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自作キーボードの楽しみ方

はじめに

プレートの穴へ、小さなキースイッチを一つ押し込む。

指先へ「かちっ」とした感触が伝わり、空いていた場所に一つのキーが生まれます。すべてのスイッチを並べ、その上へキーキャップを取り付け、USBケーブルをつないだ瞬間。机の上にあるのは、部品の集まりから、自分で文字を入力できる道具へ変わった一台です。

自作キーボードという言葉から、基板の設計や細かなはんだ付けを思い浮かべる人もいるかもしれません。

「電子工作の経験がなければ難しいのではないか」

「市販のキーボードより、ずっと高くなるのだろうか」

「完成しても、普段どおり日本語を入力できるのだろうか」

現在は、基板へ必要な部品が取り付けられ、キースイッチを差し込んでねじを締めれば完成する、はんだ付け不要のキットもあります。ファームウェアが書き込まれ、Webブラウザからキー配置を変えられる製品を選べば、最初の一台は電子回路の知識がなくても組み立てられます。

一方で、慣れてくると、キーの数や並び方を変えたり、左右に分かれた形を選んだり、押したときの重さや音を調整したりできます。さらに進めば、はんだ付け、ファームウェア、ケース加工、基板設計へと、興味のある方向へ深められます。

自作キーボードは、完成したら終わる工作ではありません。

毎日指で触れる道具を、自分の手や仕事、文章の書き方に合わせて少しずつ育てていく趣味です。


自作キーボードの基本情報

主な楽しみ方 キット、キースイッチ、キーキャップを組み合わせ、自分に合う形と入力方法を作る

初めて選びやすい形 部品実装済み・ファームウェア書き込み済みの有線ホットスワップ対応キット

おすすめの頻度 組み立て期間は週2〜3回、その後は必要なときに配列や部品を見直す

1回の作業時間 約40分〜2時間

はんだ不要キットの完成時間 約2〜4時間

はんだ付けを含むキットの完成時間 約4〜10時間以上

主な場所 明るく、細かな部品をなくしにくい自宅の机

天候の影響 屋内で進められるため、季節や天候をほとんど選ばない

完成後の楽しみ スイッチ交換、キーキャップ交換、キーマップ調整、打鍵音の調整、別配列への挑戦

週2〜3回という頻度は、毎週新しいキーボードを作る回数ではありません。最初の週は部品を確認し、次は組み立て、その後はキー配置を調整するというように、一台を何回かに分けて仕上げます。

完成後は、毎週作業を続けなくてもかまいません。普段の入力で気になったところを記録し、休日に一つだけ位置を変える。それだけでも、自作キーボードらしい楽しみ方になります。

自作キーボードにかかる費用

自作キーボードを始めるために、新しいパソコンや7万5,000円分の機材が必ず必要になるわけではありません。すでに普段使っているパソコンがあれば、最初に必要なのはキーボード本体を構成する部品です。

ただし、キットの価格だけを見て予算を決めると、キースイッチやキーキャップが別売りだったことに後から気づく場合があります。商品ページの「内容物」と「別途必要なもの」を確認し、一台を使える状態へするまでの合計で考えます。

はんだ付け不要の一台を作る場合

初めての一台には、基板上の細かな部品が実装され、キースイッチを差し替えられるホットスワップ方式が向いています。

キーボードキット 約1万4,000〜2万5,000円

キースイッチ 約3,000〜8,000円

キーキャップ 約3,000〜1万2,000円

USBケーブル・分割用ケーブル 約1,000〜3,000円

ドライバー・キープラー 手持ち品を使うか、約500〜2,000円

合計では、約2万2,000〜4万5,000円ほどが現実的な入門範囲です。選ぶキー数が少なく、手頃なスイッチとキーキャップを組み合わせれば、費用を抑えられます。

反対に、特殊な配列、金属製ケース、高価なキーキャップ、トラックボールやディスプレイを備えたキットを選ぶと、最初の一台でも5万円を超えることがあります。

はんだ付けを含む一台を作る場合

はんだ付けが必要なキットでは、キーボード部品に加えて工具を用意します。

温度調節機能付きはんだごて 約4,000〜1万5,000円

こて台・こて先クリーナー 約1,000〜3,000円

電子工作用の糸はんだ 約500〜2,000円

ニッパー・ピンセット 約1,000〜4,000円

はんだ吸取線や吸取器 約500〜2,000円

耐熱マット・作業用品 約1,000〜3,000円

工具を持っていない場合、一台目の合計は約3万〜6万円ほどになります。工具は次の作品にも使えるため、毎回同じ額が必要になるわけではありません。

最初から高性能な業務用機材をそろえる必要はありませんが、温度を調節できず、安定して置けるこて台もない製品は避けます。基板の作業に使いやすいこて先と、交換部品を入手できる製品を選ぶと続けやすくなります。

