手製本の楽しみ方
紙を何枚か重ね、半分に折る。
ずれないように角をそろえ、折り目をゆっくり押さえていく。まだ表紙も題名もないのに、紙の束が少しずつ「本らしい形」へ変わっていきます。
穴を開け、針へ通した糸で紙を綴じる。表紙を重ねてページを開くと、先ほどまで別々だった紙が、ひとつのまとまりとして手の中に残ります。
手製本は、文章や絵を書いた紙を束ねるだけの趣味ではありません。紙の大きさ、厚さ、折り方、綴じ方、表紙の素材を選び、何を残すための本にするのかを考えながら、一冊の形を組み立てていく楽しみがあります。
けれど、初めて作るとなると、少し難しそうにも見えます。
特別な機械が必要なのか。紙をまっすぐ切れなくても作れるのか。何ページくらいから始めればよいのか。表紙には、どのような紙や布を使えばよいのか。
最初から書店に並ぶような厚い本を目指す必要はありません。数枚の紙を折り、糸で綴じる小さなノートや、用意された部材を組み立てる製本キットからでも、手製本の面白さを味わえます。
完成した本は、そのまま小さなノートとして使えます。写真を貼ればアルバムになり、文章や絵を入れれば作品集になり、旅先で集めた紙片をまとめれば記録帳になります。
今回は、自宅で月に一冊ほど小さなノートや記録帳を作り、ときどきワークショップにも参加する場合を中心に、費用、材料、最初の作り方、安全面、続けることで広がる楽しみ方を紹介します。
手製本の基本情報
主な楽しみ方 紙、糸、表紙素材を選び、ノート、アルバム、作品集などを作る
おすすめの頻度 月1〜2回程度
一冊を作る時間 約90〜180分
短時間で作れるもの 簡単なキットや薄い冊子なら30〜60分程度
準備と片付けを含む時間 約120〜210分
主な実施場所 自宅の机、製本工房、手芸店や文化施設のワークショップ
一人での楽しみやすさ 高い
施設への依存 低いが、本格的な製本技術は工房で習いやすい
天候や季節の影響 ほとんど受けない
身体的な負担 小さいが、細かな作業と同じ姿勢が続く
楽しさの中心 紙選び、構造を組み立てる工程、装丁、完成後に使うこと
手製本には、紙を折って中央を綴じる薄い冊子、紙の端へ穴を開けて糸を見せる和綴じ、複数の紙のまとまりを糸でつなぐ方法、厚紙と布で表紙を作る上製本など、さまざまな作り方があります。
初めてなら、すべてを覚える必要はありません。一冊目は、使用する紙が少なく、途中で構造を確認しやすい薄いノートが向いています。
自宅で始めやすく、天候にも左右されません。必要な材料を小さな箱へまとめておけば、休日の午後や雨の日にも取り組めます。
ただし、短時間で何冊も完成させる趣味ではありません。紙を測る、折る、穴を開ける、糸を通すという工程を一つずつ進めるため、急ぐほどずれやゆがみが出やすくなります。
手製本では、その少しゆっくりした時間も作品の一部です。
最初は約1,500円のキットか、2,000〜5,100円ほどの体験から
手製本は、始め方によって初回費用が変わります。
用意された部材を組み立てる製本キットなら、1,300〜1,500円ほどから試せます。工房やワークショップで職人に教わる場合は、材料費を含めて2,000〜5,100円ほどが一つの目安です。
簡単な製本キット 約1,300〜3,000円
製本ワークショップ 約2,000〜5,100円
自宅用の道具をそろえる初期費用 約4,000〜8,000円
一冊分の材料費 約500〜1,800円
月一冊作る場合の年間費用 約10,000〜25,000円
自宅用の初期費用には、カッターマット、金属製の定規、カッター、目打ち、針、糸、接着剤、刷毛やクリップなどを含みます。すでに工作用品を持っていれば、最初に購入するものは紙、糸、表紙素材くらいです。
一冊分の材料費は、大きさと装丁によって変わります。コピー用紙や画用紙で薄いノートを作るなら数百円で収まりますが、製本用クロス、厚紙、見返し紙、飾り紙などを選ぶと1,000円を超えることがあります。
費用を抑えるために、高価な紙や専用道具を最初からまとめて買う必要はありません。包装紙、余った画用紙、使わなくなった布、便箋など、手元にある素材も表紙や中紙として使えます。
ただし、紙の厚さや伸び方によって仕上がりは変わります。気に入った素材をいきなり本番へ使わず、小さく切った端材で折り目や接着剤の染み方を試しておくと失敗を減らせます。
初回から本格的なハードカバーへ挑戦したい場合は、道具を個別にそろえるより、ワークショップで一冊作るほうが分かりやすいでしょう。紙の向き、接着剤の量、表紙を貼る順番など、文章や動画だけでは分かりにくい力加減を確かめられます。
手製本ならではの三つの楽しさ
