ショートショート 文学茶釜
竹の葉がさやさやと鳴った。薄暗い林の中を巨大な生き物の背のように柔らかな苔を踏みながら歩いた。
何もかも心地よく湿っていて、川を泳ぐ魚のような気分になる。突然すとんと滝みたい空間が抜けて、打ち捨てられた切り株のような、昔から当然そこにあったという風体のあばら屋があって、まさしくそこが先生の庵で、僕は先生にお茶を請いに来たのだった。
「おはいり」
涼やかな声。いつの間にか僕は先生を前に端座していた。ことことと、微かに聞こえるのは湯の沸く音だ。
「今日はお釜さんの機嫌がええ」
先生が仰って、僕は目を閉じて耳を澄ます。先生によると茶釜は湯を燻らせながら語っているのだという。
目の前にぽってりと泡のたった緑色の液体が差し出され、差し出されるままにごくりと飲み干すと、瞬間、目の前を百鬼夜行が通り過ぎた。
「結構なお手前でした」
首を垂れる。先生は朗らかに笑う。
「お釜さんのおかげやで」
ことん。鹿おどしが句点のように響いた。
ショートショート No.777
田原にかさんの毎週ショートショートnoteに参加しています。
今週のお題は「文学茶釜」です。
文学フリマ東京41、無事帰宅いたしました。
お越しいただいた皆さまに心よりお礼申し上げます。どうもありがとうございました。
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