用が加わります。市販の無地の小物へ刺す方法なら、布を裁断して縫い合わせる工程を省き、刺繍そのものへ集中できます。
続ける場合の年間費用
月2回ほど、小さな作品を作るなら、年間の材料費は約6,000〜18,000円前後が一つの目安です。新しい色のリボンを集める、アクセサリー金具を使う、教室やワークショップへ参加する場合は費用が増えます。
同じ色を複数の作品へ使い、手持ちの枠と針を続けて使えば、毎回の負担は布と少量のリボンが中心になります。使用後にリボンを無理に引っ張らず、折れや汚れを避けて保管すれば、残りも次の作品へ生かせます。
教室や体験講座へ参加する場合
1回完結の体験講座は、材料費を含めて約2,000〜6,000円前後が目安です。定期教室では、月謝や回数券のほか、作品ごとの材料費、道具代、交通費がかかる場合があります。
リボンを引く力や、花びらの形を指先で整える動きは、写真だけでは分かりにくいことがあります。動画を見てもリボンがつぶれてしまう場合は、一度だけ対面で手元を見てもらうと、自分がどの程度強く引いているかを確かめやすくなります。
費用を抑える方法
最初は、10〜12cm前後の刺しゅう枠、幅4mm前後の明るい単色リボンを2〜3色、対応する針、小さな布という組み合わせで十分です。高価な絹のリボン、幅の異なるセット、何色もの段染めリボンは、基本の形を作れるようになってから加えます。
手持ちの無地のハンカチや巾着へ刺す場合は、針が無理なく通る布か、裏側へ手を入れられる形かを確認します。刺繍しにくい既製品を無理に使うより、最初は平らな布を枠へ張り、完成後に小さなフレームへ入れるほうが失敗を減らせます。
リボン刺繍をおすすめする3つの理由
1.一針で、花びらの幅と立体感が生まれる
一般的な刺しゅう糸では、面を表すために何本もの糸を並べることがあります。リボン刺繍では、幅のある素材そのものが面になるため、一度針を通すだけで、花びらや葉の形が現れます。
リボンを平らに置けば、光沢のあるなめらかな花びらになります。途中を少しねじれば影が生まれ、先端を折り込めば、開きかけたつぼみのような形にも見えます。
同じ長さ、同じ色のリボンを使っても、引き加減や向きによって一枚ずつ表情が変わります。すべてを寸分違わずそろえるより、少しずつ異なる形が集まることで、自然な花らしさが生まれるところも魅力です。
2.数種類のステッチから華やかな作品へ広げられる
最初に覚えるのは、ストレートステッチ、リボンステッチ、レゼーデージーステッチなど、花や葉へ使いやすい基本的な刺し方です。複雑な技法を何十種類も覚えなくても、刺す方向と長さを変えるだけで、花びら、葉、つぼみを作れます。
花の中心へフレンチノットを加え、茎を刺しゅう糸のアウトラインステッチで刺せば、小さな植物の図案がまとまります。リボンの花だけで画面を埋めず、細い線や余白を加えることで、立体部分がより目立ちます。
一つの基本ステッチを繰り返しても、リボンの色と配置を変えれば、違う植物や季節の雰囲気を表せます。技法の数を増やす前に、同じ刺し方でどのような形を作れるか試せる手芸です。
3.飾る作品から、身近な小物へつなげられる
完成した刺繍は、刺しゅう枠へ入れたまま小さな壁飾りにできます。布を丸く切ってくるみボタンへ仕立てたり、ブローチ金具を付けたりすれば、日常で使える作品にもなります。
巾着、ポーチ、バッグ、ハンカチなどへ一輪だけ加えると、無地の布にやわらかな立体感が生まれます。大きな作品を完成させなくても、角やポケットの近くへ小さな花を添えるだけで、リボン刺繍らしい魅力を味わえます。
作品を人へ贈るときも、カードの表紙、小さなフレーム、布小物など、相手に合わせて形を選べます。見るための刺繍と使うための刺繍を行き来できるため、同じ技法を長く楽しめます。
初めて用意したい道具と材料
刺しゅう用リボン
