スカッシュの楽しみ方
白い壁に向かってラケットを振ると、小さな黒いボールが乾いた音を立てて跳ね返ってくる。
急いで後ろへ下がり、次に来る場所を予想してもう一度打つ。最初は思った方向へ飛ばなかったボールが、何度か続けるうちに前の壁と床の間をきれいに往復し始めます。
スカッシュは、四方を壁に囲まれた専用コートで行うラケットスポーツです。基本は二人で交互にボールを打ち、床へ二度バウンドする前に前方の壁へ返します。正面だけでなく左右や後ろの壁も使えるため、同じ場所から打ったボールでも、角度によってまったく違う場所へ返ってきます。
「ボールが速くて難しそう」
「狭いコートで相手とぶつからないのかな」
「一人では練習できないのかな」
初めて見ると、展開の速さに少し圧倒されるかもしれません。けれど、最初から試合をする必要はありません。一人で壁打ちをしながら、ボールの弾み方やラケットへ当たる感触を確かめるところから始められます。
スカッシュで特におすすめしたいのは、短いラリーの中にも、打つ、走る、考えるという楽しさが詰まっていることです。
強いボールを打つだけでは続きません。自分が次に動きやすい場所へ戻り、相手が打ちにくい方向を考え、狭いコートを二人で安全に使う。慣れてくるほど、勢いだけではない駆け引きが見えてきます。
スカッシュの基本情報
一回の標準実施時間 約105分
短く楽しむ場合 約50分
移動や着替えを含む総所要時間 約180分
想定頻度 週1回程度
主な場所 スカッシュ専用コート、民間スポーツクラブ、公共・複合スポーツ施設
初心者の始めやすさ 比較的始めやすい
施設への依存 高め
天候の影響 屋内施設なら少ない
一回105分には、着替え、準備運動、壁打ち、ラリーやゲーム、休憩、片づけを含みます。コートを利用する時間そのものは、30分から60分程度に区切られている場合もあります。
初めてなら、50分ほどの体験レッスンや短時間利用でも十分です。ラケットの握り方と基本の打ち方を教わり、壁打ちを少し試すだけでも、ボールが独特に弾む感覚を味わえます。
週1回ほど続けると、前回覚えた動きを思い出しやすくなります。ただし、コートの予約が必要な施設が多く、自宅では同じ練習を再現しにくいため、通いやすい施設があるかどうかは始める前に確認したいところです。日本スカッシュ協会も全国のコート情報を公開していますが、地域によって施設数には差があります。
初期費用は約20,000円が目安
スカッシュは、施設でラケットやボールを借りられる場合、手持ちの運動着と室内用シューズで体験できます。
最初からすべてを購入する必要はありません。まずはレンタルを利用し、ラケットの重さやグリップの太さ、施設の雰囲気が自分に合うかを確かめるのがおすすめです。
初期費用 0円~約100,000円
標準的な初期費用 約20,000円
一回の費用 約700円~8,500円、標準約3,000円
年間費用 週1回に近い年間48回で約151,000円
標準的な初期費用には、入門用ラケット、室内用シューズ、アイガード、運動着などを含みます。すでに運動着や室内用シューズを持っていれば、ラケットとアイガードだけを購入し、費用を抑えられます。
一回の費用は、コート利用料、施設の入館料、ラケットのレンタル、レッスン料、交通費などで変わります。スポーツクラブの月会費にコート利用が含まれる場合もあれば、コートを一枠ごとに予約する施設もあります。
初心者向けレッスンを利用すると一回の費用は上がりますが、安全な動き方や打ったあとの戻り方を早い段階で教わることができます。数回だけレッスンを受け、その後は自主練習を中心にする方法なら、費用と学びやすさのバランスを取りやすいでしょう。
日本スカッシュ協会が案内している基本用品は、動きやすい服装、床へ色がつきにくいシューズ、ラケット、ボール、アイガードなどです。ラケットやボールは施設によってレンタルできるため、予約時に確認しておくと安心です。
壁を使うからこそ生まれる面白さ
スカッシュでは、打ったボールが相手へ直接向かうとは限りません。