完成後にかかる費用

完成したキーボードを使うだけなら、毎回200円の消耗品費はかかりません。配列の変更やソフトウェア設定も、対応する無料のツールを利用できる場合があります。

追加費用が生じるのは、主に次のようなときです。

・別のキースイッチを試す
・キーキャップを交換する
・静音材やフォームを加える
・ケースやプレートを交換する
・ロータリーエンコーダーやディスプレイを追加する
・無線化に必要な部品を加える
・二台目のキーボードを作る

スイッチを少量ずつ試すだけなら数百円から始められます。一方、キーキャップを一式交換したり、すべてのスイッチを替えたりすると、数千円から1万円以上かかります。

年間費用を一律に約4万9,000円と考える必要はありません。一台を長く使い、配列だけを調整する年は、ほとんど追加費用をかけずに楽しめます。

自作キーボードをおすすめする3つの理由

1.キーの並びを、指の動きから考えられる

一般的なキーボードでは、横方向に少しずつずれた配列が広く使われています。自作キーボードでは、キーを格子状に並べたり、指の長さに合わせて縦方向へずらしたり、左右を二つに分けたりできます。

数字の列を残すか。
矢印キーを独立させるか。
親指へスペース以外の役割を持たせるか。

既製品では決められていた形を、自分の入力内容から考え直せます。文章を書く人、表計算を使う人、プログラムを書く人、ゲームをする人では、よく使うキーも異なります。

小さなキーボードでは、キーが足りないように見えることがあります。そこで使われるのが「レイヤー」という考え方です。特定のキーを押している間だけ、同じ場所を数字、記号、矢印などへ切り替えます。

一枚の板へすべてのキーを並べるのではなく、よく使う動きを指の近くへ重ねる。自作キーボードでは、入力方法そのものを設計する楽しさがあります。

2.押し心地と音を、部品の組み合わせで変えられる

キースイッチは、キーを押したことを電気信号へ変える部品です。同じ外見でも、軽く滑らかに沈むもの、途中に小さな抵抗を感じるもの、明確な音が鳴るものがあります。

キーキャップの素材や高さ、ケースの材質、プレートの硬さによっても、指へ返る感触と音は変わります。硬く高い音、落ち着いた低い音、底へ当たる前に軽く戻る感触など、一台の中にいくつもの選択があります。

ただし、音の評価だけで選ぶと、実際に長く入力したときの重さが合わないことがあります。最初はスイッチテスターや少量販売を利用し、数種類を指で試してから一式をそろえると安心です。

完成後にスイッチを抜き差しできるホットスワップ方式なら、一台を使いながら押し心地を変えられます。最初の選択を正解にするのではなく、使ってから好みを見つけていけます。

3.作った物が、そのまま毎日の道具になる

工作作品の中には、完成後に棚へ飾るものもあります。自作キーボードは、完成した日から文章、検索、仕事、ゲームなどに使える道具です。

組み立てたときには気づかなかった不便も、毎日使うと見えてきます。Enterキーをもう少し近くへ置きたい。数字を入力するレイヤーを右手だけで使いたい。音量調整を一つのつまみにまとめたい。

