オープンウォータースイミングの楽しみ方
プールの壁を蹴って折り返す代わりに、少し先のブイへ向かって泳いでいく。
顔を上げると、目の前には海や湖が広がり、振り返れば出発した岸が少し遠くに見えます。
水面は静かに見えても、身体の下ではゆるやかな流れが動いています。波に合わせて呼吸の向きを変え、進行方向を確かめながら、自分のペースで前へ進む。
プールで泳ぐときとは違う開放感があります。
オープンウォータースイミングは、海や湖、川など、自然の水域で泳ぐ活動です。競技としては長距離水泳の一種ですが、大会を目指さず、ガイドやコーチと一緒に短い距離を泳ぐ楽しみ方もあります。日本水泳連盟も、自然条件の影響を受けるため、競泳とは異なる技術と知識が必要な競技として紹介しています。
ただ、初めて挑戦するときには不安もあります。
プールで泳げても海では通用しないのか。
足が届かない場所で怖くならないか。
波で進行方向を見失わないか。
ウェットスーツは必ず必要なのか。
一人で海岸へ行って練習してよいのか。
オープンウォータースイミングは、海水浴の延長で沖へ泳いでいく活動ではありません。
波や流れの中で進路を確かめる。身体が冷える前に戻る。周囲の船やほかの利用者から、自分の位置が見えるようにする。異変が起きた人をすぐ助けられる体制の中で泳ぐ。
泳力だけでなく、安全に一回のスイムを終える判断まで含めて楽しむ趣味です。
最初は、監視と指導がある初心者向け練習会から。
海に慣れていない人向けの講習では、ウェットスーツの着方、ビーチからの入り方、進行方向を確認するヘッドアップ、集団の中で泳ぐ感覚、安全管理まで基礎から学べます。2026年の初心者クラスにも、約2時間、指導料と保険を含めて5,500円、別途施設利用料1,000円という例があります。
今回は、オープンウォータースイミングをおすすめしたい理由、プールとの違い、初めての始め方、必要な時間と費用、道具、安全に楽しむための基本、続けるほど変わっていく楽しみ方をまとめました。
※この記事では、初心者向け練習会や管理された水域でのスイムを中心に紹介します。単独で沖へ出る泳ぎ方は想定していません。
まず知っておきたい基本情報
初回に水へ入る時間 休憩を挟みながら約30〜60分
説明や着替えを含む所要時間 約2〜3時間
おすすめの始め方 コーチと安全スタッフがいる初心者練習会
初心者向け講習の費用 約5,000〜10,000円
大会の参加費 短距離で約4,000円から、1〜5kmでは約10,000〜13,000円前後の例もある
最初に必要な道具 水着、ゴーグル、キャップ、必要に応じてウェットスーツ
自分でそろえる場合の初期費用 約10,000〜100,000円以上
おすすめの頻度 月一回から。海へ行かない日はプールで練習
天候への影響 とても大きい
楽しさの中心 自然の中を泳ぐ開放感、進路を考える面白さ、距離を泳ぎ切る達成感
初心者向けの練習会へ参加するだけなら、最初からすべての道具を購入する必要はありません。
ウェットスーツを借りられる場合もありますが、レンタルの有無や追加料金は教室ごとに異なります。予約前に確認します。
一方、自分で海を選び、仲間と泳ぐ段階では、泳力に加えて、その日の水温、風、波、潮、船舶、入退水場所を判断する力が必要です。
「体験へ参加しやすいこと」と「自由に一人で泳げること」は、分けて考えたい趣味です。
オープンウォータースイミングをおすすめしたい3つの理由
一本道ではない場所を、自分で進んでいける
プールには、コースロープと底の線があります。
泳いでいれば、まっすぐ進んでいるかどうかを簡単に確認できます。壁まで着けば折り返し、同じ距離を繰り返せます。
自然の水域には、底の線も壁もありません。
少し先に浮かぶブイや、岸にある建物、山の形などを目印にして進みます。
クロールを続けながら、数回に一度だけ前方を見る。波で目印が隠れたら、次に見えた瞬間に方向を直す。流れで少し横へ運ばれていたら、自分の位置を考えてコースへ戻る。
泳ぐことと、進路を考えることが一つになります。
同じ距離を泳いでも、プールとは違う小さな旅のような感覚があります。
ただ速く泳ぐだけではなく、自分で道を見つけながら前へ進みたい人に、特におすすめしたい活動です。
自然の変化が、そのまま泳ぎ方へつながる
オープンウォータースイミングでは、同じ場所でも毎回同じ条件にはなりません。
前回は穏やかだったのに、今日は小さな波が続いている。
