ビールの楽しみ方
はじめに
冷蔵庫から取り出した缶を開け、きれいに洗ったグラスへゆっくり注ぐ。
透明な黄金色の上に白い泡ができ、麦を思わせる香りの奥から、草花や柑橘のような香りが立ち上がります。最初の一口では軽やかだった苦味が、少し温度の上がった後半には丸く感じられることもあります。
ビールというと、暑い日に冷たいものを勢いよく飲む姿や、何人かで乾杯する場面を思い浮かべるかもしれません。「味の違いがよく分からない」「苦いものは苦手」「種類が多すぎて選べない」と感じる人もいるでしょう。
けれど、ビールを趣味として楽しむために、たくさん飲む必要はありません。
月に1回、気になる1本をグラスへ注ぎ、色、香り、泡、最初の味、飲み終えた後の余韻をゆっくり確かめる。慣れてきたら、同じ種類を別の日に試したり、少量を2つのグラスへ分けて温度の変化を比べたりします。
ビールの楽しさは、飲む量ではなく、同じ1杯の中から違いを見つけられることにあります。麦芽、ホップ、酵母、水、造り方、土地、保存状態、グラス、料理。その一つひとつが重なり、1本ごとに違う表情を作ります。
今回は、自宅で月1回ほど、少量のビールを味わいながら学ぶ人を想定し、最初の1本の選び方、費用、グラスへの注ぎ方、スタイルの違い、料理との組み合わせ、安全に続けるための注意までまとめます。
ビールの基本情報
主な楽しみ方 1本のビールをグラスへ注ぎ、色、泡、香り、苦味、甘味、余韻をゆっくり味わう
おすすめの頻度 月1回ほど。飲まない月やノンアルコールを選ぶ月があってもよい
1回の目安時間 約45〜75分
短時間で楽しむ場合 食事と一緒に約20分から
最初の量 350ml前後を1本、または複数人で少量ずつ分ける
主な場所 帰宅後に運転や危険な作業をする予定がなく、水と食事を用意できる自宅
最初の入口 好みや名前が気になるビール1本、透明で清潔なグラス、水、簡単な食事
月1回という頻度は、知識を詰め込むための決まりではありません。季節が変わったとき、食べたい料理が決まったとき、気になるラベルを見つけたときに、1本をゆっくり選ぶための目安です。
毎回新しい銘柄を買わなくても構いません。気に入った1本を春と秋に飲み、温度や料理の違いを比べることも、十分に奥行きのある楽しみ方です。
ビールにかかる費用
ビールを趣味として始めるために、専用のサーバーや高価なグラスをそろえる必要はありません。自宅に透明なコップがあれば、初期費用は0円から始められます。
薄手のビールグラスを1〜2個、栓抜き、小さなノートまでそろえる場合、初期費用は約1,000〜4,000円が目安です。飲み比べ用に同じ形の小さなグラスを2個用意しても、最初から何種類もの形を集める必要はありません。
1回の費用は、選ぶ商品によって変わります。日常的な350ml缶1本なら数百円ほど、クラフトビールや輸入ビールでは1本400〜1,000円前後、限定品や大瓶ではそれ以上になることがあります。
手持ちのグラスで1本を楽しむ日 約200〜600円
クラフトビールを1本選ぶ日 約400〜1,000円
2〜3種類を複数人で少量ずつ分ける日 1人約500〜1,500円
料理やチーズを用意する日 ビール代に加えて約300〜1,500円
月1回、1本または少量の飲み比べをするなら、年間費用は約5,000〜20,000円ほどが一つの目安です。毎回600円前後のビールを選ぶ場合、ビール代だけなら年間約7,200円となり、最初にグラスを買い足しても1万円前後から続けられます。
限定品や大容量のセットをまとめて買うと、1本あたりは安く見えることがあります。ただし、保管場所を取り、好みに合わない銘柄が残ることもあります。最初は1本ずつ選び、飲み切ってから次へ進む方が、香りの残っている状態で楽しみやすくなります。
おつまみも、趣味のために毎回特別な物を購入する必要はありません。夕食の焼き魚、唐揚げ、野菜料理、チーズ、ナッツなど、普段の食卓から一皿を選べます。ビールのために食事量を増やすのではなく、その日の料理とどのように合うかを観察します。
