ショートショート 未練配達員
「加藤康弘さんにお届けものです」
渥美に嫁いだ姉が半年ぶりに顔を出した。段ボール箱を抱えていた。
「おらんよ」
俺は答えた。悪い冗談だ。加藤康弘、父は半年前に亡くなった。
「知っとる」
姉は俺を無視して箱の中からまた箱を出す。桐箱だった。
「これ。うちのいっちゃんいいメロン」
姉の頭ほどもあるマスクメロン。姉はメロン農家に嫁いだ。
「どしたん?」
「父さんに頼まれとった。入院しとるときに」
「入院しとるときって、メロンなんか」
「うん。食べれんし、なっとらん。でも『死ぬ前にお前んとこのメロンが食べてみたい』って泣いとったから」姉はナイフでメロンを半分に割る。「はい」片方を俺に差し出した。
「『はい』って」
「食べとけ。生きてるうちに」
姉を見る。姉も俺を見た。ふたりでぬるいメロンを無言で食べた。夕方、腹が下った。
「覚えてろ」
トイレの前でうずくまる。中から姉の声がする。
「ええよ。わたしも覚えとくわ。んで父さんに話すか。冥土の土産ですって」
ショートショートNo.796
田原にかさんの毎週ショートショートnoteに参加しています。
今週のお題は「未練配達員」です。
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます! 