梅干し作りの楽しみ方
黄色く熟した梅を一粒ずつ洗い、竹串で小さなへたを取っていく。
青梅のころにはなかった、桃のような甘い香りが台所へ広がります。水気を丁寧に拭き、塩と交互に容器へ重ねていくと、まだ丸くやわらかな梅が、これから何週間もかけて梅干しへ変わっていきます。
「塩加減を間違えたら、カビが生えてしまうのかな」
「赤じそを入れないと、梅干しにはならないのだろうか」
「土用干しは、何日も家にいられる時期でないと難しいのかな」
梅干し作りは、一日で完成する料理ではありません。梅を塩へ漬け、梅酢が上がるのを待ち、好みによって赤じそを加え、晴れ間を選んで干す。季節の変化と一緒に、一つの保存食をゆっくり仕上げていく手仕事です。
梅干し作りの基本情報
一回の標準実施時間 約90分
短く取り組む場合 約30分
準備と片付けを含む総所要時間 約120分
想定頻度 月2回程度
主な場所 自宅の台所、保存容器を置く場所、日当たりと風通しのある干し場所
今回の頻度には、毎月新しく仕込むことではなく、梅の状態を見る、赤じそを加える、干す、保存容器へ戻すといった季節の作業を含めています。実際の仕込みは梅が出回る時期に一度行い、その後は数週間から数か月かけて少しずつ手を入れます。
最初の塩漬けは、梅を洗って乾かし、へたを取り、塩とともに容器へ収めるまでで90分ほどです。土用干しの日は、梅をざるへ並べる作業だけなら30分ほどですが、天気を見ながら裏返し、夕方に取り込む時間も考えておきます。
梅干し作りの費用
初期費用 0円〜約36,000円
標準的な初期費用 約6,000円
一回の費用 0円〜約2,500円
標準的な一回の費用 約400円
年間費用 約11,500円
今回の想定は、自宅で梅の仕込みや確認作業を年間24回ほど行う場合です。食品用の保存容器、ざる、キッチンスケールをすでに持っていれば、主な支出は梅、塩、赤じそなどの材料費になります。
標準的な初期費用では、梅を1〜2kgほど、粗塩、食品保存に適した容器、重石または重石の代わりになる用品、竹串、干しざるなどをそろえる形を考えています。大きな陶器のかめや専用の梅干しざるは、最初から必要ではありません。
一回約400円は、材料代や保存用品を年間でならした編集上の目安です。実際には、仕込み日に梅や塩をまとめて購入し、状態を見るだけの日には支出がありません。梅の品種、大きさ、産地、赤じその使用量によって費用は変わります。
節約するなら、最初は1kgほどの少量で仕込みます。容器を大きくしすぎず、手持ちの食品用保存容器やざるを使えば、収納場所も取りません。安さだけで傷んだ梅を選ぶより、状態のよい梅を必要量だけ買うほうが、失敗による買い直しを減らせます。
3つのおすすめ
1.梅から梅酢が上がってくる変化を見守れる
梅と塩を容器へ入れた直後は、底にほとんど液体がありません。数日たつと梅から水分が出て、容器の下へ透明な液体がたまり始めます。
さらに日が進むと、その液体が梅のまわりを満たすようになります。これが白梅酢です。梅が梅酢へしっかり浸かると、仕込み直後とは違う、やわらかく落ち着いた姿へ変わります。
毎日ふたを開ける必要はありません。容器の外側から、梅酢がどこまで上がったか、梅が液面から出ていないかを確認します。昨日より少し液体が増えていることに気づくと、自分が何も加えていない時間にも、梅と塩の間で変化が進んでいることが分かります。
完成品だけを買うと見えない、この途中の姿を眺められることが、梅干し作りの最初の魅力です。
2.赤じそを加えると、色と香りがゆっくり移っていく
白干し梅として仕上げるなら、赤じそを加えなくても梅干しになります。赤じそを使う場合は、葉を洗って水気を取り、塩でもんであくを抜き、梅酢となじませてから梅へ加えます。
赤じそを入れた直後は、梅全体がすぐ真っ赤になるわけではありません。日がたつにつれて梅酢へ色が移り、梅の表面も少しずつ赤みを帯びていきます。
濃い赤にするのか、淡く染めるのか。赤じそを使わず、梅本来の色を残すのか。基本の作り方を一度経験したあとには、色と香りの選び方にも自分の好みが現れます。