節約したいときは、安い商品だけを探すより、1回に飲む種類を絞ります。3種類を1人で飲み切るのではなく、1種類を別の日に分けて追うか、複数人で少量ずつ分けると、費用と飲酒量の両方を抑えられます。
ビールをおすすめする3つの理由
1.同じ1本が、温度とグラスによって変わっていく
冷蔵庫から出した直後のビールは、炭酸の刺激や苦味が分かりやすく、すっきりと感じられることがあります。少し時間がたつと、最初は冷たさに隠れていた麦の甘い香り、果物や花を思わせる香り、焙煎した穀物のような香ばしさが見えてきます。
これは、温くすれば必ずおいしくなるという意味ではありません。冷たい状態が似合う軽やかなビールもあれば、少し温度が上がることで香りを感じやすくなるビールもあります。
細長いグラスでは泡と炭酸を感じやすく、飲み口が少し広いグラスでは香りを取りやすくなります。同じ1本を2つの小さなグラスへ分け、一方を少し時間を置いてから飲むだけでも、違いを見つけられます。
大がかりな道具を使わなくても、注ぐ器と待つ時間を変えるだけで、1本の中に複数の表情が生まれるところが面白さです。
2.苦味の奥に、麦、花、果物、パン、コーヒーのような香りがある
ビールの味を「苦いか、苦くないか」だけで分けると、多くの違いを見落としてしまいます。
麦芽からは、焼いたパン、ビスケット、蜂蜜、カラメル、コーヒー、チョコレートを思わせる香りを感じることがあります。ホップには、草、花、ハーブ、柑橘、松、南国の果物などを連想させる香りがあります。
酵母によって、バナナ、りんご、洋梨、香辛料のような印象が生まれることもあります。同じ「ビール」という名前でも、原料や発酵方法によって香りの方向は大きく変わります。
香りの表現に正解はありません。専門的な言葉を知らなくても、「パン屋の近くを通ったような香り」「みかんの皮をむいたときに近い」「麦茶より深い香ばしさ」と、自分が思い浮かべた物を残せば十分です。
3.料理と合わせると、1杯と1皿の両方が変わる
ビールは、単独で味わうだけでなく、料理との組み合わせによって印象が変わります。
軽やかで苦味の穏やかなビールを塩味のある料理と合わせると、食後の口がさっぱりすることがあります。香ばしいビールを焼いた肉や煮込み料理と合わせると、焦げ目やソースの香りが重なります。
反対に、辛味の強い料理へアルコール度数の高いビールを合わせると、刺激を強く感じることもあります。味の濃さだけでなく、香り、油分、甘味、辛味を見ながら選ぶと、相性の理由が分かってきます。
「この料理にはこの銘柄」と暗記する必要はありません。同じビールを、塩味のある物、酸味のある物、香ばしい物と少量ずつ合わせ、どこが変わったかを確かめる時間が楽しみになります。
1杯の中にある4つの入口
ビールの基本的な材料としてよく挙げられるのは、麦芽、ホップ、酵母、水です。商品によっては、小麦、米、とうもろこし、果物、香辛料、地域の農産物なども使われます。
すべての材料を詳しく覚える必要はありません。まずは、ラベルや商品説明に書かれた物を、実際の香りや味と結びつけてみます。
麦芽は、色と土台を作る
麦芽は、発芽させた穀物を乾燥させた物です。淡い色の麦芽を中心に使うと明るい黄金色になり、強く焙煎した麦芽を使うと琥珀色、茶色、黒色へと深まります。
味わいにも、パン、穀物、ビスケット、カラメル、コーヒーなどの幅があります。色の濃いビールがすべて重く、淡いビールがすべて軽いとは限りませんが、最初の比較軸として色を見ると分かりやすくなります。
ホップは、苦味だけでなく香りを作る
ホップは、ビールへ苦味や香りを加える植物です。苦味が強くても香りは穏やかな場合があり、反対に、香りが華やかでも苦味は控えめな場合があります。
柑橘、花、草、松、ハーブ、果物など、どのような方向を感じるかを確かめます。「ホップが多いから苦い」と一つに決めず、苦味と香りを別々に見ると違いが見えてきます。
酵母は、発酵の香りを生む
酵母は、糖分を発酵させ、アルコールや炭酸、さまざまな香味を作ります。
すっきりとした印象に仕上がるものもあれば、果物や香辛料を思わせる香りが目立つものもあります。ヴァイツェンなどの小麦を使ったビールで、バナナやクローブのような印象を感じることがあるのも、原料だけでなく酵母の働きが関係しています。