リボン刺繍には、針へ通しやすい幅と厚みのリボンを使います。初心者には、幅4mm前後の明るい単色が扱いやすく、花びらのねじれや針を出す位置を確認しやすくなります。
絹のリボンはしなやかで、やわらかなふくらみや自然な光沢を出しやすい素材です。一方、化学繊維のリボンにも扱いやすいものがあり、色や価格、手に入りやすさから選べます。
最初は、白、淡い桃色、黄色、薄い青、若草色など、布との違いが分かりやすい色を選びます。黒や濃紺の布に濃い色のリボンを使うと針穴や形が見えにくくなるため、慣れるまでは明るい布と見分けやすい色の組み合わせが安心です。
一般的なラッピング用リボンは、厚み、硬さ、端の処理が刺繍に向かない場合があります。見た目が似ていても、針へ通したときに裂けたり、布の穴を通りにくかったりするため、最初は刺しゅう用として販売されているものを選びます。
リボン刺しゅう針
リボン刺しゅう針は、幅のあるリボンを通せるように、針穴が長く大きく作られています。織物の布へ刺す場合は先のとがったタイプ、ニット地など繊維を割りにくくしたい場合は先の丸いタイプというように、布とリボンに合う針を選びます。
リボンの幅に対して針穴が小さすぎると、通すときにリボンが傷み、刺している途中で毛羽立ちや裂けが起こります。反対に針が太すぎると、布へ大きな穴が残ることがあります。
初回は、細タイプや太タイプが数本入ったセットを選び、使うリボンが無理なく通る一本を試します。針穴へ通したあと、リボンが強く折れたり引っかかったりしない大きさが目安です。
布
最初の布には、伸びにくく、織り目が極端に詰まりすぎていない綿や麻の平織り布が向いています。リボンと針が無理なく通り、刺しゅう枠へ張ったときにたるみにくいものを選びます。
目が細かく密な布では、太い針を何度も通すうちに穴が目立ったり、リボンがこすれて傷んだりすることがあります。反対に織り目が粗すぎる布では、完成後にステッチが動きやすくなる場合があります。
薄い布へ立体的な花を多く刺すと、重みで布がゆがむことがあります。必要に応じて裏側へ接着芯や補助布を当てますが、初回は小さな図案を選び、布そのものへ無理な負担をかけないほうが分かりやすく進められます。
刺しゅう枠
刺しゅう枠は、布を平らに保ち、針を出す位置を見やすくする道具です。最初は10〜12cm前後の枠が扱いやすく、小さな花やワンポイントの図案に向いています。
布を張るときは、表面に大きなしわが残らない程度に整えます。強く引きすぎると織り目がゆがみ、完成後に枠を外したとき、刺しゅうの周囲が縮んだように見えることがあります。
制作中に布が緩んだら、一度枠を締め直します。立体的な刺繍が増えてから枠を移動すると、完成した花を挟んでつぶすことがあるため、最初から図案全体が入る大きさを選ぶと安心です。
糸切りばさみと図案写し用品
リボンを切るはさみは、切り口がほつれにくいよう、刃先のよく切れるものを使います。布を切る大きな裁ちばさみより、手元で動かしやすい小型の糸切りばさみが便利です。
図案を写す道具には、水で消えるペン、時間がたつと消えるペン、チャコペーパーなどがあります。布とリボンの素材によって印の消え方が異なるため、目立たない端で試してから使います。
続けるなら加えたいもの
細い刺しゅう糸、通常の刺しゅう針、針山、糸通し、ピンセット、目打ち、収納ケースなどは、作品に合わせて少しずつ加えます。花の中心や茎を細く表したい場合は、リボンだけでなく刺しゅう糸を組み合わせると図案をまとめやすくなります。
細いピンセットや目打ちは、布の表でねじれたリボンを整えるときに役立ちます。ただし、先端でリボンを強く引っかくと傷が付くため、指先で整えにくい場所だけへ静かに使います。
最初は買わなくてよいもの
何十色ものリボン、複数サイズの刺しゅう枠、高価なスタンド、専門的な仕立て道具は、入門段階には必要ありません。最初の一作品で使う色と幅だけを用意し、作りたい花や小物が増えてから買い足します。