赤じそを加えた梅酢も、捨てずに料理へ使えることがあります。製法と保存状態を確認したうえで、しょうがやみょうがを漬けたり、少量を料理の酸味や塩味へ生かしたりすると、梅干し以外にも仕込みの余韻が残ります。
3.晴れた日に梅を並べると、夏の一日が作業になる
塩漬けした梅は、梅雨が明けたころの晴天が続く日を選び、ざるなどへ並べて干します。和歌山県の研修事例では、塩漬けした梅を間隔を空けて並べ、3〜4日ほど天日干しにする土用干しが紹介されています。
容器の中ではやわらかく湿っていた梅も、日差しと風を受けると、表面の水分が少しずつ抜けていきます。昼に一度返すと、ざるへ触れていた面にも光が当たり、皮のしわや色が変わっていきます。
夕方に取り込んだ梅からは、仕込み直後とは違う、濃く落ち着いた香りがします。干す日数や夜間の扱いは作り方によって異なるため、選んだレシピに従いますが、天気を見て梅を並べ、夕方に一粒ずつ戻す時間そのものが、夏の小さな行事になります。
干し上がった梅を容器へ詰め直した日には、数週間前に洗った梅が、本当に梅干しらしい姿へ変わったことを実感できます。
最初の作業場所では、清潔さと保存場所を整える
梅仕事では、作業台の広さより、容器と梅を清潔で乾いた状態にできることが大切です。梅を洗ったあとに水気を拭く場所、へたを取る場所、塩を量る場所を順番に空けます。
保存容器は、食品用で、梅と塩を入れても十分な余裕がある大きさを選びます。農林水産省は、梅をよく洗って十分に水気を拭き取り、洗浄後によく乾燥させた清潔な保存容器を使うよう案内しています。汚れや水分が残っていると、カビが発生しやすくなります。
仕込んだ容器は、直射日光が当たらず、極端に暑くなりにくい場所へ置きます。毎日の動線でぶつからず、子どもやペットが倒さないことも確認します。透明な容器なら外側から状態を見やすい一方、光が当たり続けないよう置き場所に配慮します。
土用干しの場所も、仕込み前に考えておきます。日当たりだけでなく、雨が降ったときにすぐ取り込めること、鳥や虫、車の排気、洗濯物の影響を受けにくいことが大切です。
最初の梅は、青さより完熟した香りで選ぶ
梅干しには、全体が黄色くなり、甘い香りが出た完熟梅が使いやすい入口です。少し青みが残る梅は、作り方によって常温で追熟させる場合がありますが、柔らかくなった梅は傷つきやすいため、重ねすぎず丁寧に扱います。
表面に傷、傷み、カビのような異常がある実は取り除きます。完熟梅を使う基本的な作り方では、梅をやさしく洗い、水気をしっかり拭き、竹串などでへたを取ってから塩漬けします。
最初は、塩分を大きく下げた作り方や、甘味料を多く加える作り方より、保存性を考えて組み立てられた基本レシピを選びます。梅の重量に対する塩の割合はレシピによって異なるため、途中で自己判断して減らしません。
1kg程度なら、梅を一粒ずつ確認しながら作業でき、干す場所も小さく済みます。食べ切れる量から始めることで、翌年に量を増やすか、白干しと赤じそのどちらが好みかを考えやすくなります。
初めての一日は、梅を塩へ預ける
初日の目標は、梅干しを完成させることではありません。梅を洗い、水気を取り、塩とともに容器へ収めるところまでにします。
まず梅の状態を一粒ずつ見て、傷んだものを除きます。やさしく水洗いし、清潔な布巾やペーパーで、へたのくぼみまで水気を拭きます。竹串でへたを取り、梅と塩をそれぞれ量ります。
容器の底へ塩を少し入れ、梅と塩を交互に重ねます。最後は上部へ塩が残るようにし、選んだレシピに従って落としぶたや重石を置きます。梅がつぶれすぎないよう、重さもレシピどおりにします。
仕込み日、梅の重量、塩の重量を容器やノートへ記録します。あとは何度も開けず、外側から梅酢の上がり方を見守ります。
初日は、白い塩と黄色い梅が容器の中へ並んでいるだけです。それでも、数日後には液体が生まれる。その変化を待つところまでが、最初の梅仕事です。
最初に必要なもの
最低限必要なもの
完熟梅、粗塩、食品用の保存容器、キッチンスケール、竹串、清潔な布巾やペーパーが基本です。作り方に応じて、落としぶたと重石も用意します。