岸から沖へ向かうときは追い波でも、戻るときには顔へ水がかかる。透明度が高い日もあれば、底がほとんど見えない日もあります。
波が右から来るなら、左側で呼吸する。
目印が見えにくければ、顔を上げる回数を増やす。
流れがあるなら、少し上流側を目指す。
身体が冷えてきたら、予定を短くして戻る。
自然を押し切るのではなく、条件へ合わせて泳ぎ方を変えます。
うまく泳げた日だけでなく、今日は短く切り上げた、沖へ出ず岸沿いで練習したという判断も、一つの上達です。
距離を泳いだ先に、はっきりした達成感がある
プールで一キロ泳ぐときは、二十五メートルなら四十往復です。
オープンウォーターでは、一つのブイを回り、岸へ戻った距離がそのまま一つのコースになります。
途中で壁へつかまる場所はありません。
だからこそ、短いコースでも、自分で泳ぎ切って岸へ戻ったときには大きな達成感があります。
最初から一キロを目指す必要はありません。
岸と平行に短い区間を往復する。
二つの目印の間を泳ぐ。
管理されたコースを一周する。
少しずつ距離を伸ばせます。
大会にも、625メートルや1.25キロなど、比較的短い種目を設ける例があります。泳ぎに慣れてからは、旅先の大会を休日の目標にする楽しみ方もできます。
プールで泳ぐこととの違い
水泳の基本動作は同じでも、自然の水ではいくつかの技術が加わります。
前方を確認する
顔を横へ向ける通常の呼吸だけでは、進行方向を確認できません。
数回のストロークごとに目だけを水面から出し、前方を見る「ヘッドアップ」を使います。
顔を高く上げすぎると脚が沈み、疲れやすくなります。最初はプールでも、前方を見る動きを練習できます。
波に合わせて呼吸する
いつも右側で呼吸している人でも、右から波が来る日は水を飲みやすくなります。
左右どちらでも呼吸できるようになると、風や波に合わせやすくなります。
波を避けるために少し顔を後ろへ向けたり、呼吸の回数を変えたりすることもあります。
足を止めても壁へつかまれない
疲れたときに、すぐ立ったり壁へつかまったりできません。
その場で仰向けになって浮く。平泳ぎへ変える。安全スタッフへ合図する。スイムブイなどの補助浮具を使う。
泳ぐ技術だけでなく、途中で落ち着きを取り戻す方法も覚えます。
ほかの人と近い距離で泳ぐことがある
大会や集団練習では、腕や足が触れることがあります。
最初から混雑の中央へ入らず、外側や後方からスタートします。
ほかの人に勝つことより、自分が落ち着いて泳げる場所を選ぶことが大切です。
海で泳ぐ前に、プールで整えておきたいこと
初心者向け練習会は、泳ぎ方を一から覚える水泳教室とは少し違います。
参加条件は教室によって異なりますが、まずはプールで一定時間泳ぎ続けられること、疲れたときに背浮きや平泳ぎへ切り替えられることが土台になります。
速く泳げる必要はありません。
大切なのは、呼吸が乱れたときにも慌てず、自分でペースを落とせることです。
海へ行く前には、プールで次の練習をしておくと安心です。
左右で呼吸する。
数回ごとに前を見る。
途中で平泳ぎへ変える。
仰向けになって浮く。
休まずゆっくり泳ぎ続ける。
ゴーグルへ水が入っても落ち着く。
大会によっては「定期的に練習している水泳愛好者」を参加条件とし、長距離種目はOWS経験者に限る例もあります。初めは短い練習会やクリニックから、段階を踏んで進みます。
初めてなら初心者向け練習会から
最初に選びたいのは、ただ海で泳ぐ集まりではありません。
コーチに加え、岸や水上から安全を見ているスタッフがいる練習会です。
確認したいのは、次のような内容です。
対象レベル 海が初めての人を受け入れているか
必要な泳力 プールで何メートル泳げることを求めているか
安全体制 水上監視や救助艇、ライフガードがいるか
料金に含まれるもの 指導、保険、施設、シャワー
ウェットスーツ 必須か、レンタルできるか
中止基準 波、風、雷、水温などの判断
練習内容 ヘッドアップ、入退水、集団泳、休み方を学べるか
2026年の初心者向けクラスには、ウェットスーツの着脱、ビーチスタート、ヘッドアップ、集団泳、安全管理を約2時間で学ぶ内容があります。プールで泳げる人でも、最初の海ではこのような基礎をまとめて教わる方が安心です。
練習会が荒天で中止になっても、自己判断で別の海岸へ移動して泳ぐ必要はありません。
泳がない判断も、自然の水を楽しむための大切な技術です。
一回に必要な時間と費用