その気づきを休日に一つ直し、次の一週間で確かめます。作る時間と使う時間が交互に続くため、完成した一台が少しずつ自分の道具へ近づいていきます。

最初に知っておきたい自作キーボードの種類

一体型と分割型

一体型は、左右のキーが一つのケースへ収まっています。一般的なキーボードから移りやすく、ケーブルや部品も少ないため、初回に選びやすい形です。

分割型は、左右のキーボードが分かれています。肩幅や机に合わせて位置と角度を変えられますが、左右をつなぐケーブルや、それぞれの基板を扱う手順が加わります。

分割型だから必ず姿勢がよくなるわけではありません。机と椅子の高さ、キーボードの位置、手首の角度を合わせて調整する必要があります。

ロウスタッガード

一般的なキーボードに近く、横の列が少しずつずれている配列です。使い慣れた指の動きを残しやすいため、自作キーボードへ初めて移る人にもなじみやすい形です。

カラムスタッガード

指の長さに合わせるように、縦の列がずれています。左右分割型で多く見られ、指を横へ大きく動かさずに入力できるよう設計されています。

一般的な配列とは指の動きが変わるため、最初は入力速度が落ちることがあります。重要な作業の直前に完全移行せず、短い文章から少しずつ慣らします。

オーソリニア

キーが縦横の格子状に並ぶ配列です。規則的で見た目が整い、指の移動も理解しやすい一方、一般的な横ずれ配列とは感覚が異なります。

キー数による違い

自作キーボードでは、一般的なフルサイズだけでなく、75%、65%、60%、40%などの大きさが使われます。割合はおおよそのキー数と構成を示しますが、同じ60%でも矢印キーや記号の配置は製品によって異なります。

最初は、小さいほどよいと考えないほうが安心です。日常で使う数字、矢印、日本語入力の切り替え、Delete、ファンクションキーなどを書き出し、どこへ配置されるかを確認します。

最初の一台は、はんだ不要の有線キットから

最初の一台では、作りたい形だけでなく、完成まで迷いにくいことを重視します。

選びやすい条件は、次のとおりです。

・はんだ付け不要
・ホットスワップ対応
・基板上の部品が実装済み
・ファームウェアが書き込み済み
・有線USB接続
・写真付きの組立ガイドがある
・RemapやVIAなど、対応する設定方法が明記されている
・キットに含まれる物と別売り品が明確
・一般に流通しているスイッチへ対応している
・販売店や設計者のサポート情報が残っている

無線接続、フルカラーLED、ディスプレイ、トラックボールなどは魅力的ですが、部品と設定項目が増えます。最初は、キーを押すと正しく入力できるところまでを目標にし、追加機能は二台目や後からの改造へ残してもかまいません。

キー数も、極端に少ない製品より、普段使うキーがある程度残っている製品のほうが移行しやすくなります。一般的な配列に近い一体型か、60〜70キーほどある分割型は、入力方法を大きく変えすぎずに自作らしさを楽しめます。

購入前に確認したい部品の相性

自作キーボードでは、外見が似ていても組み合わせられない部品があります。注文前に、キットの商品ページと組立ガイドを並べて確認します。

キースイッチの規格

一般的な高さのCherry MX互換スイッチと、背の低いロープロファイルスイッチでは、形や端子の位置が異なります。キットがどの規格に対応しているかを確認します。

同じロープロファイルでも、世代や種類によってキーキャップとの接続部分が異なることがあります。「ロープロファイル対応」という言葉だけで判断しません。

キーキャップの軸

キースイッチ上部の軸と、キーキャップ裏側の形が合う必要があります。MX互換の十字軸が広く使われていますが、すべてのスイッチが同じではありません。

キーキャップの大きさ

一般的な文字キーの幅を「1u」として、スペース、Shift、Enterなどには1.25u、1.5u、2uといった異なる幅が使われます。特殊配列では、市販のキーキャップセットに必要な大きさが含まれていない場合があります。

商品画像だけでなく、配列図に書かれた幅を確認します。特に分割キーボードの親指キーと、小型配列の右Shift周辺は注意が必要です。

スタビライザー

横幅の広いキーを安定させる部品です。キットに付属する場合と、別途必要な場合があります。基板へ取り付ける形式とプレートへ取り付ける形式があるため、対応方式を確認します。

ケーブル

USB端子がType-Cか、Micro USBかを確認します。分割型では、左右をつなぐTRRSケーブルなどが別に必要になることがあります。

見た目が似た音声用ケーブルでも、極数や配線が適合するとは限りません。キットが指定するケーブルを選びます。

ケースとプレート

「キーボードキット」と書かれていても、基板だけの商品、ケースを含む商品、プレートを別に選ぶ商品があります。完成見本の写真に写っている物が、すべて同梱されるとは限りません。

最初に必要な道具と部品

はんだ不要キットで必要なもの

・キーボードキット
・対応するキースイッチ
・対応するキーキャップ
・USBケーブル
・分割型の場合は指定された左右接続ケーブル
・指定サイズのプラスドライバー
・キーキャッププラー
・スイッチプラー
・細かなねじを入れるトレー
・柔らかな作業マット
・パソコン
・組立ガイド