水は、ほかの材料をつなぐ
ビールの大部分を占める水は、口当たりや原料の見え方へ関わります。土地の水そのものを味だけで言い当てるのは簡単ではありませんが、醸造所がどのような水を使い、どのような味を目指しているのかを読むと、一杯の背景が広がります。
旅先で地域のビールを選ぶときは、地元の農産物だけでなく、水や醸造所の場所へ目を向けるのも楽しい見方です。
最初の1本は、身近なピルスナーから始める
最初の1本として選びやすいのは、普段の売り場で見つけやすいピルスナー系のビールです。明るい色、細かな泡、炭酸、麦の味、ホップの苦味が比較的分かりやすく、今後ほかのビールを比べる基準になります。
有名な銘柄で構いません。珍しい物を探すより、まず1本をグラスへ注ぎ、缶から直接飲んだときとの違いを確かめます。
次の月には、同じ種類の別銘柄を選びます。苦味の強さだけでなく、泡、香り、飲み始め、飲み終わりを比べると、同じピルスナーにも幅があることが分かります。
少し違う方向を試したくなったら、次のように1種類ずつ広げます。
ペールエール
淡い琥珀色から明るい茶色で、麦芽の香ばしさとホップの香りを感じやすいタイプです。柑橘や花を思わせる香りがある物も多く、香りを楽しむ入口になります。
ヴァイツェン
小麦麦芽を使うドイツ系のビールで、やわらかな口当たりや白い濁り、バナナや香辛料を思わせる香りが表れることがあります。苦味が強いビールを避けてきた人にも、新しい入口になることがあります。
IPA
ホップの香りと苦味を前面に出したタイプです。ただし、現在は軽やかな物、果物のように香る物、濁りのある物、アルコール度数の高い物など幅が広く、「IPAだからすべて同じ」とは言えません。
最初は苦味の表示や商品説明を見て、軽めの物を1本だけ試します。苦手に感じた場合も、ビール全体が合わないと決めず、別のタイプへ戻ります。
スタウトや黒ビール
焙煎した麦芽による、コーヒー、カカオ、焦がしたパンを思わせる香りが特徴です。色の印象ほど重くない物もあれば、甘味やアルコール感の強い物もあります。
冷たいうちはすっきりしていても、少し温度が上がると香ばしさが分かりやすくなることがあります。冬の煮込み料理や、甘さを抑えたチョコレートと少量合わせる楽しみ方もあります。
4種類を一晩で飲む必要はありません。4か月かけて1種類ずつ試す方が、体調への負担を抑えながら、それぞれの印象を覚えやすくなります。
初めての60分は、1本をゆっくり観察する
最初の10分 水と食事、グラスを用意する
空腹のまま始めず、夕食や軽い食事を用意します。ビールと同じくらいの量の水も手元へ置き、交互に飲めるようにします。
グラスは、洗剤や油分、布のにおいが残っていない物を使います。泡立ちや香りが分かりやすい透明な物なら、専用品でなくても構いません。
次の10分 缶や瓶の表示を読む
商品名、品目、アルコール分、容量、原材料、製造者、保存方法、賞味期限を確認します。
「ビール」「発泡酒」などの品目は、日本の酒税法上の区分です。品目だけで味の良し悪しが決まるわけではなく、地域の農産物を使った個性的な商品が、原料の構成によって発泡酒と表示されることもあります。
ビアスタイルが書かれていれば、飲む前に一度だけ見ます。ただし、説明文へ自分の感想を合わせようとせず、最初に何を感じたかを大切にします。
次の10分 色と泡を見る
グラスを少し傾け、最初は静かに注ぎます。途中からグラスを起こし、泡を作ります。製品によって泡立ち方が違うため、毎回同じ形にしようとせず、説明がある場合は推奨方法に従います。
白い紙や明るい場所を背景にすると、淡い黄金色、濃い琥珀色、茶色、黒色、濁りなどが見えやすくなります。泡の色、細かさ、消えていく速さも観察します。
次の15分 香りを見つける
グラスへ鼻を近づけすぎず、最初は少し離れた場所で香ります。軽くグラスを傾け、麦、パン、果物、花、草、香辛料、コーヒーなど、思い浮かんだ物を一つだけ記録します。