保護眼鏡や作業用手袋も、通常の手刺しによるリボン刺繍には必要ありません。手袋をするとリボンの向きや引き加減を感じにくくなるため、針の置き場所と保管を整え、落ち着いて作業することを優先します。
最初の作品は、小さな花を一輪
初めての作品には、花びらが5枚ほどの小さな花と、葉を1〜2枚組み合わせた図案が向いています。使うステッチが少なく、花びらごとにリボンの引き加減を試せるためです。
額に入れるための小さな布なら、裏側へ手を入れやすく、針の出し入れも確認できます。既製品へ直接刺す場合は、ポケットの内側や袋の裏布まで一緒に縫い付けないよう、手が入る場所を選びます。
1.図案を布へ写す
最初から細かな線を多く描かず、花の中心、花びらの向き、葉の先、茎の流れが分かる程度に写します。リボンには幅があるため、線を正確になぞるより、どこから針を出し、どこへ戻すかを示す印が大切です。
図案を写したら、消える印を使った場合でも、作業中に薄くなりすぎないか確認します。何日かに分けて制作する場合は、説明書や図案のコピーを一緒に保管します。
2.布を刺しゅう枠へ張る
図案が枠の中央付近へ来るように置き、布の縦糸と横糸が大きくゆがまないよう整えます。表面のしわがなくなり、針を通したときに布が沈みすぎない程度に張ります。
枠のねじを締めたあと、布の周囲を少しずつ引きます。一方向だけ強く引くのではなく、上下左右を均等に整えます。
3.リボンを必要な長さへ切る
リボンは長く取りすぎると、布を通る回数が増えるうちに表面が傷みます。最初は40〜50cm前後を目安にし、図案や教材に指定がある場合はそちらを優先します。
切り口は斜めにすると、針穴へ通しやすくなります。端がほつれたまま無理に通すと、針穴の部分でリボンが裂けることがあります。
4.針へリボンを通す
リボンの端を針穴へ通したら、針先をリボンの端近くへ刺し、引いて固定する方法があります。教材によって通し方や刺し始めの処理が異なるため、作る作品の説明を確認します。
裏側へ大きな結び目を作ると、布が盛り上がったり、完成後に額や小物へ仕立てにくくなったりします。最初は教材に示された方法で始末し、裏側も厚くなりすぎないよう整えます。
5.花びらを一枚ずつ刺す
花の中心付近から針を出し、リボンの表面が布へ平らに出るまでゆっくり引きます。勢いよく引き抜くと、リボンがねじれたり、布の穴へ食い込んだりします。
花びらの先へ針を戻す前に、リボンが表を向いているか、途中で折れていないかを確認します。必要なら指先や針の背でやさしく整えてから、少しずつ裏へ引きます。
6.花の中心と葉を加える
花びらがそろったら、中心へ細い刺しゅう糸のフレンチノットを加えたり、別の色のリボンで短いステッチを置いたりします。中心を大きくしすぎず、花びらの重なりが見える程度にまとめます。
葉は、花びらより少し長いリボンステッチやストレートステッチで作れます。すべてを同じ方向へそろえず、茎から外側へ伸びる向きを考えると、植物らしい流れが生まれます。
7.裏側を整えて仕上げる
刺し終えたリボンは、表側を引っ張らないように裏で始末します。同じ場所へ何度も針を通すと布が傷み、表の花びらも引き込まれることがあるため、必要な範囲で固定します。
完成後に枠を外し、花びらがつぶれていないかを確認します。図案の線が残っている場合は、使った筆記具と布、リボンに合う方法で消します。
最初に覚えたい四つの刺し方
ストレートステッチ
布の表へ針を出し、少し離れた場所へ戻す、基本的な一針です。リボンを平らに保てば、細長い花びらや葉、つぼみの一部になります。
針を裏へ引く前に、リボンの向きと幅を確認します。強く引きすぎると細い線になり、リボンらしい面が失われるため、布の表へ自然に沿うところで止めます。
リボンステッチ
布の表へ出したリボンを平らに置き、先端近くのリボンそのものへ針を刺して裏へ引く技法です。先が少し折れ込むため、花びらや葉の先端らしい形が生まれます。