キーキャッププラーとスイッチプラーが一体になった道具もあります。ホットスワップ式でも、スイッチを斜めに引き抜くとソケットやプレートを傷めることがあるため、対応する道具を使います。

はんだ付けキットで追加するもの

・温度調節機能付きはんだごて
・安定したこて台
・こて先クリーナー
・電子工作用の糸はんだ
・ニッパー
・ピンセット
・はんだ吸取線または吸取器
・耐熱マット
・換気のための設備
・必要に応じた保護眼鏡
・練習用基板

キットによっては、直径0.6〜0.8mmほどの糸はんだが案内されています。太さや組成は、購入するキットと工具の説明に合わせて選びます。

最初は買わなくてよいもの

・高価な金属製ケース
・何種類ものスイッチ一式
・大型のキーキャップコレクション
・スイッチ分解用工具
・潤滑剤と専用ステーション
・電動はんだ吸取器
・高倍率の顕微鏡
・無線化部品
・すべてのキーへ付けるLED
・キーボード専用の大型収納棚

スイッチの分解や潤滑は、押し心地を細かく変えられる一方、作業量が多く、潤滑剤の量によって感触も変わります。最初は完成状態のスイッチを使い、一台を動かしてから考えます。

初めての一台を組み立てる流れ

1.届いた部品を一覧と照らし合わせる

袋を開けたら、すぐに組み立て始めず、商品ページと組立ガイドを確認します。基板、プレート、ケース、ねじ、スペーサー、ゴム足などを種類ごとに分けます。

小さなねじは、似た長さでも使う場所が異なることがあります。袋の表示を残し、混ぜずにトレーへ置きます。

基板に割れ、曲がり、外れた部品がないかも確認します。不足や破損が疑われる場合は、はんだ付けや組み立てを始める前に販売店へ連絡します。

2.基板単体で接続を確認する

組立ガイドで案内されている場合は、ケースへ入れる前に基板をパソコンへつなぎます。OSが認識するか、設定ツールで表示されるかを確認します。

キースイッチを付ける前の動作確認方法は、基板によって異なります。金属工具で接点を短絡させる方法を自己判断で行わず、設計者のテスト手順へ従います。

基板が認識されない状態で組み立てを進めると、原因が接続なのか組み立てなのか分かりにくくなります。工程ごとに確認すると、問題の範囲を小さくできます。

3.スタビライザーを取り付ける

大きなキーにスタビライザーが必要な場合は、プレートやスイッチを重ねる前に取り付けます。向きと固定方式を組立図で確認します。

左右の部品を逆にしたり、ワイヤーが外れたまま組み立てたりすると、キーが戻りにくくなることがあります。取り付け後は、指で軽く動かし、左右が一緒に上下するかを確かめます。

4.プレートへスイッチを数個入れる

最初からすべてのスイッチを取り付けず、四隅や中央へ数個だけ入れ、プレートと基板の位置を合わせます。

スイッチの裏には細い金属端子があります。曲がっていないかを確認し、基板へ対してまっすぐ差し込みます。

強く押しても入らない場合は、力を増やさず一度抜きます。端子が曲がっている、プレートの向きが違う、対応していないスイッチを使っている可能性があります。

5.残りのスイッチを取り付ける

位置が合ったら、残りのスイッチを一つずつ取り付けます。押し込んだあと、スイッチとプレートの間に浮きがないかを横から確認します。

すべてのスイッチを付け終えたら、裏側から金属端子が正しく入っているかを見ます。ホットスワップ基板では、曲がった端子がソケットの外へ出ていることがあります。

6.ケースを組み立てる

ねじとスペーサーの長さを確認し、組立図の順番でケースを重ねます。ねじは一か所だけを強く締めず、対角線を意識して少しずつ締めます。

アクリル板を使うケースでは、締めすぎると割れることがあります。板が動かず、部品が安定するところで止めます。

7.ケーブルをつなぐ

一体型はUSBケーブルでパソコンへ接続します。分割型では、左右を指定ケーブルでつないでからUSBへ接続する製品が多くあります。

分割キーボードの中には、パソコンへ接続したまま左右間のケーブルを抜き差しすると、基板へ損傷を与える可能性がある製品があります。接続と取り外しの順番は、必ずそのキットの説明に従います。

8.すべてのキーを検査する

キーキャップを付ける前に、キーテスターや設定ツールを使って一つずつ押します。同じ文字が二度入力される、反応しないキーがある、別のキーとして認識されるといった問題がないかを見ます。