正面の壁へまっすぐ打つこともあれば、横の壁へ当てて角度を変えることもあります。壁に当たったあと、床でどのように弾み、どこまで伸びてくるかを予想しながら動きます。
最初は、壁が多いほどボールの行方が分かりにくく感じます。ところが、少し慣れると、壁があるからこそラリーを続けやすいことにも気づきます。正面へ返せば、ボールはまたコート内へ戻ってきます。
一人で壁打ちができるのも、壁を使う競技ならではの魅力です。相手がいない日でも、同じ方向へ繰り返し打ち、ラケットの角度や立つ位置を確かめられます。
ただ打ち返すだけだった練習が、「次も打ちやすい場所へ返す」という練習へ変わったとき、ラリーの面白さが一段深くなります。
初めてなら、体験レッスンから始める
スカッシュは、基本ルールだけなら比較的分かりやすいスポーツです。一方で、狭いコートを相手と共有するため、自己流で始めるより、最初に安全な動き方を教わるほうが安心です。
施設を探すときは、次の点を確認します。
初心者向けの体験レッスンがあるか
ラケットとアイガードを借りられるか
室内用シューズの条件
コート利用料と入館料の範囲
一人で壁打ちできる時間があるか
予約やキャンセルの方法
初回は、コートへ入る前の準備やルール説明だけでも覚えることが多くあります。いきなりゲームまで進めなくても、ラケットへボールを当て、前の壁へ数回返せれば十分です。
ボールが思ったより弾まないと感じることもあります。スカッシュのボールは種類によって弾み方が異なり、ある程度温まると弾みやすくなります。初心者向けの弾みやすいボールを用意している施設なら、最初のラリーを続けやすくなります。
最初の一回は壁打ちを楽しむ
準備運動では、肩や手首だけでなく、股関節、膝、足首も動かします。スカッシュでは、ボールを追って前後左右へ動き、低い位置へ踏み込む場面が多いためです。
ラケットは強く握り込まず、落とさない程度に持ちます。最初は大きなスイングをせず、短い距離からボールを前の壁へ当ててみます。
打ったら、その場に止まったまま次の球を待つのではなく、少し後ろへ下がります。ボールが壁と床に当たり、どの位置へ戻ってくるかを見ます。
うまく当たらないときは、強く振るのではなく、ボールを少し高い位置から落として打つ、壁との距離を近くする、スイングを小さくするなど、条件を簡単にします。
連続して二回、三回と返せるようになると、それだけでも気持ちのよいリズムが生まれます。壁打ちは基礎練習ですが、回数を数えたり、狙う場所を少し変えたりすることで、一人でも十分に楽しめます。
ラリーでは「打ったあと」が大切になる
二人でラリーを始めると、自分が打ったボールだけを見てしまいがちです。
けれど、本当に大切なのは、打ったあとの動きです。自分が打った場所に残っていると、相手がラケットを振る場所やボールへ向かう道をふさいでしまいます。
基本は、ボールを打ったらコート中央付近へ戻り、相手が安全に打てる場所を空けることです。中央へ近い位置に戻ると、次のボールが前後左右のどこへ飛んでも動きやすくなります。
この「打つ、戻る、相手を見る」という流れが身につくと、ラリーが急に続きやすくなります。スカッシュは、ショットの強さだけでなく、コート内の位置取りが結果を大きく変える競技です。
相手が近くにいる、ラケットが当たりそう、無理に打つと危険だと感じた場合は、ボールを打たずに止まります。日本スカッシュ協会も、人や壁へ当たりそうなときにはラケットを止め、安全を優先するよう案内しています。
慣れてきたら狙う場所を変える
壁打ちが続くようになったら、ただ前へ返すだけでなく、狙う場所を決めてみます。
最初に覚えたいのは、横の壁に近い場所へまっすぐ返すショットです。ボールが壁際を通ると、相手はラケットを振るための空間をつくりにくくなります。
一方、左右へ角度をつけて打てば、相手をコートの反対側へ動かせます。速い球を打たなくても、相手から遠い場所へ返すことで有利な状況をつくれます。
前方へ短く落とす球、後方まで深く伸ばす球、横の壁を利用する球。選択肢が増えるほど、ラリーは体力勝負だけではなくなります。
自分が苦しい位置から強く打ち返すより、一度高いボールで時間をつくり、中央へ戻る。こうした判断ができるようになると、試合の駆け引きが見えてきます。