針をリボンの中央へ刺すか、左右へずらすかによって、先端の曲がる方向が変わります。一度に強く引かず、形を見ながら少しずつ締めます。
レゼーデージーステッチ
輪を作るようにリボンを布の表へ残し、先端を小さな一針で留める刺し方です。ふっくらした花びらや葉を作りやすく、同じ中心から複数の輪を広げると花になります。
輪の大きさをそろえるには、最初の数枚を刺した時点で全体を見ます。完全に同じ形へそろえるより、少し長さを変えると自然な花に見えることもあります。
フレンチノットと細い線
花の中心には、刺しゅう糸を使ったフレンチノットがよく合います。小さな粒を集めることで、リボンの広い花びらとの違いが生まれます。
茎や細い枝には、アウトラインステッチやバックステッチを使えます。リボンだけで太く表すより、細い糸を組み合わせたほうが、花や葉の立体感を引き立てられます。
ふんわりした形を残すためのコツ
リボン刺繍で最も大切なのは、すべてのステッチを強く締めないことです。布へしっかり固定しようとして引きすぎると、幅のあるリボンが細い線になり、花びらのふくらみも失われます。
針を裏へ引くときは、表側を見ながら少しずつ進めます。リボンが布へ自然に触れ、形が安定したところで止めます。
ねじれは、すべて直せばよいとは限りません。意図しない裏返りや強い折れは整えますが、ゆるいねじれは花びらの陰影や動きになります。
リボンを布の表へ出したら、針を戻す前に一度手を止めます。どちらの面が上を向いているか、端が折れていないか、隣の花びらへ重なりすぎていないかを確認すると、やり直しを減らせます。
同じ花の中でも、下側の花びらを先に刺し、上へ重なる花びらをあとから加えると立体感を作りやすくなります。図案の線だけではなく、実際の花がどの方向へ重なっているかを想像しながら順番を決めます。
リボンと布の組み合わせを考える
細いリボンは小さな花や繊細な葉に向き、太いリボンは大きな花びらや存在感のある装飾に向いています。幅を変えると同じステッチでも仕上がりの大きさが変わるため、図案に示された幅を最初の目安にします。
しなやかなリボンはやわらかな曲線を作りやすく、少し張りのあるリボンは形をはっきり残せます。素材の名前だけで選ばず、短いステッチを試し刺しし、布を通ったあとの厚みや表情を確認します。
布とリボンの色が近すぎると、花びらの輪郭が見えにくくなることがあります。淡い色でまとめたい場合でも、花の中心や葉へ少し濃い色を置くと、全体がぼやけにくくなります。
白い布に淡い桃色、黄色、緑を合わせると、明るくやわらかな作品になります。生成りの麻布にくすんだ赤や青を使えば、落ち着いた雰囲気へ変わります。同じ図案でも、布の色と質感を変えることで、季節や飾る場所に合わせた作品にできます。
うまくいかないときの見直し方
リボンが細い線になってしまう
リボンを裏へ引きすぎている可能性があります。表側の幅が残る位置まで少し戻し、指先や針の背で平らに整えます。
強く締めたあとでは戻しにくいこともあるため、一針ごとに形を確認します。刺し始めの練習布で、どの程度引くと幅が残るかを試しておくと安心です。
リボンが途中でねじれる
布の裏から針を出した時点で、リボンの表裏とねじれを確認します。長いリボンは布を通るうちに回転しやすいため、針を一度手から離し、自然にねじれが戻るのを待つ方法もあります。
表側のねじれを直すときは、針先で強くこすらず、針の背や指先でやさしく広げます。多少のねじれを花びらの動きとして残す選択もできます。
布へ針が通りにくい
針がリボンの幅に合っていないか、布の織りが密すぎる可能性があります。無理に力を入れると針が曲がったり、リボンが傷んだりするため、針の太さや布を見直します。
同じ穴へ何度も太い針を通すと、布の繊維が広がります。花の中心へ針が集中する図案では、出す位置をわずかに分け、布へ負担が偏らないようにします。
