ショートショート 釜揚げ師走
どん、どどんと太鼓がなった。きんと冷えた大晦日の朝だ。
「おその、おその!」
おまつがおそのの締め切った家の戸を叩いた。秋に旦那を亡くしてから引きこもっているのだ。
「大晦日だ。釜揚げ師走だあ!」
「おらあ、いかん」
戸口に顔を出したおそのの返事をききもせず、おまつはおそのを引っ張り出した。
寺に着くと若い衆の威勢のいい掛け声が響いている。年越しに皆でうどんを作るのだ。村じゅうの人が床いっぱいのうどん生地を練っていた。
「おそのの引きこもり!」
おまつが生地に向かって拳を上げた。おそのが真っ赤になった。
「おまつのわからずや!」
「泣き虫!」
「唐変木!」
「元気出せ!」
おそのがおまつの顔を見た。おまつがにっこり笑った。ふたりが、わんわん子供みたいに泣き出した。
お焚き上げの火にかかった大鍋から湯気が出ている。目を腫らしておそのとおまつはうどんを啜った。除夜の鐘がごーんとなると、空に釜揚げにのった卵みたいな月が出ていた。
ショートショート No.745
たらはかに(田原にか)さんの毎週ショートショートnoteに参加しています。
今週のお題は「釜揚げ師走」です。
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