香りが分からなくても問題ありません。「冷たい香り」「甘そう」「少し青い」「思ったより弱い」といった短い言葉で十分です。
最後の15分 最初と後半を比べる
最初の一口では、炭酸、苦味、甘味、酸味、口当たりのどれが先に来たかを見ます。数分後には、温度が少し上がったことで香りや後味が変わったかを確かめます。
飲み切ることを目標にせず、体調や量に合わせて残す判断も持ちます。最後に「もう一度飲みたいか」「別の料理と合わせたいか」「次は何と比べたいか」を一行書けば、その日の記録が完成します。
ビールの味を5つの方向から見る
味の感想を詳しく書こうとすると、専門用語が必要に感じられます。最初は、次の5つから気になったものだけを選びます。
香り 麦、パン、柑橘、花、草、果物、香辛料、コーヒーなど
麦芽の味 軽い、穀物らしい、香ばしい、甘い、カラメルのよう
苦味 弱い、短い、後から来る、長く残る、鋭い、丸い
口当たり 軽い、なめらか、炭酸が強い、クリーミー、厚みがある
余韻 すぐ消える、苦味が残る、甘い香りが戻る、香ばしさが続く
すべてを一度に書かなくても構いません。「香りは柑橘、口当たりは軽い」の2つだけでも、次に同じビールを飲むときの比較になります。
点数を付ける場合も、世間での評価ではなく、その日の自分との相性として考えます。暑い日に飲みたい、食事と合わせたい、1本だけゆっくり飲みたいという場面を残すと、好みが具体的になります。
グラスは種類より、清潔さと量で選ぶ
ビールグラスには、細長い物、口が広い物、丸みのある物、脚の付いた物など、さまざまな形があります。形によって泡、香り、飲む速度が変わりますが、最初からスタイルごとの専用グラスを集める必要はありません。
最初の1個には、容量300〜400mlほどで、底まで洗いやすく、透明なグラスが使いやすくなります。350ml缶を注いでも泡の分の余白が残る大きさを選びます。
飲み比べを続けるなら、100〜200mlほどの同じ形の小さなグラスを2個用意すると便利です。同じ形なら、器の違いではなく、ビールそのものを比べやすくなります。
薄いグラスは口当たりが軽く感じられる一方、割れやすさがあります。厚手のタンブラーは日常で扱いやすく、陶器や金属の器には温度や手触りの楽しさがあります。正解を決めるのではなく、同じビールを別の器で試し、自分が心地よい物を選びます。
洗った後は、香りの強い布で拭かず、よくすすいで乾かします。油分や汚れが残ると泡が消えやすくなるため、料理用の油が付いた食器とは分けて丁寧に洗います。
注ぎ方は、泡を作ることより1杯を整えること
泡には、見た目を整えるだけでなく、香りを受け止め、炭酸が急に抜けるのを抑える役割があります。ただし、泡が多ければ多いほどよいわけではありません。
グラスを傾けて静かに注ぎ、途中から少し起こす方法なら、初めてでも調整しやすくなります。泡ばかりになった場合は、急いで継ぎ足さず、少し落ち着くまで待ちます。
缶や瓶を強く振ったり、注ぎ口をグラスへ押し付けたりしません。酵母を含む商品では、底に沈殿が見えることがあります。全体を静かに混ぜて注ぐ方法と、上澄みを先に注ぐ方法があるため、商品説明を確認します。
きれいに注げなかった日も失敗ではありません。泡の量、グラスの角度、注ぐ速度を一つずつ変え、次の1本で試します。
2本を比べるなら、量を増やさず条件をそろえる
飲み比べというと、何本ものビールを並べる華やかな場面を想像しやすいものです。自宅では、種類を増やすより、比較する条件を一つに絞る方が違いを感じやすくなります。
同じスタイルの別銘柄を比べる
ピルスナーを2種類、ペールエールを2種類というように、近いスタイルを選びます。色や苦味が似ていても、麦の甘味、ホップの香り、後味に違いが見つかります。
同じビールの温度を比べる
1本を2つの小さなグラスへ分け、一方を先に、もう一方を10分ほど後に味わいます。別の銘柄を増やさなくても、温度による変化を観察できます。
色の違う2種類を比べる
淡色と黒色、透明と濁りというように、見た目の違いが大きい2本を選びます。味を当てるのではなく、色から想像したものと、実際の香りが同じだったかを楽しみます。
料理だけを変える
