ショートショート 七夕の歩幅
天の川などとといえば聞こえが良いが、実際は単なる溝川である。チョロチョロと音を立てて流れる、うちの工房と隣のチヨさんのカフェの間の小さな川。
名前をつけたのはチヨさんだ。引っ越しの挨拶に来たときだった。「天野さんとこの川やから」関西訛りのチヨさんは「天野」の私に微笑みかけた。「じゃあ僕らは織姫と彦星ですね」などと軽口の一つも叩けないまま、口下手の私は「はい」と返事をして家の中に引っ込んだ。それから毎日、チヨさんとお客さんの楽しそうな笑い声が私の工房に響いた。
7月7日のことだ。朝から酷い雨だった。土を捏ねていると玄関から声が聞こえた。「団体さんのキャンセルが入ってもうて」チヨさんだった。照れくさそうに手にもったタッパーを私に差し出す。温かい。
「スープの冷めない距離やから、お近づきに」
その晩私は夢を見た。天の川をひょいとチヨさんが跨いで渡ってくる夢。起きて頬が熱くなった。天の川を見た。今日は自分が渡ろうと。
ショートショートNo.801
田原にかさんの「毎週ショートショートnote」に参加しています。
今週のお題は「七夕の歩幅」です。
「梅雨占い」の作品を毎ショセレクションでご紹介いただいております。たくさんの参加作品の中から、田原さんがおすすめをピックアップしてくださっていますので、好きそうな作品をぜひ読んでみてください。noteのまだ知らない書き手の方の発掘にもお役に立つと思います。
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