紙が本へ変わる構造を、自分の手で確かめられる
普段、本を読むときに、ページがどのようにつながっているかを意識することはあまりありません。
手製本を始めると、ページの中央に糸が見える理由、見返し紙が表紙と中身をつなぐ役割、背の部分へ布や紙を貼る意味など、本の構造が少しずつ分かってきます。
紙を折っただけでは、まだページの束です。穴を開け、糸を通し、表紙とつなぐことで、どこから開いてもページが順番に続く一冊になります。
最初は少しゆがんでいても、自分で綴じた本には、どの糸がどのページを支えているのかが見えます。完成品を眺めるだけではなく、形が生まれる途中まで楽しめることが、手製本の大きな魅力です。
中身と外側を一緒に考えられる
市販のノートは、購入してから何を書くかを考えます。手製本では、何に使うのかを考えてから、ページ数や紙、表紙を選べます。
鉛筆で書くためのノートなら、少しざらつきのある紙を使う。写真を貼るなら、厚みを受け止められる紙と綴じ方を選ぶ。短い文章をまとめるなら、ページを開いたときに読みやすい大きさにする。
表紙も、きれいに飾るためだけのものではありません。中身を守り、開きやすさを整え、その本に触れたときの印象を作ります。
旅の記録には地図を思わせる紙、植物の記録には落ち着いた色の布、日々のメモには汚れが目立ちにくい素材を使う。中身と表紙がつながると、一冊全体でひとつの作品になります。
作って終わりではなく、使う時間まで続いていく
手製本は、完成した瞬間だけを楽しむ趣味ではありません。
机のそばへ置き、毎日のメモに使う。写真や切符を少しずつ貼る。読んだ本の感想を残す。使い続けるうちに、何もなかったページへ時間が積み重なっていきます。
少しずれた糸や、接着剤が薄く見える場所も、使っているうちにその本らしい表情になります。紙の端が丸くなり、表紙に小さな傷が付き、自分の手になじんでいく変化も楽しめます。
誰かへ贈る本を作ることもできます。写真、文章、絵、好きな紙を一冊へまとめられるため、誕生日や節目の記録を残す贈り物にも向いています。
初めての一冊は、小さなノートから始める
最初の一冊には、A6ほどの小さなノートが向いています。中紙は10〜20枚程度に抑え、厚いハードカバーではなく、一枚の紙や薄い厚紙を表紙にします。
作り方は、一折中綴じや簡単な和綴じから選ぶと分かりやすいでしょう。一折中綴じは、重ねた紙を半分に折り、折り目へ数か所穴を開けて糸で綴じる方法です。和綴じは、重ねた紙の端へ穴を開け、表から見える糸で留めます。
最初に必要なもの
中身に使う紙
表紙に使う紙または薄い厚紙
カッターマット
金属製の定規
カッター
目打ち
製本針または少し太めの縫い針
丈夫な糸
鉛筆
クリップ
接着剤を使う場合は、紙用の接着剤と刷毛
初回から、製本用クロス、骨べら、プレス機、裁断機などをそろえる必要はありません。紙の折り目は清潔な定規やスプーンの丸い部分でも押さえられ、重しには厚い本を利用できます。
作業を始める前に、完成した本を何に使うか決めます。
日々の短いメモを書く。散歩で見つけたものを記録する。写真を貼る。読んだ本の言葉を残す。用途が一つ決まると、紙の大きさとページ数を選びやすくなります。
初めての一冊は、次のような流れで作ります。
用途と完成サイズを決める 10〜15分
紙を測り、切り、折る 30〜40分
紙を重ねて位置をそろえる 10〜15分
穴を開けて糸で綴じる 30〜40分
表紙を付け、形を整える 20〜40分
片付けと仕上がりの確認 10〜15分
接着剤を使わない薄い冊子なら、作った日に使い始められます。表紙を貼り合わせた場合は、紙が波打たないよう平らな場所で重しを置き、十分に乾かします。
紙を切る精度よりも、すべての紙を同じ向きへそろえることが最初のポイントです。一枚ずつ完璧に切ろうとせず、折り目と中央を基準に重ねます。
少しずれていても、ページとして開けて、糸がほどけなければ一冊目は十分に完成しています。気になった部分は、次の本で紙の枚数や穴の位置を変えてみましょう。
安全に楽しむために
手製本で特に気をつけたいのは、カッター、目打ち、針の扱いです。紙を切るときは必ずカッターマットを敷き、手で押さえている方向へ刃を進めません。目打ちで穴を開けるときも、手のひらで紙を支えず、マットや不要な厚紙の上へ置きます。
接着剤は必要な量だけ小さな容器へ出し、換気できる場所で使います。作業後は手を洗い、食事をする机と共用する場合は、接着剤や紙片が残っていないか確認します。
細かな作業では、顔を机へ近づけたまま同じ姿勢になりやすくなります。30〜40分ごとに一度手を止め、肩と指を動かし、目を休ませます。切れにくくなった刃を力で押さず、道具の状態も確認しましょう。