ビールは1種類にし、塩味のある物、酸味のある物、香ばしい物を少量ずつ用意します。口にする順番で印象が変わるため、何と合わせたときに心地よかったかを記録します。
2種類を試す場合は、1本ずつ飲み切らず、複数人で分けるか、アルコール量を見ながら少量にします。残りを保存しにくい商品もあるため、無理に比較するより、別の日に同じ条件で試す方法もあります。
料理との組み合わせは「似せる」と「切り替える」から考える
料理とビールの組み合わせには、多くの提案があります。最初は、似た香りを重ねる方法と、口の中を切り替える方法の2つから考えると選びやすくなります。
香ばしさを重ねる
焼き鳥、焼き魚、パン、ソーセージ、きのこ料理には、麦芽の香ばしさを感じるビールを合わせます。料理の焦げ目と、ビールのパンやカラメルのような香りがつながります。
油分を軽やかに切り替える
唐揚げ、天ぷら、フライには、炭酸と苦味のある軽やかなビールを合わせます。一口ごとに口の中が切り替わり、次の料理を食べやすく感じることがあります。
果物のような香りを合わせる
小麦ビールや果物を思わせる香りのあるエールは、サラダ、白身魚、鶏肉、やわらかなチーズと合わせやすいことがあります。料理を甘くするのではなく、香りの方向をそろえます。
濃い料理へ、濃い色のビールを合わせる
煮込み料理、ローストした肉、デミグラスソースには、アンバーエールや黒ビールの香ばしさが重なります。料理もビールも重い場合は量を少なくし、水や野菜料理を間へ入れます。
甘い物と少量合わせる
黒ビールのコーヒーやカカオを思わせる香りを、甘さ控えめのチョコレート、ナッツ、焼き菓子と合わせる方法もあります。アルコール度数が高い商品もあるため、食後酒のように少量で味わいます。
相性が合わなかった組み合わせも、次の選択へつながります。「苦味が強くなった」「料理の香りが消えた」という感想を残すと、自分の好みが分かってきます。
季節ごとに1本を選ぶ
春は、軽やかな香りを探す
春は、明るい色のペールエールや、花、柑橘を思わせる香りのビールを選びます。菜の花、豆、山菜、白身魚など、少し苦味や青さのある料理と合わせると、季節の香りを比べられます。
夏は、冷たさだけに頼らず爽やかさを見る
夏は、ピルスナー、小麦ビール、軽めのセゾンなど、炭酸や軽やかな香りを楽しめる物が似合います。冷やしすぎて香りが分かりにくいと感じたら、グラスへ注いで数分待ちます。
暑い日は飲酒前後の水分を十分に取り、ビールを水分補給の代わりにしません。屋外作業、入浴、運動の直後は避け、体調が落ち着いてから判断します。
秋は、麦芽の香ばしさを味わう
秋は、琥珀色のビール、アンバーエール、ブラウンエールなど、パンやカラメルを思わせる香りを探します。きのこ、根菜、焼き魚、炊き込みご飯など、香ばしさのある料理と組み合わせます。
冬は、温度の変化をゆっくり待つ
冬は、スタウト、ポーター、濃色のエールなどを、小さめのグラスでゆっくり味わいます。煮込み料理やチーズと合わせ、冷たい状態と少し温度が上がった状態を比べます。
季節ごとの選び方は決まりではありません。冬に軽いピルスナーを選び、夏に黒ビールを楽しむこともできます。その季節に自分が何を飲みたいかを考えることが、1本を選ぶ理由になります。
月1回を楽しくする12の小さなテーマ
毎回の銘柄選びに迷うときは、味ではなくテーマから決めます。
1月 黒いビールを1本選び、コーヒーやカカオを思わせる香りを探す
2月 チョコレートや焼き菓子と少量合わせる
3月 同じ銘柄を別のグラスで比べる
4月 花や柑橘を思わせる香りのビールを選ぶ
5月 ラベルの原材料と醸造所の場所を調べる
6月 雨の夜に、琥珀色のビールをゆっくり味わう
7月 身近なピルスナー2種類を別の日に比べる
8月 小麦ビールと軽い料理を組み合わせる
9月 麦芽の香ばしさを感じる1本を選ぶ
10月 地域の農産物を使ったビールを探す
11月 煮込み料理に合う濃色のビールを選ぶ
12月 1年間で心に残った1本をもう一度飲む
12種類すべてを飲む必要はありません。飲まない月は、ラベルを眺める、グラスを整える、ノンアルコールビールを比べる、工場見学の記事を読むといった時間へ置き換えられます。