花びらの大きさがそろわない
最初に花の中心と花びらの先へ小さな印を付けておくと、長さをそろえやすくなります。ただし、すべてが同じ長さだと機械的に見えることもあるため、上側を短く、下側を少し長くするなど、図案に合った変化を付けられます。
一枚ずつ完成度を追いすぎず、二、三枚刺したところで花全体を見ます。隣の花びらとの間隔や重なりを確かめるほうが、自然な形へ整えやすくなります。
裏側が厚くなる
同じ場所でリボンを何度も重ねたり、大きな結び目を作ったりすると、裏側が厚くなります。完成後に額へ入れるだけなら多少の厚みを保てますが、ポーチやハンカチでは使い心地へ影響します。
刺し始めと刺し終わりの方法をそろえ、長いリボンを裏で渡しすぎないようにします。離れた場所へ移るときは、いったん始末して新しいリボンで始めたほうが、裏側を整えやすい場合があります。
完成後の仕上げと保管
リボン刺繍は立体的なため、完成後に表側から強くアイロンを当てると花びらがつぶれます。しわを整える必要がある場合は、使用した布とリボンの取り扱い表示を確認し、裏側から低い温度で行うなど、作品に合った方法を選びます。
刺しゅう枠へ入れたまま飾る場合は、枠の裏側へ布をまとめる、別布で覆うなどして仕上げられます。額へ入れる場合は、刺繍とガラス面が直接強く触れないよう、奥行きのある額を選ぶと立体感を残しやすくなります。
アクセサリーや布小物へ仕立てる場合は、花びらが衣類やバッグへ引っかからないかを確認します。摩擦が多い場所や、頻繁に洗う物へ大きな立体モチーフを付けると傷みやすいため、最初はブローチ、フレーム、巾着の上部など、強くこすれにくい用途が向いています。
保管するときは、作品の上へ重い物を載せず、花びらが押しつぶされない場所へ置きます。余ったリボンも強く折り畳まず、巻いた状態やゆるくまとめた状態で、直射日光や湿気を避けて保管します。
洗濯できるかどうかは、リボン、布、刺しゅう糸、金具など、使用した材料すべてによって変わります。水洗いが必要な作品を作る場合は、制作前に各材料の表示を確認し、端切れで色落ちや形の変化を試します。
長く楽しむために気をつけたいこと
リボン刺繍では、針の出る位置と小さな花びらを長く見続けます。机と手元を明るくし、顔を布へ近づけすぎずに見える位置へ刺しゅう枠を置きます。
30分から1時間ほど作業したら針を置き、立ち上がって肩や手を動かします。夢中になると指先へ力が入りやすいため、リボンを引く手だけでなく、枠を持つ手もときどき緩めます。
針は使わないときに針山へ戻し、本数を確認します。布やリボンの間へ紛れたまま机や床へ落とさないよう、作業を終える前に周囲も確かめます。
小さな針、金具、ビーズ、短く切ったリボンは、子どもやペットの手や口が届かない容器へ保管します。はさみは刃を閉じ、作品と別の区画へ入れます。
図案を使用して完成品を公開・販売する場合は、教材や作者の利用条件を確認します。完成品の販売が認められていても、図案そのものや作り方の画像を転載できるとは限りません。
続けるほど変わる五つの楽しみ方
第1段階 花びらを一枚、ふんわりと残す
最初はストレートステッチやリボンステッチを使い、一枚の花びらや葉を作ります。布の表へリボンを出し、向きを整え、幅が残るところで引く手を止めます。
整った作品を一度で作ることより、引き加減によって形がどのように変わるかを知る段階です。練習布へ数本刺してから小さな花を一輪完成させると、最初の感覚を作品として残せます。
第2段階 基本の花と葉を安定して刺す
基本の動きに慣れたら、同じ中心から複数の花びらを広げ、葉や茎を組み合わせます。花びらの長さ、重なり、向きを見ながら、全体の形を整えます。
一針ごとの形だけでなく、花全体を少し離れて見ることが増えていきます。同じ図案をもう一度刺すと、前回よりもリボンを引く力や順番を意識できるようになります。