古い本や大切な本の修理は、練習用の手製本とは分けて考えます。強い接着剤や粘着テープを使うと、後から修復しにくくなる場合があります。価値のある本や劣化が進んだ資料は、自分で分解せず、専門家や修理講座へ相談します。
続けるほど変わる五つの楽しみ方
第1段階 紙を折り、一冊の形にする
最初は、紙を重ねて折り、数か所を糸で綴じます。薄いノートや小冊子が開閉できる形になれば十分です。
ページの端がそろわなかったり、糸が少し緩んだりしても、一冊を最後まで作ることで工程の全体が分かります。完成した本へ日付と一冊目であることを書いておくと、後の作品と比べられます。
第2段階 紙と表紙の組み合わせを楽しむ
何冊か作ると、紙の違いへ目が向きます。書きやすい紙、写真を貼りやすい紙、折り目がきれいに出る紙など、使い方に合う素材を選べるようになります。
表紙には、色紙、包装紙、布、写真、自分で描いた絵などを使えます。同じ綴じ方でも、素材と色を変えるだけで、全く違う一冊になります。
第3段階 綴じ方と構造を選ぶ
基本に慣れると、一折中綴じ、和綴じ、複数の折丁をつなぐ糸綴じなど、作りたい本に合わせて方法を選べるようになります。
開きやすさを優先するのか。糸を装飾として見せるのか。厚いページを使うのか。形だけでなく、使い方から構造を考える段階です。
難しい綴じ方を増やすことだけが上達ではありません。よく使う形を繰り返し作り、紙の枚数や糸の締め方を少しずつ調整する楽しみ方もあります。
第4段階 中身から一冊を作る
さらに続けると、装丁だけでなく、本の中身から考えられるようになります。
写真を選び、順番を決めてアルバムを作る。短い文章と絵を組み合わせて小冊子にする。旅の記録、レシピ、植物観察、読書記録など、一つのテーマを一冊へまとめます。
ページをめくる順番まで考えると、手製本は紙工作から編集と表現の趣味へ広がります。印刷や文章が得意でなくても、手書きの文字、スタンプ、切り抜きなど、自分に合う方法で構成できます。
第5段階 人へ渡し、本づくりを共有する
自分用の本を作ることに慣れたら、贈り物や小さな作品集にも挑戦できます。同じ形のノートを数冊作り、表紙だけ変えて家族や友人へ渡す方法もあります。
作品が増えれば、展示、イベント、ZINEの頒布、少量のノート販売などへつながることもあります。販売する場合は、材料費だけでなく、制作時間、印刷費、梱包、発送、著作権や使用素材の条件も確認します。
教室へ通って技術を深める人もいれば、自宅で同じ小さなノートを作り続ける人もいます。五つの段階を順番に進む必要はなく、必要な本があるときだけ戻ってくる楽しみ方でもかまいません。
手製本が合いやすいのは、こんな休日
雨や暑さを気にせず、自宅で静かに手を動かしたい日。
紙や文房具を選ぶ時間まで楽しみたい日。
短時間で消費するものより、後から使える物を作りたい日。
写真、文章、絵、旅の記録を一つへまとめたい日。
細かな作業を急がず、少しずつ完成へ近づけたい日。
一人で集中したいけれど、完成品は誰かと共有したい日。
一方で、細かく測ったり、紙をそろえたりする作業が負担に感じる人には、もっと自由に紙を使える趣味が合うこともあります。
表紙やページの装飾を中心に楽しみたいなら、スクラップブッキングやカードメイキング。紙箱や収納小物を作りたいなら、カルトナージュ。文章や写真を多くの人へ届けたいなら、ZINE制作や小冊子作りへ進む方法があります。
手製本は、それらの趣味をつなぐ場所にもなります。
最初の一冊は、使い道を一つだけ決める
最初から、長く残る立派な作品を作ろうとしなくてもかまいません。
今日の夕食を記録する小さなノート。散歩で見つけた花を描く冊子。読み終えた本の感想を一冊だけ書くための記録帳。使い道が一つあれば、必要なページ数と大きさが見えてきます。
紙を切る。
折り目を付ける。
穴を開ける。
糸を通す。
表紙を重ねる。
一つひとつは小さな作業ですが、最後にページを開くと、それぞれの工程が一冊の形へつながっています。
少しくらい端がそろっていなくても、自分で作った本を実際に使うと、次に直したいところが自然に見えてきます。紙を一枚増やす、糸の色を変える、表紙を少し厚くする。その小さな試し直しが、次の一冊を作る理由になります。
休日のよりみち帖では、気軽に始められるものから、少し時間をかけて楽しみたいものまで、さまざまな趣味やレジャーを紹介しています。
「次の休日は何をしよう」と迷ったときに、新しい楽しみを見つける小さなきっかけになれたらうれしいです。ぜひフォローして、これからの記事ものぞいてみてください。