ビールノートには、味より場面を残す
記録を続けるときは、専門家の評価表のように細かく書く必要はありません。
日付と天気
商品名とスタイル
容量とアルコール分
グラスと飲み始めた温度の印象
最初に感じた香り
苦味、甘味、口当たり
合わせた料理
もう一度飲みたい場面
「苦味3、香り4」と数字だけで残すより、「夏の夕食に合いそう」「揚げ物より焼き魚と合わせたい」「最初より10分後が好き」と書く方が、次の休日に役立ちます。
写真は、缶や瓶、注いだ直後、少し泡が落ち着いた後の3枚ほどで十分です。背景へ個人情報や生活用品が映り込まないようにし、飲んだ量を誇るような記録にしません。
1年分がたまったら、好きだった銘柄だけでなく、どの季節、料理、時間帯が心地よかったかを見返します。好みが「苦くないビール」から、「柑橘の香りがあり、後味の短いビール」のように具体的になります。
最初に必要なもの、続けてから選ぶもの
最初に必要なもの
ビール1本。
透明で清潔なグラス。
水。
食事または軽いおつまみ。
栓付きの瓶を選ぶ場合は栓抜き。
感想を残す筆記具またはスマートフォン。
これだけあれば、自宅での最初の1回は十分です。温度計や専用のテイスティングシートがなくても、冷蔵庫から出した直後と少し時間がたった後を比べられます。
続けるなら用意したいもの
同じ形の小さなグラス2個。
ビールを立てて保管できる冷蔵庫の場所。
グラス用のやわらかなスポンジ。
ラベルや感想を残すノート。
料理を少量ずつ分ける小皿。
味を比べるための無塩クラッカーやパン。
道具は、困った場面が出てから加えます。大きなグラスでは量が多く見えると感じたら小さなグラスを選び、香りを取りにくいと感じたら口の広い物を試します。
最初は買わなくてよいもの
家庭用ビールサーバー。
樽や大型の保冷機器。
スタイル別の高価なグラス一式。
大量の飲み比べセット。
醸造用の設備。
アルコール度数を測る器具。
専用の冷蔵庫。
家庭用ビールサーバーには、注ぐ楽しさや泡の違いがありますが、継続的に同じサービスを使いたいと分かってから検討できます。1本の香りや味を知るために、最初から必要な物ではありません。
保管では、商品の表示を最優先にする
ビールは、高温や直射日光を避け、商品に記載された方法で保管します。常温保存できる商品でも、夏の車内や暖房器具の近くへ置かず、温度変化の少ない場所を選びます。
無濾過や酵母を含む物など、要冷蔵と表示された商品は、購入後も冷蔵状態を保ちます。旅行先で購入するときは、持ち帰り時間と保冷方法も確認します。
缶や瓶は、破損や液漏れを防ぐため、基本的に立てて保管します。冷凍庫へ長時間入れると、凍結や容器の破損につながることがあるため、短時間で冷やす場合も忘れない方法を選びます。
賞味期限だけでなく、開封前の保管状態も香りへ影響します。気になる1本は長く飾らず、状態のよいうちに開けます。
一度開けると炭酸や香りは失われていきます。飲み切れないと分かっている場合は、最初から小容量を選ぶか、複数人で分けます。
ノンアルコールでも、泡と香りを比べられる
飲酒できない日や、アルコールを控えたい月には、アルコール分0.00%と表示されたノンアルコールビールを選べます。
麦の香り、ホップの苦味、泡、炭酸、後味など、見るポイントは通常のビールと同じです。2種類を別の日に試し、甘味、酸味、苦味、料理との相性を比べると、飲酒量を増やさずに趣味を続けられます。
運転予定がある場合は、商品名の印象だけで判断せず、アルコール分0.00%の表示を確認します。海外製品や「微アルコール」と書かれた商品には少量のアルコールが含まれる場合があるため、表示をよく見ます。
アルコールを飲まない人へ、通常のビールに近い味だからと無理に勧める必要もありません。ノンアルコール飲料も、本人が選んで楽しむ一つの飲み物として扱います。
家庭での醸造は、飲み比べとは別に考える
ビールについて学ぶと、自分でも造ってみたいと思うことがあります。けれど、日本では、免許を受けずにアルコール分1度以上の酒類を製造することはできません。