あると便利なもの
梅を一時的に広げるざるやバット、使い捨ての食品用手袋、仕込み日を残すラベルがあると作業が整います。赤じそ漬けにする場合は、赤じそ、追加の塩、大きめのボウルも必要です。
続けるなら用意したいもの
土用干し用の平たいざる、梅を返すための清潔な箸、仕込み量や塩分を残す記録帳が役立ちます。毎年作るようになってから、収納しやすい専用容器や大きなざるを検討します。
後回しにできるもの
大きな陶器のかめ、何種類もの重石、梅干し専用の小屋や大型の干し網は、最初の1kgには必要ありません。自宅の置き場所と、実際に続けられる量が分かってから加えます。
安全に楽しむために
梅干し作りでは、梅、手、道具、保存容器へ余分な水分や汚れを残さないことが大切です。作業前に手を洗い、容器と器具を清潔にして十分に乾燥させます。梅を確認するときも、汚れた箸や手を容器へ入れません。
青梅はそのまま食べません。農林水産省は、青梅にはシアン化合物が含まれ、生で食べるのに適していないと案内しています。梅干し、梅酒、梅シロップなど、適切に加工された作り方を守ります。
梅酢が上がらない、梅が液面から長く出ている、異臭、強いぬめり、色の付いたカビのようなものが見える場合は、安易に味見をしません。レシピの提供元や食品衛生の相談窓口へ確認し、状態が判断できないものは食べないようにします。
土用干しでは、梅を並べたざるが風で飛ばないよう安定させます。急な雨が予想される日や、夜露の扱いを確認できない日は無理に干しません。梅を返す際は清潔な箸を使い、落としたものをそのまま容器へ戻さないようにします。
完成後の保存方法は、塩分、干し方、赤じその有無、容器によって異なります。減塩や調味を加えたものは、昔ながらの高塩分の梅干しと同じ保存性とは限りません。選んだレシピの保存場所と期間に従い、取り出すときは清潔で乾いた箸を使います。
梅干しは塩分の多い食品でもあります。健康状態により塩分摂取について指示を受けている人は、一度に食べる量を自己判断せず、医師や管理栄養士などへ相談します。
続けるほど変わる五つの楽しみ方
1.少量の梅を塩漬けする
最初は1kgほどの梅を洗い、乾かし、塩とともに容器へ入れます。梅酢が上がるところまで見守れたら、最初の仕込みは一つ進んでいます。
2.同じ作り方をもう一度確かめる
梅の熟し方、塩の量、梅酢が上がるまでの日数を記録します。翌年に同じ作り方をすると、季節や梅による違いが見えやすくなります。
3.白干しと赤じそを選ぶ
一部を白干しにし、残りへ赤じそを加えるなど、基本を守りながら好みを比べます。色だけでなく、香りや料理への使いやすさにも違いが出ます。
4.梅酢や食べ方まで広げる
梅酢を料理へ使う、梅肉を和え物やおにぎりへ加えるなど、一粒を食べる以外の使い道を考えます。作った量を最後まで使い切ることで、翌年に適した仕込み量も分かります。
5.毎年の小さな行事にする
梅が店頭へ並ぶ時期、梅酢が上がるころ、土用干しの日を、季節の予定として残します。家族と一緒に梅を並べたり、仕込み年の違いを味わったりすると、一瓶が一年の記録になります。
この五つは、上達の順位ではありません。白干しだけを続ける、数年に一度だけ仕込む、梅酢を使わず梅干しだけを楽しむといった形も自然です。
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次の休日にできる最初の一歩は、大きなかめを買うことではありません。黄色く熟した梅を1kgほど選び、その量に合う基本のレシピと保存容器を一つ用意します。
一粒ずつ水気を拭き、へたを取り、白い塩と交互に重ねる。
仕込みを終えた日の容器には、まだ梅干しらしい色も、しわもありません。それでも数日後、底から少しずつ透明な梅酢が上がり、梅を包み始めます。
昨日にはなかった液体を見つけたとき、季節の中で梅が変わり始めたことを、自分の台所で静かに確かめられます。
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