反応しないキーが一つだけなら、最初にスイッチを抜き、端子が曲がっていないか確認します。正常なキーのスイッチと入れ替えると、スイッチ側か基板側かを切り分けやすくなります。

9.キーキャップを取り付ける

配列図を見ながら、キーキャップを軽く押し込みます。高さが行ごとに異なるキーキャップでは、同じ文字サイズでも取り付ける列が決まっています。

強く押し込みすぎず、傾いている場合は一度外して付け直します。完成後に横から眺め、キーの高さと向きがそろっているかを確認します。

はんだ付けへ進むときの基本

はんだ付けは、こて先ではんだだけを溶かして落とす作業ではありません。部品の端子と基板上の接点をこて先で温め、そこへはんだを触れさせて接合します。

最初から購入したキーボード基板で練習せず、安価な練習基板や電子工作キットで、数十か所の接合を試します。成功した接点だけでなく、はんだが多すぎる状態、少なすぎる状態、隣の接点とつながった状態も見分けられるようにします。

作業では、次の点を守ります。

・はんだごてを机へ直接置かず、こて台へ戻す
・こて先へ手を近づけない
・基板を手で持ったまま作業しない
・机の上から紙、布、飲み物を離す
・換気を確保する
・作業中に飲食しない
・作業後は手を洗う
・使い終わったら電源を切り、冷めるまで管理する
・はんだや端材を自治体の方法に従って処分する

煙を避けるため、顔を接点の真上へ近づけません。換気扇や局所排気を使い、空気が顔の前から作業部分を通って外へ流れるようにします。

子どもやペットがいる場所では、熱いこて、糸はんだ、切った端子を出したまま離れません。短い端子は床へ落ちると見つけにくいため、切る方向を容器側へ向けます。

キーマップを自分の使い方へ合わせる

キーマップは、各キーを押したときに何を入力するかを決めた配置です。対応するキーボードでは、RemapやVIAを使い、Webブラウザや設定画面から変更できます。

最初は、完成直後の配列を大きく変えないほうが安心です。通常の文字入力ができることを確認してから、困った場所を一つずつ直します。

変更候補として分かりやすいのは、次のようなものです。

・Backspaceを押しやすい親指側へ移す
・Caps LockをControlへ変える
・矢印キーを一つのレイヤーへまとめる
・音量調整を近い場所へ置く
・日本語入力の切り替えを左右へ分ける
・よく使う記号を同じ指の周辺へ置く
・使わないキーを別の機能へ変える

変更したら、一週間ほど使ってから次へ進みます。複数のキーを一度に移すと、どの変更が使いにくさの原因なのか分からなくなります。

レイヤー

レイヤーは、一時的に別のキー配置へ切り替える仕組みです。小型キーボードでは、通常層、数字・記号層、矢印・操作層などを重ねます。

最初は二つか三つに絞り、切り替えキーを左右の親指へ置くと覚えやすくなります。多く作りすぎると、必要な機能がどこにあるか分からなくなります。

タップと長押し

対応するファームウェアでは、短く押したときと、長く押したときへ異なる役割を割り当てられます。例えば、短く押すとEnter、長く押すとレイヤー切り替えという使い方です。

一つのキーへ二つの役割を持たせられる反面、入力の速さによって誤判定が起きることがあります。最初から多用せず、よく使う一つから試します。

マクロ

複数の入力を一つのキーへまとめる機能です。決まったショートカットや操作を登録できますが、パスワードなど重要な秘密情報を安易に保存しません。

職場のパソコンで使う場合は、外部キーボードやマクロ機能に関する規則も確認します。

QMKへ進む

より細かな動作を作りたい場合は、QMK Firmwareの環境を用意し、キーマップを編集してビルドし、キーボードへ書き込みます。

書き込み中にケーブルを抜く、別機種用のファームウェアを使う、元の設定を保存せず変更すると、復旧に手間がかかることがあります。対応機種と手順を確認し、最初に標準ファームウェアと元のキーマップを保存します。

完成後の使い始め方

特殊な配列や分割型へ替えると、最初は入力速度が下がります。普段使っていたキーが見つからず、考えながら押す時間が増えるためです。

完成したその日から、仕事や長文執筆をすべて新しいキーボードへ移す必要はありません。

最初の数日は、検索や短いメモに使う。
次に、日記や個人的な文章を書く。
慣れてきたら、仕事や長時間の入力へ広げる。

以前のキーボードも手の届く場所へ残しておくと、締め切りのある作業で無理をせずに済みます。

配列へ慣れるためには、速度より正しい指の位置を優先します。肩や手首へ違和感が出た場合は、「慣れれば消える」と決めつけず、位置、高さ、角度、キーの重さを見直します。