第3段階 リボンの幅、色、ねじれを選ぶ
基本の花を作れるようになると、細いリボンと太いリボン、淡い色と濃い色、平らな花びらとねじれた花びらを使い分けられます。同じ図案を別の素材で作り、印象の違いを比べることもできます。
リボンだけでなく、刺しゅう糸、ビーズ、小さな金具などを加えると、花の中心や周囲に新しい質感が生まれます。材料を増やすことそのものではなく、どの部分へ何を使うかを考える楽しさが加わります。
第4段階 季節や植物をテーマに作品をまとめる
春の小花、初夏の草原、秋の実、冬のリースなど、季節や植物を一つのテーマとして作品を広げます。花びらの形だけでなく、茎の流れ、葉の向き、余白の取り方まで考えるようになります。
小さなフレームを複数作って並べたり、同じ配色でブローチと巾着を仕立てたりすると、一作品では見えなかったまとまりが生まれます。好きな花の写真を観察し、特徴をリボンでどのように表すか考えることも、制作の一部になります。
第5段階 作品を暮らしの中や人とのつながりへ広げる
完成した刺繍を額へ入れる、衣服や小物へ仕立てる、季節ごとに飾る、誰かへ贈るなど、作品の居場所を選びます。自分で図案を考え、布、リボン、仕立て方を一つの作品として組み立てることもできます。
制作記録を残す、展示へ参加する、完成品を販売する、初心者へ基本の刺し方を伝えるといった広がりもあります。ただし、販売や指導を目標にせず、好きな花を繰り返し刺し、自宅で静かに楽しみ続けることも自然な深まり方です。
この五つは、順番に上達しなければならない階級ではありません。新しい素材を試したあとに基本の一輪へ戻る、図案どおりに刺す日と自由に配色する日を分けるなど、そのときに心地よい楽しみ方を選べます。
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刺繍
刺繍は、布へ針と糸を通し、線、点、面を組み合わせて模様や文字を描く手芸です。刺繍全体を知ると、リボン刺繍のほかにも、布目を数える方法、規則的な針目を重ねる方法、ビーズを加える方法など、それぞれの違いが見えてきます。
リボンの花へ細い刺しゅう糸で茎や輪郭を加えたいときにも、一般的な刺繍の基本ステッチが役立ちます。
フランス刺繍
フランス刺繍は、さまざまなステッチを使い、花、動物、文字、風景などを自由な線で表現する刺繍です。リボン刺繍より細い糸を使うため、茎、葉脈、小さな模様、繊細な輪郭を描きやすくなります。
同じ花をリボンと刺しゅう糸の両方で作り、立体感と細かな線を組み合わせたい人におすすめです。
裁縫
裁縫では、布を測り、切り、縫い合わせて、袋物や生活用品へ仕立てます。リボン刺繍を施した布を、巾着、ポーチ、ブックカバー、クッションなどへ仕立てたいときに、その技術がつながります。
最初は完成した無地の小物へ刺繍し、慣れてから刺繍を中心にした布小物を一から作ると、無理なく楽しみを広げられます。
一針のリボンから、花のふくらみが生まれる
布の上へ出した一本のリボンは、まだ細長い素材にすぎません。けれど、向きを整え、先端へ針を戻し、引く手を少し早めに止めると、その一針が花びらのような形を残します。
最初から何種類もの花を刺したり、細い絹のリボンで大作を作ったりする必要はありません。明るい布と扱いやすい幅のリボンを用意し、小さな花を一輪だけ刺してみてください。
一枚目の花びらと二枚目では、少し形が違うかもしれません。その違いを整えすぎず、一輪の中へ重ねていくと、印刷された模様にはない、手で作った花らしい表情が現れます。
次の休日には、刺しゅう枠の中へ小さな中心点を一つ描き、そこから五枚の花びらを広げてみる。布の上でリボンが折れ、光を受け、やわらかな花へ変わる瞬間から、リボン刺繍の時間が始まります。
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