初回の海上練習は、全体で約2〜3時間が目安です。
実際に泳ぐ時間以外にも、次の準備があります。
受付。
体調と海況の確認。
着替え。
ウェットスーツの調整。
陸上説明。
浅い場所での水慣れ。
海上練習。
シャワーと着替え。
初心者クラスでは、約2時間の枠の中で、説明や休憩を挟みながら泳ぎます。
一回の支出は、次のように考えます。
初心者練習会 約5,000〜10,000円
施設利用・シャワー 料金込み〜約1,500円
ウェットスーツレンタル 料金込み、または別途
交通・駐車場 約1,000〜6,000円
飲み物・軽食 約500〜1,000円
合計 約7,000〜18,000円
2026年の練習会では、指導・保険込み5,500円に、施設利用料1,000円を加える例があります。
大会へ参加する場合は、距離と運営規模によって費用が変わります。
2026年の公式大会例では、625メートルが4,000円、1.25キロが5,000円、2.5キロが7,000円、3〜5キロが10,000円です。別大会では一般の1キロが10,000円、3〜5キロが13,000円に設定されています。
月一回、年間12回ほど講習や管理された練習へ参加する場合は、交通費を含めて年間約80,000〜180,000円ほどが一つの目安です。
海へ行かない月はプール練習にする、暖かい季節だけ参加するなど、費用と季節に合わせて続けられます。
最初に必要な道具
水着
練習会の内容によって、通常の競泳水着やトライスーツを使います。
ウェットスーツの下へ着る場合は、飾りや大きな金具が少なく、ずれにくい物が向いています。
ゴーグル
自然光や水面の反射が強いため、曇天向けの明るいレンズと、晴天向けの濃いレンズを使い分ける人もいます。
オープンウォーター向けのゴーグルには、視野を広く取ったモデルや、光の状態に合わせる調光モデルがあります。現在の公式販売例は3,300〜6,270円ほどです。
最初は高価なモデルより、顔へ合い、水が入りにくいことを優先します。
キャップ
大会や練習会では、指定されたキャップを着用することがあります。
普段の練習では、周囲から見つけやすい明るい色を選びます。
ウェットスーツ
ウェットスーツは保温を助け、浮力も増します。
一方、サイズが小さすぎると肩が動かしにくく、首や胸が苦しくなります。大きすぎると水が入りやすく、保温性が落ちます。
着用の可否や必須条件は、練習会や大会の水温規定へ従います。長時間着たまま陸上で待つと暑さや脱水につながるため、着る時刻と水分補給にも注意が必要です。
最初はレンタルでサイズを試してから購入する方が安心です。
スイムブイや安全用浮具
スイムブイは腰へつなぎ、泳者の後方へ浮かべる目立つ補助浮具です。
周囲から位置を確認しやすくし、異変時に一時的につかまれる製品があります。OWS練習向けの安全用品として、ライフセービング関連事業者からも案内されています。
ただし、スイムブイがあるから一人で沖へ行ってよいわけではありません。
正式な練習会や大会では、使用可否と使い方が決められています。大会によっては、膨らませた時点で順位対象外になるなどのルールもあります。
当日の流れ
海へ入る前に体調を確認する
寝不足、発熱、胸の違和感、強い疲労、飲酒の影響がある日は泳ぎません。
水泳は陸上から見えにくく、本人の異変へ気づくまで時間がかかることがあります。
持病や運動制限がある場合は、事前に医師と主催者へ相談します。
水温へ身体を慣らす
いきなり沖へ泳ぎ出さず、浅い場所で首や顔へ水をかけます。
呼吸が落ち着いてから、岸に近い範囲で短く泳ぎます。
水が冷たいと感じた場合は、無理に我慢しません。反対に、高水温の日やウェットスーツを長く着ている日は、暑さと脱水にも注意します。
目印と活動範囲を確認する
泳ぐ前に、ブイ、岸の建物、監視スタッフの位置、戻る場所を確認します。
「岸と平行に泳ぐ」「このブイより沖へ行かない」など、その日の範囲を守ります。
海では目印が想像以上に見えにくくなります。途中で何度も前方を確認し、離れすぎる前に方向を直します。
余力を残して岸へ戻る
行きが波や流れに押されて楽だった場合、帰りは想像以上に負担が増えます。
疲れてから引き返すのではなく、まだ泳げると感じる段階で戻ります。
呼吸が整わない。
寒くて手が動かしにくい。
進んでも岸が近づかない。
目印が見えない。
不安が強くなった。
このような変化があれば、泳ぎを止め、背浮きや浮具で身体を保ち、決められた合図で助けを求めます。