使いながら見直したい四つのこと

キーの位置

押し間違いが多いキーは、練習不足だけが原因とは限りません。隣のキーと間違えやすい位置にある、同じ手へ操作が集中している、レイヤーの切り替え方が複雑といった可能性があります。

スイッチの重さ

軽いスイッチは少ない力で押せますが、指を置いただけで入力しやすいことがあります。重いスイッチは誤入力を減らせる場合がある一方、長時間では指が疲れることもあります。

すべて同じスイッチにせず、親指だけ少し軽い物、押し間違えたくないキーだけ重い物へ変える楽しみ方もあります。

キーボードの高さ

ケースが高い場合、手首を上へ反らせやすくなります。机、椅子、パームレストの高さを見直し、手首を強く曲げた状態で長時間使いません。

パームレストは、入力中に手首を強く押し付けるためではなく、休むときに手の付け根を支えるように使います。

分割型の角度

左右を離しすぎたり、角度を付けすぎたりすると、別の場所へ負担が移ることがあります。最初は一般的なキーボードに近い位置から始め、数日ごとに少しずつ動かします。

動かないときの確かめ方

完成したキーボードが動かないときは、一度に多くの場所を触らず、原因を順番に分けます。

パソコンへ認識されない

・別のUSB端子を試す
・データ通信に対応したケーブルか確認する
・USBハブを外して直接つなぐ
・別のパソコンで確認する
・基板のリセット方法を組立ガイドで確認する

充電専用のUSBケーブルでは、電源が入っているように見えてもデータ通信ができません。

一つのキーだけ反応しない

・キーキャップを外す
・スイッチを抜く
・金属端子が曲がっていないか見る
・正常な場所のスイッチと入れ替える
・ホットスワップソケットが外れていないか確認する

ソケットが基板から浮いている場合は、押さえ付けて使わず修理方法を確認します。

別の文字が入力される

物理的な故障ではなく、キーマップやOSの配列設定が原因の場合があります。キーボード側がANSI、ISO、JISのどれを前提にしているか、OS側の入力設定と合っているかを確認します。

分割型の片側だけ動かない

・左右接続ケーブルの種類と差し込みを確認する
・USBをつなぐ側が指定されていないか確認する
・左右のファームウェアが合っているか確認する
・説明書で認められた順番で電源を入れ直す

電源が入った状態で左右接続ケーブルを何度も抜き差しせず、先にUSBを外してから確認します。

安全に楽しむために

通電中の基板へ金属工具を置かない

電源が入った基板へ、ドライバー、ピンセット、ねじなどを落とすと、意図しない接続が起きることがあります。部品の位置を直すときは、USBケーブルと電池を外します。

静電気へ配慮する

乾燥した時期には、身体へたまった静電気が電子部品へ影響することがあります。作業前に接地された金属へ触れ、化学繊維の毛布やカーペットの上で基板を扱うことは避けます。

部品は、使う直前まで静電気防止袋へ入れておきます。

無線化と電池は後から考える

無線化では、マイコン、電池、充電方法、電源スイッチなどの確認項目が増えます。対応していない部品を組み合わせたり、電池の極性を間違えたりすると、発熱や破損につながります。

最初は有線で完成させ、無線化するときはキットの公式手順と指定部品を使います。膨らんだ充電池、傷ついた被覆、異常に熱くなる部品は使用しません。

長時間の作業を区切る

基板や小さな端子を見続けると、首と目が疲れます。40〜60分ほどで手を止め、立ち上がって姿勢を変えます。

疲れた状態では、ねじの締めすぎ、部品の向き違い、はんだごての置き忘れが起こりやすくなります。完成を急がず、部品を袋へ戻して翌日に続けます。

打鍵音を周囲へ響かせない

スイッチの音だけでなく、キーが底へ当たる音やケースの反響が机と床へ伝わります。集合住宅や夜間の作業では、デスクマットを敷き、強く打ち続けないようにします。

静音スイッチ、ケース内のフォーム、柔らかなデスクマットなどで音を調整できますが、組み合わせによって感触も変わります。最初は机との接触を整えてから、内部の改造へ進みます。