最初に必要なもの
最低限必要なもの
動きやすい服装、室内用シューズ、飲み物、タオルが必要です。ラケットとボールは、施設でレンタルできる場合があります。
シューズは、急な方向転換をしても足が靴の中で大きくずれず、体育館やコートへ色をつけにくい靴底のものを選びます。屋外用シューズの使用を認めていない施設もあるため、事前に確認します。
安全のために用意したいもの
アイガードは、初心者も基本装備として考えたい用品です。スカッシュでは、同じコート内でラケットを振り、小さなボールが速く移動します。日本スカッシュ協会もプレー時のアイガード着用を勧めており、大会によっては着用が求められます。
普段眼鏡を使っている場合も、一般的な眼鏡がアイガードの代わりになるとは限りません。施設や指導者へ相談し、競技用として適した製品を選びます。
続けるなら用意したいもの
自分用のラケット、替えのグリップ、着替え、スポーツバッグなどがあると便利です。
ラケットは軽ければ必ず扱いやすいわけではありません。実際に振ったときの重さやバランス、グリップの太さを確かめて選びます。最初は施設のレンタルで複数のタイプを試すと、自分の好みが分かりやすくなります。
安全に続けるために
スカッシュでは、ボールやラケットだけでなく、相手との接触にも注意が必要です。
相手が打つ方向へ急に入らない。
打ったあと、その場から離れる。
ラケットが当たりそうならスイングを止める。
相手が後ろにいる状態で無理に振り抜かない。
ボールだけでなく、相手の位置も見る。
これらは上達以前に覚えておきたい基本です。
コート内で相手の動きを妨げた場合には、無理にラリーを続けず、プレーを止めて判断します。初心者同士では正式な判定を細かく覚える前に、「危ないと思ったら止め、やり直す」という共通ルールを決めておくと安心です。
運動強度は平均6METs程度の中~高強度が目安ですが、ラリーの長さや休憩時間によって負担は変わります。最初から105分間動き続けるのではなく、短い練習と休憩を交互に入れます。
めまい、吐き気、強い息切れ、胸の痛みがある場合は中止します。足首、膝、腰、肩に痛みが出た場合も、フォームを直しながら続けるのではなく、その日は休みます。
続けるほど変わる五つの楽しみ方
1.壁へ返す感触を知る
最初は一人で壁打ちを行い、ラケットへボールが当たる感触と弾み方を確かめます。連続して数回返せれば、最初の手応えになります。
2.狙った方向へ打てるようになる
壁の同じ場所を狙い、まっすぐ返る球を増やします。偶然続いていたラリーが、少しずつ再現できるようになります。
3.打ったあとに中央へ戻る
ショットだけでなく、次の動きを考えます。相手の邪魔をせず、自分も次の球へ向かいやすい位置へ戻れると、ラリーが長く続きます。
4.相手を動かす配球を楽しむ
速さだけに頼らず、前後左右へ打ち分けます。相手の位置や体力を見ながらショットを選ぶ、スカッシュらしい駆け引きが深まります。
5.試合や指導へ広げる
大会へ参加したり、仲間との練習会を企画したりします。競技経験を積み、必要な資格や施設の条件を確認すれば、初心者の練習補助や指導へつなげる道もあります。
ただし、競技へ進むことだけが完成ではありません。一人で壁打ちを楽しむ、週末に友人と軽いラリーをするなど、生活に合う形で続けられます。
壁に返した一球から始める
スカッシュは、展開が速く、体力の必要なスポーツに見えます。
けれど、最初の一歩はとてもシンプルです。
ボールを落とす。
ラケットで前の壁へ打つ。
返ってきたボールを、もう一度打つ。
一球目は横へそれても、二球目は少し前へ戻るかもしれません。何度か試すうちに、壁とボールと自分の間に、短いリズムが生まれます。
初めてなら、ラケットとアイガードを借りられる体験レッスンを探し、壁打ちから始めてみてください。
一人で打ったボールがきれいに戻ってきた瞬間、目の前の壁は、ただの壁ではなくなっています。
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