市販のビールキットを使う場合も、完成した飲料がアルコール分1度以上になれば、個人で飲む目的であっても酒類製造免許が必要です。取扱説明書に従って1度未満にする商品であっても、管理には注意が必要です。
そのため、この記事で扱う自宅での楽しみ方は、市販されたビールを選び、注ぎ、比較し、料理と合わせて学ぶことを基本とします。
醸造工程に興味が出てきたら、一般向けの工場見学、ブルワリーの見学ツアー、醸造家の解説、麦芽やホップの展示などを利用します。設備の大きさ、発酵にかかる時間、衛生管理を知ると、1本の見え方が変わります。
飲む量より、純アルコール量を見る
ビールは、容量だけでなく、アルコール分によって身体へ入るアルコール量が変わります。
純アルコール量は、おおよそ次の式で考えられます。
摂取量ml × アルコール分 ÷ 100 × 0.8
たとえば、アルコール分5%のビール350mlなら、純アルコール量は約14gです。同じ350mlでも、アルコール分8%なら約22gとなり、見た目の量が同じでも負担は大きくなります。
純アルコール量20gは、安全が保証される上限ではありません。飲酒による影響には個人差があり、年齢、体格、体質、性別、体調、服薬、食事、飲む速度によっても変わります。飲酒量が少ないほど、飲酒に伴うリスクは小さくなると考え、飲まない選択も自然に残します。
飲み比べでは、強いビールほど小さな量へ分けます。アルコール度数だけでなく、全体でどのくらい飲むことになるのかを、開ける前に確認します。
安全に楽しむために
日本では、20歳未満の飲酒は禁止されています。年齢を満たしていても、妊娠中や授乳期、運転予定があるとき、医師から飲酒を止められているときは飲みません。
薬を使用している場合は、自己判断で組み合わせず、医師や薬剤師へ確認します。睡眠薬、鎮静作用のある薬などに限らず、アルコールとの併用が問題になる薬があります。
自動車、バイク、自転車を運転する予定がある日は飲酒しません。飲酒後に仮眠、入浴、コーヒー、食事を取っても、アルコールがすぐに抜けるわけではありません。翌朝の運転にも影響が残る可能性があるため、飲酒量や終了時刻から自己判断で安全と決めないようにします。
空腹のまま短時間に飲まず、食事と水を一緒に取ります。飲む速度を競ったり、一気に飲んだり、断りにくい人へ勧めたりしません。
眠気、吐き気、頭痛、動悸、ふらつき、顔色の大きな変化などがある場合は飲酒を止めます。意識がはっきりしない人を一人にせず、必要に応じて救急へ連絡します。
入浴、サウナ、泳ぐこと、火や刃物を使う調理、大型機械の操作なども、飲酒後には危険が高まります。おつまみは飲み始める前に作り、火を使う作業を終えてからグラスを用意します。
健康のために飲酒を始める必要はありません。飲めない体質、飲みたくない気分、体調がよくない日を尊重し、飲まない日やノンアルコールを含めて続けます。
家で小さな飲み比べ会を開くなら
家族や友人と楽しむ場合も、種類と量を増やしすぎません。3種類ほどを100ml前後ずつ分けるだけでも、色と香りの違いは十分に分かります。アルコール度数の高い物を含む場合は、さらに少量にします。
最初に水、食事、小さなグラス、銘柄を隠す紙を用意します。淡い色から濃い色、軽い香りから強い香りへ進むと、前のビールの印象が残りにくくなります。
正解を当てる会にしないことも大切です。「この銘柄が高級だから一番おいしい」「この香りが分からないのは詳しくない」と評価せず、それぞれが感じた言葉を持ち寄ります。
飲まない人には、0.00%の飲料や別のソフトドリンクを同じように用意します。乾杯へ参加することと、アルコールを飲むことを同じにしません。
終了時刻と帰宅方法は、飲み始める前に決めます。車や自転車で来た人へはアルコールを提供せず、帰り方を曖昧にしないことが、楽しい場を最後まで守ります。
続けるほど変わる5つの楽しみ方
第1段階 1本をグラスへ注いで味わう
最初は、身近なビールを1本選びます。缶のまま飲まず、透明なグラスへ注ぎ、色、泡、香りを見ます。