受注生産や共同購入を利用するとき

自作キーボードでは、少量生産のキットやキーキャップを、注文が集まってから製造する「グループバイ」で販売することがあります。通常の在庫販売では見つからない形や色を選べる一方、一般的な通販とは条件が異なります。

注文前には、次の点を確認します。

・生産が確定しているか
・最低受注数があるか
・予定納期
・納期が延びた場合の扱い
・キャンセルと返品の条件
・設計者と販売店の連絡先
・進捗を確認できる場所
・キット以外に必要な部品
・故障時のサポート範囲

納品まで数か月以上かかる企画や、生産上の事情で大きく遅れる企画もあります。最初の一台では在庫販売品を選び、完成までの流れを知ってから参加すると判断しやすくなります。

続けるほど変わる五つの楽しみ方

第1段階 はんだ不要の一台を完成させる

最初は、部品実装済みのキットへスイッチとキーキャップを取り付けます。すべてのキーが反応し、普段の文章を入力できれば十分です。

形や音を完璧に選ぶより、部品を確認し、説明書どおりに組み立て、動作を確かめる流れを覚えます。

第2段階 押し心地と音を自分の好みへ近づける

完成した一台を使い、重く感じるキー、音が気になる場所、押し間違えやすい位置を見つけます。スイッチを数個だけ替えたり、キーキャップの高さを試したりします。

評判のよい部品を集めるのではなく、自分が長く入力しやすい組み合わせを探す段階です。

第3段階 キーマップとレイヤーを育てる

よく使うキーを近くへ移し、数字、記号、矢印のレイヤーを整えます。短押しと長押し、ショートカット、ロータリーエンコーダーなども必要に応じて加えます。

一度で完成させず、変更した理由と使った感想を短く残します。キーマップが、自分の仕事や文章の癖を映すようになります。

第4段階 はんだ付けと電子部品へ進む

練習基板ではんだ付けを覚え、スイッチソケット、ダイオード、マイコン、LEDなどを自分で取り付けるキットへ進みます。

動かなかったときには、接合、部品の向き、ファームウェア、配線を順番に確認します。完成品を組み立てる楽しさから、信号の通り道を理解する楽しさへ広がります。

第5段階 配列・ケース・基板を自分で設計する

既存キットで見つけた好みをもとに、キー数と位置を考え、ケースを加工し、基板や配線を設計します。QMKなどを使い、機能と配列も一台に合わせて作ります。

設計データや組立記録を公開したり、展示会で試してもらったり、初めて作る人の質問へ答えたりすることもできます。自分のために始めた一台が、ほかの人の入力方法を考えるきっかけへつながります。

あわせて楽しみたい関連する趣味

電子工作

電子工作は、基板へ部品を取り付け、電気の通り道を作って、光、音、入力などの動作を生み出す趣味です。自作キーボードではんだ付けやマイコンへ興味を持った人が、回路そのものをもう少し深く学ぶ入口になります。


PCカスタマイズ

PCカスタマイズは、パソコン本体や周辺機器を、使い方と作業環境に合わせて整える趣味です。キーボードだけでなく、机、ディスプレイ、マウス、配線まで見直すことで、自作した一台を使いやすい環境へつなげられます。

キーキャップ収集

キーキャップ収集では、色、文字、素材、高さ、製造方法の違いを比べながら、小さなパーツを集めます。同じキーボードでもキーキャップを替えるだけで、見た目、指触り、打鍵音の印象が変わるため、組み立て後にも続けやすい楽しみです。

一つのキーから、自分の入力方法を作っていく

自作キーボードは、変わった形の道具を作ることだけが目的ではありません。

どの指で、どのキーを押しているのか。
文章を書くとき、何度も手を伸ばしている場所はどこか。
軽いキーと重いキーでは、どちらが落ち着くのか。

毎日繰り返していた入力を、一つずつ見直せる趣味です。

最初の休日には、基板設計やはんだ付けまで進まなくてもかまいません。普段使っているキーボードを眺め、残したいキー、動かしたいキー、ほとんど使っていないキーを書き出してみる。次に、はんだ不要で、必要なキー数が残っているキットを一つ探します。

部品が届いたら、空いているプレートへスイッチを一つ差し込みます。

その小さな「かちっ」という感触から、誰かが決めた配列を使う時間が、自分の入力方法を作る時間へ少しずつ変わっていきます。


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