和菓子職人と交通費
青年「和菓子職人になりたいんです。弟子にしてください」
職人「わしは和紙職人なんだけど」
青年「和紙と和菓子は似てるじゃないですか。細かいことは気にしません。弟子にしてください」
職人「なんで、和菓子職人のところへ行かないの?」
青年「ちょっと距離あるんで」
職人「わしのところで修行したら、和菓子じゃなくて、和紙職人になっちゃうよ?」
青年「それは困ります。早くに事故で父を亡くし、たった一人でぼくを育ててくれた母に、美味しい和菓子を食べさせて喜んでもらうのが、ぼくの夢なんですから」
職人「それは素晴らしい夢だが、うちで修行したら、和菓子の下に敷く和紙を作ることになるよ?」
青年「ちょっと、それは勘弁してください」
職人「だったら、遠くても和菓子職人さんのところへ行くしかないよ」
青年「交通費って、出してもらえますかね?」
職人「和菓子職人さんの修行先で?」
青年「あなたに」
職人「きみが通う修行先までの交通費を、わしが?」
青年「ええ。修行が終わるまでずっと」
職人「どうしてわしが?」
青年「移動にお金を払うって、なんか損した気分になるんですよね」
職人「でも、交通費は支給されるんじゃないかな?」
青年「一回、自腹を切るじゃないですか」
職人「それが?」
青年「なんかシャクにさわるんですよね」
職人「なら、徒歩で通えばいいんじゃない?」
青年「微妙に徒歩で通えないところなんです」
職人「そんなに交通費を出したくないの?」
青年「シャクにさわるんで」
職人「じゃあ、和菓子職人の夢はあきらめるしかないよね」
青年「そうですか……」
青年「もうこうなったら、あなたがぼくの代わりに和菓子職人さんのところへ通ってくれませんか?」
職人「は?」
青年「あなたが自分で交通費を払って修行して、一流の和菓子職人になってここに戻ってきてください」
職人「無茶を言い出したなあ」
青年「それなら、近所のぼくは、ここまで交通費を払わずに通えて、和菓子職人の修行ができるという寸法です」
職人「すんげー時間かかるよ? 年単位で」
青年「時間より交通費です」
職人「わしが和菓子職人の修行してる間、きみは何してるつもり?」
青年「公務員試験の勉強をします。母も安心すると思うので」
職人「それは堅実で立派なことだが、公務員試験の会場までの交通費は?」
青年「ラッキーなことに徒歩で行ける距離にあるんですよ」
職人「それはよかったね」
青年「では、ぼくの代わりに自腹で交通費を払って和菓子職人修行へ行ってくれますね?」
職人「わしわがしやだ」
(終)