専門的な評価ではなく、「苦味が短い」「麦の香りがする」「夕食に合わせやすい」と一つ気づけば十分です。
第2段階 同じ種類の違いを見つける
ピルスナーを2種類、ペールエールを2種類というように、別の日に近いスタイルを比べます。
同じ種類でも、苦味、香り、炭酸、後味が違うことへ気づきます。自分がどの部分を心地よいと感じるかが少しずつ言葉になります。
第3段階 温度、グラス、料理を選ぶ
同じビールを、冷蔵庫から出した直後と少し時間を置いた後で比べます。グラスや料理を変え、一杯の見え方がどのように変化するかを確かめます。
銘柄を増やすことより、1本を複数の角度から楽しむ段階です。
第4段階 原料、土地、造り方へたどる
麦芽の焙煎、ホップの産地、酵母、発酵方法、醸造所の土地を調べます。ラベルに書かれた原料と、実際に感じた香りを結びつけます。
工場見学やブルワリーを訪ねると、麦芽を砕く設備、発酵タンク、ろ過、充填、品質管理など、店頭では見えない工程へ関心が広がります。
第5段階 季節と食卓に合う1本を選ぶ
暑い日に軽やかな1本、冬の煮込み料理に香ばしい1本、家族の食事に苦味の穏やかな1本というように、場面に合わせて選べるようになります。
誰かへ紹介するときも、「人気だから」ではなく、「柑橘の香りが好きなら」「黒ビールを重いと感じてきた人にも試しやすい」と、その人が選びやすい言葉で伝えます。
5つの段階は、飲んだ銘柄数やアルコールへの強さを競うものではありません。気に入った1本を年に数回味わうことも、ノンアルコールを中心に泡や香りを比べることも、十分に深い続け方です。
あわせて楽しみたい関連する趣味
工場見学
工場見学では、麦芽やホップがビールになり、缶や瓶へ詰められるまでの工程をたどれます。発酵タンクの大きさ、温度管理、洗浄、検査、包装を知ると、自宅で開ける1本の向こうに、多くの時間と技術が見えてきます。
試飲が含まれる施設へ行く場合は、自動車、バイク、自転車を使わず、公共交通機関など飲酒後に運転しない移動手段を選びます。
燻製作り
燻製作りは、チーズ、卵、ナッツなどへ木の煙の香りを重ねる料理です。麦芽の香ばしいビールや黒ビールと合わせると、焦がした木、パン、ナッツのような香りが重なり、1杯と1皿のつながりを楽しめます。
燻製は飲酒前に完成させ、火気や熱い器具を片づけてからビールを用意します。
肉料理
肉料理には、焼く、煮る、蒸す、揚げるなど幅広い方法があります。軽い鶏料理には小麦ビール、香ばしく焼いた肉にはペールエール、濃い煮込みには黒ビールというように、調理法から1本を選ぶ楽しみへつながります。
ビールを飲みながら火や包丁を扱うのではなく、料理を仕上げ、作業を終えてから食卓で組み合わせます。
泡がほどける間に、1本の背景が見えてくる
ビールを趣味として楽しむために、冷蔵庫を何十本もの銘柄で埋める必要はありません。
気になる350ml缶を1本選ぶ。
きれいなグラスへ注ぐ。
最初の香りを一つ見つける。
食事の前半と後半で、味がどう変わったかを確かめる。
それだけで、いつもの1本は、ただ喉を通り過ぎる飲み物ではなくなります。
次の休日は、売り場で最も珍しい物を探すのではなく、名前やラベルが気になった1本を選んでみてください。帰宅後に運転や作業をしない日を決め、水と夕食を用意し、グラスへ注ぎます。
泡の下に見える色。
麦や花を思わせる香り。
最初に感じる苦味。
料理を一口食べた後の変化。
少量をゆっくり味わうほど、一杯の中にある選択や時間が見えてきます。飲む量を増やすのではなく、見つけられる違いを少しずつ増やしていくこと。それが、ビールを長く心地よく楽しむ方法です。
休日のよりみち帖では、気軽に試せるものから、少しずつ時間をかけて深めていくものまで、さまざまな趣味やレジャーを紹介しています。「次の休日は何をしよう」と迷ったとき、新しい楽しみを見つける小さなきっかけになれたらうれしいです。これからも思わず試してみたくなる趣味を丁寧に紹介していきますので、ぜひフォローして、次の記事も覗いてみてください。
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