安全に楽しむために
オープンウォータースイミングで、最も大切なのは一人で泳がないことです。
岸に友人がいるだけではなく、泳いでいる位置を継続して確認でき、異変時に救助へ動ける体制が必要です。
日本水泳連盟の認定OWS大会では、競技規則と安全対策ガイドラインに基づき、公認審判員や安全担当員を配置しています。2026年度は全国で15の認定大会が予定されています。
個人練習でも、大会と同じ規模の体制は作れません。
だからこそ、
管理された水域を使う。
コーチやライフガードのいる練習会へ参加する。
岸と平行の短いコースにする。
スイムブイや目立つキャップを使う。
入水時刻と終了時刻を共有する。
船舶の通る場所を避ける。
できるだけ危険を小さくする計画が必要です。
ウェットスーツやスイムブイも、安全体制の代わりにはなりません。
泳げる人ほど、あと少しなら戻れる、前回大丈夫だったから今日も大丈夫と考えやすくなります。
自然条件が違う日は、同じ場所でも別のコースです。
経験を積むほど遠くへ行くのではなく、安全に中止できる判断を早くすることが大切です。
続けるほど変わる5段階の楽しみ方
1.プールで海へ出る土台をつくる
まずは、ゆっくり泳ぎ続ける力、左右呼吸、背浮き、ヘッドアップを練習します。
速さより、呼吸が乱れたときに自分でペースを落とせることが目標です。
2.初心者練習会で自然の水へ慣れる
コーチと安全スタッフのいる環境で、岸に近い範囲を泳ぎます。
波、塩水、視界の違いを知り、怖くなったときに落ち着く方法を覚えます。
3.短いコースを泳ぎ切る
目印の間を往復する、管理されたブイコースを一周するなど、短い目標を決めます。
自分の進路を確かめ、余力を残して戻れたことが達成になります。
4.大会や違う水域へ挑戦する
625メートルや1キロなどの短い大会から始めます。
大会では安全体制や制限時間が設けられますが、参加前に十分な練習が必要です。
海、湖、湾内では条件が異なるため、初めての場所では現地の練習会や公式試泳を利用します。
5.季節と場所を含めて楽しむ
夏の海だけでなく、春の練習開始、秋の大会、旅先の湖など、自分の年間予定へ組み込みます。
泳いだ距離や水温、風、体調を記録する。海岸の清掃へ参加する。初心者の仲間と安全を確認し合う。
競技記録だけでなく、自然の中で安全に泳ぎ続けること自体が楽しみになります。
この五段階は、必ず順番に進むものではありません。
毎年、初心者向け練習会へ参加し、短い距離だけ楽しむ形でも十分です。
こんな人におすすめ
プールで泳ぐことが好きで、次の楽しみ方を探している人。
自然の中で身体を動かしたい人。
ただ速く泳ぐより、自分で進路を考えることを楽しみたい人。
短い距離から、少しずつ目標を広げたい人。
旅と水泳を組み合わせたい人。
大会や完泳という分かりやすい目標がほしい人。
一方で、自分一人の好きな時刻に、好きな海岸から自由に泳ぎたい人には向きません。
オープンウォータースイミングは、自然の中で行うからこそ、監視、仲間、場所のルールが必要です。
最初は、遠くまで泳がなくていい
オープンウォータースイミングの映像を見ると、広い海へ大勢が飛び込み、何キロも泳いでいく姿が目に入ります。
けれど、初めの一日に長い距離は必要ありません。
浅い場所で水へ慣れる。
岸と平行に短く泳ぐ。
数回に一度、前方を見る。
呼吸が乱れたら背浮きになる。
余力があるうちに岸へ戻る。
それだけでも、プールとは違う泳ぎへ十分に触れられます。
オープンウォータースイミングは、泳力だけを試す趣味ではありません。
風や波、水温、自分の体調を見ながら、その日に泳げる範囲を考える。
壁のない場所で、自分の進路を見つけ、必ず安全な岸へ帰ってくる。
その一回を丁寧に積み重ねる趣味です。
最初は、安全管理のある初心者練習会から。
泳ぎ終えて岸へ立ったとき、振り返った水面を見て「自分であそこを泳いできた」と感じられたなら、次はもう少し違う景色の中を泳いでみたくなると思います。
休日のよりみち帖では、気軽に始められるものから、少し時間をかけて育てていくものまで、さまざまな趣味やレジャーを紹介しています。
「次の休日は何をしよう」と迷ったときに、新しい楽しみを見つける小さなきっかけになれたらうれしいです。
これからも、次にやってみたくなる趣味を一つずつ丁寧に紹介していきますので、ぜひフォローして、次の記事も覗いてみてください。
