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ショートショート 雪和尚

 吹雪の音が遠い。和尚は目を覚ました。身を切る痛みは消えていた。足元に半ば雪に埋もれた坊主がいる。驚きはない。心は既に冷え切っていた。間違いなく行き倒れた自分であった。
「未熟者」
 他人事のように吐き捨てた。遺体の懐に透ける右手を伸ばす。金の袋を引き摺り出した。自嘲気味に笑う。現世に干渉できる己は紛れもなく怨霊だ。
 遺体を打ち捨てて村に走る。飛ぶようだった。暗闇に、灯り。中が手に取るように見える。穏やかな寝顔の娘は生き別れた妹だ。傍に初めて見る甥がいた。袋を握る手に力が入る。病弱な甥の薬代。写経で細々と稼いだ。
 枕元に金を置き、甥の頬に触れようとして止めた。化け物になってしまった自分を今更恥じた。妹と甥に生きて会いたいと執着した末路だ。道に出ると朝日がさした。もはや人のものではない体が崩れていくのを感じた。
「母さん、雪だるま!」
 薄れていく意識の中で甥の声を聞いた。大師様の名とは勿体無いと涙のように雫が落ちた。


ショートショート No.785

田原にかさんの毎週ショートショートnoteに参加しています。
今週のお題は「雪和尚」です。


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